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第60話【効果の幅】
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「それでは、そこに並んで。これから、少し変わった魔法をあなたたちにかけていきます」
アンバーに案内されて、私は攻撃部隊の詰所に足を運んだ。
そこにいる兵士たちに向かい、私は指示を出した。
アンバーがすでに連絡を入れていてくれたようで、兵士たちは特に疑問もあげずに、指示に従い私の前に整列する。
その一人一人に、私は強化魔法をかけていった。
「なんだか、不思議な感覚ですね。アンバー隊長の話だと、身体がすごく軽くなる魔法だって」
「おい! すごいぞ! ははは。見ろよ。俺の腕、こんなに速く動かせら」
すでに魔法をかけられた兵士たちは、横にそれて思い思いに魔法の効果を試しているようだ。
横目でそれを見つめていた私は、違和感を感じながらも、目の前にいる兵士に魔法をかけ続ける。
「聖女様。僕にもかけてもらえるのかい? どんな感じか、試してみたいんだ」
「いいですよ。アンバー隊長」
最後の一人に魔法をかけ終えた時、アンバー隊長が話しかけてきた。
解呪の魔法を立て続けに、さらにまだ慣れていない攻撃魔法の魔力も併せて使うのは骨が折れるが、もう一人増えても大きな問題ではない。
「それじゃあ、行きますよ?」
「うん。お手柔らかに頼むよ」
【鈍重】の解呪の魔法と、攻撃魔法の魔力を練った強化魔法をアンバーにかける。
紫色の光がアンバーを包み込み、そして消えた。
「うーん。なんだか不思議な感覚だけど、いまいちよく分からないな。これで、身体を速く動かせるんだっけ?」
「そのはずなのですが。ちょっと気になることが」
私は、アンバー越しに見える兵士たちの身体の動きを見て、不安を感じる。
嬉しそうに身体を動かす兵士たちの動きは、ここにくる前に見たクロムの動きとは全く異なるのだ。
クロムの時は、その動きを全く目で追うことができなかった。
しかし、今目の前にいる兵士たちは、素早いといえば素早いが、それに比べれば全くと言っていいほど遅かった。
「なんだい? ダメだなぁ。全く速くなった実感が持てないや」
「アンバー隊長。どうやら、人によって効果の幅があるようです。クロムに使った時は、驚くほど速く動けるようになったのですが、ここにいる兵士たちは、それに比べればまるで……」
「なるほど……まぁ、新しい魔法なんだ。色々と分からないことがあっても不思議じゃない。でも、自分で確かめられない以上、クロムの動きってのを見てみたいな。おーい、誰か。クロムっていう兵士をここへ呼んできてくれ。アイオラとどこかで遊んでいるはずだ」
「分かりました!」
複数人の兵士が、競うように部屋から飛び出していった。
どうやら、速く動けるようになった身体をもっと動かしたくてうずうずしていたようだ。
しばらくしてクロムとアイオラを連れて、兵士が戻ってきた。
クロムは少しバツの悪そうな顔をしている。
「すいません。聖女様。あなたを守るのが俺の使命なはずなのに。勝手にその場を離れて」
「いいのよ。クロム。ちょっと、強化魔法をもう一度かけるから、動きの違いをアンバー隊長に見せてあげてくれるかしら」
「分かりました‼︎」
直立不動のクロムに、今日何度目か分からない強化魔法をかける。
紫色の光が消えた後、クロムはアンバーに一度声をかけた。
「いいですか? それじゃあ、いきますよ?」
「うん。楽しみにしてるよ」
アンバーが呑気に答えた瞬間、クロムが再び視界から姿を消した。
それを見た誰もが、驚愕の声を上げ、辺りをキョロキョロと見渡す。
部屋の中を高速で動く打撃音と、それによってもたらされる風が満たす。
アンバーは一人嬉しそうな顔で私を見つめていた。
「もういいよ。クロム。よく分かった。止まってくれ」
「分かりました」
アンバーの声にクロムが返事をして、再び姿を現す。
やはり、強化魔法の失敗ではなく、相手によってその効果が大きく異なるということなのだろう。
「なるほどねぇ。聖女様、悪いけど、もう一回だけ、強化魔法をかけてくれるかい? 今度はそこにいるアイオラに」
「私ですか?」
名指しされたアイオラは、少しだけ困惑した顔で、アンバーと私を交互に見つめる。
アンバーはそんなアイオラに首を縦に振り答えた。
「ええ。大丈夫ですよ。それじゃあ、アイオラ。そこで立っていてもらえるかしら? 力は抜いて」
「はい!」
先ほどのクロムと同様、直立不動のアイオラに向かい強化魔法をかける。
何故か、随分と緊張している様子だ。
「かけました。それで。どうするんです? アンバー隊長」
「ありがとう。聖女様。アイオラ。その場で、できるだけ速く腕を動かしてごらん」
「こうですか? 一体何を?」
アイオラは右腕を前に伸ばし、その腕を腕に強く振る。
必死に振っているように見えるが、特に速く動いているようには見えない。
「もういいよ。アイオラ。分かったよ。聖女様。どうやら、強化魔法は僕の部隊とは相性が悪いらしい。逆にダリアの部隊とは相性がいいだろうね。あそこは脳筋だから」
