後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞

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第69話【序盤】

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「ねぇ。さっきのゴードンって人。仲が悪かったの?」

 攻城戦スタート前の時間に、さっきのやり取りについてカインに聞いてみる。
 カインは困った顔をして、首を横に振る。

「いや。むしろ仲は良かったさ。僕が抜ける前はね。彼もサブマスなんだ。他にもいるけどね」
「そうなんだ。なんだか、カインにすごい怒ってたみたいだから」

「ゴードンはあのクランが大好きだからね。他に入るために抜けた俺は裏切り者に見えるんだろうなぁ」
「そっか。なんか、ごめんね」

「サラが謝ることじゃないさ。まぁ、あいつともガチで戦うのは初めてだから。楽しみっちゃ楽しみかな」

 そんなことを言いながらカインは笑っていた。
 そして、その言葉を最後に私たちは会話を止める。

 とうとう攻城戦が始まったのだ。
 コアを同期しいつも通り広場へと向かう。

「大丈夫。いつも通りやればきっと勝てるさ」

 優しく肩に手が置かれ、隣を歩くセシルが声をかけてきた。
 その手は震えている、と思ったけれど、震えているのは私自身だった。

「うん。そうだね。ありがとう。なんか緊張しちゃって」
「サラさんのおかげでここまで来れた。目標は目標だけど、すでにもう俺の中の目標は達成出来てるから」

「セシルの目標? なにそれ。攻城戦で一位を取る事じゃないの?」
「それはそうだけど。元々さ、サラさんに元気付けてもらおうと思って立てた目標だったから。今思うと無謀なこと言ってたな、って思うけど」

 歩きながらセシルはそう言った。
 目線は周囲を警戒するために、進む方向を見据えたままだ。

「今のサラさんを見てれば、ゲームも、それ以外も楽しんでるって分かるから。だから、俺の目標はもう十分達成」
「あはは。なるほどね。うん。確かに! それはセシルのおかげだからね。ありがとう!!」

 私はセシルに顔を向けお礼を言う。
 こちらを向かないセシルの横顔は、少し紅く染まった気がする。

 気付けば震えは止まっていた。
 勝たなければ、と思って気負っていたみたいだ。

 でも、セシルの言う通り、ゲームなんだ。
 まずは目いっぱい楽しまないと。

 勝ったら全身で喜ぼう。
 負けたら全力で悔しがろう。

 でも、これがどんな結果でも楽しんだ者が勝者なのだ。
 そう考えたら、ワクワクが止まらない。

 最強クランとして君臨する【理想郷】は、一体どんな戦いを見せてくれるだろうか。
 私も精一杯みんなのために頑張ろう。

「それにしても、誰とも会わないねぇ。ポイントも増えてないから、あっちも攻め込んできてないのかねぇ」
「いくつか戦法があるけど、これはかなり厳しい戦いになりそうだね。多分、あっちもコアの同期をしていると思うよ」

 もうすぐ広場に着くという頃、アンナのぼやきにカインがそう答える。
 元【理想郷】のサブマスターとしては、あっちの手の内も知っているのだろう。

「コア同期してるってことは、拠点に攻め込んでもあまり意味ないですね。そうすると、私たちのチームの動きは、かなり重要になりますね」
「ああ。広場に居るとどうしてもサラさんが危険に晒される可能性が高くなるからな。それで、コア同期をしているやつの目星は付くのか? カイン」

「うん。あそこのクランのコア同期するキャラは、うちと一緒で一人しかいないんだ」
「それは誰なの? やっぱり後衛の人?」

 前を歩くカインがこちらを振り向き答える。

「いや。一番前に立って戦う人だよ。【理想郷】の守護神。アーサーさ」



~一方、【理想郷】陣営では~

 攻城戦が始まり、作戦通りにメンバー全員がコアのある拠点の広間に立っている。
 中央に輝きを放ちながら存在感を示すコアに、アーサーは手を当て、同期が始まるのを待っていた。

「いいか!? 前も言ったが、カインは俺の獲物だ!! 誰も手出しするんじゃねぇぞ!?」

 コアから離れて待つメンバーに向かって、ゴードンは脅すような声で叫んでいた。
 裏切り者をこの手で倒す。そう自分自身に言い聞かせるように。

「待たせたな。よし! みんな、早速行こう!! あっちにはカインが居るから、こっちの手の内は知られていると考えた方がいいだろう。とりあえず、広場まで急ぐぞ!」
「くそっ! あの裏切り者のせいで、要らねぇ心配をマスターにさせるなんて。ますます許せねぇ」

「まぁ、そう言うな。ここを辞めてったやつはカインだけじゃないだろう?」
「確かに抜けてった奴は何人かいたが、カインは別だ! サブマスが自分から抜けるなんてあっちゃならないんだよ。そうだろ? マスター!」

 カインが抜けた後、アーサーはメンバー、特にサブマスターたちには問題としないよう伝えていた。
 それでも冷めやらぬゴードンの怒気については、クラン愛を感じつつも、アーサーも困っていた。

「ひとまず。カイン一人で問題になる訳じゃないんだから。それより私はセシルって子に興味津々よ。こんな短期間にランクを二位まで上げるなんて。アーサーは会ったことあるんでしょ?」
「ん? ああ。まぁ、なかなかな奴だったよ。まだ高校生だって言ってたな」

「まぁ! 高校生! ねぇ。アーサー。彼をこっちに引き抜きましょうよ。そこのトカゲよりきっと良い男よ」
「なんだと!? ケーシー!!」

 面白そうにそう言うケーシーにゴードンが怒鳴る。
 彼女はエルフのアバターで、手には豪奢な弓を持っている。

「うふふ。冗談よ。冗談。でも、こっちに誘うってのは本気よ」
「ああ、ダメだよ。もう既にカインがやって断られてるから」

「み、みなさん! そろそろ広場に着きますよ? 戯言はそれくらいにして集中してください!!」

 ドワーフアバターのニスが注意を促す。
 彼女の装備から、回復職だと見て取れる。

「ああ。そうだな。相手はサラ、ノームの【薬師】がコア同期しているはずだが。まぁ、そう簡単に首を取らせてくれるようなことはしないだろう。それに【神への冒涜】も使ってくるはずだ。しかし――」
「勝つのは俺らだ! ですよね? マスター」

「おいおい。ニス。いい所だけ取るなよ……」

 これが百戦錬磨の貫禄だろうか。
 少なからず緊張していたサラたちとは打って変わって、アーサーたちのメンバーはいつもと変わらぬ平常心だった。

 正確に言えば、それぞれがウキウキしていたとも言える。
 久しぶりに歯応えの有りそうなクランとの戦いをみな楽しみにしているのだ。

 こうして、サラとセシルの目標が達成できるかどうか、互いの全力がぶつかり合う決戦の火蓋が、間もなく切られようとしていた。
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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