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第十七話 魔術のコントロール
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「そういえば、お兄ちゃん。バンプはそんなに見込みがあるの?」
馬車の中で、向かい合う形で座るエリザがそんなことを聞いてきた。
今はエリザとマリーと三人で、馬車の中。
僕が一人で座り、二人は向かいの席に座っている。
マリーはなんだか居心地が悪そうだ。
やっぱりエリザとマリーの間に何かありそうだね。
知らなかったとはいえ、二人には悪いことをしたなぁ。
「バンプってあのバンプだよね? 騎士の。見込み……あるの? 彼」
「だってお兄ちゃんが、訓練に連れて行ったんでしょう?」
「だから、散歩だよ。散歩。まぁ彼に見込みがあるかどうかは、これからじゃないの?」
「お兄ちゃんから見ると、可になるか不可になるかの瀬戸際ってことか……頑張らせないと……」
エリザはとにかく訓練が好きすぎて、しまいには僕のやることなすことなんでも訓練だっていう始末。
パーフェン伯爵に会いに行くのも、多分訓練だと思っているに違いない。
馬車に揺られて、パーフェン領に入り、パーフェン伯爵に会いに行くだけなのに、どんな訓練になるっていうんだろう。
「そういえば、マリーも同じ訓練受けたんだよね。しかも今回も呼ばれてる。バンプよりも更に見込みがあるってこと!?」
「マリーは凄いよ。彼女がいれば、僕はただ座ってたまに答えればいいんじゃないかな?」
「そんなに!?」
書記官であるマリーを連れて行くのは大正解だった。
なんてたって、パメラにその話をしたら、断られなかったからね。
ということは、僕の考えが間違ってなかったってことだ。
パーフェン伯爵の話をたとえ右から左に聞き流しても大丈夫!
マリーが全部記録してくれる!
覚える必要なし!!
マリーの書いた報告書をパメラに読んでもらって対応すれば、問題なんて起こりようがない!!
我ながら、マリーを選んだのは慧眼と言わざるを得ないね。
エリザの話はパメラにしてないから、そっちは後で怒られるかもしれない……。
その時は土下座して謝ろう。
そしたら許してくれるよね?
「あ、マリー。少し寒いかな。もう少し弱めてくれる?」
「くっ……かしこまりました」
驚くべきことのマリーを連れてきたメリットは記録してくれるだけじゃなかった。
馬車の中はどうしても熱がこもる。
そこで、僕は思いついた。
今日の僕は冴えてるからね。
マリーに馬車内にちょうどいい温度になるように冷気の魔術を施してもらったんだ。
まぁ、ランディと一緒にいる時は常にやってくれることなんだけど、ランディに最初に提案したのは僕だから、実質僕のアイデアだよね。
そういうわけでランディと移動する時は暑くもなく寒くもなく、快適な温度で移動できるわけなんだけど。
マリーは暖めるのはできないけど、冷やすのはできたはず、というのを思い出したってわけ。
「あー、今度はちょっと暑いかな。あとさ、足の方はあまり冷やさないで」
「かしこまり……ってできるわけないでしょう!!」
何故か、ずっと黙っていたマリーが突然起こり出した。
まさか……?
