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1巻
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しおりを挟む「ねぇ。ソフィア。ギルドの作り方を知っているかい?」
「確か、ギルドを作るだけなら申請と登録料の銀貨一枚で作れるはずだぞ。詳しくは知らないが、管理局に行けばきちんと教えてくれるだろう。それがどうかしたのか?」
「だったら、今から俺がギルドを作ればいいんだ。俺を雇ってくれるところがないなら、作ってしまおう!」
「なんだって?」
「ということでソフィア、気が向いたら俺のところに依頼に来てくれ。いつでも歓迎するから」
「あ、おい! ハンス!」
ソフィアを置いて、俺はギルドを取りまとめる管理局に急いだ。
管理局に着くと、様々な職業の人たちで賑わっている。複数ある受付窓口にも、多くの人が並んでいた。
俺もその一列に並び、順番を待つ。
列は段々進んでいき、やがて俺の番となった。
受付嬢はにこやかに話しかけてくる。
「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルドを新しく作りたいんだ。その方法を教えてほしい」
「分かりました。えーっと、形態は専門ギルドですか? それとも複数の職業の方を雇う予定なら、総合ギルドになりますが」
「専門ギルドと総合ギルドで、何か作る上での違いはあるのかい?」
そう聞くと、受付嬢は雇う職業を限定するかしないか以外に細かな違いがいくつもあることを教えてくれた。
一番大きな違いは目的だ。専門ギルドは自分と同じ分野の職人を雇い、育成することが主な目的になるが、様々な職人たちを雇う総合ギルドはそうはならない。
駆け出しの職人を雇いたいのであれば専門ギルドにするのが普通だが、自分が師となって彼らを教えるか、そうでなければ十分に実力のある職人を筆頭として雇い入れなければならないのだとか。
駆け出しはまだ知識も経験も浅く、自分が未熟だと知っているから、早く一人前になるために、いい師を求める傾向が高いらしい。
当然のことながら、十分に実力のある職人はほとんどが独立して自分のギルドを作っているか、もしくは名のある総合ギルドにすでに雇われている。
総合ギルドで問題になるのは、いかにしてそれぞれの分野における最初の職人をメンバーに加えるか、ということなのだそうだ。
専門ギルドから総合ギルドへはあとからでも変更は可能らしい。
悩んだが、俺は専門ギルドにすると答える。
弟子なんて取るつもりはないが、そもそもギルドを作る目的は俺が商売できるようにするためだ。
そう考えれば専門ギルドだろうが総合ギルドだろうが関係ないが、専門ギルドの方が管理局からの要求も少ないと聞いて、そちらに決めた。
「それではこの申請書に設立者の名前と職業、それにギルドの拠点、ギルド名を記載し、登録料として銀貨一枚を納めてください」
俺は言われたとおりに申請書に記入し、登録料銀貨一枚を支払う。
今後も、定期的にギルドの継続料として銀貨一枚、それに儲けのいくらかを支払うらしい。
名前と職業の欄を見た受付嬢が、驚いた顔を見せる。
「【白龍の風】の錬金術師、ハンス様ですよね? 独立ですか? まぁ、かなり優秀な方だとうかがっていますから、独立してもおかしくないと思いますが」
「なんだって? 一体誰がそんなことを?」
俺は耳を疑った。
先ほどのソフィアといい、受付嬢といい、二人とも俺のことを優秀だと言っている。
今まで俺を無能と罵ってきたギルド長と、あまりに評判が違いすぎだ。
「誰って、それはもちろん【白龍の風】のギルド長、ゴードンさんですよ?」
受付嬢の言葉に、俺は思わず笑みが漏れてしまった。
面と向かっては厳しい言葉を言うが、内心では俺のことを認めていたということだろうか。
「そのため高額の報酬やその他異例とも言えるような数々の経費、それも致し方ないと言っていました」
「え!?」
一体何の話だ?
高額の報酬? 異例とも言えるような数々の経費?
