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第二話
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「おい。見ろよ。ハンス・マクドミノだ。あいつまだ研究なんてしてんのか?」
ハンスが遅めの朝食を、興奮して徹夜してしまったため、正確には何食か分からないものを食べようと敷地内を歩いていた時、声が聞こえてきた。
「ここは冒険者育成施設だろ? 教官は引退した冒険者か、優れた研究者だけだってのに……」
「まったくだ。自分が魔法を一切使えないのに、教官の助手なんて。俺なら恥ずかしくてすぐに故郷に逃げ帰るね!」
「違いない! あっはっはっはっは!!」
「それがやつはそんな生活を図々しくも七年間も過ごしてるんだろ? とんだ面の皮だ」
「まったく、まったく!」
ハンスはいつもなら睨みつけてやるような声にも、ふふん、と余裕の笑みを向けた。
それを見た若い冒険者見習いたちは、顔を赤らめてさらにハンスを馬鹿にする言葉を投げる。
しかしハンスの耳にはすでに周りの雑音でしか無くなっていた。
「魔法が一切使えない? それは昨日までの話だ」
ハンスは呟きながら、食堂へと足をすすめた。
その足取りは軽い。
「おばちゃん。スペシャルセット。大盛りで!」
「おや。ハンスちゃんじゃないか。相変わらずよく食べるねぇ。うーん? 何か良いことがあったみたいだね?」
「ああ。まだ詳しくは言えないけど、長年の研究の成果が実ったのさ」
「へぇ! そりゃよかったじゃないか! 色々言う子もいるのは知ってるけど、ハンスちゃんはねが真面目だし、いつかやり遂げるっておばちゃん信じてたよ! はい、これ。おまけしておくよ!」
「お。ありがとう!」
ハンスは空になった腹に掻き込むように食事を詰め込んでいく。
食べるのは速いが、周りに一粒すら落とすことなく、美味しそうに大口で頬張る。
その食べっぷりは、作り手が見ていて思わず笑みを作ってしまう。
短い食事を終えると、ハンスはすぐに自分の所属する研究室へ戻った。
乱雑に書類が置かれた机に小さなスペースを作り出し、再び資料作りに没頭した。
◇
資料のおおよそが出来上がったころ、ハンスの所属する研究室の教官ワードナーが声をかけてきた。
ワードナーはハンスにとって教官というだけでなく、恩人でもある。
冒険者育成施設に入学したものの、一向に魔法を唱えることが出来ずに、退学を言い渡されたハンスを救い上げてくれたのだ。
もしワードナーがハンスの才能を見出してくれなかったなら、七年間という長い年月を与えてくれなかったなら、ハンスの研究が身を結ぶことはなかっただろう。
「ハンス君。魔術師大会に発表するための資料はもう出来たのかね?」
「ええ。ここに。もう全部書き終わってますから、あとは細かい修正をするだけですね。扱いは従来の攻撃魔法よりも難しいですが、今後の戦闘をガラリと変えるだけのインパクトがあると思います!」
「よろしい。私がまず間違いがないか添削してあげましょう」
「お願いします!」
そう言うとハンスはワードナーに書き上げた資料を手渡した。
手書きの資料で、複写などしていないから、誤って紛失されては一大事だ。
しかしハンスはワードナーのことを、それほどまでに信頼していた。
実技不良から退学を言い渡されたハンスは、救ってくれたワードナー元で魔法の研究に明け暮れた。
【攻撃魔法】と総称される一般的な魔法が、精霊との交信により成り立っていることを見出したのは二年目の冬。
その時の研究成果は、ワードナーの名で発表し、多大な賞賛を受けていた。
結果、地位を向上させたワードナーは、ハンスの次の研究、「新しい魔法の構築」に対し、潤沢な資金を惜しげなく注ぎ込んでくれた。
そのおかげでハンスの研究は実を結び、今こうして、【補助魔法】の完成に至ったのだ。
今回はこれをハンスの研究成果として発表する予定だ。
そうすれば、今後は研究生ではなく、自身が教官という立場で、魔法の研究を進めることが出来ることになるだろう。
