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第十話①

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 ライブの水曜日までの時間、オブスキュラにいない間を、どうにかして埋めないといけなくなった。初めの数日は、学校が終わったらどこかのファストフード店にでも入り、コーヒー一杯とスマホだけで夜まで粘った。最初のうちはそれでもよかったが、あまりに退屈なので、それもそう何日も続けられなくなった。

 それで駅前の本屋とかで立ち読みをしていたが、それも退屈すると、図書館まで自転車で行き、そこのソファに座って、適当に本を見繕って机の上に平積みにすると、一つずつ読み漁った。

 そんな風に本を読みこむのは久しぶりだった。ほとんどは数ページ読んだだけで十分だと感じたが、中には興味をひかれるものもあった。

 平べったい館のような図書館だった。クリーム色の歩いても音の鳴らないカーペットが敷かれ、窓の周りには作業机が置かれて、そこには主に僕と同い年くらいの人達が、デスクの照明をつけて勉強に励んでいた。その手前、新聞などを読めるスペースでは、引退して何年も経っているようなお年寄りたちが、席の前のテーブルに新聞を広げて占領していた。

 最近、本屋が潰れているというが、それもそうだな、としか思えなかった。図書館に本を読みにくる同世代の人間なんてほとんどいなかった。大抵の人間は、僕と同じように、本を読むためではなくて、別の目的でここに来ているようだった。勉強のためとか、暇つぶしのためとか、暖かい室内にいるためだ。僕だって、家に居場所があればわざわざ遠出して、図書館なんて来なかった。

 本を読みたい人は、別にここで読む必要がないのだ。普通は本を借りて、家に持ち帰り、暖かい、落ち着ける、自分だけの安全なスペースで読むのだ。
 本を読むことにも飽きて、僕はそこで、ゲームをしたり、ネット記事を読んだりした。そうこうしている内に、ふと、以前読んだ〝ANNE〟の記事が気になって検索した。

 それを探しているうちに関連するいくつかのネット記事が僕の目にとまった。

「オブスキュラが開くまったく新しい未来:人類の隠された可能性」「AIと哲学的ゾンビ:何が人を人と認識させるか」「意識のハードプロブレム:物質はどのようにして意識を作り出すか」

 難しい印象を与える専門用語の記事が多い中で、この間、わるぷるぎすで行われたと思われるインタビュー記事も載っていた。

「多様化する『私』ヴァーチャル世界に生まれた新たな桃源郷:バー・わるぷるぎすでの挑戦、俗世間から離れたもう一つの〝私〟」

 記事をタップする。六千字を超える長々とした記事だった。最初に記者の観点から、わるぷるぎすについて所感が述べられ、実際に足を運び、情けないことに機材トラブルのために遅刻をしてしまったが、素敵でセクシーな店員さんたちに暖かく迎え入れられたことまで赤裸々に描かれていた。僕はその部分を流し読みし、夢乃、がぶりーる、ももちゃんが語っている部分に目を通した。

 
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