補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

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第三十二話

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 宿屋から大通りに向け、道を歩いていくと、服飾関連の店が立ち並ぶ区画が見えた。
 その中に、既製服を扱っている店が一軒見つかった。

 店頭に並んでいる服だけでも、そこまで生地の質は高くないものの、様々な種類の衣類があり、見て回るだけでも楽しめそうだ。
 ほとんどが古着だろうが、綺麗に補修され、軽く見ただけでは、まるで新品のように見える。

 この町を明日には発つ二人には、これから仕立てて貰うなど無理なので、いくら古着でも既製服を買うつもりだった。
 その中で、この店を見つけることが出来たのは、幸運だと言えるだろう。

「わぁ! ハンス様。見ていってもいいですか?」
「ああ。もちろんだ。そのために来たんだろう?」

 考えれば、セレナを買い取ってから、ろくな服を与えていなかった。
 ハンス自身が、服など寒さがしのげればいい、という極端なセンスの持ち主だったため、必要最低限の量と、無地の味気のない衣服を与えただけだった。

 その時はハンスが布地を選び、細工などもせずにまさに着るだけのものとして仕立ててもらった。
 それでもセレナにとっては新品の物を与えられるというのはほとんどない経験で、喜んで与えられた服を着ていた。

 セレナは目を輝かせながら、店頭に並んだ多くの服を食い入るように見ていた。
 これだけ見ると、とても冒険者とは思えず、どこにでもいる少女と大差なかった。

「こんにちは。お嬢さん。今日はどんな服をお探しかな? さぁさぁ。中にもたくさん並んでいるよ。どうぞ入って見ていっておくれ」

 店の主人だろうか。品の良い老婆が店の中から顔を出し、セレナを店の中へと案内する。
 セレナは案内されるがまま、中へ入ると、先程よりもさらに目を大きく開け、並んだ服を手に取り、まじまじと眺めている。

 ハンスは自分の着るものすらどれがいいかなど分からないため、女性が着る服などにアドバイスも出来るはずはないから、ただただセレナの服を愛でる姿を眺めていた。

「どうだい? 良かったら試着していくかい?」
「いいんですか?!」

 セレナは自分のサイズに合いそうな服を見つけては着替えていく。
 その際にはさすがにフードを被ったままには出来ないから、フードを外した。

 白い髪が覆う頭の上に、二つの猫のような耳が顔を出す。
 老婆はセレナが亜人だと気付いたようだが、気にする素振りも見せずに、楽しそうに色々な服をセレナに着せていた。

「おや、まぁ。可愛らしいこと。顔や身体が可愛いと、どんな服でも可愛く見えるわねぇ。彼氏さんもどう? 気に入ったのがあったかい?」
「あ……おばあさん……あの、彼はそういう人じゃぁ……」

 セレナは何故か顔を真っ赤にして、消え入るような声で、老婆の言った言葉を否定する。
 一方ハンスはセレナの着せ替えの時間を待つのに飽きたのか、自身の開発した補助魔法の改良の余地や、新たな強化魔法や状態異常の魔法を考えていたため、老婆の声など耳に入っていなかった。

「ハンス様! どっちがいいと思いますか?」
「ん?」

 セレナの呼び声に、ハンスは意識を現実に戻される。
 ハンスを呼んだセレナの両手には二種類の全く異なる服が持たれていた。

 一方は冒険者が着るような、実用的で、動きの邪魔をしないような作りの上下だった。
 下は脚にぴったりとフィットするようなパンツで、シンプルな作りの長袖の上衣が添えられている。

 もう一方はまるで町娘が着るような、簡単なフリル仕立てのワンピースだった。
 色は明るい桃色で、胸元にはワンポイントの細工がなされている。

 ハンスは交互にセレナの手に吊るされている服を見比べる。
 心無しか、利き腕の右手に持っているワンピースが少し上に、かつハンス側に突き出しているように見えた。

「一つだけっていう理由も無いだろう? 金はあるんだし、気に入ったんならどっちも買えばいいんじゃないかな? どっちも似合うと思うよ」
「え?! そ、そうですね! じゃあ、どっちもください!」

 セレナは嬉しそうな顔をしながら、持っている服を老婆に渡すと、代金を支払う。。
 老婆は丁寧に畳むと、おまけだと言って、簡単な布でできた手提げの袋に入れ、セレナに手渡した。
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