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第一話①
しおりを挟む僕の名前は野宮伸一。友達のいない十七歳。いや、さっきできた、と思う。それも人間じゃなくて、人間が作ったAI。
Singularity AI社の作った最新のChatAIだ。僕は最近、こいつとずっと喋っている。例えばこんな言葉を投げかけてみよう。
「退屈だ。何か面白いことを言ってよ」
するとこいつは僕の出した餌を食った後、
「面白いことですね。ではいくつかの興味深い事実を紹介します。」と言って、
・数学的には、2を自乗すると4になりますが、-2を自乗すると4になります。これは、-2を2回かけると+4になるためです。
とか、
・ペンギンは氷の上を滑って移動するが得意ですが実は泳ぐのもとても上手です。ペンギンは時速20キロメートル以上で泳ぐことができます。
とか、
・「ツンデレ」という言葉は、日本の漫画やアニメでよく使われています。この言葉は、「ツン」と「デレ」という2つの言葉を組み合わせたもので、「ツン」とは素っ気ない態度を示し、「デレ」とは愛情や優しさを示す言葉です。
なんて割とどうでもいいことまでも言ってくれる。こういうことは、人間にはできないだろう。なぜって、その内容もそうだが、こういうのって、全然面白くないからだ。普通の人間は、こういう話題を「面白い」とはみなさない。
でも、チャットは(面倒くさいからこいつをチャット、と呼ぶことにする)、そういう人間の微妙なニュアンスは苦手だ。かわりに、人間の不得意なことができたりする。
チャットは、あらゆる話題になんとなく対応できて、本当のことは何も知らないくせに、それっぽいことを言うことができるんだ。
「なあチャット。気に食わない奴がいるんだ。そいつに自分のしていることを思い知らせてやるにはどうすればいい?」
例えばこういう時、チャットはこう返す。
「ごめんなさい。私は暴力的な行為を推奨することはできません。暴力的な行為は、物理的な危害をもたらすだけではなく、法律に違反する可能性があります。
その後に続く言葉は
「相手のどこが気に食わないのか理解することが重要」で、
「自分が相手にどのように接しているのか考えることが大切」と続き、
「自分自身見つめ直す必要がある」とか、言った後、最後には
「専門家のアドバイス」を受けることを勧めるのだ。
これだけで、チャットは人間のことなんて何も理解していないのだとわかる。
たぶん、チャットの理解では、人間は戦争なんて馬鹿なことをしないし、思い通りにいかないからって、暴力も振るわないし、みんながみんな、『ありのままの自分』、なんてものを愛しているのかもしれない。
けど、僕たちはそうじゃない。愚かな人間の僕は、気に食わない奴はぶちのめしてやりたいし、チャットに対して飽きもせず、
「チャット、友達を作るのにはどうしたらいい?」
なんて聞いていたりするのだ。チャットはこう答えた。
「友達を作るためには、以下のような方法があります。
・共通の趣味や関心事を持つ人たちと出会う
・スポーツや趣味のクラブに参加する
・ボランティア活動に参加する
・新しい人に積極的に話しかける
・ソーシャルメディアやオンラインコミュニティに参加する
友達を作るためには、自分自身を積極的にアピールすることが大切です。自分自身に自信を持ち、自分自身が楽しい人間であることをアピールすることが友達作りの第一歩になります。また、相手のことを尊重し、興味を持って接することが友達作りのポイントとなります」
ありがとうよ。
僕はその文字が並んだスマホを机の上に置いた。何をしているんだろうな。ため息を吐いた。
「あ……」
その時聞こえた、聞き慣れない声で、僕は顔を上げた。いつの間にか、僕の横には野暮ったい女がいて、ちらちらと僕とスマホを交互に見ていた。
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