冗談じゃない。
報酬はことあるごとに減らされ、俺のために経費を使ってくれたことなんて一度もない。
俺はさっきとは正反対に怒りで顔が歪むのを感じていた。
ここで、ようやく俺は理解した。
ギルド長、いやゴードンは俺のことをただの金のなる木としか思っていなかったのだ。
客から高額な代金を受け取り、俺には正規の報酬を支払わずに自分のものとする。
おそらく裏帳簿を作って、浮いた金を懐に忍ばせていたのだろう。
俺は吐き捨てるように受付嬢に言う。
「もう俺がいないから大丈夫だと思うけど、もし同じような待遇の奴が【白龍の風】に現れたら、一度きちんと調査することを勧めるよ」
「それはどういう……」
「まぁ、いいよ。これで手続きは終わり?」
つい感情を高ぶらせてしまったが、今更ゴードンのことで憤っても仕方がない。
「はい。えーと、申請ギルド名は【賢者の黒土】ですね。承りました」
ギルド名は、全錬金術師が作り出すことを夢見ている『賢者の石』と、錬金術の語源である『豊穣の黒土』をかけ合わせたものにした。
ちなみにギルドの拠点は特にいい場所が思いつかなかったので、俺の自宅にしておいた。
ギルド名は原則として変更不可だが、拠点の方はあとから申請すれば変更が可能らしい。
これで俺もギルド長だ。
前世の記憶にある日本の名称で言えば経営者。雇われる側じゃなくて雇う側ってことだな。
元々は俺が商売するために作ったのだけれど、せっかくならギルドを大きくして、ゴードンの奴をギャフンと言わせてやりたいものだ。
そう考えてみると、他の職人やできれば探索者も雇いたくなる。必然的に専門ギルドではなく、総合ギルドの方が適しているような気がしてきた。
「ごめん。いきなりだけど、やっぱり総合ギルドに変えたいんだ。できるかな?」
「え? ええ。構いませんよ。本来なら、変更手数料をいただくんですが、今ならまだ無料で大丈夫です」
そう言って受付嬢は、俺の提出した書類を訂正していく。
余計な手間をかけさせてしまった。
そう思いながら、俺はふと思いついた質問を受付嬢に投げる。
「ところで、ギルドの求人はここでできるのかな?」
「ええ。できますよ。募集する内容を教えていただければ、そこに求人票を貼り出します」
言われて指さされた方を見れば、コルクの板が張られた壁に、いくつも紙が貼られている。
その前には色々な人たちが立っていて、内容を吟味していた。
「そうか。じゃあ、この条件で出しておいてくれる?」
「分かりました……って、ええ!? 本当にこの条件でいいんですか!?」
その場で書き出した条件を見て、受付嬢は驚きの声を上げた。
俺は問題ないことを頷きで示すが、彼女はまだ納得していないようだ。
「だって、給料は毎月定額で金貨一枚、その上で出来高払い。これだけでも前代未聞なのに、なんですか? 週休二日って!」
「言葉の通りだよ。一週間のうち、二日間は休日、つまり仕事をせずに自由な日にするってことだね」
俺が示したのは、日本で暮らしていた時のごく一般的な待遇だった。
こちらの世界ではまず考えられない好条件なので、彼女が驚く気持ちは分からないでもない。
まぁ、前世の俺は、そんな待遇ではなかったけどな。ブラック企業で働いていたし。
「なんですかその羨ましい待遇! じゃ、じゃあ。この、道具などの貸与っていうのは?」
「仕事に必要な道具はこちらの経費で用意する。貸すだけだから、ギルドを辞める時は返してもらうけどね」
どんな職業に就く人でも、自分の使う道具や衣類は自前で用意する。
そう、それが普通だ。
しかし前世の俺が暮らしていた日本ではそうじゃない。
制服や道具は雇い主が用意してくれた。俺が働いていたブラック企業でも、その点は変わらない。
俺の場合は、【白衣】という服や【実験器具】や【分析装置】を支給されいていた。
記憶の中の実験器具などは、ガラスでできたものが多かった。ガラスは高価なため、この世界で揃えようと思ったらとんでもない金額になるだろう。
それを惜しげもなく使わせてくれたのだから、前世の会社は意外とそこまで酷くなかったのかもしれない。
しかも分析装置というものに関して言えば、一人の人間が一生暮らせるだけの金額に相当するものもある。
