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第3章
第81話【臭いガス】
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「言われた通り、鉱山で取れた鉄鉱石をいくつか集めました。これをどうするんですか?」
「ありがとう。錬成に使うんだ。そこに置いておいてよ」
錬成の工房に訪れたアイリーンは、両手に抱えた俺のお願いしていた鉄鉱石を机の上に並べていく。
俺はその鉄鉱石を一つ手に取ると、反応表面が大きくなるように砕いてからエアースライムの中に入れた。
「そういえば、マスターが実際に何かを作るところを見るのは初めてですね。後ろで見ていてもよろしいですか?」
「え? えーと、良いけど。ちょっと独特の臭いがするから気を付けてね。毒ガスでもあるから、出来るだけ漏らさないようにするけどさ」
「え!? 毒ガスを作るんですか!? てっきり農業に役立つものを作るのかと……」
「もちろん、農業に役立つものを作るんだよ。その途中で出来るものが危険で臭いがあるだけで、出来上がったものはそんなに危険じゃないよ」
俺の言葉に少し引き気味のアイリーンに向かって、俺は笑顔で答える。
実際、これから作るものは危なくなんかないし、この街の農業にとって大いに役立つものだ。
ただ、途中で発生するガスは凄く臭い。
前世の俺の記憶によれば、直接臭いを嗅ぐと頭をガツンと突き抜けるような衝撃を受けるような臭さだった。
前世の俺はうかつにも室温でそれが入った容器の口を鼻に近づけて吸ってしまった。
その時はしばらく動けなくなるほどだった。
とにかく、反応で作られたガスをエアースライムの外に出すのは危険ということだ。
きちんと中で臭いがしない状態になるようにしよう。
「さて。始めるよ。失敗するかもしれないから気を付けてね?」
「え!? やめてくださいよ。やっぱり見るのやめた方がいいですか?」
「あはは。冗談だよ。多分成功するから。まぁ見ててよ」
「はぁ……」
訝しげな表情を向けるアイリーンをしりめに、俺はエアースライムに必要な素材を入れていく。
今回必要なのは水と空気、先ほど入れた鉄鉱石は【触媒】と言って、厳密に言うと素材ではない。
【触媒】というのは、反応が起こりにくい錬成において、その反応を起きやすくする効果を持つ。
素材ではないけれど、これがなければそもそも錬成が出来ないため、とても重要な物だと言える。
というのも前世の俺の知識であって、今から作るものというのが出来るのかどうか、正直なところ半信半疑だ。
しかし今までもそうだったように、前世の俺の知識はこの世界でも十分に通用するものが数多くあった。
今回も成功することを祈り、俺は作業を始めた。
「それは何をしているんですか? スライムの周りをスライムで覆ったりして」
「うん? ああ。これはね、エアースライムの中の温度を上げているのさ。ただ、このままだとスライム自体が耐えられないから、周りをアロイスライムで覆って保護しているんだ」
物というのは熱をかけ温度が上がると膨張する。
特に気体はその影響はすさまじく、放っておけばエアースライムは俺が加えた熱のせいで膨張し、破裂してしまう。
そこで、頑丈なアロイスライムでエアースライムを覆い、膨張しないように保護する。
すると、今度は膨張が出来ないので、気圧が上がる。
高温と高い圧力。
この二つがこれから作る物の反応には必要だった。
俺は慎重に熱を加えながら目的の温度を目指す。
狙うのは、銅が溶け、鉄を溶かさない程度の温度だ。
昔の俺なら、そこまで正確な温度調節は難しかったが、カーラとのやり取りを通じて、どのくらいの熱をかければ狙った温度になるのか、ある程度の目安が出来ていた。
狙いの温度に達したことを確認すると、その温度を保ったまましばらくの間待つ。
「よし。出来たかどうか臭いを嗅いで確認してみようか。アイリーン、今からさっき言ってたガスを少し出すから気を付けてね」
「え、え!? ちょっと待ってください! やっぱり私、出ていきますね!」
そう言うとアイリーンはそそくさと工房から出て行ってしまった。
普通の人の反応を考えれば、あれが正当なのかもしれない。
そんなことを思いながら俺は熱を常温に戻し、エアースライムを覆っていたアロイスライムをどけると、中のガスをほんの少しだけ外に出すよう、エアースライムに頼む。
前世の俺の教訓を生かし、今回は直接鼻を近付けるようなことはせず、手でそのガスを仰ぐようにして鼻へ寄せる。
「うっ! 臭い!!」
突くような独特の刺激臭を感じ、思わず顔をゆがめてしまう。
しかし前世の記憶の臭いと全く同じ臭いだったため、予定通り望みの物が出来ているのは間違いないようだ。
「よし。これで、まずは一安心だな。あとはこれとスライムの強酸液を反応させればいいのか」
俺はエアースライムの中にスライムの強酸液を加えていく。
