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第十六話
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外は夜の帳が下りている。
セレナは何処へ行けばいいか迷いながら、キョロキョロと視線を動かしながら暗い夜道を歩いた。
ハンスがよく連れて行ってくれる料理屋を思い出し、目の前の道を曲がる。
視線の先の店の明かりがまだ付いていることを確認し、ほっと胸を撫で下ろした。
駆け足で店の前に向かう。
少し立て付けが悪くなり開ける際にギギッと音を立てる扉を開けると、いつもの聞きなれた声が耳に入ってきた。
「いらっしゃい! すいませんが、そろそろ閉店でね。おや? 嬢ちゃん。珍しいな。今日は一人かい?」
「あの、あの……すいません! ハンス様に何か食べるものを作っていただけませんか? お金ならあります!」
そう言うと、セレナは握りしめていた硬貨の入った小袋をまるまる店の主人に差し出した。
びっくりした顔をしながらも、主人はその小袋を受け取ると中身を確認する。
「おいおい。うちの食材全部買い取る気かい? どうやら事情がありそうだね。ゆっくりでいい。ちゃんと話してごらん」
「あの……えっと……」
セレナはたどたどしいながらも、ハンスが何かの研究に没頭していて、セレナに何か簡単に食べられるもの買ってくるよう指示を出したことを伝えた。
話を頷きながら聞いていた主人は、話を全部聞き終わると、セレナの目線に合わせて縮めていた身体を伸ばすとこう言った。
「それで、ハンスって坊やの食べれるものを作るのは分かったけど、嬢ちゃんはもう何か食べたのか?」
「え? 私ですか? いえ。私も何も……」
聞かれて、自分のことを思い出すと、途端にお腹がくぅっとないた。
それを聞いた店の主人は笑いながら店の奥へと姿を消した。
何かを調理する音と、鼻をくすぐる美味しそうな匂いがセレナの空腹を刺激する。
しばらくして包みを持って戻ってきた。
「ほら。これを持って帰って、ハンスの坊やと一緒に食べな。これなら片手で食べられるだろうさ」
「あ、ありがとうございます。あの……それで、お代は?」
「ああ。ちょっとそこに入ってる硬貨じゃ、お釣りが多くなりすぎるからね。今度来た時のつけでいいよ。ほら。早く帰んな。女の子一人で夜道歩くのは危険だぞ!」
「あの! ありがとうございました! また来ます!」
セレナは深くお辞儀をすると、店の主人は笑顔で手を振る。
もう一度お礼を言いながら店の扉を閉めると、急いでハンスの元へと戻った。
案の定ハンスは先程と同じようにまだ机の前で格闘していた。
「ハンス様、食べ物買ってきました。ここに置いておきますね。私もいただきます」
「ありがとう」とだけハンスは答えると、自分が何を食べているのかも確認しないまま、目の前に置かれた食事を左手で掴むと口に入れていった。
セレナが手に持つそれは、普段よく口にする硬めのパンに切れ目を入れて、間に様々な食材を挟んだものだった。
食材はそれぞれ何か味付けがしてあるようで、パンも一度焼き直されていて、まだ少し温かく、ほんのり芳ばしい匂いがする。
セレナはそれをゆっくりと味わいながら食べた。
食事を終えると寝支度を済ませ、ベッドに横になる。
「すいません。ハンス様。先に失礼します。おやすみなさい」
いくら体力があり、一日くらい寝なくても平気な身体とはいえ、戦闘の要である自分は常にベストコンディションにする義務があると、ハンスに散々言われていた。
自分が見ていても手助け出来ることは無い。
ならば、自分は自分の役目を果たそうと思い、セレナは先に寝ることを決めたのだ。
ハンスが入ってきても邪魔にならないよう、いつも通りベッドの端に身体を寄せ、セレナはハンスに声をかけ、目をつぶった。
