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第22話【育成】
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「色々騒がせて済まなかったな」
ゾイスの取り押さえなどで、一時治療場は神妙な雰囲気に包まれた。
そんな中、その間も負傷兵の治療を続けていた私の元に、再びダリアがやって来た。
「いえ。こちらこそ。事態の収拾、感謝します」
「ふむ。一応確認したい。アンバーの呪いを君が解いたというのは間違いないか?」
ダリアの口から以前の上官の名前が出て、改めて私の予想が正しかったのが証明された。
残念なことに使い魔については結局教わることが出来なかったが、確かにあの能力は伝達には有用だろう。
別の部隊とはいえ、上位に当たる者に対して失礼と思うものの、治療の最中だったため顔だけを向けて私は答えた。
「はい。もし、おっしゃる方が第五衛生兵部隊の部隊長のことならば、間違いありません」
「そうか。あいつも私も半ば諦めていたんだ。旧友を救ってくれて私も感謝している。ありがとう。それにしても、よくあいつが治療を依頼するほどの信頼を得られたな?」
「いえ。アンバー部隊長から依頼された訳ではありません。私が無理やり治療を行いました」
「なんだと?」
私の返答を聞いた途端、ダリアは目を丸くした。
「あっはっは! これは良い! あいつを無理やりにか! それはさぞ見ものだっただろう。私もその場で見ていたかったものだな」
「部隊長は……ゾイスは今度どうなるのですか?」
盛大に笑って涙を滲ませるダリアに向かって、私は気になっていることを素直に聞いてみた。
その途端、ダリアの顔から笑みが消え、険しい怒気のようなものが発せられた。
「ひとまず、色々と調べ上げたことに間違いが無いか取り調べを行う」
「そうですか……次の部隊長がまともな方であれば良いのですが……」
恐らくゾイスは私の思いもよらぬことを色々としていたのだろう。
ダリアがここに来たというのも、口では私のことを言っていたが、本当は最初からゾイスが目当てだったに違いない。
ただ、前線の英雄たる彼女がわざわざ出向くほどの大それたことをゾイスがしていたとも考えにくい。
彼女が来たという理由に、私に用があったというのもあながち嘘ではないのかもしれない。
「何を言っている? 自分で自分の心配をしてもしょうがないだろう」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だ。自分がまともかどうかは、自分が一番よく分かっているだろう」
そう言いながら、ダリアは笑みを私に向けながら話を続けた。
「さっき言った通り、ゾイスは今回の件で正式に任を解かれた。部隊長不在の際は、副隊長がその任を代理するとは知らなかったのか?」
そういえば、この部隊に来る際に目を通した資料の中にそんな内容が書かれていたのを思い出す。
まさかそんな事態が実際に起こるとは思っていなかったから、頭の片隅に追いやってしまっていた。
「ところで、だ。実は今回私が来たのは他にも用件があるのだ。少し込み入った話になる。君も今は忙しいだろう。私はもう少しだけここに滞在する予定だ。手が空いたら、司令室に来てくれ」
「分かりました。あなたのおかげで既に新しく運ばれてくる兵士はほとんどいないようです。できるだけすぐに向かいますので」
私のその返ことを聞くと、ダリアは再び笑みを私に向け、治療場から去っていった。
治療場に残った私は、緊急性の高い負傷兵の治療を終えると、デイジーたちに後を託して司令室に向かった。
☆
「お待たせしました」
「思ったより早かったな。入ってくれ」
私は司令室に入ると、ダリアの他に思いもよらない見知った人物が居たことに目を止めた。
「アンバー部隊長! どうしてここに⁉」
「やぁ。久しぶりだね。聖女様。元気そうで何よりだ」
