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第3章
第97話【薬の製造】
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「シャルロット様。どうされたのですか? お父上、国王様を救うための薬なら、リチャード様に先ほど」
薬をくれと言うシャルロット王女にソフィアがそう問いかけた。
確かに、リチャード王子に薬を渡したのだから、当然の問いかけだろう。
しかしシャルロット王女は口を一文字に結んで首を横に振る。
それから困ったような顔をして、口を開いた。
「ごめんなさい。それは言えないの。でも、どうしても私もお父様を治す薬が欲しいのよ。お願い!」
「頭を上げてください。シャルロット様。王女にそんなことをさせているのを他の誰かに見られたら……」
頭を下げて頼み込んできたシャルロット王女に、慌てて俺が口を挟む。
それを聞いたシャルロット王女はなおも頑なに頭を下げている。
「お願いします! どうか、薬をください!」
「分かりました! 分かりましたから‼︎ どうか、その頭を上げてください‼︎」
俺はなかばやけくそになって叫ぶ。
それを聞いたシャルロット王女はパッと頭を上げ、明るい笑顔を見せた。
「本当? ありがとう‼︎」
「ただ……残念ながら今手元に在庫がないんです。まさかこんな薬が必要になるなんて思っていなかったので、さっきリチャード様にあげたのが唯一でして……」
「そんな! ああ、どうしたらいいの?」
「でも、ちょっと待っていただければ、すぐに新しいものを用意しますので。もし国王に使うのなら時間がない。急いで作りましょう!」
俺の言葉にシャルロット王女は何がなんだか分からないといった顔を見せる。
薬を作るということが分からないのだろうか?
「そんなの無理よ。お薬って、作るのにすごい時間がかかるのでしょう? すぐに作るって言っても。それじゃ到底間に合わないわ」
「いえ、見ていてください。本当にすぐですから」
そう言って、俺は容器から必要な素材を取り出し、ついでに中に入ってもらっていたブライムにも出てもらう。
真っ黒い光沢のあるスライムを見たシャルロット王女は、悲鳴をあげた。
「きゃあ⁉︎ モンスター? どうして王城の中にモンスターが‼︎」
「あ。シャルロット様。落ち着いてください。これは、テイムされたモンスターです。人間に害はありませんから、ご安心を」
「そうなの? よく見ると、可愛らしい見た目をしているわね。ふふ……あなた名前は?」
シャルロット王女の適応力には驚くが、元々そういう性格なのか、それとも会って間もない俺のことを信頼してくれているのか。
腰を屈めて、ブライムのスベスベした頭を撫で始めた。
当のブライムはぷるぷると小刻みに震えるだけだ。
「ブライムって言います。流石にスライムは口がきけないみたいで。薬を作るののに、ブライムに手伝ってもらうので、ちょっとすいません」
俺はブライムに取り出した素材を取り込ませ、体内で生成される様々な液を利用しながら薬の成分を精製していく。
ブライムは現在うちのギルドにいるスライムの全ての能力を兼ね備えている。
もちろん酸液を出すアシッドスライムや、塩基性の液を出すベーススライムの能力も持っているのだ。
その他に熱を出すヒートスライムや蒸留などを行うときに必要なエアースライムの能力もある。
つまり、ブライムがいれば、他のスライムができることはなんでもできる。
ただし、どういうわけかある時からブライムの能力を他のスライムたちが受け取ることができなくなってしまっていた。
ブライムの一度に処理できる量は、限られているから、大量生産をするなら、他のそれぞれの能力に特化したスライムを使った方がいい。
というわけで、最近はもっぱら試験的な精製などをブライムには手伝ってもらっている。
ブライムの中で起こる反応を、シャルロット王女は興味深そうに見つめている。
色が付いたり、それが退色したり、濁ったり透明になったり、確かに初めて見たのなら面白いのかもしれない。
ブライムから精製された成分を調合し、それを飲みやすいように液体に溶かし、瓶に詰める。
その瓶をシャルロット王女に差し出し、俺が告げる。
「さぁ。できましたよ。これをお持ちください」
「え? もうできましたの? まだほんの時間しか経ってませんのに」
出来上がった薬をシャルロット王女に渡すと、先ほどよりもさらに驚いた顔を見せた。
「だから言ったでしょう? すぐにできるって」
「それにしても……驚きましたわ。ありがとう、ハンス! これできっと……! こうしてはいられませんわ。一度失礼しますわね。この礼はきっと‼︎」
そう言うとシャルロット王女は、王城の中へと駆けていく。
俺たちは、その後ろ姿を、不思議な気持ちで眺めていた。
☆☆☆
本作をお読みいただきありがとうございます。
久しぶりの更新で申し訳ありません。
現在、こちらの作品、諸事情により、更新を不定期とさせていただいております。
前から読んでいただいている方も、最近読み始めた方も、続きをお待たせする形になってしまい申し訳ありませんが、お時間いただけたらと思います。
その間にと言うわけではないですが、別の作品をいくつか公開させていただいています。
