ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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第3章

第84話【呼び出し】

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「え? ヴァイト伯爵が俺を呼んでるって?」

 龍安を売り出してからしばらく経ったある日、俺はこの辺りの領主であるヴァイト伯爵に呼び出しを受けた。
 呼び出し自体は今までも何度かあったため、さほど珍しいことではない。

 ただ、用件は大抵モンスター討伐の依頼で、呼び出しはあっても、ギルド長である俺が行く必要はなく、依頼書を受け取りにギルドのメンバー誰かが向かえば良かった。
 ところが今回は必ず俺が来るように、という内容だったらしい。

 何か今までの依頼とは違う用件があるのは間違いない。
 しかし、呼び出しの従者は内容については何も知らないとしか言わない。

「呼ばれたものはいかないわけにはいかないね。どうやら急用みたいだし、早速今から行ってくるよ」
「ハンス。私も同行しよう。ちょうどこの前依頼されていた討伐が終わったところだ。報告する必要があるから」

 ソフィアがそう言うので、俺は共にヴァイト伯爵の待つ屋敷へと向かった。
 俺たちが到着すると、使用人の一人であるリラが迎えてくれた。

 このリラという女性は驚くべきことにモルガンの娘らしい。
 何故俺がそんなに驚くかというと、正直なところ二人が全然似ていないからだ。

 リラは例えていうなら野原に咲く可憐な白い花だ。
 ソフィアとはまた違った美しさを持ち、その佇まいも凛としている。

 一方、兵士長であるモルガンはいかつい顔に黒いあごひげを生やした男性だ。
 この二人が親子だとは言われてもなかなか信じることが出来ず、見たこともない母親に似たのだろうなと思った。

「こちらでございます。中でヴァイト様がお待ちです」
「ありがとう。リラ」

 俺を応接室の部屋の前まで案内すると、リラは深々と頭を下げる。
 中に入らないと頭を上げないことは知っているので、俺たちは出来るだけ急いでヴァイト伯爵の待つ部屋へと入っていった。

「来たか。うむ。ソフィア殿も一緒か。依頼完了の報告かね?」
「はい。もし呼び出しの要件の際に問題なら、報告だけ済ませて退出します」

「いや。構わない。どうせハンス殿に伝えれば、ギルドのメンバーにも伝わることだからね。それで、報告を先に聞こうじゃないか」
「分かりました。依頼にあったモンスターの討伐は無事に完了しています。今回はオークの群れでしたが、体格の増大、その他筋力の増強が確認されています。いつものようにレクターの仕業かと」

 この街に来てすぐにレクターと遭遇して以来、危惧していた通り、何度もモンスターの異常発達が確認されている。
 幸いなことに今まで大きな被害はないが、少なくともモンスターを独自に進化させようとするレクターの実験は続いているようだ。

 ヴァイト伯爵も自分の領地内で問題が起こらないよう私兵を使った巡回を続けていて、モンスターを見つけ次第【賢者の黒土】に討伐依頼が来るというので、被害を最小限に抑えている。
 しかし、ソフィアやオティスの話では、日が経つにつれモンスターの強さも徐々に増しているようで、いつまでこの状態が維持できるか分からないという。

 大きな問題が発生する前に、きちんとした対策を練る必要がありそうだが、レクターの居場所は依然として不明で、なかなか有効な手を打てずにいた。
 今回の呼び出しはそれに関することだろうか。

「そうか。分かった。ご苦労だったな。いつも通り、報酬はリラから受け取ってくれ。それではこちらの要件なんだが……」

 ヴァイト伯爵は、俺の目をしっかりと見つめ、そして続きを話した。

「実は、つい先ほど、国王から使いが訪れてな。要件はそう、ハンス殿。君に関係することだ」
「え? 国王の使いが? そんな。私が関係することなんて、心当たりはありませんが」

「龍安と言ったか。あれを作っているのはハンス殿で間違いないな?」
「ええ。畑の肥料のことなら、間違いないですね」

 俺の返事を聞いて、ヴァイト伯爵は一度大きく息を吐く。
 そして驚くことを口にした。

「そうだ。その龍安というもののおかげで、不作は嘘のように改善し、最近は豊作と言っていいくらいだと聞いているよ。しかもだ。それはこの領地だけじゃなく、今や国中どこでも起こっているということも」
「そうみたいですね。困っている農家の人の役に立ちたくて思いついた錬成品だったので、良い結果が出てよかったです」

「良い結果どころじゃない。食は力だ。ハンス殿の作り出した龍安のおかげで、この国の食糧事情は驚くべき改善を見せた。当然その話は国王の耳にも入る。その結果、国王はハンス殿に興味を持ったらしい。私のところに来た使いの要件はそれだよ。ハンス殿。国王から招致されたぞ」
「え!? 招致って。国王から呼び出しを受けたということですか?」

 俺は事態の大きさに驚きを隠せずにいた。
 隣を見ると、ソフィアも大きく目を見開き、俺の方に顔を向けていた。
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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