「マリー。落ち着いて。そんなに嫌だったって知らなかったんだ。でもほら、エリザは僕の妹な訳だしさ。そんなに嫌わないであげてくれたら嬉しいな。ほら、エリザも、仲直りしよ?」
「何の話ですか! 魔術は便利道具じゃないんですよ!? 指定された空間の温度を人体に適する温度に保ち続けるってどれだけ大変なことか分かってます!?」
「えーと……でもランディはできるよ?」
「う……たとえできたとしても、微妙な温度のコントロールをし続けるなんて、至難の業です!!」
「でも……ランディはできるよ?」
「ぐ……空間の中で下と上で微妙な温度差作るなんて常人には無理ですよ!!」
「ランディは……」
「あぁあああ!! もう!! やればいいんでしょう。やれば!! 私が狂乱して、最大冷気を発動させたら止めてくださいね!!」
「その時は私が一瞬で首を切り落としてあげるから安心してね。マリー」
「殺さない方法を考えようか。エリザ」
若干の不安があるものの、馬車の旅は快適に続いていた。
と、思っていたら、何故か馬車が急停車した。
思わず前のめりに倒れそうになり、エリザに支えてもらった。
マリーは勢いよく後頭部を壁にぶつけたようだ。
痛さで頭を抱えている。
「どうしたのかな? もしかして御者が急にトイレに行きたくなったとか?」
「そんなわけないでしょ。さっきから気配で気付いてたけど、お客さんみたい。見てくるね。ほら、マリーも。記録係なんでしょう?」
「え? あ……はい!」
僕が何を言う間もなく、エリザとマリーは馬車から降りていってしまった。
一人ポツンと残るのも寂しいので、外の様子を見ることにしよう。
御者のおっさんの用を足してるところなんてこれぽっちも興味ないけどそれは違うって言われたしね。
「で? あんたら、誰に雇われたの? すぐに答えたら、半殺しで許してあげる」
こっそりと降りて覗くように見てみると、複数の男性たちが、エリザたちと対峙していた。
手にはそれぞれきちんと手入れがされてそうな、刃物が持たれている。
見た目で人を判断することはしないようにしている僕だけど、ざっくり言うと山賊と呼ばれる人たちに思えた。
もしかしたら、あんな格好をしてたとしても、動物愛護団体とかかもしれないから、ちゃんと話し合いは必要だ。
「言うと思うか? てっきり脳天気に一人で乗り込んでくると踏んでいたが、そこまでのバカではなかったようだな。しかし護衛の一人や二人、問題ない」
「それってもう雇い主が誰だか言ってるのと同じって気付いていないの? 君たちはそこまでのバカだったみたいね」
「なっ!? ほざいてろ。いずれにしろその場にいる全員生きて返すなと言われている。恨むんなら、バカ領主を恨むんだな!」
「テメェ!! 優しくしてればさっきからふざけた口聞きやがってぇ!! バカってお兄ちゃんのことか!? あ!? 神と同格のお兄ちゃんをバカって言える存在がこの世にいるわけないの、分かれよ!!」
あーあ。
殺さないでくれるといいなぁ、エリザ。
エリザは昔っから、一度切れるとなかなか大変だからね。
マリーなんて味方なはずなのに怖がってるじゃないか。
切れる理由が僕にはよく分かってないけれど。
しょうがない。
ひとまず片付いたら、あとでよしよししてあげよう。
「エリザ。ひとまず殺さないでね。全員生きたまま捕まえて、この先の町に引き渡そう。あ……念のためだけど、彼は実は動物養護団体とかいう可能性ないよね?」
「うぅぅ……お兄ちゃんが殺すなっていうなら。聞いたか! お兄ちゃんの慈悲で生かしてやる! 罪を償い終えたら、一生お兄ちゃんに感謝して人生の全てをお兄ちゃんのために捧げろ!!」
「いたぞ! 標的だ!! 殺せー!!」
「だから、殺したらダメだって……って、僕!?」
男の人たちが、こぞって僕に向かって襲い掛かろうとしたところ、ほぼ一瞬で全員が前のめりに転けた。
