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第三十四話
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ハンスはふぅーっと息を吐くと、懐から白銅で作られた冒険者証を見せる。
「セレナ。冒険者同士の殺し合いはご法度だって教えただろ? 俺達をお尋ね者にする気かい? それと、あんた。これを見たら分かっただろ? 俺らも冒険者なんだ。もう行っていいかな?」
「あ……ああ。もちろんだ。こっちこそ悪かったな……」
急にしおらしくなった男の胸には、銅で作られた冒険者証が飾られていた。
その色は黒く変色し、更新してからかなりの年数が経っていると思われる。
肘を離された男は、ぺこぺこと頭を下げながら、逃げるように元来た方角へっ走り去って行った。
集まっていた野次馬も興味が失せたのか、何事も無かったかのようにそれぞれの行動に戻っていった。
「もう! あの男許せません! 言いがかりをつけるだけじゃなく、ハンス様を殴ろうとするなんて!」
「まぁまぁ。結果的には殴られなかったんだし。セレナが助けてくれたおかげだよ。ありがとう」
「そんな! 私はただ、ハンス様の奴隷として当然のことをしただけで……」
セレナは自分で言った言葉に、心を突かれた。
自分はハンスの奴隷なのだ。いくらハンスが「仲間」だと言ってくれても、その事実は一生変わらないだろう。
セレナは先程の晴れやかな気持ちなど忘れたように、陰鬱な気持ちでとぼとぼと歩いていた。
ふと、ハンスの足が止まる。
どうしたのかと、下を向いていた顔を上げると、目の前には華やかな装飾が施された看板を掲げた店があり、店の外まで甘い香りが漂ってきた。
どうやら、お目当ての店が見つかったようだ。
「よし。どうやらこの店なら食べれそうだな。どうした? セレナ。入らないのかい?」
「あ、いえ! 入ります!」
中に入ると、黒地のドレスに、白い清潔なエプロンをかけた女性が、声をかけて来た。
女性に案内され、席に着くと、メニューが渡される。
しかし、一度も食べた事の無い二人は、メニューに書かれているものが、どういう食べ物なのか分からなかった。
そこで、ハンスは先程の女性を呼び、直接訪ねることにした。
「すいませんが、甘いデザートを食べたいんですが、どれがおすすめですか? この子も私も食べるのが初めてで」
「どのくらいの予算でしょうか? そちらはお酒の使われていない物の方がよろしいですよね?」
「ああ。値段は気にしません。お酒は二人とも入っていない方がいいですね。あと、食べ分けるので、二つ別々のものがいいです。適当に持ってきてくれませんか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言うと女性は頭を深々と下げ、店の奥へと歩いていった。
ハンスは未だに暗い顔をしているセレナを気に止めながら、どうすればいいか分からなかったため、じっとデザートが運ばれてくるのを待った。
やがて、二つの皿が運ばれてくる。
一つは薄い生地に様々な果物やクリームが乗せられ、その生地で包んだ食べ物、もう一つは、サクサクとした厚めの生地の上に煮詰めた果物が敷き詰められた食べ物だった。
「わぁ。美味しそう……」
先程まで暗い顔をしていたセレナも、デザートが目の前に並べられると、目を輝かせ、明るい表情が戻った。
それを見たハンスはホッと息を吐き、取り分け用に用意された皿の上に、なるべく均等になるようにデザートを盛り分けた。
「いただきまーす! あ、甘いです! すごく美味しい! ハンス様! これすごく美味しいですよ! あ……すいません。ハンス様より先に食べたりして……」
「気にしないよ。どれ。俺も食べてみるかな。うん! 確かに美味しいね!」
ハンスが口を付けたのを確認すると、待ちきれなかったのか、まるで早く食べなければ消えて無くなるかのように、セレナは急いで、夢中で食べた。
