ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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第3章

第79話【目的】

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 俺はしっかりとレクターの方を見る。
 事前に話を聞いているソフィアとオティスも、事態を理解し臨戦態勢をとっていた。

 唯一状況が把握できていないモルガンだけが、ヘクターに向かってのんきに声をかける

「ハンス殿の知り合いか? 珍しい魔法を使うのだな?」
「ハンスだと? まさかこんなところで出会うとはな。なるほど。さっきの薬はそういうことか。あんたは俺と同じ側の人間なんだろ? どうだ? 手を組まないか? 俺一人でも問題ないが、あんたと二人ならもっと面白いことを思いつくかもしれない」

 モルガンの方を無視して、レクターは俺に向かってそう言う。
 まるで新しいおもちゃでも見つけたような嬉しそうな顔をしている。

「前に話した時は人間を強化する薬を試している時だったな? あれはなかなか難しくてな。だが、こっちの方はそれよりも上手くいっている。何でもないモンスターをまさに化け物に変貌させるんだ。まだ始めたばかりだが、見ろ。面白いほど巨大化した」
「何故そんなことをする。何が目的だ?」

「何故だと? 知的好奇心以上に必要な理由が世の中にあるか? 無敵の人間、最強の生物。考えただけでも胸が高鳴るだろう? 前の世界では夢物語だった。だが、こっちの世界は違う。夢が現実になったんだ。ならばむしろ何故やらない?」
「知的好奇心だって? そんなことで他人を巻き込んだ実験をしていいと思っているのか! お前の薬のせいで、ロナウドは廃人になってしまったんだぞ!」

 レクターは俺に冷笑を向け、肩をすくめる。
 まるで、何をそんな馬鹿なことをわざわざ言っているのだとでも言っているようだ。

「実験に失敗も犠牲も付き物だ。しかし、その失敗の先に成功がある。そして実験のためにはモルモットは必須だ。ああ、こちらにはない言葉だったな。実験動物って意味だ」
「この世界の生き物全てがお前の実験動物だというつもりか?」

「そうだ。すでに俺やお前はこの世界からも前の世界からも逸脱した人間だ。何故枷をはめる? まぁいい。すまんがこう見えて多忙の身でな。また何処かで出会えることを楽しみにしてる。リリス、行くぞ」
「了解しました。マイ、マスター」

 リリスとヘクターに呼ばれたメイド服姿の女性は、無機質な声でそう答える。
 その途端、二人の身体は凄い速さで飛んで行った。

 どうやら、リリスという女性が二人の身体を浮かばせる魔法を使っていたようだ。
 ヘキウスと同じ種類の魔法だろうか。

 魔法をかける人数が少ないせいか、それともリリスの魔法がヘキウスよりも優れているのかは分からないが、瞬く間に遠く彼方へとレクターたちは姿を消す。
 俺たちは互いに顔を見合わせ、モルガンだけが全く何が起こったのか分からないと言った顔をしていた。

「一体、あの二人は何だったのだ? ハンス殿の知り合いと思っていたが……」
「詳しいことは戻ってから話すよ。ヴァイト伯爵にも報告しないといけないから」

「そうか。分かった。では、早速街に戻るとしよう。こちらも無事に坑道内のモンスターの駆除が終了したことを報告しなければ。モンスターの方は、こちらの方で処理するよう手配する」
「あ、片付けるのはお願いしたいけど、処分は待ってくれないかな。何かの手掛かりになるかもしれない」

 俺の言った意図は分からなかったようだが、意味は分かったらしく、モルガンは一度頷く。
 こうして俺らは、鉱山を後にして、ヴァイト伯爵の屋敷へと向かった。



「なんだと? 鉱山で例のレクターに出会っただと? それで、あやつはいったい何を企んでるのだ?」

 
 屋敷についた俺たちは、すぐにヴァイト伯爵への謁見を申し入れた。
 幸い時間を置かずに報告することが出来た。

 先にモルガンから鉱山のモンスターの駆除が無事に済んだことを伝えてもらった後に、俺がレクターに会ったことを伝えると、ヴァイト伯爵は椅子から身を乗り出し、驚いた表情でそう聞いてきた。

「俺も詳しいことは分かりません。ただ、レクターは人間やモンスターを使って実験をしていると言っていました。今回の鉱山に現れたモンスターもその実験の一環だったようです。もしかしたら他でも同様の実験をしている可能性が」
「なんと……話によれば、あの鉱山に現れたモンスターは元は手のひらほどの大きさだというではないか。それが人ほどに大きくなるとは……」

 そう言った後、ヴァイト伯爵は握った拳の上に顎を乗せ、しばし考えるような仕草を見せた。
 考えがまとまったらしく、おもむろにこちらを向き口を開く。

「今回の件は、モンスターの発見時にすぐに鉱夫たちを避難させたから人的被害は幸いにもなかったが、今後同じようなモンスターが出現しないとも限らん。しかし、今回の報告を聞いて、モンスターを相手にするのはやはり専門家に任せた方が良さそうだ」
「といいますと?」

「うむ。ソフィア殿、オティス殿。つまり【賢者の黒土】には、今後もモンスターの脅威が迫った時に、優先的に対応を願いたい。もちろん二人だけでなく、他にも探索者という者を募ってくれても構わん」
「なるほど。分かりました。それで問題ないかな? 二人とも」

 話を横で聞いているソフィアとオティスに念のため確認する。
 二人とも大きく一度頷いた。

「問題ないようだな。それでは、もちろん依頼の際には都度適切な報酬を用意することは約束するが、より明確にするために、【賢者の黒土】には我が領土における守護者の称号を与えよう」
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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