よく見ると、足元に氷の膜ができていた。
飛び出そうとしていたエリザは気持ちのやり場がなさそうにソワソワしてる。
やったのはどうやらマリーみたいだ。
右手には見覚えのある昔僕が貸した水筒が握られている。
水筒の中の水を使って足元を凍らせて、滑らせて転ばしたんだろう。
「ひとまずみんな縛っちゃおうか」
「私がやる!!」
エリザがそれぞれの手と足を馬車に積んであった縄で結び、それを更に全員と繋いでいく。
こうすれば、一人だけで逃げようとしても、他の人が邪魔になって逃げられないんだって。
ひとまず彼らには町までこのまま歩いてもらうしかないね。
念のため、エリザにも歩いてもらって見張りをお願いしよう。
僕はエリザが差し出してきた頭をよしよししながら、重大なことにこの時初めて気が付いてしまった。
あの水筒、貸しただけなのに返してもらってないじゃん。
馬車の中で、向かい合う形で座るエリザがそんなことを聞いてきた。
今はエリザとマリーと三人で、馬車の中。
僕が一人で座り、二人は向かいの席に座っている。
マリーはなんだか居心地が悪そうだ。
やっぱりエリザとマリーの間に何かありそうだね。
知らなかったとはいえ、二人には悪いことをしたなぁ。
「バンプってあのバンプだよね? 騎士の。見込み……あるの? 彼」
「だってお兄ちゃんが、訓練に連れて行ったんでしょう?」
「だから、散歩だよ。散歩。まぁ彼に見込みがあるかどうかは、これからじゃないの?」
「お兄ちゃんから見ると、可になるか不可になるかの瀬戸際ってことか……頑張らせないと……」
エリザはとにかく訓練が好きすぎて、しまいには僕のやることなすことなんでも訓練だっていう始末。
パーフェン伯爵に会いに行くのも、多分訓練だと思っているに違いない。
馬車に揺られて、パーフェン領に入り、パーフェン伯爵に会いに行くだけなのに、どんな訓練になるっていうんだろう。
「そういえば、マリーも同じ訓練受けたんだよね。しかも今回も呼ばれてる。バンプよりも更に見込みがあるってこと!?」
「マリーは凄いよ。彼女がいれば、僕はただ座ってたまに答えればいいんじゃないかな?」
「そんなに!?」
書記官であるマリーを連れて行くのは大正解だった。
なんてたって、パメラにその話をしたら、断られなかったからね。
ということは、僕の考えが間違ってなかったってことだ。
パーフェン伯爵の話をたとえ右から左に聞き流しても大丈夫!
マリーが全部記録してくれる!
覚える必要なし!!
マリーの書いた報告書をパメラに読んでもらって対応すれば、問題なんて起こりようがない!!
我ながら、マリーを選んだのは慧眼と言わざるを得ないね。
エリザの話はパメラにしてないから、そっちは後で怒られるかもしれない……。
その時は土下座して謝ろう。
そしたら許してくれるよね?
「あ、マリー。少し寒いかな。もう少し弱めてくれる?」
「くっ……かしこまりました」
驚くべきことのマリーを連れてきたメリットは記録してくれるだけじゃなかった。
馬車の中はどうしても熱がこもる。
そこで、僕は思いついた。
今日の僕は冴えてるからね。
マリーに馬車内にちょうどいい温度になるように冷気の魔術を施してもらったんだ。
まぁ、ランディと一緒にいる時は常にやってくれることなんだけど、ランディに最初に提案したのは僕だから、実質僕のアイデアだよね。
そういうわけでランディと移動する時は暑くもなく寒くもなく、快適な温度で移動できるわけなんだけど。
マリーは暖めるのはできないけど、冷やすのはできたはず、というのを思い出したってわけ。
「あー、今度はちょっと暑いかな。あとさ、足の方はあまり冷やさないで」
「かしこまり……ってできるわけないでしょう!!」
何故か、ずっと黙っていたマリーが突然起こり出した。
まさか……?
「マリー。落ち着いて。そんなに嫌だったって知らなかったんだ。でもほら、エリザは僕の妹な訳だしさ。そんなに嫌わないであげてくれたら嬉しいな。ほら、エリザも、仲直りしよ?」
「何の話ですか! 魔術は便利道具じゃないんですよ!? 指定された空間の温度を人体に適する温度に保ち続けるってどれだけ大変なことか分かってます!?」
「えーと……でもランディはできるよ?」
「う……たとえできたとしても、微妙な温度のコントロールをし続けるなんて、至難の業です!!」
「でも……ランディはできるよ?」
「ぐ……空間の中で下と上で微妙な温度差作るなんて常人には無理ですよ!!」
「ランディは……」
「あぁあああ!! もう!! やればいいんでしょう。やれば!! 私が狂乱して、最大冷気を発動させたら止めてくださいね!!」
「その時は私が一瞬で首を切り落としてあげるから安心してね。マリー」
「殺さない方法を考えようか。エリザ」
若干の不安があるものの、馬車の旅は快適に続いていた。
と、思っていたら、何故か馬車が急停車した。
思わず前のめりに倒れそうになり、エリザに支えてもらった。
マリーは勢いよく後頭部を壁にぶつけたようだ。
痛さで頭を抱えている。
「どうしたのかな? もしかして御者が急にトイレに行きたくなったとか?」
「そんなわけないでしょ。さっきから気配で気付いてたけど、お客さんみたい。見てくるね。ほら、マリーも。記録係なんでしょう?」
「え? あ……はい!」
僕が何を言う間もなく、エリザとマリーは馬車から降りていってしまった。
一人ポツンと残るのも寂しいので、外の様子を見ることにしよう。
御者のおっさんの用を足してるところなんてこれぽっちも興味ないけどそれは違うって言われたしね。
「で? あんたら、誰に雇われたの? すぐに答えたら、半殺しで許してあげる」
こっそりと降りて覗くように見てみると、複数の男性たちが、エリザたちと対峙していた。
手にはそれぞれきちんと手入れがされてそうな、刃物が持たれている。
見た目で人を判断することはしないようにしている僕だけど、ざっくり言うと山賊と呼ばれる人たちに思えた。
もしかしたら、あんな格好をしてたとしても、動物愛護団体とかかもしれないから、ちゃんと話し合いは必要だ。
「言うと思うか? てっきり脳天気に一人で乗り込んでくると踏んでいたが、そこまでのバカではなかったようだな。しかし護衛の一人や二人、問題ない」
「それってもう雇い主が誰だか言ってるのと同じって気付いていないの? 君たちはそこまでのバカだったみたいね」
「なっ!? ほざいてろ。いずれにしろその場にいる全員生きて返すなと言われている。恨むんなら、バカ領主を恨むんだな!」
「テメェ!! 優しくしてればさっきからふざけた口聞きやがってぇ!! バカってお兄ちゃんのことか!? あ!? 神と同格のお兄ちゃんをバカって言える存在がこの世にいるわけないの、分かれよ!!」
あーあ。
殺さないでくれるといいなぁ、エリザ。
エリザは昔っから、一度切れるとなかなか大変だからね。
マリーなんて味方なはずなのに怖がってるじゃないか。
切れる理由が僕にはよく分かってないけれど。
しょうがない。
ひとまず片付いたら、あとでよしよししてあげよう。
「エリザ。ひとまず殺さないでね。全員生きたまま捕まえて、この先の町に引き渡そう。あ……念のためだけど、彼は実は動物養護団体とかいう可能性ないよね?」
「うぅぅ……お兄ちゃんが殺すなっていうなら。聞いたか! お兄ちゃんの慈悲で生かしてやる! 罪を償い終えたら、一生お兄ちゃんに感謝して人生の全てをお兄ちゃんのために捧げろ!!」
「いたぞ! 標的だ!! 殺せー!!」
「だから、殺したらダメだって……って、僕!?」
男の人たちが、こぞって僕に向かって襲い掛かろうとしたところ、ほぼ一瞬で全員が前のめりに転けた。
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水筒の中の水を使って足元を凍らせて、滑らせて転ばしたんだろう。
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「私がやる!!」
エリザがそれぞれの手と足を馬車に積んであった縄で結び、それを更に全員と繋いでいく。
こうすれば、一人だけで逃げようとしても、他の人が邪魔になって逃げられないんだって。
ひとまず彼らには町までこのまま歩いてもらうしかないね。
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