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第43話【悪戦苦闘】
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戦闘は劣勢が続いていた。
インディゴの指示で様々な攻撃が繰り広げられるが、そのことごとくが受け止められ、逆に誰かが負傷した。
「今、回復するわ‼︎」
私はそのたび、回復魔法をかけていた。
まだ死者は出ていないが、このまま打開策が見つからなければ、そう遅くない未来、全滅も覚悟しなければならないだろう。
「くそっ! こいつ‼︎ 俺らのことを弄んでやがる! 逃がす気もないみたいだし、このままじゃジリ貧だ‼︎」
誰かが吐き捨てるように叫ぶ。
彼の言う通り、暴れ牛は私たちとの戦闘を楽しんでいるような素振りを見せていた。
基本的に最初の場所から動かずに、こちらが近づいた場合のみ、返り討ちのように手に持った巨大な曲刀を振るった。
その勢いは凄まじく、受けた兵士は毎回死なないまでも致命傷を負わされている。
その間、インディゴの指示でも、それ以外の兵士自身の判断でも、何度も逃走を試みた。
しかし、暴れ牛は私たちを逃がす気はないらしく、逃げようとした兵士が出た瞬間、凄まじい速さでそれを阻止してくる。
「なんだかよォ。おかしいなァ。俺は何度も切ったんだぜェ? それなのによォ」
今まで一言も声を発していなかった暴れ牛が、突然私にも分かる言葉で、独り言のようなものを呟き始めた。
どうやら魔族というのは、私たちの使う言葉を理解し、扱うことができるらしい。
魔族が喋ること自体が珍しいのか、暴れ牛の声に、インディゴ、他の兵士たちも驚いた様子だ。
そんな私たちの様子など意に介さぬように、暴れ牛は独白を続けた。
「俺ァ切ったよなァ? ああ、切ったともォ。それなのにィ。なんで、テメェら死なねんだァ?」
そう言いながら、暴れ牛は自分の得物を素早く数度その場で振った。
そのたび風を切る音と、風圧がこちらまで飛んでくる。
「おかしいよなァ? ゼェーたい、おかしィ‼︎ テメェらァ! なんで俺が切っても、死なねんだァァ‼︎」
今まで能動的に場所の移動をしてこなかった暴れ牛が、突進の如く迫ってきた。
前衛の兵士が慌ててそれを受け止めようと、武器を構える。
「一人目ェ‼︎」
突進の勢いを殺さぬまま、暴れ牛は得物を横薙ぎに振るう。
辛うじて受け止めた兵士の持った剣は砕け、勢いは減ったものの、曲刀は兵士の横腹にぶつかる。
「ぐはぁ‼︎」
全てを吐き出すような呻き声を上げた兵士は、そのまま弾かれ横に吹き飛んでいく。
私はすでに用意していた上級の治癒魔法をまだ地面にたどり着く前に、負傷した兵士に唱えた。
突撃の勢いを緩めない暴れ牛に、横から襲うように別の前衛が剣を振るう。
「それェ! 二人目ェ‼︎」
「くっ! ぐ……うわぁぁ‼︎」
しかし、それをすでに読んでいたのか、下からすくい上げるように暴れ牛は剣撃を繰り出す。
逆に受け止める形になった兵士は、一瞬耐え切ったと思えたが、受け止めた剣ごと身体を縦に切り裂かれる。
これも準備しておいた治癒魔法を唱え、なんとか一命を取り留める。
しかし、このままの勢いで攻撃が続けば、すぐに私の魔法の速度が間に合わなくなっていってしまう。
焦りを感じていたところで、突然暴れ牛は突進を止め、その場で無造作に立ち尽くした。
それを見た、後衛の魔法兵が攻撃を繰り出すが、暴れ牛にぶつかる前に、曲刀で薙ぎ払われてしまった。
