60 / 64
第59話【そういう関係】
しおりを挟む
「やぁ。聖女様。思った以上に早かったね」
モスアゲート領の外側に設置された陣営にたどり着いた私を迎えてくれたのは、領地外に漏れ出た魔獣たちを討伐する役目を持った第二攻撃部隊の隊長アンバーだった。
市内地では攻撃魔法はなかなか使い勝手が悪いというのが主な理由だ。
その点、一歩外に出てしまえば、気兼ねなく攻撃魔法を放てるし、魔獣との距離がある程度あってもすぐに対応できる。
まさに適材適所というものだろう。
「アンバー隊長。こうして使い魔を介さずに会うのは久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「ああ。聖女様の方は色々大変だったね。呪いの方は結局まだ解けてないんだろう?」
今のところ【鈍重】の呪いを解けるのは私しかいない。
そして、自分自身の回復魔法だけでは、自分に治療の効果をもたらすことはできないのだ。
【聖女の涙】に私が複数回、魔法の力を込めるか、もしくはデイジーたちに解呪の魔法を覚えてもらう他ないだろう。
強化魔法の件もあるから、できれば解呪の魔法の方を早く身につけてもらいたいところだが。
「ええ。でも、手紙にも書いた通り、今は強化魔法のおかげで、以前と変わらぬ動きなら問題なくできます」
「強化魔法? そうか。そういう名前を付けたんだね。こっちも何かかっこいい名前を考えないとな? ねぇ。アイオラ」
アンバーは後に控えている青年に笑顔を向ける。
それを見たアイオラは、いたって真面目な顔で返事をした。
「私たちに今必要なのは名称を決めることではなく、修練をつみ、様々な組み合わせでどのような効果がもたらされるか確認することだと思います」
「はいはい。アイオラはほんと真面目なんだから。君の嫁になる人は苦労するね」
アンバーが茶化す。
言われた途端、アイオラは顔を真っ赤にしてしまった。
「な、何を突然言い出すんですか! 私は妻になってくれた方に苦労など絶対させません‼︎ 絶対にです‼︎」
「なんだい。珍しく今日は反応がいいね。いつもそのくらい好反応なら、こっちもいじりがいがあって楽しいんだけど」
アイオラは私の方を何故かチラチラと窺う様に見ている。
私がアンバーに混ざって冷やかしの声をかけるとでも思われたのだろうか。
おそらく第一攻撃部隊のダリアの影響だろうと私は考えた。
ダリアもちょっと意地の悪いからかいが好きだと、この前のやり取りで知ったからだ。
今はモスアゲート領の制圧の作戦に出ているようだが、ダリアはアンバーと仲がいいこともあって、一緒にいることも多いと聞く。
きっと真面目そうなアイオラは、二人にとって、いい標的なのだろう。
そんなことを思っていると、クロムが口を出してきた。
何故だか分からないが、どこか不機嫌そうに見える。
「アンバー隊長。今は世間話をしている時ではないと思います。後に大勢控えていますから。どちらに仮設の住居などはどちらに設置すれば?」
「ん? ああ。ごめん、ごめん。そうだったね。正直、君たちが来てくれて助かるよ。ここにはまだどの衛生兵部隊も派遣されていなかったからね」
第五衛生兵部隊の陣営は魔獣に襲われ壊滅し、他の衛生兵部隊もカルザー不在のせいで身動きが取れていないらしい。
そのため、わざわざ負傷した兵士や市民たちをここから離れたそれぞれの陣営に運んでいたのだとか。
その搬送に人手が取られてしまっているのも、モスアゲート領の制圧に時間がかかっている原因の一つのようだ。
ひとまず衛生兵たちはまだ搬送されていない負傷兵たちの治療に向かわせて、残りの人々で設置作業をするよう指示を出す。
その様子を眺めていたアンバーが私に質問を投げかけてきた。
「それにしても随分な大所帯で来たね。今設置に関わっている人たちの多くは、兵士には見えない。どうしたんだい?」
「あの方たちは元々モスアゲートの領民です。怪我をして私の部隊に運ばれたのですが、こちらに陣営を移動すると知って、多くの方が自発的に手伝ってくれると申し出てくれて」
「へぇ! それは凄いねぇ。きっと聖女様たちの献身の心に感化されたのさ。僕みたいにね」
「ありがたいですね。彼らの身の安全と安心のためにも、できるだけ早く、領地を取り戻さないと」
魔獣を討伐したとしても、おそらく復興にはそれなりの時間が必要だろう。
それでも、今まで住み慣れた場所に再び戻れるというのと、見知らぬ地に行って一からというのでは雲泥の差がある。
物資が潤沢にあるわけでもないのだから、とにかく元の生活に戻れるのが一番だ。
「そういえば、話は変わるけど、うちのアイオラとクロムってあんなに仲良かったんだね。クロムがアイオラの首根っこ捕まえてどっか行っちゃったけど」
「第一攻撃部隊にいた時のクロムのことは手紙でのやり取りでしか知りませんが、話題には上がってなかった気がしますね」
何気なく答えた私に、アンバーは驚いた顔を見せた。
「え? 君たちってそういう関係⁉︎」
「? そういう関係とは?」
「あちゃー。なるほどねぇ。こりゃ手強そうだ……」
そう言うアンバーに、私はなんと返事をすればいいのか、分からずにいた。
モスアゲート領の外側に設置された陣営にたどり着いた私を迎えてくれたのは、領地外に漏れ出た魔獣たちを討伐する役目を持った第二攻撃部隊の隊長アンバーだった。
市内地では攻撃魔法はなかなか使い勝手が悪いというのが主な理由だ。
その点、一歩外に出てしまえば、気兼ねなく攻撃魔法を放てるし、魔獣との距離がある程度あってもすぐに対応できる。
まさに適材適所というものだろう。
「アンバー隊長。こうして使い魔を介さずに会うのは久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「ああ。聖女様の方は色々大変だったね。呪いの方は結局まだ解けてないんだろう?」