もしよろしければ、こちらもお読みいただけたらと思います。
一つ目は、
「聖女ですが、自己強化かけ過ぎたら幼女になってました~幼女は連れていけないとパーティから追放されましたが、肉体は世界最強なので陰から支援する~」
二つ目は、
「戦地に舞い降りた真の聖女~偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから~」
どちらも女性主人公の作品です。
薬をくれと言うシャルロット王女にソフィアがそう問いかけた。
確かに、リチャード王子に薬を渡したのだから、当然の問いかけだろう。
しかしシャルロット王女は口を一文字に結んで首を横に振る。
それから困ったような顔をして、口を開いた。
「ごめんなさい。それは言えないの。でも、どうしても私もお父様を治す薬が欲しいのよ。お願い!」
「頭を上げてください。シャルロット様。王女にそんなことをさせているのを他の誰かに見られたら……」
頭を下げて頼み込んできたシャルロット王女に、慌てて俺が口を挟む。
それを聞いたシャルロット王女はなおも頑なに頭を下げている。
「お願いします! どうか、薬をください!」
「分かりました! 分かりましたから‼︎ どうか、その頭を上げてください‼︎」
俺はなかばやけくそになって叫ぶ。
それを聞いたシャルロット王女はパッと頭を上げ、明るい笑顔を見せた。
「本当? ありがとう‼︎」
「ただ……残念ながら今手元に在庫がないんです。まさかこんな薬が必要になるなんて思っていなかったので、さっきリチャード様にあげたのが唯一でして……」
「そんな! ああ、どうしたらいいの?」
「でも、ちょっと待っていただければ、すぐに新しいものを用意しますので。もし国王に使うのなら時間がない。急いで作りましょう!」
俺の言葉にシャルロット王女は何がなんだか分からないといった顔を見せる。
薬を作るということが分からないのだろうか?
「そんなの無理よ。お薬って、作るのにすごい時間がかかるのでしょう? すぐに作るって言っても。それじゃ到底間に合わないわ」
「いえ、見ていてください。本当にすぐですから」
そう言って、俺は容器から必要な素材を取り出し、ついでに中に入ってもらっていたブライムにも出てもらう。
真っ黒い光沢のあるスライムを見たシャルロット王女は、悲鳴をあげた。
「きゃあ⁉︎ モンスター? どうして王城の中にモンスターが‼︎」
「あ。シャルロット様。落ち着いてください。これは、テイムされたモンスターです。人間に害はありませんから、ご安心を」
「そうなの? よく見ると、可愛らしい見た目をしているわね。ふふ……あなた名前は?」
シャルロット王女の適応力には驚くが、元々そういう性格なのか、それとも会って間もない俺のことを信頼してくれているのか。
腰を屈めて、ブライムのスベスベした頭を撫で始めた。
当のブライムはぷるぷると小刻みに震えるだけだ。
「ブライムって言います。流石にスライムは口がきけないみたいで。薬を作るののに、ブライムに手伝ってもらうので、ちょっとすいません」
俺はブライムに取り出した素材を取り込ませ、体内で生成される様々な液を利用しながら薬の成分を精製していく。
ブライムは現在うちのギルドにいるスライムの全ての能力を兼ね備えている。
もちろん酸液を出すアシッドスライムや、塩基性の液を出すベーススライムの能力も持っているのだ。
その他に熱を出すヒートスライムや蒸留などを行うときに必要なエアースライムの能力もある。
つまり、ブライムがいれば、他のスライムができることはなんでもできる。
ただし、どういうわけかある時からブライムの能力を他のスライムたちが受け取ることができなくなってしまっていた。
ブライムの一度に処理できる量は、限られているから、大量生産をするなら、他のそれぞれの能力に特化したスライムを使った方がいい。
というわけで、最近はもっぱら試験的な精製などをブライムには手伝ってもらっている。
ブライムの中で起こる反応を、シャルロット王女は興味深そうに見つめている。
色が付いたり、それが退色したり、濁ったり透明になったり、確かに初めて見たのなら面白いのかもしれない。
ブライムから精製された成分を調合し、それを飲みやすいように液体に溶かし、瓶に詰める。
その瓶をシャルロット王女に差し出し、俺が告げる。
「さぁ。できましたよ。これをお持ちください」
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ありがとうございます!
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面白かったのでお気に入り登録しました(^o^) 陰ながら応援してます。
ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ
返信遅くなってすいません
更新も作者さんの自由です。無理はなさいませぬよう。
さて、助かるルートなのか助からないルートなのか。
少なくとも、王女殿下が笑顔でいられる結末なら良いのですが……
感想ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