補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

文字の大きさ
上 下
21 / 52

第二十一話

しおりを挟む
 明くる日、セレナが目を覚ますと、既にハンスは着替えを済ませ机に向かい何やら書き込んでいた。
 今回は先日のように木の板では無く、紙の上に丁寧に書き込んでいた。

「おはようございます。ハンス様。早いんですね。何をされているんですか?」
「ん? ああ。おはよう。セレナ。昨日試して分かったことを整理してまとめているんだ。本来なら昨日帰ってからやるはずだったんだが、昨日は気分が優れなくてね」

 そう答えるハンスの顔からは、昨日の怒りの感情がまるで憑き物が取れたように、きれいさっぱり消えていた。
 セレナはそのことを確認すると安心したようにほぅっと息を吐き出し、胸を撫で下ろした。

「朝食はまだですよね? 外へ食べに行きますか? それとも何か買ってきましょうか?」
「ああ。まだかかりそうだから、悪いけど、何か買ってきてくれるかな? 金はそこの引き出しに入っているのを使ってくれ」
「かしこまりました。すぐ戻ってきます」

 そう言うとセレナは引き出しから硬貨の入った袋を取り出すと、日が昇ったばかりの街を走っていった。
 朝食を買い求める人々のために多くの出店が立ち並ぶ広場に近付くと、広場から歓声が聞こえてくるのに気が付いた。

 広場に足を踏み入れると、その歓声は広場の中央、遠くからでもよく見えるようにと設置された台の上に立つ、四人の冒険者達に向けられたものだということが分かった。
 高級そうな装備を身にまとった四人は、歓声に答えるように何か叫んでいた。

「私達は! これから西の果て、暗黒大陸に住む魔王を倒し、世界に平和をもたらすため出発します! もうすぐ魔物はこの世界から姿を消すでしょう! それまでの辛抱です。皆さんに神の加護が有りますように!」

 他の三人よりもいっそう高級そうな装備を身にまとった若い女性は、声高にこれから魔王討伐に向かう事を宣言していた。
 その言葉が終わると、再び集まった人々は歓声を上げた。

 その歓声の中には、勇者アベルと聖女エマを讃える言葉が含まれていた。
 なるほど、これが昨日ギルドの受付の男が言っていたパーティか、とセレナが思っていると、中心の女性と目線が合った。

「そこの! 貴方魔物ね? 何故魔物がここに居るの! アベル! あいつを今すぐ殺して!」
「え? いや。エマ様。あれは亜人と言って、確かに魔物と同一視されますが、恐らく誰かの奴隷かと……」
「そんな事は知っているわ! 奴隷とはいえ、魔物を街に入れるのがそもそも間違っているのよ。アベルがやらないならいいわ。エドワード、クリフ。この国の王女として命じます。やってしまいなさい」
「「御意」」

 セレナは戦慄した。
 今目の前で、エマと呼ばれる女性は、自分を殺すことを命じた。

 そして、エマは聖女であり、この国の王女だ。
 この国の王族は神からその権威を授かったと言われている。

 王族の言葉はそのまま神の言葉に等しいと、この国では教育される。
 その王女が自分を殺せと言ったという事は、いくら自分がハンスの所有物だと主張しても、たとえセレナが冒険者証を見せたとしても、なんの足しにもならないことを意味していた。

 セレナは急いでその場を離れるべく、踵を返し元来た方角へ走った。
 その瞬間、セレナがいた足元に炎の玉が飛来した。

 炎の玉は地面にぶつかると爆音を上げ、その後には抉られた大きな穴が残っていた。
 どうやら一人は魔術師らしい。

 地面に出来た穴の大きさからは、人に直撃すれば無事で済まない威力を持つことが一目で分かる。
 エマの言葉を叶えるべく、命じられたエドワードとクリフは文字通りセレナを殺しに来ているようだ。

 いきなり放たれた攻撃魔法に、広場に集まった人々は叫び声を上げながら逃げ惑った。
 自分たちの門出を祝いに集まった人々のそんな様子を見ても、エマは一向に表情を変えない。
 その人垣を縫うようにして、もう一人の男性がセレナとの距離を詰めて来た。

 素早さでは自信があったセレナに悠々と近付くと、男性は武器も持たずに、その己の拳を素早く突き出してきた。
 咄嗟にセレナは鞘に収めたままの短剣でその拳を受け止める。

 あまりの衝撃に、セレナは堪えきれず、手にした短剣を手放してしまった。
 もしこれを肉体で受けたのなら、間違いなく骨まで折られていたに違いない。

 セレナはハンスに買ってもらった短剣を惜しみながらも身の安全を優先し、その場から大きく跳躍し、男性と距離を取った。
 広場の中央ではこちらを睨んだままのエマに、アベルと呼ばれた少年が何か叫んでいるが、相手にされていないようだ。

 先程攻撃魔法を放った男性もゆっくりとこちらに近づいてきている。
 無手の男性はそれを待っているのか、先程の攻撃を最後に一定の距離を開けたまま、こちらに迫ろうとはしなかった。

 セレナと対峙する二人は、まるで道端に落ちていたゴミを処分するだけ、そんな無感情な表情をしていた。
 街の外で魔物を討伐するのも、街の広場でセレナを殺すのも同じこと。
 そんな二人を、セレナは心の底から恐ろしく感じた。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀
ファンタジー
 東京の南はるか先、聟島に作られた魔法特区。魔法技術高等専門学校2年になった俺は、1年年下の幼馴染の訪問を受ける。それが、学生会幹部3人を交えた騒がしい日々が始まるきっかけだった。  これは幼馴染の姉妹や個性的な友達達とともに過ごす、面倒だが楽しくないわけでもない日々の物語。  5月中は毎日投稿、以降も1週間に2話以上更新する予定です。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...