42 / 56
第3章
第83話【龍安】
しおりを挟む
「早速だが、追加の薬をぜひ買いたい! この畑全部に撒ける分だ!! 売ってくれるだろ!?」
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。そういえば値段を決めてなかったんだ。えーと、悪いけど、後で【賢者の黒土】に来てくれないか? それまでに用意しておくから」
男性はまるで俺に襲いかかるんじゃないかというくらいの勢いで言ってきた。
しかし俺の言葉を聞いて、少し表情を曇らせる。
「値段を決めてなかったって。言われてみれば、こっちも聞いてなかったな。おい、あんた。足元を見て、馬鹿みたいに高い値段をつけるんじゃないだろうな?」
「あ、いや。そこは安心してよ。ちゃんと適正な値段を決めてもらうから。俺はそういうの得意じゃなくてさ」
「本当か? まぁいい。それで、この粉の名前はなんて言うんだ? 名前が分からないと注文のしようがないからな」
「ん? ああ。名前は硫安って言うんだ」
「りゅうあん? 龍安か! かっこいい名前だな。龍が安らぐだなんて! よし! ここの作業が終わったらすぐに向かうから、ちゃんと用意しておいてくれよ!!」
「あ……うん。それじゃあ、待ってるよ」
どうやら名前を少し間違って覚えられたみたいだが、まぁ特に問題は無いだろう。
そもそもスライムの強酸液を使っているのだから、実際の名前は俺にも分からないし。
これからはこの粉は龍安と呼ぶことにしよう。
とにかく、アイリーンに相談して値段を決めないと。
期待した効果を確認できた俺は、急いでギルドへと戻った。
行きにも増して、その足取りは軽く感じた。
「なるほど。その龍安というのは、肥料の代わりになるものなんですね? 簡単に作れるものなのですか?」
「えーと、そうだなぁ。原料は正直水と空気だけなんだけど、今のところスライムが居ないと無理だからね。俺たちには簡単に安く作れるけど、他の人には無理だと思うよ」
「それはいいですね。つまり、独占販売が出来ます。価格は……そうですねぇ……」
「そんなに高くしたくないんだ。元々は困ってる農家の人たちを助けるために思いついたものだからね」
試算を始めぶつぶつと独り言を言いながら紙に色々と書き出しているアイリーンに向かって俺は言う。
分かっているという合図だけを見せ、アイリーンはしばらく俺に話しかけることなく筆を走らせた。
「そうですね。畑に撒く量と頻度、それとこの街の畑の面積は大体これくらいですから、一袋で銀貨二十枚でいいんじゃないですかね?」
「一袋で畑一区画くらいの量があるから、それならそんなに高くないね。それで十分な儲けが出るなら、俺は問題ないよ!」
「そりゃあ出ますよ。原料はほとんどタダですからね。強いていえばマスターの労働力くらいですが」
「あははは。それなら問題ないね。よし! じゃあ、さっそく売れるように用意しようか。結果を待ってる間にちゃんと作っておいたから、しばらくは在庫に問題ないと思うよ」
アイリーンだけじゃなく、ソフィアやオティス、カーラにも手伝ってもらって、龍安を袋詰めにしていく。
結構な量なので、かなりの重労働で、みんな汗だくだ。
そんな中、ギルドの扉を叩く音がした。
アイリーンが額の汗を拭き、衣服を正してから扉へと向かう。
そういえばこちらに来てからまだ受付も含めて新しいメンバーの募集をしていないことに気がついた。
近い内に新しいメンバーを集めることにしよう。
ついでにこの龍安を詰める作業をしてくれる人も雇いたいな。
そんなことを思っていると、アイリーンが俺の元へ戻ってきた。
「マスター。先ほどの方のようです。さっそく龍安を十袋買いたいと。既に価格は伝えてあります。そんなに安くていいのかと驚かれました」
「本当かい? それは良かった。それじゃあ、これを持っていこう。あ、俺も行くよ」
袋に詰めたばかりの龍安を運び、男性に渡す。
受け取った男性は満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう! あんたのおかげでいい年が過ごせそうだ! 他のみんなにも宣伝しておくよ!!」
「それは助かるよ。正直、全員に試してもらうのはさすがに大変だからね」
男性の宣伝のおかげか、それからすぐに俺のギルドには龍安を手に入れようと、大勢の農家が連日訪れた。
さすがに量も多いので、すぐに新しいメンバーを雇うことにした。
俺が思ってた以上に龍安の効果は凄まじい。
不作に嘆いていた農家たちは豊作を喜び、市場には立派な作物が並ぶようになった。
龍安はアイリーンの試算を上回るほどの売上となる。
効果を知った商人たちが、フィナリス以外の街へ売りに出したいと言ってきたのだ。
確かにダンジョンとは違い、畑はフィナリスだけじゃなく国中にある。
商人たちの目論見通り、売る場所は至るところにあった。
龍安は一般的な肥料として使われていた糞尿に比べていくつも優れた点がある。
一番は、即効性。撒いてすぐに効果が現れることだった。
既に育ち始めた作物にも使え、肥料不足からくる不育を改善する。
これには多くの農家が驚き、そして絶賛した。
さらに粉の状態では臭いがしないということも、流通には重要なことだった。
無いわけではないが、やはり糞尿を長区間運ぶというのは衛生的にも気分的にも良くないものだ。
そんな訳で俺が新しく開発した錬成肥料、龍安は、まさに飛ぶように売れ、【賢者の黒土】の名は国中に広まっていった。
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。そういえば値段を決めてなかったんだ。えーと、悪いけど、後で【賢者の黒土】に来てくれないか? それまでに用意しておくから」
