補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

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第十三話

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 ドナ山脈とは国の北側に連なる山脈で、その最高峰の山頂は一年中雪がふり積もっている事で有名だ。
 実際に足を踏み入れたことのある一般人は多くない。
 しかし、晴れた日には北の地平線を遮る尾根を王都からでも一瞥できる。

「北にある山脈だろう? 子供でも知っている」
「そうですね。ただ、その危険性についてはあまり世間には知られていません。出てくる魔物は銀等級以上。それでもジュエルビートルの虹色に輝く甲殻を求め、冒険者達はその山を目指します」
「既に冒険者が大勢向かっているんなら、今から俺達がランクアップしてそこを目指しても、うま味は少ないんじゃないのか?」
「いえ。ジュエルビートルの甲殻の希少性はその個体数の少なさもありますが、何よりその硬度です。そのため、優れた冒険者でも、指先より大きなサイズの甲殻を手に入れることは稀です。ましてや甲殻サイズとなると、その価値は計り知れません」
「なるほど、な。まぁ、いずれにせよ木片の俺達が今すぐどうこうできる話じゃない。行ける時になったら考えるさ」
「お願いします」

 ハンスたちは応接室を後にして、宿の間借りしている部屋へと戻った。

「今日は初めてにしては順調だったな!」

 部屋にひとつしかないベッドの上に腰掛け、ハンスが嬉しそうに言う。
 セレナはハンスの言葉を無言で首肯した。

「魔法陣を描くのと、詠唱についてはもっと熟練が必要そうだ。今回は問題にならなかったが、速ければ速いほど良いのは間違いないからな。それにしても――」

 ハンスは補助魔法を実戦に投入し、その成果が上々だったことを思い出し、満足気な笑みを浮かべた。
 セレナはハンスの頭の中など分かるわけもなく、再び話し始めるのを無言で待つ。

「明日も同じようなクエストを受けよう。何事も焦らず着実に結果を作っていく方が近道だからな」
「分かりました。明日はもっと上手く出来るように頑張ります」
「うん。向上心ほど素晴らしいものはない。けど、今言った通り焦らなくても良いからね」
「分かりました。焦らないように頑張ります」

 真面目な顔でそう返すセレナを見て、ハンスは笑顔を向けた。

「ふわぁぁ。今日は少し張り切り過ぎたかな。魔法を使うことに興奮し過ぎたようだ。体力を付けるのも今後の課題かな。それじゃ、今日は先に寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい。ハンス様……」

 ハンスは言葉通り、寝支度を済ませてベッドに横になってしまった。
 寝付きが良いハンスは、すぐに小さな寝息を立てる。
 それを眺めるセレナは、どうするか悩んでいた。
 というのも、この部屋にはベッドはひとつしかない。

 奴隷であるセレナは床で寝ることに忌避感はない。
 むしろ今立っている木の床ですら、セレナが今まで経験したことのあるの中では上等な方だ。
 しかし、ハンスに買われた初日の夜。
 ハンスは床に寝ようとしたセレナを止め、なんのためらいもなく、さも当然のように同衾を申し出てきた。

 セレナはそれを固辞したのだが、ハンスは何もない床に寝かせる訳にはいかないと言ってきかない。
 主人の命令に歯向かうわけにもいかず、セレナは仕方なくそれに従った。
 この数日間は、眠る時刻の遅いハンスの目があり、素直にベッドの端を使わせてもらっていた。

「寝ちゃって……ますよね……?」

 これまではそうしてきたが、今は既にハンスはベッドに入り、寝息を立てている。
 セレナはベッドの端を間借りすることに、未だにふたつの戸惑いを持っていた。
 ひとつは奴隷である自分が、主人であるハンスと同じベッドで寝ていいのかという事。

 もうひとつは、女である自分が、いくら性的対象にしてはいけないとされているとはいえ、異性であるハンスと同じとこに入っていいのかという事である。
 ハンスは異性に対する関心がないのか、それとも、そもそもセレナのことを異性と思っていないのか、まるで戸惑いを見せない。

「私が考えすぎなのかな……? でも……このまま床に寝ちゃえば、朝まで気付かれることは無いよね……」

 しかし、もしハンスがセレナよりも先に目を覚まし気付かれたら、ハンスの性格上悲しむに違いない。
 先程ギルドで、ハンスの指示には逆らわないと言ったばかりだ。
 セレナは決意し、寝ているハンスを起こさないよう、気を付けながら、なるべく場所を取らないようにベッドの端に身を寄せ、目を瞑った。

 隣ではハンスの寝息が間近に聞こえてくる。
 セレナは高鳴る胸の音を抑えるように、明日の狩りに支障を出さないようにと眠りについた。
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