補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

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第四十七話

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 何体目のオーガを斬り伏せただろうか。
 セレナは一度立ちどまり、深呼吸をして、再びオーガたちへと向かっていく。

 セレナの動きは、近くにいる冒険者には追うことの出来ない、常識を超えた素早さを持っていた。
 亜人として本来持っている素早さに加え、今はハンスの最大限に効果を高めた敏捷増加クイックがかけられている。

 人外の速度で動くセレナは一陣の風となり、戦場を駆け抜けて行く。
 しばらくすると、結果的に助けられた冒険者たちが、セレナの存在に気付き始めた。

 見たことも無い、フードを被った少女が、自分たちの適わなかったオーガの群れを瞬く間に制圧していく。
 いつしか冒険者たちは自分が戦うことも忘れ、突如現れた救世主に声援を投げかけていた。

 セレナはその声援など気にもせず、ただひたすらにハンスの命令として受けた、オーガ殲滅を達成するため、目に付くオーガを片っ端から切り、突き、地面にひれ伏させていく。
 残り少なってきた頃、広場の奥から、一匹の、周りのオーガよりも更にふた周りほど大柄な体格をしたオーガが姿を現した。

 その右手には体格に見あった長大な一振の剣が握られており、また身体には何の革か分からないが、革鎧が付けられている。

「オーガロードだ……」

 誰となしに呟きが聞こえてくる。
 セレナはもう一度、呼吸を整えると、オーガロード目掛け走り込み、オーガロードの右脚を、持っている短剣で切り付けた。

 しかし、剣撃はオーガロードの脛に付けられたプロテクターで上手く塞がれ、逆にそのままセレナの背と同じくらい大きな足で蹴り飛ばされてしまった。
 蹴り飛ばされた勢いですぐ横の壁に身体を打ち付け、息が止まるかと思うような衝撃を受ける。

 声援を上げていた冒険者の口から悲鳴が上がる。
 その姿を見て何人もの冒険者がその場から逃げ出した。
 突如現れた救世主は、同じく突如姿を見せたオーガーロードの一撃で虚しく散ったと思ったのだ。

 追撃を避けるために立ち上がったセレナは、不思議なことに気が付く。
 あんなにも強い衝撃で蹴り飛ばされたのに、身体のどこも痛みを感じない。

 ふとハンスの方見ると、慌てた顔で何か叫んでいた。
 右手付近に輝いていた魔法陣も消えている。

「ハンス様が守ってくれた……」

 誰にも聞こえないほど小さな声でセレナは頷く。
 壁にぶつかった衝撃で、手から離し落とした短剣を拾い上げると、オーガロードを正面に見据えた。
 ハンスの補助魔法は、呪文を唱え、魔法陣を形成した状態で発動を遅らせることが出来る。
 セレナは先程の戦いで見聞きしたので、そのことをよく理解していた。

 発動を遅らせることが出来る代償として、その間ハンスは魔法の言葉以外、口にすることが出来ない。
 セレナがオーガたちと戦っていた間も、ずっと黙って見ているだけだった。
 そのハンスが叫んでいるということ、形成したはずの魔法陣が無くなっているということは、ハンスが魔法を唱え終えたという証左しょうさだった。

「ハンス様。ありがとうございます」

 セレナは再び小さな声を出しハンスに礼を言うと、再びオーガロード目掛け走っていった。
 先程の動きに比べれば数倍遅く感じるこの動きでも、オーガロードに致命傷を与えるには十分だと思っていた。

 しかし、実際はオーガロードに攻撃の尽くを防がれ、逆に何度か攻撃を食らってしまう。
 身体能力ではセレナの方が多くの部分で優っている。
 それでも明確な劣勢を強いられるのは、戦闘経験の差が原因だ。

 毎日のように独自のイメージトレーニングを行なっていたセレナだが、はっきりと想像できる相手は実際に戦った魔物だけ。
 ハンスの補助魔法の効果も相まって、その魔物は全て、セレナにとって格下だった。

 オーガロードの繰り出す剣撃をセレナは必死で避け、いなす。
 その合間に繰り出される蹴りや拳などの打撃で避けきれないものは、甘んじて身体で受けた。

 ハンスがセレナにかけたのは、堅牢な身体を与える強化の補助魔法、肉体堅牢ハードだ。
 そのおかげで、通常なら内臓まで破裂するようなオーガロードの攻撃も、セレナはその身で受け切ることが出来た。
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