後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞

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第26話【同期するのは】

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「さぁ、始まるよ。最初の立ち位置を拠点内部、つまりここにするか、外にするか選択肢が出るからね。コアを移動する作戦なら、ひとまずみんなここからがいいかな」

 カインの声が聞こえた瞬間、攻城戦開始の合図が流れ、言われた通りに選択肢が出現した。
 どうやら選択肢を選ばないと動けないようだ。選択しないままでも、一定時間経過すると強制的に拠点が開始場所になるらしい。

 もう少し先に言って欲しかったけれど、時間もそんなに無かったし仕方がない。
 拠点を開始場所に選ぶと、特に問題なく動くことができるようになった。

「えーっと、それじゃあ。まずどうやって同期させるの?」
「えーっとね。まずは同期したい人以外があそこに見える円より外に出ないといけない。そして同期するためには、コアに手を触れてから10秒待つと選択肢が出るから、同期するを選ぶ。これだけ」

 一人以外が離れるというのは、恐らく攻められたりしている時に持って逃げることが出来ないようにするための処置だろう。
 今はまだ始まったばかりで敵もいないから、問題なく達成できる。

 問題は誰が同期するかだ。

「ねぇ。同期させるのはセシルでいいかな? それともカイン?」

 やはりクランマスターのセシルが持つのが妥当だろうか。
 それともこの中で唯一攻城戦の経験があるカインが適任か。

「いや。俺はダメだろう。このメンバーの中では先陣だしな。真っ先にやられるとしたら俺かアンナだろ?」
「僕もダメだね。基本的に回避特化は万が一当たった時のダメージがデカいから。イレギュラーですぐ死んじゃう可能性があるもん」

 確かに言われればそうだ。
 じゃあ、消極法でハドラーになるのだろうか。

「まぁ。この中ならサラさんが適任でしょうね。私たちが守るべきものであり、実質的な戦闘の要ですから」
「え!? 私!?」

「まぁ、確かにそうだね。わたしゃ意地でもサラちゃんを守るよ! わたしが倒れるより先にサラちゃんに指一本触れさせやしないさ!」
「そうだな。それがいいと俺も思う」

 カインも無言で頷いている。
 何故か満場一致でコアは私が持つことになりそうだ。

「ほらほらー。急いで。こうしている間も敵は攻めてきてるよ。ほら、ポイントがあっち、増えてるでしょ?」
「え? あ、ほんとだ」

 カインに言われて視界の端の方に目をやると、相手のクラン名の横の数字が増えていた。
 もちろん私たち【龍の宿り木】の数字はゼロのままだ。

「うん。分かった。とりあえずやってみるね」

 そう言うと、私は今いる部屋の中央にある、コアへと歩いていく。
 コアの大きさはちょうど私のアバターと同じくらいで、両剣水晶と呼ばれる、六角柱の両端が鋭く尖った形をしている。

 透き通った透明度の高い鉱物のような見た目で、見る角度を変えると七色に色調を変え、淡い光を放っていた。
 私は一度だけ深呼吸をすると、両手でコアに触れ、頭の中で10秒を数える。

 ちょうど10をカウントした時に、選択肢が現れた。
 言われた通りの『同期する』を選ぶと、一瞬身体が光に包まれて驚きのあまり目をつぶってしまう。

 光は止み目を開けると、目の前にあったはずのコアは無くなり、身体からは淡い光を放っていた。

「よし。それで同期完了。これでサラがやられたらそこで即ゲームオーバーだからね。みんな、分かっていると思うけど、サラを死守が最優先だからね」
「もちろんだ!」

「任せときな! わたしが全員ぶっ飛ばしてやるよ!」
「サラさんに遠距離攻撃を仕掛けようとする不届き者がいたら、私が真っ先に倒して差し上げましょう」

「うん! じゃあ、今から攻撃開始!! みんな頑張ろうね!!」



「居たぞ!」
「よっしゃ! 一番槍はわたしがもらったよ!!」

 拠点から外に繋がる道を進むと相手のクランメンバーに出会でくわした。
 相手は五人、人数は同じだ。

 攻城戦中は相手の名前だけが表示され、レベルや職業は自動的に非表示になる。
 有名なプレイヤーでもなければ、相手が強いか弱いか戦ってみないと分からない、ということだ。

「お、やっと相手が見つかったぞ。外に誰も居なかったからな。それじゃあ、まずは様子を……ぎゃあぁ!?」
「おい!? 一撃って……こいつらレベルいくつだよ!? って。うわぁぁああ!!」

 先頭に立っていたリザードマンアバターのプレイヤーに向かって、アンナが強力な単体攻撃スキルを放った。
 その一撃で倒れるリザードマン。

 突然の出来事に浮き足立つもう一人に、セシルが駆け寄り素早い連撃を浴びせる。
 全てがクリーンヒットし、先に倒れたリザードマンの上に重なるように倒れた後、二人とも姿を消した。

「あれ? 消えたよ? なんだいこれ?」
「ああ。倒したプレイヤーは邪魔にならないように消えるんだよ。最大で50対50の戦闘だからねぇ。死体が残ってたら大変でしょ?」

 アンナの疑問にカインが答える。
 確かに人数が多ければ多いほど大変だ。

「【バーストロンド】!!」

 今倒れた前衛よりも少し離れた位置に居た三人に向かって、既に詠唱を始めていたハドラーが、複数の個体に強力な攻撃を与える魔法を放つ。
 放たれた火球は真っ直ぐに三人の胸元に飛んでいき、着弾と共に爆発を起こした。

「ちょっと、ちょっと。僕の出番も残しておいてよね」

 いたずらっぽい顔で、カインがそんなことを言う。
 今のハドラーの攻撃で、後衛三人も倒れたようだ。

 目の前にいた相手のメンバーを倒しきってもまだ勝利宣言は流れない。
 相手の中に私と同じように光を放つ人も居なかったし、普通に考えれば相手のコアの近くに守ってるプレイヤーが居るということだろう。

「よし! みんな、相手のコアまでこのまま進もう!」

 私は薬を投げるだけで何もしていないけれど、初めての攻城戦が楽しくて仕方がなかった。
 クランマスターであるセシルを差し置いて、まるで指揮官のように号令を出す。

 だけどみんなは文句など言わず、むしろ嬉しそうに、私の声に応えるように一斉に腕を上げてくれた。
 目指すは相手の拠点にあるはずのコア。

 私たちの初戦はまだ続く。
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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