たとえば、人の目では見えないほど微細なものを見ることができる【電子顕微鏡】というものだ。
おっと、意識が変な方向に流れたな。
とにかく、前の俺がいた日本では普通で、こちらの世界では好待遇。
せっかく前世の記憶を取り戻したのだから、こちらの世界でも活用してみたいと思ったのだ。
もちろんこの待遇で雇うのは、誰でもいいわけではないが。
「分かりました。ひとまずこの条件で貼り出しますが、人は集まらないかもしれませんよ?」
「うん? なんでだい?」
受付嬢の言葉に、俺は首を捻った。
「正直なところ、条件がよすぎます。ほとんどの人はイタズラだと思うでしょう。もしくは何か裏があると思うか」
「なるほどなぁ。まぁ、この待遇で雇うのは間違いない。もし誰かに聞かれたら、そう答えてくれるだけでいいよ」
確かにこの条件は、前世の記憶を思い出す前の俺が見たら冗談と思うに違いない。
ただ、一人でも人が来てくれたら、そのうちこの求人情報が本当だと知れ渡るだろう。
勢いでギルドを立ち上げた俺は、とりあえず自宅に帰ることにした。
まっすぐ帰宅し、自室で今日の出来事を振り返える。
長年世話になっていたギルドを辞めたこと、親代わりと信頼していたギルド長が俺を使って私腹を肥やしていたのを知ったこと。
いきなり蘇った、日本という国に住んでいた前世の俺の記憶。
そして新しく総合ギルドを設立したこと……
世間知らずな俺が、まだメンバーがいないとはいえギルド長になったのだ。
あまりにも多くのことが起こりすぎて混乱気味だったが、連日の激務のせいで俺の眠気はすでに限界に達していた。
「明日からのことは明日考えて、今日は寝るか……」
俺はベッドに倒れこむと、気を失うように深い眠りについた。
次の日。
俺は自分の家、兼ギルド本部となった自宅で、手持無沙汰でうろうろしていた。
ギルド本部と呼ぶにはあまりに殺風景な場所だが、この家はオリジンの街の中心から離れた場所にあり、中もそれなりに広い。当分は問題ないだろう。
管理局で噂を聞きつけた客、あるいは求人を見た誰かがやってこないかと待っている間、家の前にギルドの名前を書いた板を置く。
あわせて、俺が作れる各種錬成品とその価格表も貼り出しておいた。
主だった器具を【白龍の風】に置きっぱなしにしてきたため、今の俺は作れる錬成品がかなり限られてしまっている。これは大きな問題だ。
幸い予備の容器などは家にも置いてあったため、魔法薬を作ることはできるのだけれど。
ちなみに価格は、朝の間に出かけて色々と調べた結果、相場の七から八割程度にしておいた。
もっと安くすることも可能だが、これも先日の待遇と一緒で、あまり安すぎるとかえって怪しまれると思ったからだ。
そうだ、これからもう一度管理局に行って、広告を出させてもらおう。
掲載には金がかかるが、知名度がない間は仕方がない。
これも幸い……と言っていいか分からないが、お金はそれなりに持っている。今思えばかなり少ない賃金だったが、激務のせいで使う暇がなくて貯まっていたのだ。
ギルドが軌道に乗るまでは持ちこたえられるだろう。
そう思って出かける準備を始めていると、ドアを叩く音が聞こえた。
「すまん。ハンスはいるか?」
「その声はソフィア?」
俺は玄関の扉を開けて確認する。
やはりそこに立っていたのはソフィアだった。
「なんでここに? 依頼してくれとは言ったけど、俺の家なんて知らないはずなのに」
「ああハンス、いたか。よかった。ところで、あの貼り出した内容は本当か!?」
「うん? ああ。魔法薬の価格のことかな? あれは新規の人向けさ。あまり安くしても怪しまれると思ってね。ソフィアには昨日言った通り、上級魔法薬五本で金貨一枚。これでいいよ」
俺はてっきり外の価格表のことを言っているのかと思い、そう言った。
だが、どうやら違ったらしく、ソフィアは首を大きく横に振る。
本当にこんなに強く振って痛くないのか、心配になる。
「違う! 管理局に出した求人票のことだ! あの待遇、本当か!?」
「ああ、この家の場所は管理局から聞いたってことか。うん、本当だよ。と言っても、まだ誰もいないから証明のしようもないけど」
