ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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第3章

第87話【正装】

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「そういえば、ハンス殿。今日の装いは随分だね。私も数多くの貴族たちの正装を見てきたが、それにも勝るとも劣らない見栄えに見える。よくそんな伝手を持っていたね?」

 城へ向かう馬車の中で、向かい合うように座ったヴァイト伯爵が俺に話しかけてきた。
 ヴァイト伯爵も俺から見ればかなり金がかかっていそうな服装を着込んでいるように思える。

 俺たちは、飛竜便で王都に到着してから馬車に乗り、一度王都の中にあるヴァイト伯爵の屋敷に寄っていた。
 そこで、王に会うための服装に着替えたというわけだ。

 実のところ、今まで着るものにそこまで執着をしてこなかったせいで、服装や装飾品については知識はほとんどなかった。
 そこで、アイリーンに王に謁見する際にどんな服装で行けばいいかと尋ねたところ、皆を巻き込むちょっとした騒動にまで発展してしまった。

 まず話で盛り上がったのはソフィアとリラだった。
 アイリーンが答えるより速く、王に会うのであれば最上の格好をするべきだと息巻いた。

 そこにアイリーンが乗っかり、【賢者の黒土】の元々の本部、今では支部となったオリジンの街のギルドに使いを送り、ギルドメンバーの仕立て屋であるパッチとポッチに服を作らせることが決まった。
 どこでその話が流れたのかは分からないが、【赤龍の牙】にその話が伝わったらしい。

 ギルド長のマーベルを筆頭に、服に使う素材をダンジョンで自ら集めると言い出し、普通に依頼を出せば目が飛び出るような素材の数々が集まった。
 アラクネの糸で編んだ生地にカトブレパスのなめし革、これらを使ってパッチとポッチは俺の身体にぴったりの正装を仕立ててくれた。

 それで話は終わらない。
 今度はカーラが自分も装飾品を作ると言い出した。

 こちらはミスリルを素材に、細かい意匠が施されたシャツの袖を留めるカフスボタンを作ってくれた。
 こうして、一切の費用を払うことなく、知り合いの好意だけで今来ている服が出来上がったというわけだ。

「ありがとうございます。褒めていただき嬉しいですよ」
「うん。リラから話は聞いていたから、私も負けないように一番いい服を着てきたんだが、どうやら負けてしまったようだね。それにソフィア殿のそのドレス姿も素敵という他ないね」

 ソフィアは元々護衛のつもりでついてきたのだが、さすがに普段の探索者の格好で城に向かうわけにもいかないので、今はドレスを身にまとっている。
 このドレスもパッチとポッチが仕立てたもので、ソフィアのトレードカラーの赤が基調になっている。

 以前ドレス姿のソフィアを見たことはあるが、今回のドレスはまるで王侯貴族が着るような華やかさで、そのドレスを着ているソフィアもパッと見どこかの令嬢か姫のように見える。
 一方、ヴァイト伯爵に見た目を褒められた当の本人は、何も言わず微笑み返すだけだった。

「さて、もうすぐ城の門に着くはずだ。心の準備はいいかね?」
「はい。とにかく失礼のないよう気を付けます」

 一ヶ月間、リラに作法を学んだ俺だったが、さすがにその短期間で全てを物することは出来ず、最終的に決まったのは出来るだけ話すな動くな、ということだった。
 基本的な受け答え以外は同席してくれる予定のヴァイト伯爵が応じ、俺はただ王からの言葉を賜るだけというわけだ。

 ただ、王がもし名指しで俺に質問を投げかけてきた時には諦めて話さざるを得ない。
 俺に聞いているのにヴァイト伯爵が代わりに答えてしまっては、不敬罪に当たってしまうからだ。

 内心のドキドキを抑えることが出来ず、俺は一度深呼吸をする。
 息を吐き切るとちょうど合わせたかのように、馬車が止まった。

「着いたみたいだ」

 ヴァイト伯爵の言葉に、俺は頷いて意思表示をする。
 馬車の扉が開けられ、ヴァイト伯爵に次いで外へ出る。

「わぁ……」

 外に出て目に入った光景に、俺は思わず声を漏らした。
 俺が着いたのは城から少し離れた門の前、目の前には先ほど空から見下ろした白亜の城がそびえたっていた。

 圧倒されるのはその建物と敷地の広大さと、美しさだ。
 空からではその大きさが実感できないでいたが、実際に目の前に立ってみると、今まで見たどの建物も小さく見えるほど、城は大きかった。

 そしてその巨大な城の周りには様々な植物が整然と植えられた広い庭園がある。
 この庭だけでも俺のギルド舎がいくつも建てられそうな広さだ。

「これはヴァイト伯爵。ようこそいらっしゃいました。それでは、こちらで身体検査をさせていただきます。ご無礼とは存じますが、規則ですのでご協力を」
「ああ、問題ないよ。ハンス殿。私と一緒にこちらへ。リラとソフィア殿はそちらの女性の方へいってくれたまえ」

 門の前に立っていた衛兵らしき男が近付き、声をかけてきた。
 ヴァイト伯爵は慣れた様子でそれに応じ、城の内部に危険な物を持ち込まないように入念な身体検査を受ける。

「さすがに城に入るにはきちんとしていますね。しかし、魔法は武器など必要としませんが、どうするんですかね?」

 俺はヴァイト伯爵と同じように身体検査を受けながら、思いついた疑問を聞いてみた。

「この城全体を覆う魔法陣が形成されててね。その中では限られた者以外魔法が使えないようになっているのだよ」
「なるほど。それなら安心ですね」

 どうやら以前祭りの時に見た、魔法を阻害する魔法陣がこの城にも設置されているらしい。
 そんな話をしている間に、身体検査が終わったようだ。

「皆様問題ありません。どうぞお入りください!」

 衛兵の合図を受け、俺たちは城へと続く道に足を踏み出した。
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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