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第二十四話
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「良かったね。自らの力で病気に打ち勝ったんだ! それと、これで他の強化魔法もかけれるようになった。今後は戦闘の幅が広がるぞ。セレナ。やっぱり今日はこれからクエストを受けよう。帰ったらすぐ終わらせるから」
「はい。分かりました!」
そう言いながら、セレナはくすくすと笑った。
新しい強化魔法を実戦で使いたくてしょうがないという顔をしているハンスを、セレナはいつも通りだとつい可笑しく感じたのだ。
朝食を食べ終えると、二人は一度部屋へ戻り、ハンスは途中になったままになっている、拡張型補助魔法の理論を書き始めた。
その間にセレナはクエストの準備を始める。
基本的に二人は軽装で、せいぜい持ち物といえば、怪我をした時の応急処置として常備している回復薬や止血の道具くらいだった。
そこではたっと普段自分の腰に常にある物が無いことに気付く。
「ああああああああ!」
「うわ! なんだ?! どうした?!」
セレナの突然の叫び声に驚いたハンスは、ビクッと身体を震わせた後、セレナに負けない大きな声で問いかける。
セレナは今にも泣きそうな顔をしながら申し訳なさそうにハンスの方を見た。
「もうしわけありません。ハンス様……ハンス様に買って頂いた短剣を、先程の戦いで失ってしまいました……」
「なんだって? それは困ったな……よし。あれも買ってから随分と使ったし、セレナももう少し上級な装備も必要だろうし、この際装備を新調しようか!」
「え?! いけません! 無くしたのは私の不注意ですし!」
「おいおい。セレナはまだ自分の立場をよく分かってないみたいだね。セレナはうちのパーティ唯一のアタッカーなんだ。セレナに投資するのはパーティのためでもあるんだよ」
その後も少しの押し問答が続いたが、結局ギルドに行く前に、武具を購入することが決定した。
ハンスが書き終わると、すぐに二人は装備屋が立ち並ぶ区域に足を運んだ。
「まずは武器だな。セレナ、以前は重さの問題で短剣を選んだが、魔素を吸収した今だったらもっと重い武器もいけるんじゃないかな?」
「分かりました。色々試してみます」
「いらっしゃい! お? 随分前にうちで短剣を買っていってくれたお嬢ちゃんだね? どうだい? 俺の作った武器はちゃんと役に立ててるかい?」
無精髭をふんだんに生やした図体の大きな壮年の男が、炉で焼けた肌から覗く真っ白い歯を見せながらセレナの話しかけた。
「あ……あの……私の事覚えているんですか?」
「もちろんさ! 自慢じゃないが記憶力はいい方でね。特にお嬢ちゃんは目立つからね」
「あの……ありがとうございます。でも、すいません。実は前の武器を無くしちゃって……それで、あの……新しいものを……」
セレナの言葉に男の眉がよる。
感情を表に出すことに一切の戸惑いがないようだ。
「なんだって? ちょっと悪いけど、その時の状況を教えてくれるかな? うちはこれでも武器作りに関しては命かけてるんだ。粗末な扱いをする冒険者にはどんなに金を積まれても売りたくないんでね!」
「あの……その……すいません……」
セレナがしどろもどろになっているので、代わりにハンスが概略を説明した。
さすがに王女に襲われたと言うのは、外聞が悪いだろうから、その辺りは上手く伏せておいた。
「なんだって……嬢ちゃん、それは大変だったなぁ……それに俺の作った武器はちゃんと嬢ちゃんの危機を救えたんだな。よし! 嬢ちゃん、なんでも見てってくれ! 嬢ちゃんになら普段出さないような武器も売ってやるぞ!」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
店の男は次々と様々な武器を持ってきては、これはこう言う魔物の素材から取れたどこを使って作った武器だと、熱心に説明しながら、セレナに装備させた。
