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第16話【嬉しい増援】

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 結局いい案が思い浮かばず、私は頭痛を抱えて自室へ戻ることにした。
 尽きた魔力を回復させるため休んでいると、扉を叩く音が聞こえ身を起こす。

「聖女様! こちらでしょうか?」
「開いているわ。入りなさい」

 ここに居るはずのない懐かしい声が聞こえ、私は不思議に思いながらも声の主を招き入れる。
 扉が開き、そこに立っていたのは第五衛生兵部隊で一緒に働いていたデイジーだった。

「聖女様‼」
「デイジー! 何故ここにいるの? あなた一人?」

「いいえ。私の他に、ここまでの護衛でクロムがおります」
「聖女様! またお会いできて嬉しいです‼」

 私の言葉に、デイジーが後ろに控えていたクロムを見せる。
 クロムは私の部屋に入っていいのか悩んでいるのか、外から身体を乗り出している。

「二人とも入っていいわ。よく来たわね。それで? どういうことか説明してちょうだい」
「実は、私たち。ここに転属になったんです」

 デイジーの言葉に私は驚く。
 別の部隊に転属というのはないことはないだろうが、私がここに配属された初日に、となると何らかの意図を感じる。

「実は、私たちも理由は詳しくは知らないんです」
「アンバー部隊長に、理由は聞くな。これは絶対命令だ。とだけ言われていまして」

 アンバーが本人たちにそう言うということは、かなり上の者から直接命令だったのだろう。
 私の脳裏には、身分をわざわざ隠さなければいけない、上位の者の顔が、一人だけ浮かんだ。

「でも! こうしてまた聖女様と一緒に働けるのが、私嬉しいです!」
「俺も、張り切って警護に当たりますよ‼ 魔獣なんてドンと来いです‼」

「ええ。私も嬉しいわ。デイジー。魔獣は来なければ、来ない方がいいのよ。クロム」

 私の言葉にデイジーは両手を胸の辺りで組んで、嬉しそうな顔を見せる。
 クロムは人差し指で頬をかいた。

「まぁ。それは言葉のあやと言いますか。でも! 聖女様のこと、全力でお守りしますので‼」
「ええ。ありがとう」

 おそらくベリル王子がこの二人をここに送ってくれたのは間違いないだろう。
 と、すればここの現状も知っていて、私を配属させたのだろうか。

 思えば、そもそも私がこの戦場に配属できたのも、ベリル王子の口添えだとルチル王子が言っていた。
 その時は、深く考えもしなかったが、ベリル王子の評判を考えると、考え無しにそんなことを言うはずがない。

 実際に、私は希望通りに前線に赴き、私の考えで第五衛生兵部隊の状況の改善に務めた。
 その結果、まだやり残したところはあるものの、私が居なくても、多くの負傷兵を助けることができる体制作りが出来たといえる。

 そんな中の帰還命令。
 そしてルチル王子の解呪と今回の配属先を変えられ、副隊長という任を与えられての配属。

 どれもベリル王子の考えあっての事のように思えて来て仕方がない。
 具体的に何か言われた訳ではないけれど、問題のある部隊に配属され、悩んでいたところにこうして助けとなる人物を送ってきたのだ。

「デイジー、あなたに頼みがあるの。お願いできるかしら」
「聖女様からのお願いを断るわけがありません‼ なんでも仰ってください‼」

 私の問いかけに、デイジーは喜色ばった表情を向ける。
 それを見たクロムは、自分も何かできることがないのかと物欲しそうな顔を見せている。

「そんな顔しないで。クロム。あなたにも、やって欲しいことがあるのよ。お願いできるかしら?」
「はい‼ もちろん。喜んで‼」

 二人の顔を見て思いついたことを、それぞれ伝える。
 この部隊の現状を聞いて驚いた顔をする二人だったが、私の要望を聞くと、二つ返事で早速動き始めた。

 私はできるだけ早く魔力を回復させるため、一度横になり仮眠を取った。



「一体どういうことだね⁉」

 誰かが叫ぶ声に目を覚ます。
 どのくらい寝ていたか分からないけれど、魔力枯渇による頭痛はすでに消えていた。

「何故、こんな兵士たちが俺の部隊に集まるんだ‼ 毒や呪いを受けた兵士はできるだけ受け入れないようにと言ったはずだ‼」
「しかし……今日からはそのような兵士も積極的に受け入れるようにと伝達があったはずですが……」

 どうやら叫んでいるのは部隊長のゾイスのようだ。
 おそらく、クロムに頼んだことがもう効果として現れたのだろう。

「どうしました? 何か騒がしいようですが、問題でも?」
「君か⁉ ふん‼ 今までどこへ行っていたんだ! いいご身分だな! 緊急事態だよ! 毒にやられた兵士がわんさかここに運ばれているんだ‼」

「それに何か問題が? 治せばいいではありませんか」
「馬鹿を言うな! ここにいる衛生兵で解毒の魔法なんて高等な魔法を使えるのは一人しかいないんだよ‼ 全員助けるなんて到底無理だ! せっかくの低い致死率に傷がつく‼」

 相変わらずの態度に、私は胸にムカつきを感じながらも、表情を変えることなく答える。

「問題ありません。その解毒の魔法を使える衛生兵の名は?」
「あ⁉ えーっと、そうだ‼ サルビアだよ! それがどうした‼」

「いえ。とにかく。問題ありません。私はこれから現場に行きますので、部隊長はどうぞ司令室へお戻りください」
「何が問題ないんだ‼ あー! どうすればいいんだ‼ 今まであんなに――」

 まだ喚き続けている生き物を置いて、私は治療場へと向かう。
 ゾイスの言う通り、先ほどまではほとんど見かけなかった、魔獣の毒を受けた兵士たちが多く居た。

「聖女様! こちらです‼」

 すでにデイジーは、兵士たちの解毒に当たっている。
 それを、一人を除いて他の衛生兵たちが遠巻きに戸惑いながら見つめていた。

「あなたがサルビアね。解毒の魔法はどのくらい?」
「新しくきた副隊長ですね? そうです。サルビアと申します。恥ずかしながら、解毒の魔法は初級がやっとです」

 長い黒髪を一つ、後ろで三つ編みにした女性に話しかける。
 サルビアはデイジーと共に、兵士の解毒に当たっていた。

「十分よ。今から私が選んだ兵士だけ解毒しなさい。それと、治癒は他の人に任せて。あなたは解毒だけに専念するのよ。いいわね?」
「はい。分かりました」

「これから私たち三人は解毒作業に専念するわ! 他の衛生兵は、解毒が済んだ兵の治癒に当たりなさい! ただし! 自分が完全に治せる傷だけを選ぶの! いいわね‼」

 私の言葉に、やっと自分たちがどうすればいいのか、方針が決まり安堵したように傍観していた衛生兵たちも動きだす。
 私はそれを見届けた後、腫れ上がった腕を押さえながら、苦しげな表情をする兵士へ解毒の魔法を唱えた。
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