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第62話【異変】

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「隊長‼︎ フローラ隊長‼︎ アンバー隊長がお呼びです‼︎ 至急、来て欲しいと‼︎」

 早朝、部下の一人が扉を叩き叫ぶので目を覚ます。
 何が起こったか分からないが、様子からしてただごとではなさそうだ。

「分かったわ! すぐに行くと伝えてちょうだい!」
「分かりました‼︎」

 準備をしてすぐにアンバーの元に向かった。
 私を出迎えたアンバーはかなり焦った様子だ。

「すまないね。聖女様。こんな朝早くに」
「それは大丈夫です。何が起きたんです?」

「ついさっき、兵士が一人、戻ってきた。ダリアのとこの子だ。酷く傷付いていてね。何かを僕に伝えたがっていたんだけど、まずは治療を優先させたんだ。昨日のうちに聖女様の部隊が到着していて本当に助かった」
「一人? 昨日、ダリア隊長の部隊に一度戻るように伝えたと言っていませんでしたか?」

 私はアンバーの焦りがどこから来るものなのか理解した。
 そして、おそらくこれからアンバーの口から伝えられる事実も。

「うん。そう、一人だ。治療を終えた彼は、すぐに僕のところに駆けつけてこう言ったんだ。ダリアたちを助けてくれってね。どうやら相当やばい相手が出たらしい。だから、僕らはダリアを助けに行く。それだけ伝えておかないと思ってね」
「待ってください。アンバー隊長の部隊は市内戦は不得手だと。他の部隊に任せられないのですか?」

「残念だけど、他の部隊の陣営はここから離れたにある。それに彼らは内心ダリアの失脚を望んでいるような奴らばかりだ。助けを頼んだって、わざと手遅れにされかねない。何より。ダリアが窮地に立つような状況に他の部隊が行って何かできるとは思えないね」
「……分かりました。それでは、私も同行しましょう。もしかしたら、現場での治療が必要になるかもしれませんし」

 私の提案にアンバーは目を丸くする。

「それはダメだよ! 聖女様をそんな危険な場所に連れて行けるわけないじゃないか!」
「いえ。行った方がいいと思います。治療だけじゃなく、第一攻撃部隊の兵士一人でも助けられれば、戦況は大きく変えられる可能性もありますから」

「そうか……聖女様にしかできない魔法があるんだったね……本当にいいのかい? 全力で守るけれど、下手をすると死ぬかもしれないよ? 僕はこう言うところでは嘘は付けないんだ」
「覚悟の上です。どちらにしろ、アンバー隊長が言う通り、ここでダリア隊長を失うことがもしあったら、モスアゲート領制圧の可能性が著しく落ちるということになりますから」

 アンバーは少し節目がちになってから、いつもの笑顔で答えた。

「分かったよ。申し訳ないけど、よろしく頼む。何人もの死を見てきた僕にも、死なせたくない人がいるんだ……」
「それでは、すぐにでも向かいましょう。こうしている間にも、被害が拡大しているかもしれません。私も、デイジーに説明してきますから」

「ああ。デイジーはきっと反対すると思うけどね。あと、可能ならクロムも連れてきてくれると助かるよ。接近戦が得意で、聖女様の強化魔法を今のところ最も有効活用できるのは彼だからね」
「分かりました。それでは、準備ができしだいここに」

 私は急ぎ足でデイジーの元へと向かった。



「えーっと。さっきの話だと聖女様一人が来るって聞いてたんだけど、これは?」
「アンバー隊長! 聖女様を一人で向かわせるなんてありえませんからね‼︎ もう、心配しながら待っているのなんてこりごりです‼︎」

 困惑した表情のアンバーに、デイジーが叫ぶ。
 その隣にはクロムが困った顔で立っていた。

「デイジー。気持ちは分かるけど、君も一緒に行くきかい? 聖女様を止めるんじゃなく?」
「もう聖女様を止めるのは諦めました! 無理ですからね! だとしたら、少しでも役に立てるよう、お側にいるのが私の望みです‼︎」

「ごめんなさい。アンバー隊長。説得したのだけれど、意地でも着いて行くと聞かなくて」
「はぁ……そりゃあ、人の言うことを聞かない聖女様に説得されても、説得力ないでしょうよ。分かったよ。少し待ってて。編成を再確認するからさ」

 そう言って、アンバーは頭をガシガシと掻きむしりながら、自分の部下と話すために移動していく。
 その顔はどこか嬉しそうだ。

 待っている間にアイオラが近づいて来た。
 軍式の敬礼を取った後、私に声をかけてきた。

「フローラ隊長。アンバー隊長から聞きました。自らの身の危険を顧みず、第一攻撃部隊救出作戦にご参加いただいたと。作戦中は私が全力でお守りしますので、ご安心を」
「おい。アイオラ。聖女様は俺がついてるから、万に一つの危険はないの。だから、お前はアンバー隊長の言うこと聞いてろ」

「ふん。アンバー隊長からの指示だ。それに、聞いたぞ? フローラ隊長が大怪我をされた時に、クロムが現場にいたんだってな? すでに一度守れなかった奴が大きな口を叩くな」
「なっ‼︎」
「はいはーい。なに君たち無駄口叩いてるの? もう向かうよ。ほら、アイオラも。きちんと自分の位置に戻った、戻った。クロムも。今はそんな話してる場合じゃないんだ。分かるでしょ?」

 何やら言い争いをし始めそうな雰囲気だったクロムとアイオラの間に、戻ってきたアンバーが割って入る。
 二人ともその言葉にバツが悪そうな顔をした。

「まぁ! 聖女様。これは、ロベリアにも教えてあげないと! うふふ」
「何を? どうしたの、デイジー。凄く嬉しそうな顔をして」

 何故か笑顔をデイジーに、私は首を傾げるしかできなかった。
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