男は見た目通り分かりやすく単純な性格をしているようだ。
セレナは男が持ってきた武器を一通り降っては、手に馴染むものを探している。
ちなみに今セレナは強化魔法を解除している。
今後は、状況に応じて強化魔法を変える予定であるため、素の状態できちんと扱えることが重要だった。
「どうだい? 何か気に入ったのは見つかったかい?」
「色々試しましたが、やっぱり慣れている短剣が扱いやすいですね」
ハンスが聞くとセレナはそう答えた。
「そうかい、嬢ちゃん。短剣となると素材で色々特徴が出てくるからな。ところで、先に聞いときゃ良かったんだが、予算はどのくらいだ?」
「ああ、そうだな。一応金貨一枚と言ったところか。それ以上あるにはあるが、武器ばかりに金をかけられない事情があるんでね」
「え?! ハンス様! いけません! 金貨一枚だなんて! 出しすぎです!」
「はぁ。セレナ。もうその話はさっき言っただろう。いい武器を買えばそれだけクエストも捗るんだ。悪い話じゃない」
ハンスとセレナのやりとりを見た男は、再び白い歯を見せながら笑った。
「はっはっは。嬢ちゃんはいい仲間に巡り会ったな。それにしても金貨一枚なんて、随分稼いでるな? この前買いに来た時は、冒険者登録をこれからするって言ってなかったか?」
「ああ。セレナが恐ろしく優秀でな。あれからここまで上がれたんだ」
ハンスは自分の首にかけた金属の鎖を引っ張り懐から出すと、店の男に見せる。
そこには白銅で出来た真新しい冒険者証が付けられている。
冒険者証には名前の他に、年齢などが書いてある。
ランクが上がったため、他人に冒険者証を使われることを防ぐため、刻まれる情報が増えたのだ。
ハンスが示した冒険者証を見て、男は眉を跳ね上げた。
それほどまでに、ハンスたちのランクアップは異例だ。
「ほう! この短期間で白銅まで上がるなんて凄いな。それなら金貨ってのも頷けるな。良い冒険者には良い装備が必須だからな。よし、俺もうちの取っておきを見せてやるぜ」
そう言うと男は持ってきた短剣以外の武器をしまいながら、店の奥から様々な短剣を持ち出してきた。
「はい。分かりました!」
そう言いながら、セレナはくすくすと笑った。
新しい強化魔法を実戦で使いたくてしょうがないという顔をしているハンスを、セレナはいつも通りだとつい可笑しく感じたのだ。
朝食を食べ終えると、二人は一度部屋へ戻り、ハンスは途中になったままになっている、拡張型補助魔法の理論を書き始めた。
その間にセレナはクエストの準備を始める。
基本的に二人は軽装で、せいぜい持ち物といえば、怪我をした時の応急処置として常備している回復薬や止血の道具くらいだった。
そこではたっと普段自分の腰に常にある物が無いことに気付く。
「ああああああああ!」
「うわ! なんだ?! どうした?!」
セレナの突然の叫び声に驚いたハンスは、ビクッと身体を震わせた後、セレナに負けない大きな声で問いかける。
セレナは今にも泣きそうな顔をしながら申し訳なさそうにハンスの方を見た。
「もうしわけありません。ハンス様……ハンス様に買って頂いた短剣を、先程の戦いで失ってしまいました……」
「なんだって? それは困ったな……よし。あれも買ってから随分と使ったし、セレナももう少し上級な装備も必要だろうし、この際装備を新調しようか!」
「え?! いけません! 無くしたのは私の不注意ですし!」
「おいおい。セレナはまだ自分の立場をよく分かってないみたいだね。セレナはうちのパーティ唯一のアタッカーなんだ。セレナに投資するのはパーティのためでもあるんだよ」
その後も少しの押し問答が続いたが、結局ギルドに行く前に、武具を購入することが決定した。
ハンスが書き終わると、すぐに二人は装備屋が立ち並ぶ区域に足を運んだ。
「まずは武器だな。セレナ、以前は重さの問題で短剣を選んだが、魔素を吸収した今だったらもっと重い武器もいけるんじゃないかな?」
