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第23話【リアルの変化】
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「あー。楽しかった。それに……嬉しかったなぁ」
セシルたちが開いてくれた私の誕生日パーティーが終わり、私はログアウトした。
どうやらみんなかなり無理をしてくれていたようで、カインなんかは途中で意識を半分失いそうになっていた。
あまり身体に負担をかけてもいけないからと、私は今日の活動は全員で休むことを提案した。
それに対して反対する人はおらず、やはり疲れが溜まっていたのだと言うのが分かる。
それだけにありがたかった。
そんなになるまで、私のために色々してくれた事実が。
今までに友人と呼べる人は数える程しか出来なかった。
それも今思えばユースケのせいで疎遠になって行った。
いつしか私は自分の殻にこもり、幼馴染にすがっていた。
それは依存だったのだろうか。
「ほんと、ダメだな……わたし……」
つぶやきと同時に携帯端末から受信音が聞こえた。
初期設定のままの淡白な音に誘われて、私は端末を手に取る。
「誰だろ……こんな時間に。ママとお父さんはさっきメッセージくれてたし……え? あ、マリナちゃん?」
マリナというのは、私が所属する予定の研究室に一緒に入る同級生だ。
よく喋る子で、リアルでは話すのが苦手な私にもよく話しかけてくれる。
そんな性格の明るい子だけれど、今までメッセージを送り合うことなど、せいぜい業務的な連絡くらいだった。
そんな子からこんな時間になんだというのだろう。
『やっほー。サラ。あなた今日誕生日だったんですって? 言ってよー。研究室の先輩と一緒にお祝いしたのにー。明日なにか可愛いプレゼントを用意しておくね。確か猫とうさぎが好きだったんだよね? どっちになるかはお楽しみ!』
そんなメッセージが入っていた。
「え……うそ……だって、わたし……」
確かに私はクラスの誰にも誕生日がいつかなど教えたことはなかった。
研究室の先輩たちももちろんだから、知っているとしたら指導教官たちくらいだろうか。
マリナはとにかく人と話すのが好きで、相手も乗せられて話し込んでしまうことが多い。
あの子ならたまたま話題として聞いていたとしても不思議ではない。
「うふふ。そうね。別に困ることじゃない。セシルたちがしてくれたように、マリナちゃんが祝ってくれたんなら、素直に喜んでお礼を言えばいいじゃない」
私は自分に言い聞かせるように、自分の考えを声に出す。
そうだ。これは嬉しいことなのだ。素直に喜べばいい。
なんてお礼を言おうか。
今からお礼を言う練習をしようか。
私がどうしようか悩みながら、狭い部屋の中をウロウロしていると、再び端末から受信音が聞こえた。
『追伸。私の誕生日は2月15日です。覚えておいてね』
随分先の話だ。忘れないようにしないと。
そういえばまだ返信していない。
そう思いながら、端末を操作してマリナの誕生日を記録する。その後返信も送る。
操作を終えると、私はなんだかおかしく思えてきて、声を出して笑った。
「なんだ。できるじゃない。私、できるわ」
私は歳をとる度に人との関わりを取るのが怖くなっていた。
私のこの見た目を奇異の目で見てくる視線が怖かったからだ。
しかしそれは幻想だった。
私が自ら作り上げた架空の世界だったのかもしれない。
そう思うとなんだか酷くおかしく思えるのだ。
ゲームの中が現実で、現実は私の恐怖が作り上げた仮想の世界。
そんな生活をしていたのでは、と思えてきてならない。
私は改めてセシルとあの日出逢えたことに感謝した。
あの人のおかげで、全てではまだないけれど、前向きに恐れることなく向き合うことができるようになった。
私はもう一度端末に手をやり、メッセージを打ち込む。
相手は両親だ。
ゲームを始める前に送った、たった五文字の『ありがとう』。
これだけではいけないような気がして、私は感謝の気持ちと、最近の身の回りの出来事を書き連ねた。
送信するとすぐに電話がかかってきた。
電話越しのママの声は嬉しそうだった。
私はその日、一時間ほど両親と取り留めもない会話を続けた。
☆
「さて。とうとう明日は待ちに待った攻城戦です! ……が、実は困ったことがあってね?」
「どうしたの、サラさん、困ったことって。なんでも言ってよ。力になるよ」
誕生日の次の日の昼過ぎ、私とセシルはクランの専用スペースに設置されたソファに座っていた。
今日は学校は午前のみで、約束通りマリナは出会った時にお祝いの言葉と、手作りの猫のペンダントをくれた。
正直、一日で作ったとは思えないような出来だった。
なんでも趣味でアクセサリー作りをしているのだとか。
そんな嬉しいことがあった昼過ぎに、私は明日予定されている攻城戦に向けた薬を作ろうと、意気揚々とログインをした。
そして今、こんな難しい顔をしているのだ。
「実はね。薬の素材が足りないのよ。このままじゃ薬が作れない」
「え? 素材なら買えばいいじゃない。素材代はみんなで払うってことに決めたから、手持ちが足りないなら出すよ?」
「違うのよ。お金には困ってないんだけどね。肝心の素材がどこにも売ってないのよ」
「え? 露店にも? そんなことってあるんだねぇ」
確かに私のレシピで使われる原料は、一般的なものとは違うのも多い。