今のところ【鈍重】の呪いを解けるのは私しかいない。
そして、自分自身の回復魔法だけでは、自分に治療の効果をもたらすことはできないのだ。
【聖女の涙】に私が複数回、魔法の力を込めるか、もしくはデイジーたちに解呪の魔法を覚えてもらう他ないだろう。
強化魔法の件もあるから、できれば解呪の魔法の方を早く身につけてもらいたいところだが。
「ええ。でも、手紙にも書いた通り、今は強化魔法のおかげで、以前と変わらぬ動きなら問題なくできます」
「強化魔法? そうか。そういう名前を付けたんだね。こっちも何かかっこいい名前を考えないとな? ねぇ。アイオラ」
アンバーは後に控えている青年に笑顔を向ける。
それを見たアイオラは、いたって真面目な顔で返事をした。
「私たちに今必要なのは名称を決めることではなく、修練をつみ、様々な組み合わせでどのような効果がもたらされるか確認することだと思います」
「はいはい。アイオラはほんと真面目なんだから。君の嫁になる人は苦労するね」
アンバーが茶化す。
言われた途端、アイオラは顔を真っ赤にしてしまった。
「な、何を突然言い出すんですか! 私は妻になってくれた方に苦労など絶対させません‼︎ 絶対にです‼︎」
「なんだい。珍しく今日は反応がいいね。いつもそのくらい好反応なら、こっちもいじりがいがあって楽しいんだけど」
アイオラは私の方を何故かチラチラと窺う様に見ている。
私がアンバーに混ざって冷やかしの声をかけるとでも思われたのだろうか。
おそらく第一攻撃部隊のダリアの影響だろうと私は考えた。
ダリアもちょっと意地の悪いからかいが好きだと、この前のやり取りで知ったからだ。
今はモスアゲート領の制圧の作戦に出ているようだが、ダリアはアンバーと仲がいいこともあって、一緒にいることも多いと聞く。
きっと真面目そうなアイオラは、二人にとって、いい標的なのだろう。
そんなことを思っていると、クロムが口を出してきた。
何故だか分からないが、どこか不機嫌そうに見える。
「アンバー隊長。今は世間話をしている時ではないと思います。後に大勢控えていますから。どちらに仮設の住居などはどちらに設置すれば?」
「ん? ああ。ごめん、ごめん。そうだったね。正直、君たちが来てくれて助かるよ。ここにはまだどの衛生兵部隊も派遣されていなかったからね」
第五衛生兵部隊の陣営は魔獣に襲われ壊滅し、他の衛生兵部隊もカルザー不在のせいで身動きが取れていないらしい。
そのため、わざわざ負傷した兵士や市民たちをここから離れたそれぞれの陣営に運んでいたのだとか。
その搬送に人手が取られてしまっているのも、モスアゲート領の制圧に時間がかかっている原因の一つのようだ。
ひとまず衛生兵たちはまだ搬送されていない負傷兵たちの治療に向かわせて、残りの人々で設置作業をするよう指示を出す。
その様子を眺めていたアンバーが私に質問を投げかけてきた。
「それにしても随分な大所帯で来たね。今設置に関わっている人たちの多くは、兵士には見えない。どうしたんだい?」
「あの方たちは元々モスアゲートの領民です。怪我をして私の部隊に運ばれたのですが、こちらに陣営を移動すると知って、多くの方が自発的に手伝ってくれると申し出てくれて」
「へぇ! それは凄いねぇ。きっと聖女様たちの献身の心に感化されたのさ。僕みたいにね」
「ありがたいですね。彼らの身の安全と安心のためにも、できるだけ早く、領地を取り戻さないと」
魔獣を討伐したとしても、おそらく復興にはそれなりの時間が必要だろう。
それでも、今まで住み慣れた場所に再び戻れるというのと、見知らぬ地に行って一からというのでは雲泥の差がある。
物資が潤沢にあるわけでもないのだから、とにかく元の生活に戻れるのが一番だ。
「そういえば、話は変わるけど、うちのアイオラとクロムってあんなに仲良かったんだね。クロムがアイオラの首根っこ捕まえてどっか行っちゃったけど」
「第一攻撃部隊にいた時のクロムのことは手紙でのやり取りでしか知りませんが、話題には上がってなかった気がしますね」
何気なく答えた私に、アンバーは驚いた顔を見せた。
「え? 君たちってそういう関係⁉︎」
「? そういう関係とは?」
「あちゃー。なるほどねぇ。こりゃ手強そうだ……」
そう言うアンバーに、私はなんと返事をすればいいのか、分からずにいた。
1
お気に入りに追加
3,341
あなたにおすすめの小説
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!
銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。
人々は、私を女神の代理と呼ぶ。
だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。
ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。
……まあ、いいんだがな。
私が困ることではないのだから。
しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。
今まで、そういった機会もなかったしな。
……だが、そうだな。
陥れられたこの借りは、返すことにするか。
女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。
企みの一つも、考えてみたりするさ。
さて、どうなるか――。
神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。
黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる