24 / 52
第二十四話
しおりを挟む
「良かったね。自らの力で病気に打ち勝ったんだ! それと、これで他の強化魔法もかけれるようになった。今後は戦闘の幅が広がるぞ。セレナ。やっぱり今日はこれからクエストを受けよう。帰ったらすぐ終わらせるから」
「はい。分かりました!」
そう言いながら、セレナはくすくすと笑った。
新しい強化魔法を実戦で使いたくてしょうがないという顔をしているハンスを、セレナはいつも通りだとつい可笑しく感じたのだ。
朝食を食べ終えると、二人は一度部屋へ戻り、ハンスは途中になったままになっている、拡張型補助魔法の理論を書き始めた。
その間にセレナはクエストの準備を始める。
基本的に二人は軽装で、せいぜい持ち物といえば、怪我をした時の応急処置として常備している回復薬や止血の道具くらいだった。
そこではたっと普段自分の腰に常にある物が無いことに気付く。
「ああああああああ!」
「うわ! なんだ?! どうした?!」
セレナの突然の叫び声に驚いたハンスは、ビクッと身体を震わせた後、セレナに負けない大きな声で問いかける。
セレナは今にも泣きそうな顔をしながら申し訳なさそうにハンスの方を見た。
「もうしわけありません。ハンス様……ハンス様に買って頂いた短剣を、先程の戦いで失ってしまいました……」
「なんだって? それは困ったな……よし。あれも買ってから随分と使ったし、セレナももう少し上級な装備も必要だろうし、この際装備を新調しようか!」
「え?! いけません! 無くしたのは私の不注意ですし!」
「おいおい。セレナはまだ自分の立場をよく分かってないみたいだね。セレナはうちのパーティ唯一のアタッカーなんだ。セレナに投資するのはパーティのためでもあるんだよ」
その後も少しの押し問答が続いたが、結局ギルドに行く前に、武具を購入することが決定した。
ハンスが書き終わると、すぐに二人は装備屋が立ち並ぶ区域に足を運んだ。
「まずは武器だな。セレナ、以前は重さの問題で短剣を選んだが、魔素を吸収した今だったらもっと重い武器もいけるんじゃないかな?」
「分かりました。色々試してみます」
「いらっしゃい! お? 随分前にうちで短剣を買っていってくれたお嬢ちゃんだね? どうだい? 俺の作った武器はちゃんと役に立ててるかい?」
無精髭をふんだんに生やした図体の大きな壮年の男が、炉で焼けた肌から覗く真っ白い歯を見せながらセレナの話しかけた。
「あ……あの……私の事覚えているんですか?」
「もちろんさ! 自慢じゃないが記憶力はいい方でね。特にお嬢ちゃんは目立つからね」
「あの……ありがとうございます。でも、すいません。実は前の武器を無くしちゃって……それで、あの……新しいものを……」
セレナの言葉に男の眉がよる。
感情を表に出すことに一切の戸惑いがないようだ。
「なんだって? ちょっと悪いけど、その時の状況を教えてくれるかな? うちはこれでも武器作りに関しては命かけてるんだ。粗末な扱いをする冒険者にはどんなに金を積まれても売りたくないんでね!」
「あの……その……すいません……」
セレナがしどろもどろになっているので、代わりにハンスが概略を説明した。
さすがに王女に襲われたと言うのは、外聞が悪いだろうから、その辺りは上手く伏せておいた。
「なんだって……嬢ちゃん、それは大変だったなぁ……それに俺の作った武器はちゃんと嬢ちゃんの危機を救えたんだな。よし! 嬢ちゃん、なんでも見てってくれ! 嬢ちゃんになら普段出さないような武器も売ってやるぞ!」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
店の男は次々と様々な武器を持ってきては、これはこう言う魔物の素材から取れたどこを使って作った武器だと、熱心に説明しながら、セレナに装備させた。
男は見た目通り分かりやすく単純な性格をしているようだ。
セレナは男が持ってきた武器を一通り降っては、手に馴染むものを探している。
ちなみに今セレナは強化魔法を解除している。
今後は、状況に応じて強化魔法を変える予定であるため、素の状態できちんと扱えることが重要だった。
「どうだい? 何か気に入ったのは見つかったかい?」
「色々試しましたが、やっぱり慣れている短剣が扱いやすいですね」
ハンスが聞くとセレナはそう答えた。
「そうかい、嬢ちゃん。短剣となると素材で色々特徴が出てくるからな。ところで、先に聞いときゃ良かったんだが、予算はどのくらいだ?」
「ああ、そうだな。一応金貨一枚と言ったところか。それ以上あるにはあるが、武器ばかりに金をかけられない事情があるんでね」
「え?! ハンス様! いけません! 金貨一枚だなんて! 出しすぎです!」
「はぁ。セレナ。もうその話はさっき言っただろう。いい武器を買えばそれだけクエストも捗るんだ。悪い話じゃない」
ハンスとセレナのやりとりを見た男は、再び白い歯を見せながら笑った。
「はっはっは。嬢ちゃんはいい仲間に巡り会ったな。それにしても金貨一枚なんて、随分稼いでるな? この前買いに来た時は、冒険者登録をこれからするって言ってなかったか?」
「ああ。セレナが恐ろしく優秀でな。あれからここまで上がれたんだ」
ハンスは自分の首にかけた金属の鎖を引っ張り懐から出すと、店の男に見せる。
そこには白銅で出来た真新しい冒険者証が付けられている。
冒険者証には名前の他に、年齢などが書いてある。
ランクが上がったため、他人に冒険者証を使われることを防ぐため、刻まれる情報が増えたのだ。
ハンスが示した冒険者証を見て、男は眉を跳ね上げた。
それほどまでに、ハンスたちのランクアップは異例だ。
「ほう! この短期間で白銅まで上がるなんて凄いな。それなら金貨ってのも頷けるな。良い冒険者には良い装備が必須だからな。よし、俺もうちの取っておきを見せてやるぜ」
そう言うと男は持ってきた短剣以外の武器をしまいながら、店の奥から様々な短剣を持ち出してきた。
「はい。分かりました!」
そう言いながら、セレナはくすくすと笑った。
新しい強化魔法を実戦で使いたくてしょうがないという顔をしているハンスを、セレナはいつも通りだとつい可笑しく感じたのだ。
朝食を食べ終えると、二人は一度部屋へ戻り、ハンスは途中になったままになっている、拡張型補助魔法の理論を書き始めた。
その間にセレナはクエストの準備を始める。
基本的に二人は軽装で、せいぜい持ち物といえば、怪我をした時の応急処置として常備している回復薬や止血の道具くらいだった。
そこではたっと普段自分の腰に常にある物が無いことに気付く。
「ああああああああ!」
「うわ! なんだ?! どうした?!」
セレナの突然の叫び声に驚いたハンスは、ビクッと身体を震わせた後、セレナに負けない大きな声で問いかける。
セレナは今にも泣きそうな顔をしながら申し訳なさそうにハンスの方を見た。
「もうしわけありません。ハンス様……ハンス様に買って頂いた短剣を、先程の戦いで失ってしまいました……」
「なんだって? それは困ったな……よし。あれも買ってから随分と使ったし、セレナももう少し上級な装備も必要だろうし、この際装備を新調しようか!」
「え?! いけません! 無くしたのは私の不注意ですし!」
「おいおい。セレナはまだ自分の立場をよく分かってないみたいだね。セレナはうちのパーティ唯一のアタッカーなんだ。セレナに投資するのはパーティのためでもあるんだよ」
その後も少しの押し問答が続いたが、結局ギルドに行く前に、武具を購入することが決定した。
ハンスが書き終わると、すぐに二人は装備屋が立ち並ぶ区域に足を運んだ。
「まずは武器だな。セレナ、以前は重さの問題で短剣を選んだが、魔素を吸収した今だったらもっと重い武器もいけるんじゃないかな?」
「分かりました。色々試してみます」
「いらっしゃい! お? 随分前にうちで短剣を買っていってくれたお嬢ちゃんだね? どうだい? 俺の作った武器はちゃんと役に立ててるかい?」
無精髭をふんだんに生やした図体の大きな壮年の男が、炉で焼けた肌から覗く真っ白い歯を見せながらセレナの話しかけた。
「あ……あの……私の事覚えているんですか?」
「もちろんさ! 自慢じゃないが記憶力はいい方でね。特にお嬢ちゃんは目立つからね」
「あの……ありがとうございます。でも、すいません。実は前の武器を無くしちゃって……それで、あの……新しいものを……」
セレナの言葉に男の眉がよる。
感情を表に出すことに一切の戸惑いがないようだ。
「なんだって? ちょっと悪いけど、その時の状況を教えてくれるかな? うちはこれでも武器作りに関しては命かけてるんだ。粗末な扱いをする冒険者にはどんなに金を積まれても売りたくないんでね!」
「あの……その……すいません……」
セレナがしどろもどろになっているので、代わりにハンスが概略を説明した。
さすがに王女に襲われたと言うのは、外聞が悪いだろうから、その辺りは上手く伏せておいた。
「なんだって……嬢ちゃん、それは大変だったなぁ……それに俺の作った武器はちゃんと嬢ちゃんの危機を救えたんだな。よし! 嬢ちゃん、なんでも見てってくれ! 嬢ちゃんになら普段出さないような武器も売ってやるぞ!」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
店の男は次々と様々な武器を持ってきては、これはこう言う魔物の素材から取れたどこを使って作った武器だと、熱心に説明しながら、セレナに装備させた。
男は見た目通り分かりやすく単純な性格をしているようだ。
セレナは男が持ってきた武器を一通り降っては、手に馴染むものを探している。
ちなみに今セレナは強化魔法を解除している。
今後は、状況に応じて強化魔法を変える予定であるため、素の状態できちんと扱えることが重要だった。
「どうだい? 何か気に入ったのは見つかったかい?」
「色々試しましたが、やっぱり慣れている短剣が扱いやすいですね」
ハンスが聞くとセレナはそう答えた。
「そうかい、嬢ちゃん。短剣となると素材で色々特徴が出てくるからな。ところで、先に聞いときゃ良かったんだが、予算はどのくらいだ?」
「ああ、そうだな。一応金貨一枚と言ったところか。それ以上あるにはあるが、武器ばかりに金をかけられない事情があるんでね」
「え?! ハンス様! いけません! 金貨一枚だなんて! 出しすぎです!」
「はぁ。セレナ。もうその話はさっき言っただろう。いい武器を買えばそれだけクエストも捗るんだ。悪い話じゃない」
ハンスとセレナのやりとりを見た男は、再び白い歯を見せながら笑った。
「はっはっは。嬢ちゃんはいい仲間に巡り会ったな。それにしても金貨一枚なんて、随分稼いでるな? この前買いに来た時は、冒険者登録をこれからするって言ってなかったか?」
「ああ。セレナが恐ろしく優秀でな。あれからここまで上がれたんだ」
ハンスは自分の首にかけた金属の鎖を引っ張り懐から出すと、店の男に見せる。
そこには白銅で出来た真新しい冒険者証が付けられている。
冒険者証には名前の他に、年齢などが書いてある。
ランクが上がったため、他人に冒険者証を使われることを防ぐため、刻まれる情報が増えたのだ。
ハンスが示した冒険者証を見て、男は眉を跳ね上げた。
それほどまでに、ハンスたちのランクアップは異例だ。
「ほう! この短期間で白銅まで上がるなんて凄いな。それなら金貨ってのも頷けるな。良い冒険者には良い装備が必須だからな。よし、俺もうちの取っておきを見せてやるぜ」
そう言うと男は持ってきた短剣以外の武器をしまいながら、店の奥から様々な短剣を持ち出してきた。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。
円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。
魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。
洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。
身動きもとれず、記憶も無い。
ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。
亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。
そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。
※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~
mimiaizu
ファンタジー
迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて
於田縫紀
ファンタジー
東京の南はるか先、聟島に作られた魔法特区。魔法技術高等専門学校2年になった俺は、1年年下の幼馴染の訪問を受ける。それが、学生会幹部3人を交えた騒がしい日々が始まるきっかけだった。
これは幼馴染の姉妹や個性的な友達達とともに過ごす、面倒だが楽しくないわけでもない日々の物語。
5月中は毎日投稿、以降も1週間に2話以上更新する予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる