補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

文字の大きさ
上 下
2 / 52

第二話

しおりを挟む
「おい。見ろよ。ハンス・マクドミノだ。あいつまだ研究なんてしてんのか?」

 ハンスが遅めの朝食を、興奮して徹夜してしまったため、正確には何食か分からないものを食べようと敷地内を歩いていた時、声が聞こえてきた。

「ここは冒険者育成施設だろ? 教官は引退した冒険者か、優れた研究者だけだってのに……」
「まったくだ。自分が魔法を一切使えないのに、教官の助手なんて。俺なら恥ずかしくてすぐに故郷に逃げ帰るね!」
「違いない! あっはっはっはっは!!」
「それがやつはそんな生活を図々しくも七年間も過ごしてるんだろ? とんだ面の皮だ」
「まったく、まったく!」

 ハンスはいつもなら睨みつけてやるような声にも、ふふん、と余裕の笑みを向けた。
 それを見た若い冒険者見習いたちは、顔を赤らめてさらにハンスを馬鹿にする言葉を投げる。
 しかしハンスの耳にはすでに周りの雑音でしか無くなっていた。

「魔法が一切使えない? それは昨日までの話だ」

 ハンスは呟きながら、食堂へと足をすすめた。
 その足取りは軽い。

「おばちゃん。スペシャルセット。大盛りで!」
「おや。ハンスちゃんじゃないか。相変わらずよく食べるねぇ。うーん? 何か良いことがあったみたいだね?」
「ああ。まだ詳しくは言えないけど、長年の研究の成果が実ったのさ」
「へぇ! そりゃよかったじゃないか! 色々言う子もいるのは知ってるけど、ハンスちゃんはねが真面目だし、いつかやり遂げるっておばちゃん信じてたよ! はい、これ。おまけしておくよ!」
「お。ありがとう!」

 ハンスは空になった腹に掻き込むように食事を詰め込んでいく。
 食べるのは速いが、周りに一粒すら落とすことなく、美味しそうに大口で頬張る。
 その食べっぷりは、作り手が見ていて思わず笑みを作ってしまう。

 短い食事を終えると、ハンスはすぐに自分の所属する研究室へ戻った。
 乱雑に書類が置かれた机に小さなスペースを作り出し、再び資料作りに没頭した。



 資料のおおよそが出来上がったころ、ハンスの所属する研究室の教官ワードナーが声をかけてきた。
 ワードナーはハンスにとって教官というだけでなく、恩人でもある。
 冒険者育成施設に入学したものの、一向に魔法を唱えることが出来ずに、退学を言い渡されたハンスを救い上げてくれたのだ。
 もしワードナーがハンスの才能を見出してくれなかったなら、七年間という長い年月を与えてくれなかったなら、ハンスの研究が身を結ぶことはなかっただろう。

「ハンス君。魔術師大会に発表するための資料はもう出来たのかね?」
「ええ。ここに。もう全部書き終わってますから、あとは細かい修正をするだけですね。扱いは従来の攻撃魔法よりも難しいですが、今後の戦闘をガラリと変えるだけのインパクトがあると思います!」
「よろしい。私がまず間違いがないか添削してあげましょう」
「お願いします!」

 そう言うとハンスはワードナーに書き上げた資料を手渡した。
 手書きの資料で、複写などしていないから、誤って紛失されては一大事だ。
 しかしハンスはワードナーのことを、それほどまでに信頼していた。

 実技不良から退学を言い渡されたハンスは、救ってくれたワードナー元で魔法の研究に明け暮れた。
 【攻撃魔法】と総称される一般的な魔法が、精霊との交信により成り立っていることを見出したのは二年目の冬。
 その時の研究成果は、ワードナーの名で発表し、多大な賞賛を受けていた。
 結果、地位を向上させたワードナーは、ハンスの次の研究、「新しい魔法の構築」に対し、潤沢な資金を惜しげなく注ぎ込んでくれた。

 そのおかげでハンスの研究は実を結び、今こうして、【補助魔法】の完成に至ったのだ。
 今回はこれをハンスの研究成果として発表する予定だ。

 そうすれば、今後は研究生ではなく、自身が教官という立場で、魔法の研究を進めることが出来ることになるだろう。
 ハンスは、次の研究のテーマをどうするか考えながら、自分が開発した補助魔法をいかにして世間に広めていくかも考えていた。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀
ファンタジー
 東京の南はるか先、聟島に作られた魔法特区。魔法技術高等専門学校2年になった俺は、1年年下の幼馴染の訪問を受ける。それが、学生会幹部3人を交えた騒がしい日々が始まるきっかけだった。  これは幼馴染の姉妹や個性的な友達達とともに過ごす、面倒だが楽しくないわけでもない日々の物語。  5月中は毎日投稿、以降も1週間に2話以上更新する予定です。

処理中です...