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第二話①
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「チャット、今から僕の好きな音楽を入力するから、それに似た音楽を見つけてくれ」
僕はその言葉をガラテアに音声入力し、ガラテアは「了解しました」と、従順な執事を思わせる女性の合成音声で答えた。僕は思いつく限りの気に入った音楽の名をあげていく。ガラテアが画面におすすめのタイトルを列挙してく間、僕は後ろに、有島がいないかどうかもう一度確かめた。
有島がいないことを確認して、その朽ち果てたベンチに戻ってくると、ガラテアが提示した音楽を探し始めた。だがガラテアが提示したものは、僕の好みに合わないか、もしくはそもそもそんな音楽など存在しないことも多かった。
僕は大いに失望して、〝Galatia〟の画面を閉じた。なんてことはない。数日試してみたが、こいつは今までとなんら変わらないChatAIだった。
「何でも聞いてください!」「Chat me !」ガラテアの画面はそれらの文字を表示していた。こんなこ大胆なことを言うのは理由がある。
次世代型を謳うこのAIは、それまでの誰が使っても画一的だったChatAIと違い、使い込むうちによりユーザーに最適化されていくらしい。
でも僕は、あまりそういう機能に興味が持てなかった。「なんでもない」僕はガラテアに向かって言った。ガラテアが答える。「そうですか。もし何か聞きたいことがあったら何でもおっしゃって下さいね!」僕はその文字を見てからスマホの電源を落とした。
それからスマホを横に置いたまま伸びをした。秋の空を雲がたなびいて一面を覆っていた。日差しが温かく、気温も昼寝をするのにちょうどいい。だが退屈だった。
〝Galatia〟と同じだ。ガラテアと喋っていると、何でも返してくれるけど、面白い答えが返ってくることはなかった。だからすぐに飽きてしまう。
ガラテアはユーザー好みにチューニングできるくせに、それを使いこなす方法がわからなかった。
僕は自分の言うことを何でも聞かせるために、何百も要求する気にはならなかった。そんなの、僕が想像していた理想のAIじゃない。
僕はガラテアに失望し、午後の授業をぶっちした。
家に帰ると、母さんが異変を察知して聞いてきた。
「早いね。学校は?」
明らかに疑っている口調だった。
「今日は、特別に早く終わったんだよ」
そのまま僕は部屋に引きこもる。
そして、バッグを部屋の隅に投げ捨て、ベッドに横たわり、SNSをチェックしていた。下らない投稿で笑っていると、
「ちょっと伸一。ゴミ捨てに行ってくれない?」
と、いつの間にか扉を開けた母さんが不機嫌そうな顔を覗かせながら言った。
「ゴミ?」僕はいら立ちながら、身体を起こした。
「そう」母さんは持っていたゴミ袋を扉の奥からガサガサと音を立てて突き出し、僕に見せた。「どうせ暇なんでしょ?」
母さんは僕の横にあるゴミ箱を指差した。確かにゴミは溜まっているが。
「……ああ」その指が僕の方を向いていないのを確認すると、僕はどうしたものかと、頭をかいた。
「でも、なんで今?」なんとなく、笑っているのを邪魔されたような感じがして聞く。母さんはそれを聞いて、呆れて言った。
「なんで、だって? どうせ何もしてないんだから手伝ってくれてもいいでしょ!」
母さんは憤慨しながら、僕の部屋にちり紙などが入ったゴミ袋を落とした。
「母さん、これから買い物行くから。……それとも、あんたが行ってくれるの?」
僕が無視していると母さんは続けた。
「行くわけないだろ」僕は慌ててゴミ袋を乱暴につかみ取り、精一杯の反抗の思いを込めて言う。
「あっそ」
母さんは冷めた目で僕を見てから、それだけ言って、部屋を出ていった。数十秒後、僕がゴミ箱から袋にゴミを移していると、玄関の扉が閉まる音がした。
