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第50話【クロムの処遇】
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「な、何言ってるんですか! 突然⁉︎」
何故かクロムは私の言葉に顔を真っ赤にして、その顔の前で両手をブンブンと振っている。
突然の出来事にどう反応すれば分からず、固まっていた。
すると、デイジーが私の代わりに反応してくれた。
両手を腰に当て、少し怒り気味に見える。
「もう! クロムは一体何を考えているの? 聖女様があなたが考えているようなことを言うわけないでしょ? きっと、さっきの不思議な体験のことを調べたいってことよ」
「え……? あ、ああ。そうか……そうだよな」
デイジーに言われ、クロムは何故か少し残念そうな顔をしていた。
一方のデイジーは、クロムの反応に、満足そうに頷く。
二人のやり取りを見ていたのに、いまいち何があったのか分からない。
けれど、お互い納得したのならまぁいいのだろう。
「とりあえず。まずはダリア隊長にクロムをしばらく預からせて欲しいことを伝えなくちゃね。その際にはアンバー隊長の口添えも――」
「その必要はないぞ」
突然部屋の扉が開き、凛とした女性の声が聞こえた。
一斉に声のした方を振り向くと、第一攻撃部隊長のダリアがこちらへ近づいてくる。
「だ、ダリア隊長‼︎ これには――」
「黙れ」
直立し、敬礼をしながらダリアに声をかけようとしたクロムを、ダリアは鋭い一言で黙らせる。
有無を言わせぬ圧力が込められた一言に、クロムは口をつぐむしかないようだった。
「報告はすでに聞いている。フローラ隊長殿。宿敵暴れ牛を見事撃破ったそうだな。怪我はもういいのか?」
「ええ。おかげさまで。ただ、少しだけ身体がまだ重いですが。ダリア隊長は何故こちらへ?」
「ここに重大な軍規違反を犯した我が隊の兵士が紛れ込んでいると聞いてな」
「ダリア。聞いてくれ。僕からきちんと説明す――」
「うるさい。アンバーも今は黙っていろ。もし私に話を聞いて欲しいなら、使い魔など使わずに、自ら赴いてくるんだな」
ダリアに言い切られ、アンバーも続く言葉を発せずにいた。
横で黙っているデイジーが一瞬身震いをする。
「ひとまず。ここは私の部隊の陣営です。その部隊の責任者として話を聞きましょう。軍規違反した兵士がここに?」
「そうだ。そいつは自分の持ち場を離れ、一人別行動をした。味方が敵と戦闘をしている、まさにその時にだ」
「なるほど。それは許されないことですね。ちなみに、兵士はそれぞれ小隊や中隊などに所属しているはずです。個人行動をした兵士は、事前にその隊の長に許可を取っては?」
「ああ。なんでも、そいつが所属する小隊の長が許可を出したらしい。そいつはそのことが判明した瞬間、処理をしておいた」
クロムが何か言おうと身を乗り出して口を開きかけたが、ダリアに一瞥され前に出した身を引く。
私は一連の動きを目の動きだけで追っていた。
「分かりました。本来、小隊それぞれに課せられた職務を全うするのが兵士の役目。どんな理由にしろ、それを放棄した兵士も、それを許可した長も許されるべきではないでしょう」
「理解が良くて助かるよ。フローラ隊長殿。そして、言うまでもなく、その軍規違反を犯した兵士というのは、そこにいるクロムだ」
ダリアに釣られて、私もクロムの方を向く。
クロムはうなだれて、床を見ていた。
「顔を上げろ。クロム。これから、お前に第一攻撃部隊長として今回の処遇を言い渡す。クロム一等兵。本日をもって、第一攻撃部隊を除名とする‼︎」
「そんな‼︎」
クロムの代わりに、今まで黙っていたデイジーが叫んだ。
当の本人は、ずっと下を向いたままだ。
「クロムが来なかったら! 聖女様は今頃死んでたんですよ⁉︎ ダリア隊長だって、今まで聖女様がどれだけ貢献してきたか、ご存知でしょう⁉︎」
「君はデイジー副隊長殿だったな。ここが君の陣営で良かったな。そうでなければ、副隊長の君が別部隊とはいえ隊長の私にそんな口をきいたことを咎めなければいけないところだ」
私は手でデイジーを制し、ダリアにまっすぐ目を向ける。