そう言ったあと、俺はほんの思いつきでソフィアに言う。
「あ、ソフィア。よかったらうちに来ない? なんて、大手ギルドの筆頭探索者が来るわけなんてないね」
「いいのか!? ハンスがいいなら、今日にでもこのギルドに入りたい!!」
「え……? 本当に?」
ソフィアは、今度は縦に首を大きく振る。
上か下かに首が飛んでいってしまいそうな勢いだ。
「えーと、俺は構わないけど、パーティとかどうするの?」
「あのパーティなら、未練はないさ。こっちのギルドに来た奴で、めぼしいのがいたら組めばいい。それまではソロになるが、私は一向に構わない」
「てっきり探索者のパーティってのは、仲がいいものだとばかり思っていたけれど、そうでもないのかな?」
「【白龍の風】のパーティは特別だからな。全メンバーがギルド長の一存で決められる。しかも、信頼というものがない。関係性が育つ前にコロコロとメンバーが変えられてしまうからな。私は個々の実力の高さよりも、パーティに必要なのはそれぞれの信頼関係だと思う」
なるほど。要は実績重視でメンバーをより集めたパーティだったってことか。
それでは連携なども上手くいかないのだろう。
とにもかくにも、ソフィアの実力は折り紙付きだ。
ソロでも十分な戦果が期待できる。
これを逃す手はない。
「じゃあ、ソフィア。君を採用するよ。記念すべきギルドメンバー第一号だ。それと、このギルドのメンバーになったのなら、魔法薬を買うのはナシだね」
「ど、どういうことだ!? なんでギルドメンバーになったら魔法薬が買えなくなるんだ!」
「ああ。言い方が悪かったね。つまり、無償で提供するってことさ。もちろん無限にじゃないけど」
「まさか!? 無償だと!? 冗談だろう!? 上級魔法薬五本で金貨一枚ですら、冗談みたいな価格なんだぞ!?」
前世の俺の記憶が強く言っている。
従業員のパフォーマンスを上げるのも経営者の仕事。
そして、設備や優秀な従業員にこそ金を惜しむなと。
聞きかじりの教えだが、前世の俺も、今の俺も、その考えは強く肯定できる。
うまくいくかどうかはまだ自信がないが、俺はそれを信じることにした。
「ところで、昨日は結局素材を手に入れたのかな? あるなら、今から作るけど」
「あ、ああ! 素材はきちんと採取してきたんだ。早速ハンスに頼もうと思ったんだが、場所が分からなくてな。それで管理局に行って、あの求人を見たんだ……ともかく、そのあとすぐここに来たから、今持っている」
そう言うとソフィアは上級魔法薬に必要な素材を机に並べる。
どれも取れたてで、状態のいいものばかり。
これならいい魔法薬が作れそうだ。
素材の質や作り手の技能によって、完成した魔法薬は一見同じに見えても品質はバラバラになる。
素材の質の方は知っていたが、作り手の技能によって品質が変わると知ったのは、昨日ソフィアの言葉を聞いてからだ。
それを確かめるため、俺は相場を調べがてらいくつかの魔法薬を買ってみた。
そして知ったのだ。
市場に出回っていた魔法薬は、総じて品質が悪かった。
素材の質のせいではないかと思って見せてもらったところ、それなりのものを使っているところもあった。
素材の質がいいにもかかわらず、魔法薬の品質が悪いのであれば、もう作り手に問題があるとしか思えない。
そういえば、ゴードンには色々な罵詈雑言を食らったが、俺の錬成品の品質を悪く言うことは一度もなかったな。
ということは、品質だけは認めてもらっていたってことか。
いや、そもそも品質のことを隠しておこうという魂胆だったのかもな。
俺が市場の魔法薬なんかを調査すればすぐに明らかになることだったから、なるべく触れないようにしていたに違いない。
俺を世間から遠ざけていたのも、その理由の一つなのだろう。
そんなことを考えながら俺は錬成を始めた。
「今から作り始めるのか? 随分急だな」
ソフィアが目を丸くする。
「素材がいいから、悪くならないうちに、と思ってね。ちょっと待たせることになると思うけど」
「ああ。上級魔法薬五本だから、五日くらいか? まだストックには余裕があるから、そんなに急がなくてもいいぞ」