「くそっ!」僕はなんだか無性にイライラして、思い切り袋を結んだ。
僕はその言葉をガラテアに音声入力し、ガラテアは「了解しました」と、従順な執事を思わせる女性の合成音声で答えた。僕は思いつく限りの気に入った音楽の名をあげていく。ガラテアが画面におすすめのタイトルを列挙してく間、僕は後ろに、有島がいないかどうかもう一度確かめた。
有島がいないことを確認して、その朽ち果てたベンチに戻ってくると、ガラテアが提示した音楽を探し始めた。だがガラテアが提示したものは、僕の好みに合わないか、もしくはそもそもそんな音楽など存在しないことも多かった。
僕は大いに失望して、〝Galatia〟の画面を閉じた。なんてことはない。数日試してみたが、こいつは今までとなんら変わらないChatAIだった。
「何でも聞いてください!」「Chat me !」ガラテアの画面はそれらの文字を表示していた。こんなこ大胆なことを言うのは理由がある。
次世代型を謳うこのAIは、それまでの誰が使っても画一的だったChatAIと違い、使い込むうちによりユーザーに最適化されていくらしい。
でも僕は、あまりそういう機能に興味が持てなかった。「なんでもない」僕はガラテアに向かって言った。ガラテアが答える。「そうですか。もし何か聞きたいことがあったら何でもおっしゃって下さいね!」僕はその文字を見てからスマホの電源を落とした。
それからスマホを横に置いたまま伸びをした。秋の空を雲がたなびいて一面を覆っていた。日差しが温かく、気温も昼寝をするのにちょうどいい。だが退屈だった。
〝Galatia〟と同じだ。ガラテアと喋っていると、何でも返してくれるけど、面白い答えが返ってくることはなかった。だからすぐに飽きてしまう。
ガラテアはユーザー好みにチューニングできるくせに、それを使いこなす方法がわからなかった。
僕は自分の言うことを何でも聞かせるために、何百も要求する気にはならなかった。そんなの、僕が想像していた理想のAIじゃない。
僕はガラテアに失望し、午後の授業をぶっちした。
家に帰ると、母さんが異変を察知して聞いてきた。
「早いね。学校は?」
明らかに疑っている口調だった。
「今日は、特別に早く終わったんだよ」
そのまま僕は部屋に引きこもる。
そして、バッグを部屋の隅に投げ捨て、ベッドに横たわり、SNSをチェックしていた。下らない投稿で笑っていると、
「ちょっと伸一。ゴミ捨てに行ってくれない?」
と、いつの間にか扉を開けた母さんが不機嫌そうな顔を覗かせながら言った。
「ゴミ?」僕はいら立ちながら、身体を起こした。
「そう」母さんは持っていたゴミ袋を扉の奥からガサガサと音を立てて突き出し、僕に見せた。「どうせ暇なんでしょ?」
母さんは僕の横にあるゴミ箱を指差した。確かにゴミは溜まっているが。
「……ああ」その指が僕の方を向いていないのを確認すると、僕はどうしたものかと、頭をかいた。
「でも、なんで今?」なんとなく、笑っているのを邪魔されたような感じがして聞く。母さんはそれを聞いて、呆れて言った。
「なんで、だって? どうせ何もしてないんだから手伝ってくれてもいいでしょ!」
母さんは憤慨しながら、僕の部屋にちり紙などが入ったゴミ袋を落とした。
「母さん、これから買い物行くから。……それとも、あんたが行ってくれるの?」
僕が無視していると母さんは続けた。
「行くわけないだろ」僕は慌ててゴミ袋を乱暴につかみ取り、精一杯の反抗の思いを込めて言う。
「あっそ」
母さんは冷めた目で僕を見てから、それだけ言って、部屋を出ていった。数十秒後、僕がゴミ箱から袋にゴミを移していると、玄関の扉が閉まる音がした。
「くそっ!」僕はなんだか無性にイライラして、思い切り袋を結んだ。
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