確かに、クロムの行動は兵士として、違反は違反だ。
だけどクロムの行動が、私を、そして私が同行した小隊の兵士たちの命も救ってくれたことは間違いない。
それに魔族を一体討伐した結果も残した。
それを加味すれば、今回の除名という処遇は重すぎる。
そのことを伝えるために、私がダリアに反論しようとした時。
今まで恐ろしいほどの圧力を発していたダリアの顔が急に柔和になり、後ろ手にもっていた書類を見せた。
「おお。そうだ。もう一つ、伝えることがある。これは、少し前のとある兵士の所属が記されたものなのだがな? 何々? この紙によると、その兵士は元々第二衛生兵部隊に所属していたらしい」
突然のダリアの変貌ぶりに、その場にいる私たち全員が目を丸くする。
ダリアはなおも先ほどの威圧感が嘘のような陽気な口調で、話を続けた。
「おお! しかも、どうやらその兵士は、当時の所属は保留したままで、第一攻撃部隊へと貸し出しとして転属されたようだな!」
「ダリア隊長? 一体何を?」
「ふむふむ! ということは! その兵士が第一攻撃部隊を辞めた際には、元々の部隊、つまり第二衛生兵部隊に戻ることになると! なるほどなぁ!」
「え……隊長……それってつまり……?」
クロムが思わず声を発した。
今度はダリアはクロムの発言を遮ることはなかった。
クロム同様、ダリアの発言の意図を理解したデイジーが、嬉しそうな顔でクロムの手を掴み飛び跳ねた。
「クロム! あなた、また私たちと一緒の隊に居れるのよ‼︎ 聖女様の隊に‼︎」
「た、隊長! 俺、いいんですか⁉︎」
「そうだな。クロム。今までご苦労だった。まさか暴れ牛を一騎で討伐するとはな。それに、お前のフローラ隊長殿への想いも十分理解した。お前のいるべき場所へ戻れ。残念ではあるがな」
呆気に取られている私を面白がるように、ダリアは片目を一度つぶって見せた。
そこでようやく、黙っていたアンバーが声を発する。
「あーあ。そのしてやったりの顔。相変わらずだねぇ。いつまで経っても、君の悪い癖は治らないねぇ」
「治すだと? 馬鹿を言うな。私の最も良いところだろうが。人生に笑いは一番必要なんだぞ?」
私はダリアの言葉を受けて返答した、アンバーの次の言葉をしばらく忘れることができないだろう。
「笑いって……笑ってるのは君だけだよ」
何故かクロムは私の言葉に顔を真っ赤にして、その顔の前で両手をブンブンと振っている。
突然の出来事にどう反応すれば分からず、固まっていた。
すると、デイジーが私の代わりに反応してくれた。
両手を腰に当て、少し怒り気味に見える。
「もう! クロムは一体何を考えているの? 聖女様があなたが考えているようなことを言うわけないでしょ? きっと、さっきの不思議な体験のことを調べたいってことよ」
「え……? あ、ああ。そうか……そうだよな」
デイジーに言われ、クロムは何故か少し残念そうな顔をしていた。
一方のデイジーは、クロムの反応に、満足そうに頷く。
二人のやり取りを見ていたのに、いまいち何があったのか分からない。
けれど、お互い納得したのならまぁいいのだろう。
「とりあえず。まずはダリア隊長にクロムをしばらく預からせて欲しいことを伝えなくちゃね。その際にはアンバー隊長の口添えも――」
「その必要はないぞ」
突然部屋の扉が開き、凛とした女性の声が聞こえた。
一斉に声のした方を振り向くと、第一攻撃部隊長のダリアがこちらへ近づいてくる。
「だ、ダリア隊長‼︎ これには――」
「黙れ」
直立し、敬礼をしながらダリアに声をかけようとしたクロムを、ダリアは鋭い一言で黙らせる。
有無を言わせぬ圧力が込められた一言に、クロムは口をつぐむしかないようだった。
「報告はすでに聞いている。フローラ隊長殿。宿敵暴れ牛を見事撃破ったそうだな。怪我はもういいのか?」
「ええ。おかげさまで。ただ、少しだけ身体がまだ重いですが。ダリア隊長は何故こちらへ?」
「ここに重大な軍規違反を犯した我が隊の兵士が紛れ込んでいると聞いてな」
「ダリア。聞いてくれ。僕からきちんと説明す――」
「うるさい。アンバーも今は黙っていろ。もし私に話を聞いて欲しいなら、使い魔など使わずに、自ら赴いてくるんだな」
ダリアに言い切られ、アンバーも続く言葉を発せずにいた。