男性はまるで俺に襲いかかるんじゃないかというくらいの勢いで言ってきた。
しかし俺の言葉を聞いて、少し表情を曇らせる。
「値段を決めてなかったって。言われてみれば、こっちも聞いてなかったな。おい、あんた。足元を見て、馬鹿みたいに高い値段をつけるんじゃないだろうな?」
「あ、いや。そこは安心してよ。ちゃんと適正な値段を決めてもらうから。俺はそういうの得意じゃなくてさ」
「本当か? まぁいい。それで、この粉の名前はなんて言うんだ? 名前が分からないと注文のしようがないからな」
「ん? ああ。名前は硫安って言うんだ」
「りゅうあん? 龍安か! かっこいい名前だな。龍が安らぐだなんて! よし! ここの作業が終わったらすぐに向かうから、ちゃんと用意しておいてくれよ!!」
「あ……うん。それじゃあ、待ってるよ」
どうやら名前を少し間違って覚えられたみたいだが、まぁ特に問題は無いだろう。
そもそもスライムの強酸液を使っているのだから、実際の名前は俺にも分からないし。
これからはこの粉は龍安と呼ぶことにしよう。
とにかく、アイリーンに相談して値段を決めないと。
期待した効果を確認できた俺は、急いでギルドへと戻った。
行きにも増して、その足取りは軽く感じた。
「なるほど。その龍安というのは、肥料の代わりになるものなんですね? 簡単に作れるものなのですか?」
「えーと、そうだなぁ。原料は正直水と空気だけなんだけど、今のところスライムが居ないと無理だからね。俺たちには簡単に安く作れるけど、他の人には無理だと思うよ」
「それはいいですね。つまり、独占販売が出来ます。価格は……そうですねぇ……」
「そんなに高くしたくないんだ。元々は困ってる農家の人たちを助けるために思いついたものだからね」
試算を始めぶつぶつと独り言を言いながら紙に色々と書き出しているアイリーンに向かって俺は言う。
分かっているという合図だけを見せ、アイリーンはしばらく俺に話しかけることなく筆を走らせた。
「そうですね。畑に撒く量と頻度、それとこの街の畑の面積は大体これくらいですから、一袋で銀貨二十枚でいいんじゃないですかね?」
「一袋で畑一区画くらいの量があるから、それならそんなに高くないね。それで十分な儲けが出るなら、俺は問題ないよ!」
「そりゃあ出ますよ。原料はほとんどタダですからね。強いていえばマスターの労働力くらいですが」
「あははは。それなら問題ないね。よし! じゃあ、さっそく売れるように用意しようか。結果を待ってる間にちゃんと作っておいたから、しばらくは在庫に問題ないと思うよ」
アイリーンだけじゃなく、ソフィアやオティス、カーラにも手伝ってもらって、龍安を袋詰めにしていく。
結構な量なので、かなりの重労働で、みんな汗だくだ。
そんな中、ギルドの扉を叩く音がした。
アイリーンが額の汗を拭き、衣服を正してから扉へと向かう。
そういえばこちらに来てからまだ受付も含めて新しいメンバーの募集をしていないことに気がついた。
近い内に新しいメンバーを集めることにしよう。
ついでにこの龍安を詰める作業をしてくれる人も雇いたいな。
そんなことを思っていると、アイリーンが俺の元へ戻ってきた。
「マスター。先ほどの方のようです。さっそく龍安を十袋買いたいと。既に価格は伝えてあります。そんなに安くていいのかと驚かれました」
「本当かい? それは良かった。それじゃあ、これを持っていこう。あ、俺も行くよ」
袋に詰めたばかりの龍安を運び、男性に渡す。
受け取った男性は満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう! あんたのおかげでいい年が過ごせそうだ! 他のみんなにも宣伝しておくよ!!」
「それは助かるよ。正直、全員に試してもらうのはさすがに大変だからね」
男性の宣伝のおかげか、それからすぐに俺のギルドには龍安を手に入れようと、大勢の農家が連日訪れた。
さすがに量も多いので、すぐに新しいメンバーを雇うことにした。
俺が思ってた以上に龍安の効果は凄まじい。
不作に嘆いていた農家たちは豊作を喜び、市場には立派な作物が並ぶようになった。
龍安はアイリーンの試算を上回るほどの売上となる。
効果を知った商人たちが、フィナリス以外の街へ売りに出したいと言ってきたのだ。
確かにダンジョンとは違い、畑はフィナリスだけじゃなく国中にある。
商人たちの目論見通り、売る場所は至るところにあった。
龍安は一般的な肥料として使われていた糞尿に比べていくつも優れた点がある。
一番は、即効性。撒いてすぐに効果が現れることだった。
既に育ち始めた作物にも使え、肥料不足からくる不育を改善する。
これには多くの農家が驚き、そして絶賛した。
さらに粉の状態では臭いがしないということも、流通には重要なことだった。
無いわけではないが、やはり糞尿を長区間運ぶというのは衛生的にも気分的にも良くないものだ。
そんな訳で俺が新しく開発した錬成肥料、龍安は、まさに飛ぶように売れ、【賢者の黒土】の名は国中に広まっていった。
1
新作ハイファンタジーの投稿を開始しました!
子育てほのぼの物語です! 下記リンクから飛べます!!
『 平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした 』
子育てほのぼの物語です! 下記リンクから飛べます!!
『 平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした 』
お気に入りに追加
4,664
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。