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第54話【第三の魔法】
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「モスアゲート領の制圧にかなり手間取っているようですね」
市民たちの治療を一通り終え、元凶であるモスアゲート領の状況の確認お願いしていたクロムからの報告を聞く。
その内容は、思った以上に難航しているという話だった。
「今までの戦闘とは異なり、建物があり通路も狭く入り組んだ市内地では、これまでの戦法が上手くいかないみたいです」
「さすがに広範囲魔法を使うわけにもいかないものね」
「はい。基本的には各個撃破で対応しているみたいです。まだ逃げ遅れたまま建物の中に隠れている住民がいるのも大きな理由ですね」
「そう……できるだけ助かってくれるといいのだけれど」
私は先ほどまで治療をしていた市民たちの悲痛な叫び声や、顔を思い出し、落ち込む。
それに彼らが住む場所の確保すらままならない。
今は至る所で雑魚寝をしてもらっている。
寒さに耐える必要のない季節だったということだけが幸いだろうか。
「聖女様。俺も制圧部隊に参加してきた方がいいですかね……正直、俺一人の力で何か変わるか自信ないですが」
「そうね。ここを襲う魔獣が待っているよりも、今必要なところへ行った方がいいのかもしれないわ」
クロムの提案に私は首を縦に振り、ふとあることを思い出した。
それは、元々クロムと検討を始めていたことだった。
突然の異変に対応していておざなりになってしまっていた。
しかし、もし私の思う通りの成果が得られたなら、モスアゲート領制圧も早く行くかもしれない。
「待って。クロム。やはりあなたはここにいてちょうだい。あなたにはしてもらいたいことがあるのよ」
「聖女様? しかし……」
「クロム。暴れ牛と戦っていた際、私がかけた魔法のおかげ、いつもとは全く違う動きができたと言っていたわね?」
「え? ああ。そうです。自分でも驚くくらいでした」
私はあの時の自分のかけた魔法のことを思い出そうとするが、必死だったことしか思い出せない。
多少クロムからその時の状況は聞いているけれど、自分一人で同じ魔法を創り出せるとは到底思えなかった。
「あの時の魔法を。もしも自由に使えるようになったら、制圧はきっと早く済むわ。だけど、私一人では無理なの。あなたが必要なのよ」
「……‼︎ 分かりました。どんなお役に立てるか分かりませんが、聖女様がそうおっしゃるなら」
「ありがとう。それじゃあ、もう一度最初から確認していくわね。あの時私は、あなたが助かってほしい一心で魔法を唱えたわ。その時の状況をできるだけ詳しく教えてくれる?」
「はい。あの時俺は、暴れ牛に斬り伏せられ、呪いのせいもあり、地面にうつ伏せで倒れたまま、顔を上げるのが精一杯でした」
クロムはあの時の自分の状況を思い出しながら、ゆっくりと話す。
私は急かさないように、小さな相槌だけで、話に耳を傾けた。
「身体は外も中もボロボロで血を吐いていたと思います。暴れ牛が聖女様に近づくのをただ見ているしかできなかった。そうしたら、突然身体を温かい紫色の光が包んだんです」
「色は紫色で間違いないのね?」
私の問いに、クロムは無言で頷く。
これは間違いなく取っ掛かりにになる。
私が普段使う回復魔法は、全て白い光を伴う。
クロムの見た、紫色の光というのは、少なくとも何かが異なることを意味しているに違いない。
「その光に包まれた瞬間、怪我も呪いも瞬く間に消えました。それで、身体を起こした俺は、なんとか暴れ牛から聖女様を守ろうと必死で走り出そうとしたんです。そうしたら」
「自分の身体がまるで別物みたいに速く動けるようになった?」
「はい。まるで周りの動きが止まって見えるようでした。その後は、聖女様を助けて、暴れ牛を斬り伏せてお終いです」
「ありがとう。情報はやっぱり紫色の光というところね。後は、あの時の私の状況を思い出せればいいのだけれど」
試しに私は治癒、解毒、解呪の魔法をそれぞれ唱えてみた。
いつも見る光景だけれど、どれも同じ白い色をしている。
「やっぱりこれじゃないのは確かね。あの時は……一度にそれぞれの魔法を唱えたからかしら」
クロムは致命傷と呪いを受けていたので、治癒の魔法と解呪の魔法をかけなければいけなかった。
しかし、順番にかけるだけの時間がないと一緒にかけた記憶がある。
「確かに怪我も呪いも一気に治りましたね。以前治療を受けた時は順番でしたが」
「それぞれの魔法を一斉にかけるより順番にかける方が使う魔力も難しさも全然違うのよ。試しにかけてみるわね」
治癒と解呪の魔法の複合魔法を唱えてみたけれど、やはり色は白いままだった。
「うーん。違いますねー。なんというか……上手く説明できないんですけど。前に回復魔法を受けた時も、今受けている奴もそうですが、胸の辺りが温かくなるんですよね。でも、この前受けたやつはそれに加えてお腹の下あたりも温かかったっていうか……」
「なんですって?」
言われてみれば、自分自身で回復魔法を受けた時の感覚というのを私は知らない。
つい最近受けた時は、不覚にも意識を失っていたし、それ以外には回復魔法を受ける経験がなかったからだ。
クロムの今の言葉で、私の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。
もしそうだとすれば、これは今までに考えられてこなかった攻撃魔法とも回復魔法とも違う第三の魔法ということになるのかもしれない。
「クロム。少しだけ時間をちょうだい。今から試すことは、私も上手くいく自信ないの」
「……? 聖女様にも難しいことなんてあるんですか? よく分からないですが、いくらでも待ちますよ」