後ろではハンスが木の板の上で筆を動かす音だけがコツコツと響いていた。
セレナは何処へ行けばいいか迷いながら、キョロキョロと視線を動かしながら暗い夜道を歩いた。
ハンスがよく連れて行ってくれる料理屋を思い出し、目の前の道を曲がる。
視線の先の店の明かりがまだ付いていることを確認し、ほっと胸を撫で下ろした。
駆け足で店の前に向かう。
少し立て付けが悪くなり開ける際にギギッと音を立てる扉を開けると、いつもの聞きなれた声が耳に入ってきた。
「いらっしゃい! すいませんが、そろそろ閉店でね。おや? 嬢ちゃん。珍しいな。今日は一人かい?」
「あの、あの……すいません! ハンス様に何か食べるものを作っていただけませんか? お金ならあります!」
そう言うと、セレナは握りしめていた硬貨の入った小袋をまるまる店の主人に差し出した。
びっくりした顔をしながらも、主人はその小袋を受け取ると中身を確認する。
「おいおい。うちの食材全部買い取る気かい? どうやら事情がありそうだね。ゆっくりでいい。ちゃんと話してごらん」
「あの……えっと……」
セレナはたどたどしいながらも、ハンスが何かの研究に没頭していて、セレナに何か簡単に食べられるもの買ってくるよう指示を出したことを伝えた。
話を頷きながら聞いていた主人は、話を全部聞き終わると、セレナの目線に合わせて縮めていた身体を伸ばすとこう言った。
「それで、ハンスって坊やの食べれるものを作るのは分かったけど、嬢ちゃんはもう何か食べたのか?」
「え? 私ですか? いえ。私も何も……」
聞かれて、自分のことを思い出すと、途端にお腹がくぅっとないた。
それを聞いた店の主人は笑いながら店の奥へと姿を消した。
何かを調理する音と、鼻をくすぐる美味しそうな匂いがセレナの空腹を刺激する。
しばらくして包みを持って戻ってきた。
「ほら。これを持って帰って、ハンスの坊やと一緒に食べな。これなら片手で食べられるだろうさ」
「あ、ありがとうございます。あの……それで、お代は?」
「ああ。ちょっとそこに入ってる硬貨じゃ、お釣りが多くなりすぎるからね。今度来た時のつけでいいよ。ほら。早く帰んな。女の子一人で夜道歩くのは危険だぞ!」
「あの! ありがとうございました! また来ます!」
セレナは深くお辞儀をすると、店の主人は笑顔で手を振る。
もう一度お礼を言いながら店の扉を閉めると、急いでハンスの元へと戻った。
案の定ハンスは先程と同じようにまだ机の前で格闘していた。
「ハンス様、食べ物買ってきました。ここに置いておきますね。私もいただきます」
「ありがとう」とだけハンスは答えると、自分が何を食べているのかも確認しないまま、目の前に置かれた食事を左手で掴むと口に入れていった。
セレナが手に持つそれは、普段よく口にする硬めのパンに切れ目を入れて、間に様々な食材を挟んだものだった。
食材はそれぞれ何か味付けがしてあるようで、パンも一度焼き直されていて、まだ少し温かく、ほんのり芳ばしい匂いがする。
セレナはそれをゆっくりと味わいながら食べた。
食事を終えると寝支度を済ませ、ベッドに横になる。
「すいません。ハンス様。先に失礼します。おやすみなさい」
いくら体力があり、一日くらい寝なくても平気な身体とはいえ、戦闘の要である自分は常にベストコンディションにする義務があると、ハンスに散々言われていた。
自分が見ていても手助け出来ることは無い。
ならば、自分は自分の役目を果たそうと思い、セレナは先に寝ることを決めたのだ。
ハンスが入ってきても邪魔にならないよう、いつも通りベッドの端に身体を寄せ、セレナはハンスに声をかけ、目をつぶった。
後ろではハンスが木の板の上で筆を動かす音だけがコツコツと響いていた。
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