幸せそうな顔を浮かべながら、食べるセレナを見ながら、ハンスは安心したように用意されたティーポットから、ハーブティーをカップに注ぎ、火傷をしないように注意しながら、ゆっくりと飲み込んだ。
「セレナ。冒険者同士の殺し合いはご法度だって教えただろ? 俺達をお尋ね者にする気かい? それと、あんた。これを見たら分かっただろ? 俺らも冒険者なんだ。もう行っていいかな?」
「あ……ああ。もちろんだ。こっちこそ悪かったな……」
急にしおらしくなった男の胸には、銅で作られた冒険者証が飾られていた。
その色は黒く変色し、更新してからかなりの年数が経っていると思われる。
肘を離された男は、ぺこぺこと頭を下げながら、逃げるように元来た方角へっ走り去って行った。
集まっていた野次馬も興味が失せたのか、何事も無かったかのようにそれぞれの行動に戻っていった。
「もう! あの男許せません! 言いがかりをつけるだけじゃなく、ハンス様を殴ろうとするなんて!」
「まぁまぁ。結果的には殴られなかったんだし。セレナが助けてくれたおかげだよ。ありがとう」
「そんな! 私はただ、ハンス様の奴隷として当然のことをしただけで……」
セレナは自分で言った言葉に、心を突かれた。
自分はハンスの奴隷なのだ。いくらハンスが「仲間」だと言ってくれても、その事実は一生変わらないだろう。
セレナは先程の晴れやかな気持ちなど忘れたように、陰鬱な気持ちでとぼとぼと歩いていた。
ふと、ハンスの足が止まる。
どうしたのかと、下を向いていた顔を上げると、目の前には華やかな装飾が施された看板を掲げた店があり、店の外まで甘い香りが漂ってきた。
どうやら、お目当ての店が見つかったようだ。
「よし。どうやらこの店なら食べれそうだな。どうした? セレナ。入らないのかい?」
「あ、いえ! 入ります!」
中に入ると、黒地のドレスに、白い清潔なエプロンをかけた女性が、声をかけて来た。
女性に案内され、席に着くと、メニューが渡される。
しかし、一度も食べた事の無い二人は、メニューに書かれているものが、どういう食べ物なのか分からなかった。
そこで、ハンスは先程の女性を呼び、直接訪ねることにした。
「すいませんが、甘いデザートを食べたいんですが、どれがおすすめですか? この子も私も食べるのが初めてで」
「どのくらいの予算でしょうか? そちらはお酒の使われていない物の方がよろしいですよね?」
「ああ。値段は気にしません。お酒は二人とも入っていない方がいいですね。あと、食べ分けるので、二つ別々のものがいいです。適当に持ってきてくれませんか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言うと女性は頭を深々と下げ、店の奥へと歩いていった。
ハンスは未だに暗い顔をしているセレナを気に止めながら、どうすればいいか分からなかったため、じっとデザートが運ばれてくるのを待った。
やがて、二つの皿が運ばれてくる。
一つは薄い生地に様々な果物やクリームが乗せられ、その生地で包んだ食べ物、もう一つは、サクサクとした厚めの生地の上に煮詰めた果物が敷き詰められた食べ物だった。
「わぁ。美味しそう……」
先程まで暗い顔をしていたセレナも、デザートが目の前に並べられると、目を輝かせ、明るい表情が戻った。
それを見たハンスはホッと息を吐き、取り分け用に用意された皿の上に、なるべく均等になるようにデザートを盛り分けた。
「いただきまーす! あ、甘いです! すごく美味しい! ハンス様! これすごく美味しいですよ! あ……すいません。ハンス様より先に食べたりして……」
「気にしないよ。どれ。俺も食べてみるかな。うん! 確かに美味しいね!」
ハンスが口を付けたのを確認すると、待ちきれなかったのか、まるで早く食べなければ消えて無くなるかのように、セレナは急いで、夢中で食べた。
幸せそうな顔を浮かべながら、食べるセレナを見ながら、ハンスは安心したように用意されたティーポットから、ハーブティーをカップに注ぎ、火傷をしないように注意しながら、ゆっくりと飲み込んだ。
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