私はクロムに首の動きでお礼を伝えてから、自分の身体に集中した。
市民たちの治療を一通り終え、元凶であるモスアゲート領の状況の確認お願いしていたクロムからの報告を聞く。
その内容は、思った以上に難航しているという話だった。
「今までの戦闘とは異なり、建物があり通路も狭く入り組んだ市内地では、これまでの戦法が上手くいかないみたいです」
「さすがに広範囲魔法を使うわけにもいかないものね」
「はい。基本的には各個撃破で対応しているみたいです。まだ逃げ遅れたまま建物の中に隠れている住民がいるのも大きな理由ですね」
「そう……できるだけ助かってくれるといいのだけれど」
私は先ほどまで治療をしていた市民たちの悲痛な叫び声や、顔を思い出し、落ち込む。
それに彼らが住む場所の確保すらままならない。
今は至る所で雑魚寝をしてもらっている。
寒さに耐える必要のない季節だったということだけが幸いだろうか。
「聖女様。俺も制圧部隊に参加してきた方がいいですかね……正直、俺一人の力で何か変わるか自信ないですが」
「そうね。ここを襲う魔獣が待っているよりも、今必要なところへ行った方がいいのかもしれないわ」
クロムの提案に私は首を縦に振り、ふとあることを思い出した。
それは、元々クロムと検討を始めていたことだった。
突然の異変に対応していておざなりになってしまっていた。
しかし、もし私の思う通りの成果が得られたなら、モスアゲート領制圧も早く行くかもしれない。
「待って。クロム。やはりあなたはここにいてちょうだい。あなたにはしてもらいたいことがあるのよ」
「聖女様? しかし……」
「クロム。暴れ牛と戦っていた際、私がかけた魔法のおかげ、いつもとは全く違う動きができたと言っていたわね?」
「え? ああ。そうです。自分でも驚くくらいでした」
私はあの時の自分のかけた魔法のことを思い出そうとするが、必死だったことしか思い出せない。
多少クロムからその時の状況は聞いているけれど、自分一人で同じ魔法を創り出せるとは到底思えなかった。
「あの時の魔法を。もしも自由に使えるようになったら、制圧はきっと早く済むわ。だけど、私一人では無理なの。あなたが必要なのよ」
「……‼︎ 分かりました。どんなお役に立てるか分かりませんが、聖女様がそうおっしゃるなら」
「ありがとう。それじゃあ、もう一度最初から確認していくわね。あの時私は、あなたが助かってほしい一心で魔法を唱えたわ。その時の状況をできるだけ詳しく教えてくれる?」
「はい。あの時俺は、暴れ牛に斬り伏せられ、呪いのせいもあり、地面にうつ伏せで倒れたまま、顔を上げるのが精一杯でした」
クロムはあの時の自分の状況を思い出しながら、ゆっくりと話す。
私は急かさないように、小さな相槌だけで、話に耳を傾けた。
「身体は外も中もボロボロで血を吐いていたと思います。暴れ牛が聖女様に近づくのをただ見ているしかできなかった。そうしたら、突然身体を温かい紫色の光が包んだんです」
「色は紫色で間違いないのね?」
私の問いに、クロムは無言で頷く。
これは間違いなく取っ掛かりにになる。
私が普段使う回復魔法は、全て白い光を伴う。
クロムの見た、紫色の光というのは、少なくとも何かが異なることを意味しているに違いない。
「その光に包まれた瞬間、怪我も呪いも瞬く間に消えました。それで、身体を起こした俺は、なんとか暴れ牛から聖女様を守ろうと必死で走り出そうとしたんです。そうしたら」
「自分の身体がまるで別物みたいに速く動けるようになった?」
「はい。まるで周りの動きが止まって見えるようでした。その後は、聖女様を助けて、暴れ牛を斬り伏せてお終いです」
「ありがとう。情報はやっぱり紫色の光というところね。後は、あの時の私の状況を思い出せればいいのだけれど」
試しに私は治癒、解毒、解呪の魔法をそれぞれ唱えてみた。
いつも見る光景だけれど、どれも同じ白い色をしている。
「やっぱりこれじゃないのは確かね。あの時は……一度にそれぞれの魔法を唱えたからかしら」
クロムは致命傷と呪いを受けていたので、治癒の魔法と解呪の魔法をかけなければいけなかった。
しかし、順番にかけるだけの時間がないと一緒にかけた記憶がある。
「確かに怪我も呪いも一気に治りましたね。以前治療を受けた時は順番でしたが」
「それぞれの魔法を一斉にかけるより順番にかける方が使う魔力も難しさも全然違うのよ。試しにかけてみるわね」
治癒と解呪の魔法の複合魔法を唱えてみたけれど、やはり色は白いままだった。
「うーん。違いますねー。なんというか……上手く説明できないんですけど。前に回復魔法を受けた時も、今受けている奴もそうですが、胸の辺りが温かくなるんですよね。でも、この前受けたやつはそれに加えてお腹の下あたりも温かかったっていうか……」
「なんですって?」
言われてみれば、自分自身で回復魔法を受けた時の感覚というのを私は知らない。
つい最近受けた時は、不覚にも意識を失っていたし、それ以外には回復魔法を受ける経験がなかったからだ。
クロムの今の言葉で、私の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。
もしそうだとすれば、これは今までに考えられてこなかった攻撃魔法とも回復魔法とも違う第三の魔法ということになるのかもしれない。
「クロム。少しだけ時間をちょうだい。今から試すことは、私も上手くいく自信ないの」
「……? 聖女様にも難しいことなんてあるんですか? よく分からないですが、いくらでも待ちますよ」
私はクロムに首の動きでお礼を伝えてから、自分の身体に集中した。
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