「テメェかァ……さっきからウザってェことしやがってるのはよォ……」
「まずい‼︎ 聖女様をお守りしろ‼︎」
私はこの瞬間、戦闘の現場に来てから、初めて恐怖に支配されるというのを理解した。
今まで私は、攻撃兵と同じ戦場に立っていると思っていたが、大きな間違いだったらしい。
今までの私は敵の攻撃の対象になっていなかった。
体がすくむ様な敵意を、自身に向けられることなどなかった。
危険に身を晒していると思っていたけれど、安全な場所に立っていたのだ。
そして今、明確な殺意が、私を殺そうとしている刺さる様な敵意が、私の身体に向けられている。
その時になって初めて、自分が死と隣り合わせの危険な場所に立ったのだと理解した。
「テメェらァ。みんな邪魔だァ……そいつが変なことしてるからァ、俺が切っても切ってもォ、テメェらは死なねんだろゥ?」
インディゴの一声で、その場にいる全ての兵士が、私と暴れ牛の間に割り込む。
全員が私の命を守ろうと、必死の形相だ。
「聖女様! ダメです‼︎ 逃げましょう‼︎」
小隊に派遣されてから、最初に治療を施した若い兵士が、私の手を握り、後ろに走り出した。
それを見届けた他の兵士たちは、なんとか暴れ牛の動きを止めようと、一斉に攻撃を繰り出し始めた。
「逃がすかよォ! まずはソイツをやってェ、テメェらもォ、全員皆殺しだァ」
どう動いたのか分からないが、兵士と共に後に走り出した私の目の前に、暴れ牛が姿を現した。
そのまま、曲刀を振るう。
魔族の表情など私には分かるはずもないのに、最初に出会った時と同じように、暴れ牛が笑みを浮かべた様に感じた。
「聖女様‼︎」
私の手を引いてた兵士の叫び声が耳を打つ。
その瞬間、私の身体は突き飛ばされ、横に流れた。
倒れていく中、私の視界は、私の代わりに切り付けられた兵士の血で、真っ赤に染まった。
インディゴの指示で様々な攻撃が繰り広げられるが、そのことごとくが受け止められ、逆に誰かが負傷した。
「今、回復するわ‼︎」
私はそのたび、回復魔法をかけていた。
まだ死者は出ていないが、このまま打開策が見つからなければ、そう遅くない未来、全滅も覚悟しなければならないだろう。
「くそっ! こいつ‼︎ 俺らのことを弄んでやがる! 逃がす気もないみたいだし、このままじゃジリ貧だ‼︎」
誰かが吐き捨てるように叫ぶ。
彼の言う通り、暴れ牛は私たちとの戦闘を楽しんでいるような素振りを見せていた。
基本的に最初の場所から動かずに、こちらが近づいた場合のみ、返り討ちのように手に持った巨大な曲刀を振るった。
その勢いは凄まじく、受けた兵士は毎回死なないまでも致命傷を負わされている。
その間、インディゴの指示でも、それ以外の兵士自身の判断でも、何度も逃走を試みた。
しかし、暴れ牛は私たちを逃がす気はないらしく、逃げようとした兵士が出た瞬間、凄まじい速さでそれを阻止してくる。
「なんだかよォ。おかしいなァ。俺は何度も切ったんだぜェ? それなのによォ」
今まで一言も声を発していなかった暴れ牛が、突然私にも分かる言葉で、独り言のようなものを呟き始めた。
どうやら魔族というのは、私たちの使う言葉を理解し、扱うことができるらしい。
魔族が喋ること自体が珍しいのか、暴れ牛の声に、インディゴ、他の兵士たちも驚いた様子だ。
そんな私たちの様子など意に介さぬように、暴れ牛は独白を続けた。
「俺ァ切ったよなァ? ああ、切ったともォ。それなのにィ。なんで、テメェら死なねんだァ?」
そう言いながら、暴れ牛は自分の得物を素早く数度その場で振った。