アンバーは悔しそうな、嬉しそうな顔をして私を見つめた。
アンバーに案内されて、私は攻撃部隊の詰所に足を運んだ。
そこにいる兵士たちに向かい、私は指示を出した。
アンバーがすでに連絡を入れていてくれたようで、兵士たちは特に疑問もあげずに、指示に従い私の前に整列する。
その一人一人に、私は強化魔法をかけていった。
「なんだか、不思議な感覚ですね。アンバー隊長の話だと、身体がすごく軽くなる魔法だって」
「おい! すごいぞ! ははは。見ろよ。俺の腕、こんなに速く動かせら」
すでに魔法をかけられた兵士たちは、横にそれて思い思いに魔法の効果を試しているようだ。
横目でそれを見つめていた私は、違和感を感じながらも、目の前にいる兵士に魔法をかけ続ける。
「聖女様。僕にもかけてもらえるのかい? どんな感じか、試してみたいんだ」
「いいですよ。アンバー隊長」
最後の一人に魔法をかけ終えた時、アンバー隊長が話しかけてきた。
解呪の魔法を立て続けに、さらにまだ慣れていない攻撃魔法の魔力も併せて使うのは骨が折れるが、もう一人増えても大きな問題ではない。
「それじゃあ、行きますよ?」
「うん。お手柔らかに頼むよ」
【鈍重】の解呪の魔法と、攻撃魔法の魔力を練った強化魔法をアンバーにかける。
紫色の光がアンバーを包み込み、そして消えた。
「うーん。なんだか不思議な感覚だけど、いまいちよく分からないな。これで、身体を速く動かせるんだっけ?」
「そのはずなのですが。ちょっと気になることが」
私は、アンバー越しに見える兵士たちの身体の動きを見て、不安を感じる。
嬉しそうに身体を動かす兵士たちの動きは、ここにくる前に見たクロムの動きとは全く異なるのだ。
クロムの時は、その動きを全く目で追うことができなかった。
しかし、今目の前にいる兵士たちは、素早いといえば素早いが、それに比べれば全くと言っていいほど遅かった。
「なんだい? ダメだなぁ。全く速くなった実感が持てないや」
「アンバー隊長。どうやら、人によって効果の幅があるようです。クロムに使った時は、驚くほど速く動けるようになったのですが、ここにいる兵士たちは、それに比べればまるで……」
「なるほど……まぁ、新しい魔法なんだ。色々と分からないことがあっても不思議じゃない。でも、自分で確かめられない以上、クロムの動きってのを見てみたいな。おーい、誰か。クロムっていう兵士をここへ呼んできてくれ。アイオラとどこかで遊んでいるはずだ」
「分かりました!」
複数人の兵士が、競うように部屋から飛び出していった。
どうやら、速く動けるようになった身体をもっと動かしたくてうずうずしていたようだ。
しばらくしてクロムとアイオラを連れて、兵士が戻ってきた。
クロムは少しバツの悪そうな顔をしている。
「すいません。聖女様。あなたを守るのが俺の使命なはずなのに。勝手にその場を離れて」
「いいのよ。クロム。ちょっと、強化魔法をもう一度かけるから、動きの違いをアンバー隊長に見せてあげてくれるかしら」
「分かりました‼︎」
直立不動のクロムに、今日何度目か分からない強化魔法をかける。
紫色の光が消えた後、クロムはアンバーに一度声をかけた。
「いいですか? それじゃあ、いきますよ?」
「うん。楽しみにしてるよ」
アンバーが呑気に答えた瞬間、クロムが再び視界から姿を消した。
それを見た誰もが、驚愕の声を上げ、辺りをキョロキョロと見渡す。
部屋の中を高速で動く打撃音と、それによってもたらされる風が満たす。
アンバーは一人嬉しそうな顔で私を見つめていた。
「もういいよ。クロム。よく分かった。止まってくれ」
「分かりました」
アンバーの声にクロムが返事をして、再び姿を現す。
やはり、強化魔法の失敗ではなく、相手によってその効果が大きく異なるということなのだろう。
「なるほどねぇ。聖女様、悪いけど、もう一回だけ、強化魔法をかけてくれるかい? 今度はそこにいるアイオラに」
「私ですか?」
名指しされたアイオラは、少しだけ困惑した顔で、アンバーと私を交互に見つめる。
アンバーはそんなアイオラに首を縦に振り答えた。
「ええ。大丈夫ですよ。それじゃあ、アイオラ。そこで立っていてもらえるかしら? 力は抜いて」
「はい!」
先ほどのクロムと同様、直立不動のアイオラに向かい強化魔法をかける。
何故か、随分と緊張している様子だ。
「かけました。それで。どうするんです? アンバー隊長」
「ありがとう。聖女様。アイオラ。その場で、できるだけ速く腕を動かしてごらん」
「こうですか? 一体何を?」
アイオラは右腕を前に伸ばし、その腕を腕に強く振る。
必死に振っているように見えるが、特に速く動いているようには見えない。
「もういいよ。アイオラ。分かったよ。聖女様。どうやら、強化魔法は僕の部隊とは相性が悪いらしい。逆にダリアの部隊とは相性がいいだろうね。あそこは脳筋だから」
アンバーは悔しそうな、嬉しそうな顔をして私を見つめた。
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