横で黙っているデイジーが一瞬身震いをする。
「ひとまず。ここは私の部隊の陣営です。その部隊の責任者として話を聞きましょう。軍規違反した兵士がここに?」
「そうだ。そいつは自分の持ち場を離れ、一人別行動をした。味方が敵と戦闘をしている、まさにその時にだ」
「なるほど。それは許されないことですね。ちなみに、兵士はそれぞれ小隊や中隊などに所属しているはずです。個人行動をした兵士は、事前にその隊の長に許可を取っては?」
「ああ。なんでも、そいつが所属する小隊の長が許可を出したらしい。そいつはそのことが判明した瞬間、処理をしておいた」
クロムが何か言おうと身を乗り出して口を開きかけたが、ダリアに一瞥され前に出した身を引く。
私は一連の動きを目の動きだけで追っていた。
「分かりました。本来、小隊それぞれに課せられた職務を全うするのが兵士の役目。どんな理由にしろ、それを放棄した兵士も、それを許可した長も許されるべきではないでしょう」
「理解が良くて助かるよ。フローラ隊長殿。そして、言うまでもなく、その軍規違反を犯した兵士というのは、そこにいるクロムだ」
ダリアに釣られて、私もクロムの方を向く。
クロムはうなだれて、床を見ていた。
「顔を上げろ。クロム。これから、お前に第一攻撃部隊長として今回の処遇を言い渡す。クロム一等兵。本日をもって、第一攻撃部隊を除名とする‼︎」
「そんな‼︎」
クロムの代わりに、今まで黙っていたデイジーが叫んだ。
当の本人は、ずっと下を向いたままだ。
「クロムが来なかったら! 聖女様は今頃死んでたんですよ⁉︎ ダリア隊長だって、今まで聖女様がどれだけ貢献してきたか、ご存知でしょう⁉︎」
「君はデイジー副隊長殿だったな。ここが君の陣営で良かったな。そうでなければ、副隊長の君が別部隊とはいえ隊長の私にそんな口をきいたことを咎めなければいけないところだ」
私は手でデイジーを制し、ダリアにまっすぐ目を向ける。
確かに、クロムの行動は兵士として、違反は違反だ。
だけどクロムの行動が、私を、そして私が同行した小隊の兵士たちの命も救ってくれたことは間違いない。
それに魔族を一体討伐した結果も残した。
それを加味すれば、今回の除名という処遇は重すぎる。
そのことを伝えるために、私がダリアに反論しようとした時。
今まで恐ろしいほどの圧力を発していたダリアの顔が急に柔和になり、後ろ手にもっていた書類を見せた。
「おお。そうだ。もう一つ、伝えることがある。これは、少し前のとある兵士の所属が記されたものなのだがな? 何々? この紙によると、その兵士は元々第二衛生兵部隊に所属していたらしい」
突然のダリアの変貌ぶりに、その場にいる私たち全員が目を丸くする。
ダリアはなおも先ほどの威圧感が嘘のような陽気な口調で、話を続けた。
「おお! しかも、どうやらその兵士は、当時の所属は保留したままで、第一攻撃部隊へと貸し出しとして転属されたようだな!」
「ダリア隊長? 一体何を?」
「ふむふむ! ということは! その兵士が第一攻撃部隊を辞めた際には、元々の部隊、つまり第二衛生兵部隊に戻ることになると! なるほどなぁ!」
「え……隊長……それってつまり……?」
クロムが思わず声を発した。
今度はダリアはクロムの発言を遮ることはなかった。
クロム同様、ダリアの発言の意図を理解したデイジーが、嬉しそうな顔でクロムの手を掴み飛び跳ねた。
「クロム! あなた、また私たちと一緒の隊に居れるのよ‼︎ 聖女様の隊に‼︎」
「た、隊長! 俺、いいんですか⁉︎」
「そうだな。クロム。今までご苦労だった。まさか暴れ牛を一騎で討伐するとはな。それに、お前のフローラ隊長殿への想いも十分理解した。お前のいるべき場所へ戻れ。残念ではあるがな」
呆気に取られている私を面白がるように、ダリアは片目を一度つぶって見せた。
そこでようやく、黙っていたアンバーが声を発する。
「あーあ。そのしてやったりの顔。相変わらずだねぇ。いつまで経っても、君の悪い癖は治らないねぇ」
「治すだと? 馬鹿を言うな。私の最も良いところだろうが。人生に笑いは一番必要なんだぞ?」
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