47 / 52
第四十七話
しおりを挟む
何体目のオーガを斬り伏せただろうか。
セレナは一度立ちどまり、深呼吸をして、再びオーガたちへと向かっていく。
セレナの動きは、近くにいる冒険者には追うことの出来ない、常識を超えた素早さを持っていた。
亜人として本来持っている素早さに加え、今はハンスの最大限に効果を高めた敏捷増加がかけられている。
人外の速度で動くセレナは一陣の風となり、戦場を駆け抜けて行く。
しばらくすると、結果的に助けられた冒険者たちが、セレナの存在に気付き始めた。
見たことも無い、フードを被った少女が、自分たちの適わなかったオーガの群れを瞬く間に制圧していく。
いつしか冒険者たちは自分が戦うことも忘れ、突如現れた救世主に声援を投げかけていた。
セレナはその声援など気にもせず、ただひたすらにハンスの命令として受けた、オーガ殲滅を達成するため、目に付くオーガを片っ端から切り、突き、地面にひれ伏させていく。
残り少なってきた頃、広場の奥から、一匹の、周りのオーガよりも更にふた周りほど大柄な体格をしたオーガが姿を現した。
その右手には体格に見あった長大な一振の剣が握られており、また身体には何の革か分からないが、革鎧が付けられている。
「オーガロードだ……」
誰となしに呟きが聞こえてくる。
セレナはもう一度、呼吸を整えると、オーガロード目掛け走り込み、オーガロードの右脚を、持っている短剣で切り付けた。
しかし、剣撃はオーガロードの脛に付けられたプロテクターで上手く塞がれ、逆にそのままセレナの背と同じくらい大きな足で蹴り飛ばされてしまった。
蹴り飛ばされた勢いですぐ横の壁に身体を打ち付け、息が止まるかと思うような衝撃を受ける。
声援を上げていた冒険者の口から悲鳴が上がる。
その姿を見て何人もの冒険者がその場から逃げ出した。
突如現れた救世主は、同じく突如姿を見せたオーガーロードの一撃で虚しく散ったと思ったのだ。
追撃を避けるために立ち上がったセレナは、不思議なことに気が付く。
あんなにも強い衝撃で蹴り飛ばされたのに、身体のどこも痛みを感じない。
ふとハンスの方見ると、慌てた顔で何か叫んでいた。
右手付近に輝いていた魔法陣も消えている。
「ハンス様が守ってくれた……」
誰にも聞こえないほど小さな声でセレナは頷く。
壁にぶつかった衝撃で、手から離し落とした短剣を拾い上げると、オーガロードを正面に見据えた。
ハンスの補助魔法は、呪文を唱え、魔法陣を形成した状態で発動を遅らせることが出来る。
セレナは先程の戦いで見聞きしたので、そのことをよく理解していた。
発動を遅らせることが出来る代償として、その間ハンスは魔法の言葉以外、口にすることが出来ない。
セレナがオーガたちと戦っていた間も、ずっと黙って見ているだけだった。
そのハンスが叫んでいるということ、形成したはずの魔法陣が無くなっているということは、ハンスが魔法を唱え終えたという証左だった。
「ハンス様。ありがとうございます」
セレナは再び小さな声を出しハンスに礼を言うと、再びオーガロード目掛け走っていった。
先程の動きに比べれば数倍遅く感じるこの動きでも、オーガロードに致命傷を与えるには十分だと思っていた。
しかし、実際はオーガロードに攻撃の尽くを防がれ、逆に何度か攻撃を食らってしまう。
身体能力ではセレナの方が多くの部分で優っている。
それでも明確な劣勢を強いられるのは、戦闘経験の差が原因だ。
毎日のように独自のイメージトレーニングを行なっていたセレナだが、はっきりと想像できる相手は実際に戦った魔物だけ。
ハンスの補助魔法の効果も相まって、その魔物は全て、セレナにとって格下だった。
オーガロードの繰り出す剣撃をセレナは必死で避け、いなす。
その合間に繰り出される蹴りや拳などの打撃で避けきれないものは、甘んじて身体で受けた。
ハンスがセレナにかけたのは、堅牢な身体を与える強化の補助魔法、肉体堅牢だ。
そのおかげで、通常なら内臓まで破裂するようなオーガロードの攻撃も、セレナはその身で受け切ることが出来た。
