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第3章
第91話【父との確執】
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「さて……お言葉ですが、父上。今のお言葉、国王への批判ともとられかねません。訂正するなら今のうち、と思いますが」
ソフィアはしっかりとした視線をジュベールに向け、そう言い放つ。
驚き固まっていたジュベールは俺たちより一足先に平常心を取り戻し、一度大きく咳をした後ソフィアをその鋭い瞳で見返しながら言い返した。
「ふん。さすがならず者と呼ばれるような職業に就いただけあって、父親に対する口の利き方も忘れたらしい。訂正だと? 馬鹿を言うな。事実を述べただけだと言っているだろう」
「しかし父上……」
更に反論しようとしたソフィアの言葉をさえぎって、ジュベールは右手を大きく体の前で振り、いらだった様子で声を荒立てる。
「ええい! 勘当したお前に今更父と呼ばれる筋合いなどないわ!! お前のような者がこの城に足を踏みいえること自体異常なのだ!! 口を慎め!!」
ジュベールの言葉に、ソフィアは口を一文字に結び、視線で意思を訴えるも言葉を発することはなかった。
どういう経緯かは分からないが、ソフィアはジュベールの実の娘であり、かつすでに勘当されているということらしい。
そうであれば、貴族であるジュベールにこう言われてしまっては、ソフィアは反論すら許されなくなる。
一体二人の間に何があったのか、何故上級貴族の家に生まれたのにもかかわらず、勘当されてまで探索者などという危険な仕事についたのかは気になるが、今はそれを聞く時ではないだろう。
「まさか、ソフィア殿がジュベール様のご令嬢だったとは……思いもよらぬことのゆえ、さすがに驚きましたが。それはそうとジュベール様。話をぶり返すようで申し訳ありませんが、ハンスの行いに嘘偽りはありません。全て事実でございます」
「ふん。龍安だったか? 何を売っているんだか知らないが、肥料の代わりになるだと? 馬鹿らしい。そんなもの。たまたま不作続きだったものが、天候や他の要因で改善したに過ぎんのではないか? そもそもハンスと言ったな? お前はペテンと呼ばれる錬金術師だろう? そんなお前が作ったという者、信じる方が間抜けなのだ」
「それは一体……」
「ヴァイト伯爵。貴殿も知っているだろう。錬金術師と名乗る輩が我ら貴族に何をしてきたかを」
ジュベールの言い草に、反論したい気持ちはもちろんあったが、俺はどういうことか理解した。
錬金術師の歴史を紐解けば、今のようにきちんとした錬金術師という職業が成り立つ前、多くのペテン師たちが錬金術という名の元に、様々な方法で王侯貴族や裕福な商人たちから金を巻き上げていたというのは間違いない事実だ。
錬金術の始まりはかなり前にさかのぼるとされている。
その当時、錬金術はその名の通り、金を錬成し巨万の富を手にすることができると謳う魔術だった。
もしくは不老不死の妙薬を作りだしたと言い、当時の王たちにそれを飲ませていたという話も伝わっている。
もちろんそんなものは昔も今も存在せず、不老不死の妙薬と信じ飲んだ毒のせいで若くしてこの世を去った王も後を絶ったなかったとか。
きちんと研究の結果や理論の構築の末、作り上げられた今の錬金術からは想像もつかないような嘘や間違いがまかり通っていた時代だ。
問題なのは、今でもそのような詐欺まがいなことをしている者たちが、少なからずいるということだった。
「あいつらは魔法でも無理なようなことを平然とできると言い、金を無心する。ゴブリンより意地汚いやつらだよ」
「ジュベール様。ハンス殿をそのような輩と同一視されては困ります。間違いなく、龍安には作物の発育を促す効果が……」
「まぁいい。すでに騙されてしまっている貴殿と話しても時間の無駄だ。この書類にさっさと署名をしたまえ。ハンス。そもそも私はそのために来たのだから」
「あの……内容の確認は……?」
目の前に差し出された紙はそれなりの量になる。
署名する場所はいくつかあるようだが、何が書かれている読まずに署名するなとアイリーンに以前から言われているため、俺はそう確認した。
俺の返しを聞いたジュベールはあからさまに顔をしかめる。
そして何故か俺の方ではなく、ソフィアの方を向き、人を馬鹿にするような口調で言う。
