戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞

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第10話【それぞれの問い】

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「今日の清掃終わりました‼」

 デイジーが元気な声を出す。
 清掃というのは治療場のことだ。

 別に私は彼女の上官でもないので、いちいち報告する必要ない。
 しかし、それぞれ持ち回りでやる様々な仕事の報告を、みな私にするようになっていた。

 私が初めてここに来たときは、治療場は強い臭いと様々なもので汚れていて酷い有様だった。
 今は、各チームで清掃をしているため、非常に清潔感あふれる場所に変わっている。

 汚い所で治癒を行うと、思わぬ結果が現れることがあり、清潔になった今はその問題は鳴りを潜めた。
 それでなくても、治療する側もされる側も汚いよりはきれいな場所の方が嬉しいだろう。

 デイジーが入ってきた時、私はベリル王子から来た手紙を開いていた。
 流石に人に見せるわけにもいかないため、私は慌てて手紙をしまった。

「あれ? 聖女様。なんですか? 手紙みたいなの読んでました?」
「なんでもないわ」

 どう答えていいのか分からず、自分でも少しぶっきらぼうだと思う言い方で返してしまう。
 その私の様子に、何を勘違いしたのか、デイジーは嬉しそうに目を輝かせた。

「もしかして! 恋文ですか⁉ わぁ。素敵ですねぇ。私も文通とかしてみたいなぁ」
「そんなんじゃないったら」

「はいはい。ふふ。良かった。聖女様も人の子なんですね。きっとお相手は高貴で素敵な方なんでしょうねぇ!」
「もう……用件が終わったのなら、出て行きなさい。まだ非番には早いでしょう?」

 私の態度を面白がるように、デイジーは明らかな笑顔を作り、一礼して部屋を出ていった。
 それを見送った後、私は一度ため息をついてから、読みかけの手紙を開き直した。

 ベリル王子からの手紙の関心ごとは、最近はもっぱら陣営の中の問題の有無についてだった。
 私は魔石の補充や、使用許可の簡略化、また衛生兵の増員や教育機関の設立など、思いつくままにベリル王子に手紙を書く際に綴った。

 どうやら、呪いが解かれたというものの、ルチル王子は現在も療養中で、表には出てきていないらしい。
 そのため、暫定的に総司令官の席が空席になっている、とアンバーから聞いた。

 おそらくこのままルチル王子の容態が回復しなければ、総司令官は第二王子であり第二王位継承権を持つベリル王子になるのではないかとも言っていた。
 それはベリル王子の手紙には書かれていないものの、もしそうだとしても、わざわざ手紙で私にそうだと教えるとは思えない。

 ただ、仮にベリル王子が総司令官につけば、私の提案した改善要求も、いずれは実現してくれるかもしれない。
 そんなことを思いながら、私は読み終わると、定例のリラの花の色と、最近の状況を書き、兵士を呼ぶと手紙を渡した。

 何度もやりとりを繰り返すうちに、兵士も慣れてきたようで、今では私が兵士を部屋に呼ぶと手紙だと思われるようになっていた。
 受け取りに来る兵士も固定化し、その兵士というのはここにきて最初に助けたクロムという青年だった。

「お呼びでしょうか!」
「クロム。いつも悪いわね。また、これを頼むわ」
「かしこまりました!」

 そう言いながら、クロムは私から手紙を受け取る。
 そして何か思案したような素振りを見せた後、私に質問を投げかけてきた。

「失礼なことを聞くようですが。これは聖女様の大切な方へのお手紙でしょうか?」
「まぁ。あなたまでそんなことを言うの? その手紙のことなら違うわよ。」

 先ほどデイジーとのやり取りで十分だと思っていた私は、投げやりにそう答える。
 それを聞いたクロムは、何故か嬉しそうな顔を見せた。

「そうですか! 不躾な質問。失礼しました! 確かにこの手紙、承りました‼」
「いいえ。いいわ。じゃあ、頼むわね」

 手紙を書き終え、私は治療場へ向かう。
 中ではいつものように、魔族や魔獣との戦闘で負傷した兵たちが、ここの衛生兵によって治療を受けていた。

 私も自分の持ち場につき、負傷兵たちへの治療に当たる。
 目の前にいる兵士は、どうやら脚を切り落とされたらしい。

 出血を抑えるため、傷口は魔法か実際の炎か分からないが、焼き固められていた。
 確かに上位の回復魔法を使えば、焼いた後も失った脚も綺麗に治るが、かなりの荒い応急処置だと言える。

「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。今から治すから」
「あぁ! 脚が! 脚が無いはずなのに、痛い! 無い脚が痛いんだ! どうにかしてくれ‼」

 私の声に、今まで押し黙っていた兵士が声を荒げる。
 どうやら必死で耐えていたものが、私に話しかけられるということで吹き出したのだろう。

 無くなったはずの部位が痛むというのは幻肢痛というものらしい。
 呪いでもそれを再現することができると聞くけれど、これは呪いではなく精神的なものだとか。

 いずれにしろ、私がやることは決まっている。
 目の前の兵士の無くなった方の脚の付け根あたりに手を当て、回復魔法を唱えた。

 まず私の手が淡く光り、そしてその光は手を伝わって無くなった脚を形取るように広がっていく。
 光が一瞬眩しいほどに光り輝き、その光がなくなると、そこには失った脚が元どおりについていた。

「お、俺の……俺の脚が‼ うわぁぁ! 俺の脚がある‼ ありがとう……ありがとう‼ あんたか! 聖女様っていうのは!」

 先ほどまで弱音を言っていた兵士は、自分の脚が戻ったことを見ると、涙を流しながら私に感謝の念を言ってきた。
 私はそんな兵士の頭を優しく撫でた後、次の負傷兵の治療へと向かった。
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