セレナは一度立ちどまり、深呼吸をして、再びオーガたちへと向かっていく。
セレナの動きは、近くにいる冒険者には追うことの出来ない、常識を超えた素早さを持っていた。
亜人として本来持っている素早さに加え、今はハンスの最大限に効果を高めた敏捷増加がかけられている。
人外の速度で動くセレナは一陣の風となり、戦場を駆け抜けて行く。
しばらくすると、結果的に助けられた冒険者たちが、セレナの存在に気付き始めた。
見たことも無い、フードを被った少女が、自分たちの適わなかったオーガの群れを瞬く間に制圧していく。
いつしか冒険者たちは自分が戦うことも忘れ、突如現れた救世主に声援を投げかけていた。
セレナはその声援など気にもせず、ただひたすらにハンスの命令として受けた、オーガ殲滅を達成するため、目に付くオーガを片っ端から切り、突き、地面にひれ伏させていく。
残り少なってきた頃、広場の奥から、一匹の、周りのオーガよりも更にふた周りほど大柄な体格をしたオーガが姿を現した。
その右手には体格に見あった長大な一振の剣が握られており、また身体には何の革か分からないが、革鎧が付けられている。
「オーガロードだ……」
誰となしに呟きが聞こえてくる。
セレナはもう一度、呼吸を整えると、オーガロード目掛け走り込み、オーガロードの右脚を、持っている短剣で切り付けた。
しかし、剣撃はオーガロードの脛に付けられたプロテクターで上手く塞がれ、逆にそのままセレナの背と同じくらい大きな足で蹴り飛ばされてしまった。
蹴り飛ばされた勢いですぐ横の壁に身体を打ち付け、息が止まるかと思うような衝撃を受ける。
声援を上げていた冒険者の口から悲鳴が上がる。
その姿を見て何人もの冒険者がその場から逃げ出した。
突如現れた救世主は、同じく突如姿を見せたオーガーロードの一撃で虚しく散ったと思ったのだ。
追撃を避けるために立ち上がったセレナは、不思議なことに気が付く。
あんなにも強い衝撃で蹴り飛ばされたのに、身体のどこも痛みを感じない。
ふとハンスの方見ると、慌てた顔で何か叫んでいた。
右手付近に輝いていた魔法陣も消えている。
「ハンス様が守ってくれた……」
誰にも聞こえないほど小さな声でセレナは頷く。
壁にぶつかった衝撃で、手から離し落とした短剣を拾い上げると、オーガロードを正面に見据えた。
ハンスの補助魔法は、呪文を唱え、魔法陣を形成した状態で発動を遅らせることが出来る。
セレナは先程の戦いで見聞きしたので、そのことをよく理解していた。
発動を遅らせることが出来る代償として、その間ハンスは魔法の言葉以外、口にすることが出来ない。
セレナがオーガたちと戦っていた間も、ずっと黙って見ているだけだった。
そのハンスが叫んでいるということ、形成したはずの魔法陣が無くなっているということは、ハンスが魔法を唱え終えたという証左だった。
「ハンス様。ありがとうございます」
セレナは再び小さな声を出しハンスに礼を言うと、再びオーガロード目掛け走っていった。
先程の動きに比べれば数倍遅く感じるこの動きでも、オーガロードに致命傷を与えるには十分だと思っていた。
しかし、実際はオーガロードに攻撃の尽くを防がれ、逆に何度か攻撃を食らってしまう。
身体能力ではセレナの方が多くの部分で優っている。
それでも明確な劣勢を強いられるのは、戦闘経験の差が原因だ。
毎日のように独自のイメージトレーニングを行なっていたセレナだが、はっきりと想像できる相手は実際に戦った魔物だけ。
ハンスの補助魔法の効果も相まって、その魔物は全て、セレナにとって格下だった。
オーガロードの繰り出す剣撃をセレナは必死で避け、いなす。
その合間に繰り出される蹴りや拳などの打撃で避けきれないものは、甘んじて身体で受けた。
ハンスがセレナにかけたのは、堅牢な身体を与える強化の補助魔法、肉体堅牢だ。
そのおかげで、通常なら内臓まで破裂するようなオーガロードの攻撃も、セレナはその身で受け切ることが出来た。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる