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第61話【副作用?】

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 とりあえずの検証を終え、アンバーたちの部隊は、私がかけた強化魔法の効果が切れる前に周辺に溢れた魔獣の駆逐へ向かった。
 残された私たちは、他の衛生兵たちに合流し、負傷兵の治療にあたる。

「大丈夫ですか? 聖女様。かなり魔法を使っていたと思うんですが」
「ええ。問題ないわ。魔力というのは使えば使うほど少しずつ増えていくみたいね」

「そういえば……聖女様は、その……やっぱり魔法使える男の方が興味があるんですかね?」
「どうしたの? 急に」

「いや……その。さっき、アンバー隊長と魔法の話で盛り上がってたから。やっぱり、魔法の話をきちんと分かるとか、使える方がいいのかなぁって」

 どういうわけか、クロムは少しもじもじとした様子で聞いてくる。
 言葉も随分と歯切れが悪い。

 アンバーみたいな魔法の使い手は、尊敬するし、今回みたいな両方の魔力を使う検証には有難い存在だ。
 興味があるか、という質問の意味がよく分からないけれど、アンバーは欠かせない存在と言える。

「そうね。回復魔法のことは随分と勉強したし、私自身もそれなりに使えるけれど、攻撃魔法の方はやっぱり使える人の話を聞くのはためになるわ」
「やっぱりそうなんですね……俺も覚えた方がいいですかね……? 聖女様の話だと、使えないと思っても、訓練すれば使えるようになるって話だし……」

 クロムは突然何に悩んでいるのだろうか。
 確かに時間をかけて訓練すれば、回復魔法と同じように攻撃魔法も使えるようになるかもしれない。

 だけど、さっきの検証で、攻撃魔法の魔力に長けた者ほど、強化魔法の効果が弱い可能性が高い。
 しかも、クロムは元々近接戦が得意なのだから、その訓練を蔑ろにして攻撃魔法を学ぶとなると、どちらも中途半端になってしまう危険性がある。

 苦労して、専門の魔法兵に劣る魔法を身に付けて、強化魔法の効きをわざわざ下げてしまうのは、なんとももったいない話だ。
 どう考えても、クロムは今のまま、近接戦に特化してもらった方がいいに違いない。

 何故突然こんな話題を話してきたのか、何故悩んでいるのか本当に分からないけれど、私は思った通りのことをクロムに伝える。

「いいえ。あなたにはあなただけの良さがあるのよ。むしろ、あなたはそのままでいて欲しいわ」
「え……そうですか⁉︎ あははは……そうなんですね! いやぁ……ははは!」

 突然クロムはすごく嬉しそうに笑い始めた。
 もしかして、強化魔法には肉体を強化する代わりに、精神を蝕む副作用でもあるのだろうか。

 こればっかりは経過をよく観察するしかない。
 私は、にやけ顔のクロムを見つめながら、しばらくは注視しようと心に決めた。



「いやぁ。凄い効果だったよ。聖女様の強化魔法。これは、ダリアたちが一度戻ってくるのが待ち遠しいね」

 その日の夜、一度戻ってきたアンバーが私のもとを訪ねに来て、開口一番そう言った。
 なんでも、強化魔法の効果はクロムよりも小さかったものの、元々素早い動きが得意ではない魔法兵たちには十分だったらしく、破竹の勢いだったらしい。

 範囲魔法ではなく狭い範囲への攻撃魔法が得意な兵などは、そのままの勢いで市内地へと進もうと進言してきたんだとか。
 アンバーは勢い付いた部下たちを落ち着かせて、こうして一度戻ることにした。

 事前に私から強化魔法には、いつ終わるか分からない期限があるからと聞いていたからだ。
 しかし、少し困った顔をしながらアンバーは続きを話した。

「強化される時間についてはそんなに長くないって話だったから、戻ってきたんだけどね。どうやら全員一人も切れていないみたいなんだ。あとね、僕とアイオラなんだけど、全く効かなかったってわけでもないらしい。本当に気のせいかもしれないってくらいだけど、いつもより身体が軽いよ」
「まだ、私たちが理解していない部分があるのかもしれませんね。そういえばダリア隊長に連絡を送ったとか?」

「ああ、うん。面白いことがあるから、すぐに飛んで帰ってくるよう、使い魔を使って伝えたよ。明日の朝頃には戻ってくるんじゃないかな」
「そうですか。分かりました。ひとまず、アンバー隊長の兵士たちの強化魔法が切れる期間辺りも気になりますが、ダリア隊長の部隊が戻ってきたら、すぐに強化魔法をかけて、領地奪還を進めましょう」

 言い切る私に、アンバーは少し意外そうな顔を見せた。

「珍しいね。治療については積極的だけど、進軍なんかについては無関心だと思ってたよ。どういう風の吹き回しだい?」
「私たちが治療した領民たちは、いまだに生まれ育った街に戻れずにいるのです。その中には小さな子供も。一日も早く彼らを元の暮らしに戻してあげるのが、私たちの役目だと思います」

「うーん。本当に、聖女様ってのは、呼称だけじゃないんだねぇ。そうだね。明日の作戦には僕の部隊も市内地へ向かおう。外側に溢れた魔獣は今日のであらかた片付けたからね」
「でも、アンバー隊長は市内戦は苦手だと」

「まぁ、やり方はいくつかあるさ。もちろんダリアみたいなやり方とは変わるけどね。さぁ。そうと決まれば、今日はゆっくり休まないと。聖女様が疲れてたら魔法もかけられなっちゃうよ。休んだ、休んだ」
「そうですね。ありがとうございます。部隊の者に確認を取った後、少し休憩を取ります。それでは」

 アンバーは陽気な様子で手を振りながら去っていく。
 私は治療場の様子を一度確認しに行った後、万が一にも魔力切れが起こらぬよう、いっときの眠りについた。
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