ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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第3章

第83話【龍安】

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「早速だが、追加の薬をぜひ買いたい! この畑全部に撒ける分だ!! 売ってくれるだろ!?」
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。そういえば値段を決めてなかったんだ。えーと、悪いけど、後で【賢者の黒土】に来てくれないか? それまでに用意しておくから」

 男性はまるで俺に襲いかかるんじゃないかというくらいの勢いで言ってきた。
 しかし俺の言葉を聞いて、少し表情を曇らせる。

「値段を決めてなかったって。言われてみれば、こっちも聞いてなかったな。おい、あんた。足元を見て、馬鹿みたいに高い値段をつけるんじゃないだろうな?」
「あ、いや。そこは安心してよ。ちゃんと適正な値段を決めてもらうから。俺はそういうの得意じゃなくてさ」

「本当か? まぁいい。それで、この粉の名前はなんて言うんだ? 名前が分からないと注文のしようがないからな」
「ん? ああ。名前は硫安って言うんだ」

「りゅうあん? 龍安か! かっこいい名前だな。龍が安らぐだなんて! よし! ここの作業が終わったらすぐに向かうから、ちゃんと用意しておいてくれよ!!」
「あ……うん。それじゃあ、待ってるよ」

 どうやら名前を少し間違って覚えられたみたいだが、まぁ特に問題は無いだろう。
 そもそもスライムの強酸液を使っているのだから、実際の名前は俺にも分からないし。

 これからはこの粉は龍安と呼ぶことにしよう。
 とにかく、アイリーンに相談して値段を決めないと。

 期待した効果を確認できた俺は、急いでギルドへと戻った。
 行きにも増して、その足取りは軽く感じた。

「なるほど。その龍安というのは、肥料の代わりになるものなんですね? 簡単に作れるものなのですか?」
「えーと、そうだなぁ。原料は正直水と空気だけなんだけど、今のところスライムが居ないと無理だからね。俺たちには簡単に安く作れるけど、他の人には無理だと思うよ」

「それはいいですね。つまり、独占販売が出来ます。価格は……そうですねぇ……」
「そんなに高くしたくないんだ。元々は困ってる農家の人たちを助けるために思いついたものだからね」

 試算を始めぶつぶつと独り言を言いながら紙に色々と書き出しているアイリーンに向かって俺は言う。
 分かっているという合図だけを見せ、アイリーンはしばらく俺に話しかけることなく筆を走らせた。

「そうですね。畑に撒く量と頻度、それとこの街の畑の面積は大体これくらいですから、一袋で銀貨二十枚でいいんじゃないですかね?」
「一袋で畑一区画くらいの量があるから、それならそんなに高くないね。それで十分な儲けが出るなら、俺は問題ないよ!」

「そりゃあ出ますよ。原料はほとんどタダですからね。強いていえばマスターの労働力くらいですが」
「あははは。それなら問題ないね。よし! じゃあ、さっそく売れるように用意しようか。結果を待ってる間にちゃんと作っておいたから、しばらくは在庫に問題ないと思うよ」

 アイリーンだけじゃなく、ソフィアやオティス、カーラにも手伝ってもらって、龍安を袋詰めにしていく。
 結構な量なので、かなりの重労働で、みんな汗だくだ。

 そんな中、ギルドの扉を叩く音がした。
 アイリーンが額の汗を拭き、衣服を正してから扉へと向かう。

 そういえばこちらに来てからまだ受付も含めて新しいメンバーの募集をしていないことに気がついた。
 近い内に新しいメンバーを集めることにしよう。

 ついでにこの龍安を詰める作業をしてくれる人も雇いたいな。
 そんなことを思っていると、アイリーンが俺の元へ戻ってきた。

「マスター。先ほどの方のようです。さっそく龍安を十袋買いたいと。既に価格は伝えてあります。そんなに安くていいのかと驚かれました」
「本当かい? それは良かった。それじゃあ、これを持っていこう。あ、俺も行くよ」

 袋に詰めたばかりの龍安を運び、男性に渡す。
 受け取った男性は満面の笑みを浮かべていた。

「ありがとう! あんたのおかげでいい年が過ごせそうだ! 他のみんなにも宣伝しておくよ!!」
「それは助かるよ。正直、全員に試してもらうのはさすがに大変だからね」

 男性の宣伝のおかげか、それからすぐに俺のギルドには龍安を手に入れようと、大勢の農家が連日訪れた。
 さすがに量も多いので、すぐに新しいメンバーを雇うことにした。

 俺が思ってた以上に龍安の効果は凄まじい。
 不作に嘆いていた農家たちは豊作を喜び、市場には立派な作物が並ぶようになった。

 龍安はアイリーンの試算を上回るほどの売上となる。
 効果を知った商人たちが、フィナリス以外の街へ売りに出したいと言ってきたのだ。

 確かにダンジョンとは違い、畑はフィナリスだけじゃなく国中にある。
 商人たちの目論見通り、売る場所は至るところにあった。

 龍安は一般的な肥料として使われていた糞尿に比べていくつも優れた点がある。
 一番は、即効性。撒いてすぐに効果が現れることだった。

 既に育ち始めた作物にも使え、肥料不足からくる不育を改善する。
 これには多くの農家が驚き、そして絶賛した。

 さらに粉の状態では臭いがしないということも、流通には重要なことだった。
 無いわけではないが、やはり糞尿を長区間運ぶというのは衛生的にも気分的にも良くないものだ。

 そんな訳で俺が新しく開発した錬成肥料、龍安は、まさに飛ぶように売れ、【賢者の黒土】の名は国中に広まっていった。
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子育てほのぼの物語です! 下記リンクから飛べます!!
平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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