そういうのはあまり高く売れないから、わざわざ露店で売る人など稀有だろう。
「だからね。申し訳ないんだけど、セシル。狩り手伝って!」
「もちろんさ。今日は久しぶりに二人きりだね」
土曜日の昼間にインしているのは二人だけだった。
私はセシルが言うように、久しぶりの二人きりの狩りを楽しむことにした。
セシルたちが開いてくれた私の誕生日パーティーが終わり、私はログアウトした。
どうやらみんなかなり無理をしてくれていたようで、カインなんかは途中で意識を半分失いそうになっていた。
あまり身体に負担をかけてもいけないからと、私は今日の活動は全員で休むことを提案した。
それに対して反対する人はおらず、やはり疲れが溜まっていたのだと言うのが分かる。
それだけにありがたかった。
そんなになるまで、私のために色々してくれた事実が。
今までに友人と呼べる人は数える程しか出来なかった。
それも今思えばユースケのせいで疎遠になって行った。
いつしか私は自分の殻にこもり、幼馴染にすがっていた。
それは依存だったのだろうか。
「ほんと、ダメだな……わたし……」
つぶやきと同時に携帯端末から受信音が聞こえた。
初期設定のままの淡白な音に誘われて、私は端末を手に取る。
「誰だろ……こんな時間に。ママとお父さんはさっきメッセージくれてたし……え? あ、マリナちゃん?」
マリナというのは、私が所属する予定の研究室に一緒に入る同級生だ。
よく喋る子で、リアルでは話すのが苦手な私にもよく話しかけてくれる。
そんな性格の明るい子だけれど、今までメッセージを送り合うことなど、せいぜい業務的な連絡くらいだった。
そんな子からこんな時間になんだというのだろう。
『やっほー。サラ。あなた今日誕生日だったんですって? 言ってよー。研究室の先輩と一緒にお祝いしたのにー。明日なにか可愛いプレゼントを用意しておくね。確か猫とうさぎが好きだったんだよね? どっちになるかはお楽しみ!』
そんなメッセージが入っていた。
「え……うそ……だって、わたし……」
確かに私はクラスの誰にも誕生日がいつかなど教えたことはなかった。
研究室の先輩たちももちろんだから、知っているとしたら指導教官たちくらいだろうか。
マリナはとにかく人と話すのが好きで、相手も乗せられて話し込んでしまうことが多い。
あの子ならたまたま話題として聞いていたとしても不思議ではない。
「うふふ。そうね。別に困ることじゃない。セシルたちがしてくれたように、マリナちゃんが祝ってくれたんなら、素直に喜んでお礼を言えばいいじゃない」
私は自分に言い聞かせるように、自分の考えを声に出す。
そうだ。これは嬉しいことなのだ。素直に喜べばいい。
なんてお礼を言おうか。
今からお礼を言う練習をしようか。
私がどうしようか悩みながら、狭い部屋の中をウロウロしていると、再び端末から受信音が聞こえた。
『追伸。私の誕生日は2月15日です。覚えておいてね』
随分先の話だ。忘れないようにしないと。
そういえばまだ返信していない。
そう思いながら、端末を操作してマリナの誕生日を記録する。その後返信も送る。
操作を終えると、私はなんだかおかしく思えてきて、声を出して笑った。
「なんだ。できるじゃない。私、できるわ」
私は歳をとる度に人との関わりを取るのが怖くなっていた。
私のこの見た目を奇異の目で見てくる視線が怖かったからだ。
しかしそれは幻想だった。
私が自ら作り上げた架空の世界だったのかもしれない。
そう思うとなんだか酷くおかしく思えるのだ。
ゲームの中が現実で、現実は私の恐怖が作り上げた仮想の世界。
そんな生活をしていたのでは、と思えてきてならない。
私は改めてセシルとあの日出逢えたことに感謝した。
あの人のおかげで、全てではまだないけれど、前向きに恐れることなく向き合うことができるようになった。
私はもう一度端末に手をやり、メッセージを打ち込む。
相手は両親だ。
ゲームを始める前に送った、たった五文字の『ありがとう』。
これだけではいけないような気がして、私は感謝の気持ちと、最近の身の回りの出来事を書き連ねた。
送信するとすぐに電話がかかってきた。
電話越しのママの声は嬉しそうだった。
私はその日、一時間ほど両親と取り留めもない会話を続けた。
☆
「さて。とうとう明日は待ちに待った攻城戦です! ……が、実は困ったことがあってね?」
「どうしたの、サラさん、困ったことって。なんでも言ってよ。力になるよ」
誕生日の次の日の昼過ぎ、私とセシルはクランの専用スペースに設置されたソファに座っていた。
今日は学校は午前のみで、約束通りマリナは出会った時にお祝いの言葉と、手作りの猫のペンダントをくれた。
正直、一日で作ったとは思えないような出来だった。
なんでも趣味でアクセサリー作りをしているのだとか。
そんな嬉しいことがあった昼過ぎに、私は明日予定されている攻城戦に向けた薬を作ろうと、意気揚々とログインをした。
そして今、こんな難しい顔をしているのだ。
「実はね。薬の素材が足りないのよ。このままじゃ薬が作れない」
「え? 素材なら買えばいいじゃない。素材代はみんなで払うってことに決めたから、手持ちが足りないなら出すよ?」
「違うのよ。お金には困ってないんだけどね。肝心の素材がどこにも売ってないのよ」
「え? 露店にも? そんなことってあるんだねぇ」
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