そのたび風を切る音と、風圧がこちらまで飛んでくる。
「おかしいよなァ? ゼェーたい、おかしィ‼︎ テメェらァ! なんで俺が切っても、死なねんだァァ‼︎」
今まで能動的に場所の移動をしてこなかった暴れ牛が、突進の如く迫ってきた。
前衛の兵士が慌ててそれを受け止めようと、武器を構える。
「一人目ェ‼︎」
突進の勢いを殺さぬまま、暴れ牛は得物を横薙ぎに振るう。
辛うじて受け止めた兵士の持った剣は砕け、勢いは減ったものの、曲刀は兵士の横腹にぶつかる。
「ぐはぁ‼︎」
全てを吐き出すような呻き声を上げた兵士は、そのまま弾かれ横に吹き飛んでいく。
私はすでに用意していた上級の治癒魔法をまだ地面にたどり着く前に、負傷した兵士に唱えた。
突撃の勢いを緩めない暴れ牛に、横から襲うように別の前衛が剣を振るう。
「それェ! 二人目ェ‼︎」
「くっ! ぐ……うわぁぁ‼︎」
しかし、それをすでに読んでいたのか、下からすくい上げるように暴れ牛は剣撃を繰り出す。
逆に受け止める形になった兵士は、一瞬耐え切ったと思えたが、受け止めた剣ごと身体を縦に切り裂かれる。
これも準備しておいた治癒魔法を唱え、なんとか一命を取り留める。
しかし、このままの勢いで攻撃が続けば、すぐに私の魔法の速度が間に合わなくなっていってしまう。
焦りを感じていたところで、突然暴れ牛は突進を止め、その場で無造作に立ち尽くした。
それを見た、後衛の魔法兵が攻撃を繰り出すが、暴れ牛にぶつかる前に、曲刀で薙ぎ払われてしまった。
「テメェかァ……さっきからウザってェことしやがってるのはよォ……」
「まずい‼︎ 聖女様をお守りしろ‼︎」
私はこの瞬間、戦闘の現場に来てから、初めて恐怖に支配されるというのを理解した。
今まで私は、攻撃兵と同じ戦場に立っていると思っていたが、大きな間違いだったらしい。
今までの私は敵の攻撃の対象になっていなかった。
体がすくむ様な敵意を、自身に向けられることなどなかった。
危険に身を晒していると思っていたけれど、安全な場所に立っていたのだ。
そして今、明確な殺意が、私を殺そうとしている刺さる様な敵意が、私の身体に向けられている。
その時になって初めて、自分が死と隣り合わせの危険な場所に立ったのだと理解した。
「テメェらァ。みんな邪魔だァ……そいつが変なことしてるからァ、俺が切っても切ってもォ、テメェらは死なねんだろゥ?」
インディゴの一声で、その場にいる全ての兵士が、私と暴れ牛の間に割り込む。
全員が私の命を守ろうと、必死の形相だ。
「聖女様! ダメです‼︎ 逃げましょう‼︎」
小隊に派遣されてから、最初に治療を施した若い兵士が、私の手を握り、後ろに走り出した。
それを見届けた他の兵士たちは、なんとか暴れ牛の動きを止めようと、一斉に攻撃を繰り出し始めた。
「逃がすかよォ! まずはソイツをやってェ、テメェらもォ、全員皆殺しだァ」
どう動いたのか分からないが、兵士と共に後に走り出した私の目の前に、暴れ牛が姿を現した。
そのまま、曲刀を振るう。
魔族の表情など私には分かるはずもないのに、最初に出会った時と同じように、暴れ牛が笑みを浮かべた様に感じた。
「聖女様‼︎」
私の手を引いてた兵士の叫び声が耳を打つ。
その瞬間、私の身体は突き飛ばされ、横に流れた。
倒れていく中、私の視界は、私の代わりに切り付けられた兵士の血で、真っ赤に染まった。
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