「なんだ、アンバー。本当に彼女を聖女様と呼んでいるのだな。私も呼ばなければ失礼に当たるか?」
「とんでもない。ダリア部隊長。お戯れを」
いたずらっぽく笑みを浮かべながらそう言うダリアを否定しながら、私はアンバーに顔を向け、質問の返事を待つ。
アンバーは髪を撫でつけながら、ダリアの方に一度顔を向け、口を開いた。
「どうしてもこうしてもさ。めんどくさい仕事を頼まれちゃったんだよ。聖女様も関係するんだけどね」
「アンバー。お前と違って未だに私は忙しいんだ。私の方から簡潔に説明させてもらうぞ」
そう言いながら、ダリアは説明を始めた。
ダリアの説明を聞き、私はこの決定の裏にはベリル王子が深く絡んでいるのだろうと考えていた。
なんと、私とアンバー、そしてダリアでそれぞれの訓練部隊の育成を命じられたというのだ。
ダリアは近接主体の戦闘を、アンバーは攻撃魔法をそれぞれ育成するらしい。
そして、私は回復魔法の使い手、つまり衛生兵の育成の任を与えられた。
それも、前線で実際の負傷兵の治療を行いながら訓練を行うとのことだった。
「衛生兵の育成に関しては異存ありませんが、色々と疑問点があります」
「何故、育成を前線で行うか、私やアンバーも育成に当たるのかか?」
ダリアは私の疑問にこう答えた。
どうやら、ゾイスが負傷兵に不完全な治療を施していたのは、本人は知らずとも狙いがあってのことだったらしい。
実戦を積んだ兵士は、模擬戦などで訓練をした兵士よりも速く成長する。
しかしいずれは怪我を負い、もし適切な治療が受けられなければ、兵士としては使い物にならなくなる。
せっかく育った兵士が戦場を去っていく。
このことが魔王軍との戦争が長引いている理由の一つだった。
つまり、戦争を長引かせることを望んでいる者が居たのだ。
その人物は、先ほどゾイスから聞いたばかりだった。
「モリアゲート伯爵に疑いの目を向けられぬよう、そして邪魔をされぬよう。私たち三人で精鋭部隊を作り上げるのだよ」
そう答えたダリアの目には怒りの火が燃えていた。
ゾイスの取り押さえなどで、一時治療場は神妙な雰囲気に包まれた。
そんな中、その間も負傷兵の治療を続けていた私の元に、再びダリアがやって来た。
「いえ。こちらこそ。事態の収拾、感謝します」
「ふむ。一応確認したい。アンバーの呪いを君が解いたというのは間違いないか?」
ダリアの口から以前の上官の名前が出て、改めて私の予想が正しかったのが証明された。
残念なことに使い魔については結局教わることが出来なかったが、確かにあの能力は伝達には有用だろう。
別の部隊とはいえ、上位に当たる者に対して失礼と思うものの、治療の最中だったため顔だけを向けて私は答えた。
「はい。もし、おっしゃる方が第五衛生兵部隊の部隊長のことならば、間違いありません」
「そうか。あいつも私も半ば諦めていたんだ。旧友を救ってくれて私も感謝している。ありがとう。それにしても、よくあいつが治療を依頼するほどの信頼を得られたな?」
「いえ。アンバー部隊長から依頼された訳ではありません。私が無理やり治療を行いました」
「なんだと?」
私の返答を聞いた途端、ダリアは目を丸くした。
「あっはっは! これは良い! あいつを無理やりにか! それはさぞ見ものだっただろう。私もその場で見ていたかったものだな」
「部隊長は……ゾイスは今度どうなるのですか?」
盛大に笑って涙を滲ませるダリアに向かって、私は気になっていることを素直に聞いてみた。
その途端、ダリアの顔から笑みが消え、険しい怒気のようなものが発せられた。
「ひとまず、色々と調べ上げたことに間違いが無いか取り調べを行う」
「そうですか……次の部隊長がまともな方であれば良いのですが……」
恐らくゾイスは私の思いもよらぬことを色々としていたのだろう。
ダリアがここに来たというのも、口では私のことを言っていたが、本当は最初からゾイスが目当てだったに違いない。
ただ、前線の英雄たる彼女がわざわざ出向くほどの大それたことをゾイスがしていたとも考えにくい。
