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第四十話
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「今のティルスじゃあ、宿を見つけるのは難しいと思いますよ。しかも防壁の外は夜には魔物の徘徊する危険地帯だ。どうします?」
ハンスはパックの申し出をしばしの間考え、口を開いた。
「まずはお前の素性と、目的を教えろ。補助魔法について知っていることもだ。俺から聞いてなんに使うつもりだ」
「言ったでしょう。私はしがない情報屋ですよ。情報屋は情報の質と量が命ですからね。気になったことはなんでも知りたいんですよ。補助魔法は言った通りワードナーが開発したというのと、今までにない全く新しい魔法だってくらいですかね。聞いた情報を今のところどうするかは考えていません」
男の返事に、ハンスはまた考えるために黙り込み、そしておもむろに答える。
セレナはその間、心配そうにハンスの顔を覗き込んでいた。
「いいだろう。ただし条件がある。ひとつめは、先に宿屋を紹介すること。話はその部屋の中でだ。どこに耳があるかわからないからな。そこはいいか?」
「構いませんよ。ただ、紹介したのに、やっぱりやめたはなしですぜ」
「ああ、きちんと答えると約束しよう」
「それはありがたい。それで、他の条件はなんです? ひとつめって言うからにはまだあるんでしょう?」
パックはキョロキョロと目玉を動かす。
人によっては気味悪がる動きだが、気が昂り始めた時に出るパックの癖だ。
「ふたつめは、質問には答えるが、答えられないことは答えられないと答える。どんなに対価を貰おうと言えないことがあるからな」
「それもいいですよ。情報の価値っては十分わかっているつもりですからね。宿を提供するってことが万金に値するなんて思うほど、私は世間知らずでもお仕着せがましくもないつもりです」
パックは面白そうに歯を見せながら笑う。
「最後に」
「まだあるんですか? いいですね。これはいい情報が手に入りそうだ。私はあなたが気に入りましたよ」
パックは人懐っこい笑顔を浮かべ、ハンスに一度ウィンクをした。
それを見たハンスは咳払いをして話を続けた。
「最後に、この情報は誰にも教えないこと。それが守れれば、お前の質問に答えてもいい」
「それは……なかなか厳しいですね……いいでしょう。私の負けです。誰にも言いません。ここで聞いた情報はね。それで、答えてくれますね?」
ハンスは頷く。
その後パックに案内され、街の隅に並ぶ住宅街へと連れられていった。
パックは鼻歌を歌いながら、腰にはぶら下げた鍵束から一つの鍵を選び出すと、扉の鍵穴に挿し、鍵を開ける。
音も立てずに扉が開き、パックはハンスたちを家の中に手招きする。
中は簡素だが、生活に必要な家具は一通り揃っているようで、埃なども積もっていない。
「ここは……なんなんだ?」
「私の知り合いの家でしてね。家主は今旅に出てるので、私がいつでも自由に使っていいように、鍵を預かっているんですよ」
ハンスは男がなにか嘘を言っているのに気付いたが、この際関係の無いことだと気にせず、有難くこの家を借りることに決めた。
ひとまず、部屋に荷物を置くと、ハンスたちは席に着く。
パックは背負っていた荷物から紙の束とペンを取り出し、ハンスに質問を投げかけ始めた。
ハンスはパックの申し出をしばしの間考え、口を開いた。
「まずはお前の素性と、目的を教えろ。補助魔法について知っていることもだ。俺から聞いてなんに使うつもりだ」
「言ったでしょう。私はしがない情報屋ですよ。情報屋は情報の質と量が命ですからね。気になったことはなんでも知りたいんですよ。補助魔法は言った通りワードナーが開発したというのと、今までにない全く新しい魔法だってくらいですかね。聞いた情報を今のところどうするかは考えていません」
男の返事に、ハンスはまた考えるために黙り込み、そしておもむろに答える。
セレナはその間、心配そうにハンスの顔を覗き込んでいた。
「いいだろう。ただし条件がある。ひとつめは、先に宿屋を紹介すること。話はその部屋の中でだ。どこに耳があるかわからないからな。そこはいいか?」
「構いませんよ。ただ、紹介したのに、やっぱりやめたはなしですぜ」
「ああ、きちんと答えると約束しよう」
「それはありがたい。それで、他の条件はなんです? ひとつめって言うからにはまだあるんでしょう?」
パックはキョロキョロと目玉を動かす。
人によっては気味悪がる動きだが、気が昂り始めた時に出るパックの癖だ。
「ふたつめは、質問には答えるが、答えられないことは答えられないと答える。どんなに対価を貰おうと言えないことがあるからな」
「それもいいですよ。情報の価値っては十分わかっているつもりですからね。宿を提供するってことが万金に値するなんて思うほど、私は世間知らずでもお仕着せがましくもないつもりです」
パックは面白そうに歯を見せながら笑う。
「最後に」
「まだあるんですか? いいですね。これはいい情報が手に入りそうだ。私はあなたが気に入りましたよ」
パックは人懐っこい笑顔を浮かべ、ハンスに一度ウィンクをした。
それを見たハンスは咳払いをして話を続けた。
「最後に、この情報は誰にも教えないこと。それが守れれば、お前の質問に答えてもいい」
「それは……なかなか厳しいですね……いいでしょう。私の負けです。誰にも言いません。ここで聞いた情報はね。それで、答えてくれますね?」
ハンスは頷く。
その後パックに案内され、街の隅に並ぶ住宅街へと連れられていった。
パックは鼻歌を歌いながら、腰にはぶら下げた鍵束から一つの鍵を選び出すと、扉の鍵穴に挿し、鍵を開ける。
音も立てずに扉が開き、パックはハンスたちを家の中に手招きする。
中は簡素だが、生活に必要な家具は一通り揃っているようで、埃なども積もっていない。
「ここは……なんなんだ?」
「私の知り合いの家でしてね。家主は今旅に出てるので、私がいつでも自由に使っていいように、鍵を預かっているんですよ」
ハンスは男がなにか嘘を言っているのに気付いたが、この際関係の無いことだと気にせず、有難くこの家を借りることに決めた。
ひとまず、部屋に荷物を置くと、ハンスたちは席に着く。
パックは背負っていた荷物から紙の束とペンを取り出し、ハンスに質問を投げかけ始めた。
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