「五日? 冗談でしょ? 五本くらいならどんなに素材が悪くても半日もかからないよ。これだけ質がよかったら、一時間くらいでできるんじゃないかな?」
そう言うと、ソフィアの目が点になっていた。
どうやら大きなショックを受けたらしい。
「一時間!? 冗談はそっちだろう! 私がいつも頼む時、ギルドは上級なら一日一本が限界だって言っていたぞ!?」
「普通のやり方ならそのくらいかかるかもね。ただ、俺のやり方が普通じゃないってことさ。さらに言うと、今ならもっといいものを作れる自信があるよ」
「しかし、私が頼んだのは【白龍の風】だぞ? ハンス。お前が作っていたんだろう?」
「あそこで用意されている素材の質は酷かったからね。そこから魔法薬の成分を抽出するのには時間がかかるんだ。それに、あのギルドに錬金術師は俺一人だけ。注文はひっきりなし。となれば、分かるだろう?」
少し考えたあと、ソフィアは手を打つ。
「つまり、順番待ちが生じていたということか!」
「そういうこと。それにしても、【白龍の風】じゃ、こんな質の素材なんてほとんど見かけなかったよ。ゴードンは、持ち込まれた素材すら転売していたのかもね」
「なんてことだ……あの男、そんなことまでしていたとは! すぐにみんなに知らせなければ!!」
「無駄だよ。最大手ギルドのギルド長と、そこを辞めて名も知られぬ新生ギルドに入った探索者、どっちの言い分を信じるかは考えるまでもないね」
ソフィアもそう思ったらしく、怒りに握った拳を震わせていた。
俺はソフィアに今後の目標を告げる。
「だからね。【賢者の黒土】が名の知られたギルドになればいいのさ。ということで、ソフィアにも頑張ってもらわないとね」
「分かった! 全力で応援させてもらおう!!」
こうして、前世と今世で社畜だった俺は、経営者となる道を選んだ。
【賢者の黒土】を街一番のギルドにするための長い道のり、そのはじめの一歩をソフィアと共に踏み出したのだ。
「さぁ、できたよ。お待たせ!」
「本当にもうできたのか? 驚くほど速いんだな……あのギルドに錬金術師が一人しかいないのは前から疑問だったんだが、これで謎が解けたよ。ハンス一人いれば十分すぎる」
お世辞かもしれないが、そう言われると悪い気はしない。
ソフィアにできたばかりの上級魔法薬を渡す。
しかし、彼女は受け取った魔法薬を見て首を傾げた。
「なんだこれは? 上級魔法薬はもっとこう、黒ずんだ色だったはずだが……それにもっと濁っていた」
「ん? ああ! そうなんだよ! 実はね。ちょっと不思議な知識を手に入れてね。それを元にやってみたら、いつもよりずっといいものができたんだ!」
これまでは知らぬうちに前世の記憶にある方法で抽出をやっていたが、前世の記憶を思い出したあと、灰を加えたあとの沈殿物の存在が問題だと気付いた。
ドロっとした黒い粘つく沈殿物を掬いとって、更に汚れを取り除いたあと、飲みやすいように溶かすと魔法薬が出来上がる。
だけど、その汚れを取り除く過程でせっかくの成分が減ってしまったり、取り除くと言っても全ての汚れを綺麗に取り除けるわけではなかったりして、結局不要なものがたくさん入ってしまう。
そこで試しにやってみたのが、新たな抽出の方法だった。
アルカリアの草の灰を入れる前に、水と同量の油を入れる。
口に入るものでもあるので、使ったのはオイルバの種から搾った食用の油だ。
よく混ぜたあと、静置すると二層に分かれる。
目に見えるわけではないが、前世の記憶によれば、これで油の方にいらないものが溶け出ているはずだ。
上の油を捨てたあとに灰を入れると、いつもより色の薄い、サラッとしたものが沈殿した。
しかしこれでは灰と混じってしまって掬うことはできない。
そこでまた少量のオイルバの種油を入れ、よくかき混ぜる。
今度は上の油だけを取り出して処理を行うと、綺麗な白い粉が大量に手に入った。
それを使って錬成したのが、この上級魔法薬ってわけだ。
ソフィアが言うように、今までのものよりも色鮮やかで透き通った黄緑色をしていた。
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