彼女が来たという理由に、私に用があったというのもあながち嘘ではないのかもしれない。
「何を言っている? 自分で自分の心配をしてもしょうがないだろう」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だ。自分がまともかどうかは、自分が一番よく分かっているだろう」
そう言いながら、ダリアは笑みを私に向けながら話を続けた。
「さっき言った通り、ゾイスは今回の件で正式に任を解かれた。部隊長不在の際は、副隊長がその任を代理するとは知らなかったのか?」
そういえば、この部隊に来る際に目を通した資料の中にそんな内容が書かれていたのを思い出す。
まさかそんな事態が実際に起こるとは思っていなかったから、頭の片隅に追いやってしまっていた。
「ところで、だ。実は今回私が来たのは他にも用件があるのだ。少し込み入った話になる。君も今は忙しいだろう。私はもう少しだけここに滞在する予定だ。手が空いたら、司令室に来てくれ」
「分かりました。あなたのおかげで既に新しく運ばれてくる兵士はほとんどいないようです。できるだけすぐに向かいますので」
私のその返ことを聞くと、ダリアは再び笑みを私に向け、治療場から去っていった。
治療場に残った私は、緊急性の高い負傷兵の治療を終えると、デイジーたちに後を託して司令室に向かった。
☆
「お待たせしました」
「思ったより早かったな。入ってくれ」
私は司令室に入ると、ダリアの他に思いもよらない見知った人物が居たことに目を止めた。
「アンバー部隊長! どうしてここに⁉」
「やぁ。久しぶりだね。聖女様。元気そうで何よりだ」
「なんだ、アンバー。本当に彼女を聖女様と呼んでいるのだな。私も呼ばなければ失礼に当たるか?」
「とんでもない。ダリア部隊長。お戯れを」
いたずらっぽく笑みを浮かべながらそう言うダリアを否定しながら、私はアンバーに顔を向け、質問の返事を待つ。
アンバーは髪を撫でつけながら、ダリアの方に一度顔を向け、口を開いた。
「どうしてもこうしてもさ。めんどくさい仕事を頼まれちゃったんだよ。聖女様も関係するんだけどね」
「アンバー。お前と違って未だに私は忙しいんだ。私の方から簡潔に説明させてもらうぞ」
そう言いながら、ダリアは説明を始めた。
ダリアの説明を聞き、私はこの決定の裏にはベリル王子が深く絡んでいるのだろうと考えていた。
なんと、私とアンバー、そしてダリアでそれぞれの訓練部隊の育成を命じられたというのだ。
ダリアは近接主体の戦闘を、アンバーは攻撃魔法をそれぞれ育成するらしい。
そして、私は回復魔法の使い手、つまり衛生兵の育成の任を与えられた。
それも、前線で実際の負傷兵の治療を行いながら訓練を行うとのことだった。
「衛生兵の育成に関しては異存ありませんが、色々と疑問点があります」
「何故、育成を前線で行うか、私やアンバーも育成に当たるのかか?」
ダリアは私の疑問にこう答えた。
どうやら、ゾイスが負傷兵に不完全な治療を施していたのは、本人は知らずとも狙いがあってのことだったらしい。
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しかしいずれは怪我を負い、もし適切な治療が受けられなければ、兵士としては使い物にならなくなる。
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このことが魔王軍との戦争が長引いている理由の一つだった。
つまり、戦争を長引かせることを望んでいる者が居たのだ。
その人物は、先ほどゾイスから聞いたばかりだった。
「モリアゲート伯爵に疑いの目を向けられぬよう、そして邪魔をされぬよう。私たち三人で精鋭部隊を作り上げるのだよ」
そう答えたダリアの目には怒りの火が燃えていた。
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