ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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第3章

第82話【信頼の獲得】

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 次の日、俺はうきうきとした気分で、昨日出かけた畑まで向かった。
 カバンの中には昨日作った錬成品を入れた袋が入っている。

「改めて見ると、広大だなぁ。この畑全部に撒くだけを作るとなると、結構大変だ。でもその分売り上げも期待できるね」

 独り言を呟きながら、更に畑に近付き、昨日話しかけた男性を見つけたので声をかける。

「こんにちは」
「おや? あんたか。昨日といい今日といい。一体何の用なんだ? 悪いがこう見えて忙しくてね。特に用がないなら、向こうへ行ってくれないか?」

 男性は俺の方に目を向けた後、そう言うと再び作業を始めた。
 確かにただの世間話をするだけでは、仕事の邪魔をしてるだけになるだろう。

 俺は用件を伝えるために、カバンから白い粉が入った袋を取り出すと、男性に見えるように袋の口を開いた。

「実は今日は良いものを持ってきたんだ。肥料が足りないって言っていただろう? その代わりになるものを作ったんだ。これを畑に撒いたら、これまで通りの収穫が期待できると思うよ」
「なんだって?」

 俺の言葉に、下を向き作業を続けていた男性が再び俺の方に顔を向けた。
 そして俺の差し出した袋に目がいくと、良く見えるようにとかがめていた体をまっすぐに伸ばし、袋の中身の覗き見る。

「なんだ? この白い粉は。これが糞尿の代わりだって? 冗談じゃない。とてもじゃないけど信用できないね」
「そんなことを言わずに、撒いてみてくれないかな? そうすればこの粉の効果が分かるから」

「あんたねぇ。誰だか知らないけど、この畑で取れたものを売った金が俺の稼ぎになるんだ。遊びじゃないんだよ。そんな得体のしれない物、畑に撒いて、万が一作物がダメになったらどうする? あんた責任取ってくれるのかい?」

 男性は険しい顔つきで俺に詰め寄る。
 少し考えが甘かったようだ。

 男性が言う通り、この畑で取れた作物は男性や男性の家族の生命線だ。
 知り合いでもない俺が持ってきた、良く分からない物をいきなり使ってくれるはずないのだ。

 俺はどうすればこの粉を使ってくれるか考える。
 農業のことは知らないが、前世の俺の記憶が正しければ、この粉を撒けば収穫量は必ず改善するはずなのだ。

 一度でも成果が出れば、使ってくれるはずだが、その一度が難しい。
 以前俺の魔法薬を売り込むために使った、無料で配布するというのも今回は使えない。

 いくら無料であげたとしても、使ってもらえなければ意味がないのだ。
 どうやったら使ってもらえるだろうか。

「そうだ。責任を取ればいいんだ」

 俺はいい案を思いつき、思わず呟く。

「うん? なんだい? とにかく。そんな変な物を畑に撒くなんてごめんだね。分かったら、あっちへ行ってくれないか」
「提案があるんだ。その区画にこの粉を撒かせて欲しい」

「だから! ダメだって言っているだろう!! 分からない人だなぁ」
「その代わり、その区画で育つ予定の作物は全て俺が買い取ろう。事前に支払ってもいい」
「なんだって!?」

 明らかにめんどくさそうな顔つきをしていた男性は、続く俺の言葉を聞いた途端顔色を変えた。
 俺は更に説明を続ける。

「あなたがいくらで売るのか知らないけれど、俺のこの粉を試してくれたら、この区画で出来た作物を相場の二倍で買い取る。それがきちんと育ってもうまく育たなくてもだ。それならあなたも安心だろう?」
「あんた。正気かい? それともなんか企んでるのかい?」

「いいや。俺はこの粉の効果を実感してもらいたいと思っているんだ。でも、説明だけじゃあ、どうやっても使ってもらえないだろう? だから、実際に使ってみてもらうしかない。だから責任を先に取るっていう提案をしているんだ。どうだい? ダメなら、他の人を当たるけど」
「うーん……相場の二倍ってのは嘘じゃないんだろうね? それに枯れようが育たなかろうが、先払いってのも」

「うん。嘘じゃないよ。使ってくれるかい?」
「分かったよ。使ってみる。その代わり、もしダメだったら、他の農家にも知らせるからね」

 俺は男性から聞いた価格を懐から出すと、男性に手渡した。
 驚いたのは、俺が思っていた以上に相場が低かったことだ。

「なんでそんなに安いのかって? そりゃあ、あんたが店で買う頃には、色んな人たちが儲けを上乗せしてるからね。ただでさえ不作なのに、育ちが悪いってんで買いたたかれてんだ。それでも生きてくためには農業を続けるしかないからね」

 男性は苦しそうな顔をしながら、そう言う。
 すぐに何か出来るわけでもない俺は、ただ黙って聞いているしかなかった。

「それで。ここにこの粉を撒けばいいんだな?」
「ああ。土の上に均等に撒いてくれ。一週間もしたら効果が分かるだろうから、その頃また来るよ」

 男性が袋の中身を全て撒いたことを確認した俺は、再び訪れることを告げると、畑を後にした。
 念のため、他のいくつかの畑でも、同じように金をこちらから払い試してもらうように頼んだ。

 頼りになるのは前世の俺の記憶だけだったため、上手くいくよう内心祈るような気持ちで時が経つのを待った。
 そして一週間後。

 俺は約束通り男性の畑へと向かう。
 この前と同じように作業をしていた男性を見つけると声をかける。

「やあ。約束通り見に来たよ。どうだい? 効果のほどは」
「ああ! あんたか!! よく来てくれた!! 驚いたよ。まるで魔法の薬だ。見てくれ! あんたがくれた粉を撒いた付近だけ、見違えるようだよ!!」

 満面の笑みを作る男性の指の示す方角に目を向けると、そこには青々とした作物が育っていた。
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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