Chat me ! AI & i

yamatsuka

文字の大きさ
上 下
5 / 88

第二話①

しおりを挟む
「チャット、今から僕の好きな音楽を入力するから、それに似た音楽を見つけてくれ」

 僕はその言葉をガラテアに音声入力し、ガラテアは「了解しました」と、従順な執事を思わせる女性の合成音声で答えた。僕は思いつく限りの気に入った音楽の名をあげていく。ガラテアが画面におすすめのタイトルを列挙してく間、僕は後ろに、有島がいないかどうかもう一度確かめた。
 
 有島がいないことを確認して、その朽ち果てたベンチに戻ってくると、ガラテアが提示した音楽を探し始めた。だがガラテアが提示したものは、僕の好みに合わないか、もしくはそもそもそんな音楽など存在しないことも多かった。

 僕は大いに失望して、〝Galatia〟の画面を閉じた。なんてことはない。数日試してみたが、こいつは今までとなんら変わらないChatAIだった。

「何でも聞いてください!」「Chat me !」ガラテアの画面はそれらの文字を表示していた。こんなこ大胆なことを言うのは理由がある。

 次世代型を謳うこのAIは、それまでの誰が使っても画一的だったChatAIと違い、使い込むうちによりユーザーに最適化されていくらしい。

 でも僕は、あまりそういう機能に興味が持てなかった。「なんでもない」僕はガラテアに向かって言った。ガラテアが答える。「そうですか。もし何か聞きたいことがあったら何でもおっしゃって下さいね!」僕はその文字を見てからスマホの電源を落とした。

 それからスマホを横に置いたまま伸びをした。秋の空を雲がたなびいて一面を覆っていた。日差しが温かく、気温も昼寝をするのにちょうどいい。だが退屈だった。

〝Galatia〟と同じだ。ガラテアと喋っていると、何でも返してくれるけど、面白い答えが返ってくることはなかった。だからすぐに飽きてしまう。

 ガラテアはユーザー好みにチューニングできるくせに、それを使いこなす方法がわからなかった。

 僕は自分の言うことを何でも聞かせるために、何百も要求する気にはならなかった。そんなの、僕が想像していた理想のAIじゃない。

 僕はガラテアに失望し、午後の授業をぶっちした。
 
 家に帰ると、母さんが異変を察知して聞いてきた。

「早いね。学校は?」

 明らかに疑っている口調だった。

「今日は、特別に早く終わったんだよ」

 そのまま僕は部屋に引きこもる。

 そして、バッグを部屋の隅に投げ捨て、ベッドに横たわり、SNSをチェックしていた。下らない投稿で笑っていると、

「ちょっと伸一。ゴミ捨てに行ってくれない?」

 と、いつの間にか扉を開けた母さんが不機嫌そうな顔を覗かせながら言った。

「ゴミ?」僕はいら立ちながら、身体を起こした。

「そう」母さんは持っていたゴミ袋を扉の奥からガサガサと音を立てて突き出し、僕に見せた。「どうせ暇なんでしょ?」

 母さんは僕の横にあるゴミ箱を指差した。確かにゴミは溜まっているが。

「……ああ」その指が僕の方を向いていないのを確認すると、僕はどうしたものかと、頭をかいた。

「でも、なんで今?」なんとなく、笑っているのを邪魔されたような感じがして聞く。母さんはそれを聞いて、呆れて言った。

「なんで、だって? どうせ何もしてないんだから手伝ってくれてもいいでしょ!」

 母さんは憤慨しながら、僕の部屋にちり紙などが入ったゴミ袋を落とした。

「母さん、これから買い物行くから。……それとも、あんたが行ってくれるの?」

 僕が無視していると母さんは続けた。

「行くわけないだろ」僕は慌ててゴミ袋を乱暴につかみ取り、精一杯の反抗の思いを込めて言う。

「あっそ」

 母さんは冷めた目で僕を見てから、それだけ言って、部屋を出ていった。数十秒後、僕がゴミ箱から袋にゴミを移していると、玄関の扉が閉まる音がした。

「くそっ!」僕はなんだか無性にイライラして、思い切り袋を結んだ。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ニートじゃなくてただの無職がVRMMOで釣りをするお話はどうですか?

華翔誠
SF
大学卒業し会社へ就職。 20年間身を粉にして働いた会社があっさり倒産。 ニートではなく41歳無職のおっさんの転落(?)人生を綴ります。 求人35歳の壁にぶち当たり、途方に暮れていた時野正は、 後輩に奨められVRMMORPGを始める。 RPGが好きでは無い時野が選んだのは、釣り。 冒険もレベル上げもせず、ひたすら釣りの日々を過ごす。 おりしも、世界は新たなマップが3ヶ月前に実装はされたものの、 未だ、「閉ざされた門」が開かず閉塞感に包まれていた。 【注】本作品は、他サイトでも投稿されている重複投稿作品です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ
ファンタジー
"ファンタジー × バトル × サスペンス" 数百年前、六大英雄と呼ばれる強者達の戦いによって魔王は倒された。 だが魔王の置き土産とも言うべき魔物達は今もなお生き続ける。 ガイ・ガラードと妹のメイアは行方不明になっている兄を探すため旅に出た。 そんな中、ガイはある青年と出会う。 青年の名はクロード。 それは六大英雄の一人と同じ名前だった。 魔王が倒されたはずの世界は、なぜか平和ではない。 このクロードの出会いによって"世界の真実"と"六大英雄"の秘密が明かされていく。 ある章のラストから急激に展開が一変する考察型ファンタジー。

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

心を求めて

hakurei
青春
これはとある少年の身に起こった過去の物語。 そして今、ぽっかりと空いた穴を埋められない少年の物語。 その穴を埋める為に奮闘する『誰か』の話です。

蒼海のシグルーン

田柄満
SF
深海に眠っていた謎のカプセル。その中から現れたのは、機械の体を持つ銀髪の少女。彼女は、一万年前に滅びた文明の遺産『ルミノイド』だった――。古代海洋遺跡調査団とルミノイドのカーラが巡る、海と過去を繋ぐ壮大な冒険が、今始まる。 毎週金曜日に更新予定です。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...