これでスライムの強酸液の中に出来たガスは溶けていくはずだ。
しばらく待った後、再びエアースライムに中の空気を出してもらってみたところ、今度は臭いがほとんどしなかった。
どうやら、こちらも成功のようだ。
その後ガスが溶けたスライムの強酸液を処理し、白い綺麗な結晶を作ることが出来た。
「出来た! これを畑に撒けば、問題は解決するはずだ!」
「ありがとう。錬成に使うんだ。そこに置いておいてよ」
錬成の工房に訪れたアイリーンは、両手に抱えた俺のお願いしていた鉄鉱石を机の上に並べていく。
俺はその鉄鉱石を一つ手に取ると、反応表面が大きくなるように砕いてからエアースライムの中に入れた。
「そういえば、マスターが実際に何かを作るところを見るのは初めてですね。後ろで見ていてもよろしいですか?」
「え? えーと、良いけど。ちょっと独特の臭いがするから気を付けてね。毒ガスでもあるから、出来るだけ漏らさないようにするけどさ」
「え!? 毒ガスを作るんですか!? てっきり農業に役立つものを作るのかと……」
「もちろん、農業に役立つものを作るんだよ。その途中で出来るものが危険で臭いがあるだけで、出来上がったものはそんなに危険じゃないよ」
俺の言葉に少し引き気味のアイリーンに向かって、俺は笑顔で答える。
実際、これから作るものは危なくなんかないし、この街の農業にとって大いに役立つものだ。
ただ、途中で発生するガスは凄く臭い。
前世の俺の記憶によれば、直接臭いを嗅ぐと頭をガツンと突き抜けるような衝撃を受けるような臭さだった。
前世の俺はうかつにも室温でそれが入った容器の口を鼻に近づけて吸ってしまった。
その時はしばらく動けなくなるほどだった。
とにかく、反応で作られたガスをエアースライムの外に出すのは危険ということだ。
きちんと中で臭いがしない状態になるようにしよう。
「さて。始めるよ。失敗するかもしれないから気を付けてね?」
「え!? やめてくださいよ。やっぱり見るのやめた方がいいですか?」
「あはは。冗談だよ。多分成功するから。まぁ見ててよ」
「はぁ……」
訝しげな表情を向けるアイリーンをしりめに、俺はエアースライムに必要な素材を入れていく。
今回必要なのは水と空気、先ほど入れた鉄鉱石は【触媒】と言って、厳密に言うと素材ではない。
【触媒】というのは、反応が起こりにくい錬成において、その反応を起きやすくする効果を持つ。
素材ではないけれど、これがなければそもそも錬成が出来ないため、とても重要な物だと言える。
というのも前世の俺の知識であって、今から作るものというのが出来るのかどうか、正直なところ半信半疑だ。
しかし今までもそうだったように、前世の俺の知識はこの世界でも十分に通用するものが数多くあった。
今回も成功することを祈り、俺は作業を始めた。
「それは何をしているんですか? スライムの周りをスライムで覆ったりして」
「うん? ああ。これはね、エアースライムの中の温度を上げているのさ。ただ、このままだとスライム自体が耐えられないから、周りをアロイスライムで覆って保護しているんだ」
物というのは熱をかけ温度が上がると膨張する。
特に気体はその影響はすさまじく、放っておけばエアースライムは俺が加えた熱のせいで膨張し、破裂してしまう。
そこで、頑丈なアロイスライムでエアースライムを覆い、膨張しないように保護する。
すると、今度は膨張が出来ないので、気圧が上がる。
高温と高い圧力。
この二つがこれから作る物の反応には必要だった。
俺は慎重に熱を加えながら目的の温度を目指す。
狙うのは、銅が溶け、鉄を溶かさない程度の温度だ。
昔の俺なら、そこまで正確な温度調節は難しかったが、カーラとのやり取りを通じて、どのくらいの熱をかければ狙った温度になるのか、ある程度の目安が出来ていた。
狙いの温度に達したことを確認すると、その温度を保ったまましばらくの間待つ。
「よし。出来たかどうか臭いを嗅いで確認してみようか。アイリーン、今からさっき言ってたガスを少し出すから気を付けてね」
「え、え!? ちょっと待ってください! やっぱり私、出ていきますね!」
そう言うとアイリーンはそそくさと工房から出て行ってしまった。
普通の人の反応を考えれば、あれが正当なのかもしれない。
そんなことを思いながら俺は熱を常温に戻し、エアースライムを覆っていたアロイスライムをどけると、中のガスをほんの少しだけ外に出すよう、エアースライムに頼む。
前世の俺の教訓を生かし、今回は直接鼻を近付けるようなことはせず、手でそのガスを仰ぐようにして鼻へ寄せる。
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突くような独特の刺激臭を感じ、思わず顔をゆがめてしまう。
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