「分かりました。色々試してみます」
「いらっしゃい! お? 随分前にうちで短剣を買っていってくれたお嬢ちゃんだね? どうだい? 俺の作った武器はちゃんと役に立ててるかい?」
無精髭をふんだんに生やした図体の大きな壮年の男が、炉で焼けた肌から覗く真っ白い歯を見せながらセレナの話しかけた。
「あ……あの……私の事覚えているんですか?」
「もちろんさ! 自慢じゃないが記憶力はいい方でね。特にお嬢ちゃんは目立つからね」
「あの……ありがとうございます。でも、すいません。実は前の武器を無くしちゃって……それで、あの……新しいものを……」
セレナの言葉に男の眉がよる。
感情を表に出すことに一切の戸惑いがないようだ。
「なんだって? ちょっと悪いけど、その時の状況を教えてくれるかな? うちはこれでも武器作りに関しては命かけてるんだ。粗末な扱いをする冒険者にはどんなに金を積まれても売りたくないんでね!」
「あの……その……すいません……」
セレナがしどろもどろになっているので、代わりにハンスが概略を説明した。
さすがに王女に襲われたと言うのは、外聞が悪いだろうから、その辺りは上手く伏せておいた。
「なんだって……嬢ちゃん、それは大変だったなぁ……それに俺の作った武器はちゃんと嬢ちゃんの危機を救えたんだな。よし! 嬢ちゃん、なんでも見てってくれ! 嬢ちゃんになら普段出さないような武器も売ってやるぞ!」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
店の男は次々と様々な武器を持ってきては、これはこう言う魔物の素材から取れたどこを使って作った武器だと、熱心に説明しながら、セレナに装備させた。
男は見た目通り分かりやすく単純な性格をしているようだ。
セレナは男が持ってきた武器を一通り降っては、手に馴染むものを探している。
ちなみに今セレナは強化魔法を解除している。
今後は、状況に応じて強化魔法を変える予定であるため、素の状態できちんと扱えることが重要だった。
「どうだい? 何か気に入ったのは見つかったかい?」
「色々試しましたが、やっぱり慣れている短剣が扱いやすいですね」
ハンスが聞くとセレナはそう答えた。
「そうかい、嬢ちゃん。短剣となると素材で色々特徴が出てくるからな。ところで、先に聞いときゃ良かったんだが、予算はどのくらいだ?」
「ああ、そうだな。一応金貨一枚と言ったところか。それ以上あるにはあるが、武器ばかりに金をかけられない事情があるんでね」
「え?! ハンス様! いけません! 金貨一枚だなんて! 出しすぎです!」
「はぁ。セレナ。もうその話はさっき言っただろう。いい武器を買えばそれだけクエストも捗るんだ。悪い話じゃない」
ハンスとセレナのやりとりを見た男は、再び白い歯を見せながら笑った。
「はっはっは。嬢ちゃんはいい仲間に巡り会ったな。それにしても金貨一枚なんて、随分稼いでるな? この前買いに来た時は、冒険者登録をこれからするって言ってなかったか?」
「ああ。セレナが恐ろしく優秀でな。あれからここまで上がれたんだ」
ハンスは自分の首にかけた金属の鎖を引っ張り懐から出すと、店の男に見せる。
そこには白銅で出来た真新しい冒険者証が付けられている。
冒険者証には名前の他に、年齢などが書いてある。
ランクが上がったため、他人に冒険者証を使われることを防ぐため、刻まれる情報が増えたのだ。
ハンスが示した冒険者証を見て、男は眉を跳ね上げた。
それほどまでに、ハンスたちのランクアップは異例だ。
「ほう! この短期間で白銅まで上がるなんて凄いな。それなら金貨ってのも頷けるな。良い冒険者には良い装備が必須だからな。よし、俺もうちの取っておきを見せてやるぜ」
そう言うと男は持ってきた短剣以外の武器をしまいながら、店の奥から様々な短剣を持ち出してきた。
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