「ソフィアよ。この男は今のお前の雇い主なのだな? 嘆かわしい。王の前でもそうであったが、ろくな作法も身に着けておらんようだ。まぁペテン師に作法を求める方が無理があるというもの。好きに読んで確認したまえ。その間私は失礼させてもらうよ。おい! こいつらが馬鹿なことを考えないように見張っていろ!」
部屋の外で待機している城の者に怒鳴りつけたかと思うと、ジュベールはそのまま部屋を出て去っていく。
俺はあそこまであからさまに嫌悪と侮蔑の感情をあらわにされたのは初めてだったため、少し戸惑ってしまった。
ソフィアはそんな俺に、申し訳なさそうな表情を向けていた。
ソフィアはしっかりとした視線をジュベールに向け、そう言い放つ。
驚き固まっていたジュベールは俺たちより一足先に平常心を取り戻し、一度大きく咳をした後ソフィアをその鋭い瞳で見返しながら言い返した。
「ふん。さすがならず者と呼ばれるような職業に就いただけあって、父親に対する口の利き方も忘れたらしい。訂正だと? 馬鹿を言うな。事実を述べただけだと言っているだろう」
「しかし父上……」
更に反論しようとしたソフィアの言葉をさえぎって、ジュベールは右手を大きく体の前で振り、いらだった様子で声を荒立てる。
「ええい! 勘当したお前に今更父と呼ばれる筋合いなどないわ!! お前のような者がこの城に足を踏みいえること自体異常なのだ!! 口を慎め!!」
ジュベールの言葉に、ソフィアは口を一文字に結び、視線で意思を訴えるも言葉を発することはなかった。
どういう経緯かは分からないが、ソフィアはジュベールの実の娘であり、かつすでに勘当されているということらしい。
そうであれば、貴族であるジュベールにこう言われてしまっては、ソフィアは反論すら許されなくなる。
一体二人の間に何があったのか、何故上級貴族の家に生まれたのにもかかわらず、勘当されてまで探索者などという危険な仕事についたのかは気になるが、今はそれを聞く時ではないだろう。
「まさか、ソフィア殿がジュベール様のご令嬢だったとは……思いもよらぬことのゆえ、さすがに驚きましたが。それはそうとジュベール様。話をぶり返すようで申し訳ありませんが、ハンスの行いに嘘偽りはありません。全て事実でございます」
「ふん。龍安だったか? 何を売っているんだか知らないが、肥料の代わりになるだと? 馬鹿らしい。そんなもの。たまたま不作続きだったものが、天候や他の要因で改善したに過ぎんのではないか? そもそもハンスと言ったな? お前はペテンと呼ばれる錬金術師だろう? そんなお前が作ったという者、信じる方が間抜けなのだ」
「それは一体……」
「ヴァイト伯爵。貴殿も知っているだろう。錬金術師と名乗る輩が我ら貴族に何をしてきたかを」
ジュベールの言い草に、反論したい気持ちはもちろんあったが、俺はどういうことか理解した。
錬金術師の歴史を紐解けば、今のようにきちんとした錬金術師という職業が成り立つ前、多くのペテン師たちが錬金術という名の元に、様々な方法で王侯貴族や裕福な商人たちから金を巻き上げていたというのは間違いない事実だ。
錬金術の始まりはかなり前にさかのぼるとされている。
その当時、錬金術はその名の通り、金を錬成し巨万の富を手にすることができると謳う魔術だった。
もしくは不老不死の妙薬を作りだしたと言い、当時の王たちにそれを飲ませていたという話も伝わっている。
もちろんそんなものは昔も今も存在せず、不老不死の妙薬と信じ飲んだ毒のせいで若くしてこの世を去った王も後を絶ったなかったとか。
きちんと研究の結果や理論の構築の末、作り上げられた今の錬金術からは想像もつかないような嘘や間違いがまかり通っていた時代だ。
問題なのは、今でもそのような詐欺まがいなことをしている者たちが、少なからずいるということだった。
「あいつらは魔法でも無理なようなことを平然とできると言い、金を無心する。ゴブリンより意地汚いやつらだよ」
「ジュベール様。ハンス殿をそのような輩と同一視されては困ります。間違いなく、龍安には作物の発育を促す効果が……」
「まぁいい。すでに騙されてしまっている貴殿と話しても時間の無駄だ。この書類にさっさと署名をしたまえ。ハンス。そもそも私はそのために来たのだから」
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俺の返しを聞いたジュベールはあからさまに顔をしかめる。
そして何故か俺の方ではなく、ソフィアの方を向き、人を馬鹿にするような口調で言う。
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