ハンスは、次の研究のテーマをどうするか考えながら、自分が開発した補助魔法をいかにして世間に広めていくかも考えていた。
ハンスが遅めの朝食を、興奮して徹夜してしまったため、正確には何食か分からないものを食べようと敷地内を歩いていた時、声が聞こえてきた。
「ここは冒険者育成施設だろ? 教官は引退した冒険者か、優れた研究者だけだってのに……」
「まったくだ。自分が魔法を一切使えないのに、教官の助手なんて。俺なら恥ずかしくてすぐに故郷に逃げ帰るね!」
「違いない! あっはっはっはっは!!」
「それがやつはそんな生活を図々しくも七年間も過ごしてるんだろ? とんだ面の皮だ」
「まったく、まったく!」
ハンスはいつもなら睨みつけてやるような声にも、ふふん、と余裕の笑みを向けた。
それを見た若い冒険者見習いたちは、顔を赤らめてさらにハンスを馬鹿にする言葉を投げる。
しかしハンスの耳にはすでに周りの雑音でしか無くなっていた。
「魔法が一切使えない? それは昨日までの話だ」
ハンスは呟きながら、食堂へと足をすすめた。
その足取りは軽い。
「おばちゃん。スペシャルセット。大盛りで!」
「おや。ハンスちゃんじゃないか。相変わらずよく食べるねぇ。うーん? 何か良いことがあったみたいだね?」
「ああ。まだ詳しくは言えないけど、長年の研究の成果が実ったのさ」
「へぇ! そりゃよかったじゃないか! 色々言う子もいるのは知ってるけど、ハンスちゃんはねが真面目だし、いつかやり遂げるっておばちゃん信じてたよ! はい、これ。おまけしておくよ!」
「お。ありがとう!」
ハンスは空になった腹に掻き込むように食事を詰め込んでいく。
食べるのは速いが、周りに一粒すら落とすことなく、美味しそうに大口で頬張る。
その食べっぷりは、作り手が見ていて思わず笑みを作ってしまう。
短い食事を終えると、ハンスはすぐに自分の所属する研究室へ戻った。
乱雑に書類が置かれた机に小さなスペースを作り出し、再び資料作りに没頭した。
◇
資料のおおよそが出来上がったころ、ハンスの所属する研究室の教官ワードナーが声をかけてきた。
ワードナーはハンスにとって教官というだけでなく、恩人でもある。
冒険者育成施設に入学したものの、一向に魔法を唱えることが出来ずに、退学を言い渡されたハンスを救い上げてくれたのだ。
もしワードナーがハンスの才能を見出してくれなかったなら、七年間という長い年月を与えてくれなかったなら、ハンスの研究が身を結ぶことはなかっただろう。
「ハンス君。魔術師大会に発表するための資料はもう出来たのかね?」
「ええ。ここに。もう全部書き終わってますから、あとは細かい修正をするだけですね。扱いは従来の攻撃魔法よりも難しいですが、今後の戦闘をガラリと変えるだけのインパクトがあると思います!」
「よろしい。私がまず間違いがないか添削してあげましょう」
「お願いします!」
そう言うとハンスはワードナーに書き上げた資料を手渡した。
手書きの資料で、複写などしていないから、誤って紛失されては一大事だ。
しかしハンスはワードナーのことを、それほどまでに信頼していた。
実技不良から退学を言い渡されたハンスは、救ってくれたワードナー元で魔法の研究に明け暮れた。
【攻撃魔法】と総称される一般的な魔法が、精霊との交信により成り立っていることを見出したのは二年目の冬。
その時の研究成果は、ワードナーの名で発表し、多大な賞賛を受けていた。
結果、地位を向上させたワードナーは、ハンスの次の研究、「新しい魔法の構築」に対し、潤沢な資金を惜しげなく注ぎ込んでくれた。
そのおかげでハンスの研究は実を結び、今こうして、【補助魔法】の完成に至ったのだ。
今回はこれをハンスの研究成果として発表する予定だ。
そうすれば、今後は研究生ではなく、自身が教官という立場で、魔法の研究を進めることが出来ることになるだろう。
ハンスは、次の研究のテーマをどうするか考えながら、自分が開発した補助魔法をいかにして世間に広めていくかも考えていた。
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