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第3章
第76話【気体の重さ】
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「どういうことだい?」
ソフィアの言葉に俺は質問を投げかける。
出入口が一つなのはそうだろうが、それが今回の討伐と何が関係するのだろうか。
それに俺の薬を使うというのも気になるところだ。
良く分かっていない俺に、ソフィアは満面の笑みを浮かべて答えを言う。
「だから。モンスター除けを使うんだよ。坑道の中にモンスター除けを撒けば、嫌になって外に出てくるだろう? それを片っ端から倒していけばいいんだ」
「でもそれって、結局一回は中に入るってことだよね? 結局坑道の中をくまなく歩きまわらないといけないんじゃないの?」
自慢気に言うソフィアに、オティスがすぐさまその考えの欠点を指摘する。
その指摘にソフィアはぐっと声を詰まらせる。
そんなやり取りを見て俺たちは笑う。
しかし、俺は事前に聞いていた坑道の形を思い出し、ソフィアの考えは割と理に適っているようにも思った。
「あはは。いい考えだと思うよ、ソフィア。それに、中に入らなくても大丈夫だと思うよ」
「本当か!? ハンス、どうやるんだ?」
「どうやるも何も、入り口でモンスター除けを焚くんだ」
「は? 何を言っているんだ? それじゃあモンスターは外じゃなく坑道の中に潜ってしまって逆効果だろう?」
ソフィアは顔をしかめて反論する。
確かに、何も知らなければその考えをするのも分からないでもない。
しかし、前世の記憶によれば、重さなどないと思える気体にも、重い軽いがあるらしい。
俺たちが普段生活している空間にある空気よりも、モンスター除けの成分の気体はずっと重い。
つまり、モンスター除けの成分は、放っておけば、下へ下へと下がるということになる。
そして幸いなことに、鉱山は入り口から斜面を降りるように掘り進められているらしい。
ある程度下がったところでは同じ高さになっているだろうが、とにかく入り口が一番高いところにあるというのが重要だ。
そこで焚いたモンスター除けの成分は、自然と坑道の中へと沈んでいく。
最終的には奥に行くほど濃度が濃くなるはずだから、ソフィアの期待通り、モンスターは入り口に殺到するだろう。
どのくらいのモンスターが潜んでいるか分からないが、いくら一般人では手が出せないと言っても、ソフィアやオティスにかかれば物の数ではないので安心していい。
「というわけで、モンスター除けの成分は、勝手に坑道の奥深くまで広がってくれるんだ。だから、中に入らなくてもいいんだよ」
「なるほどなぁ。全く分からなかったが、とにかくハンスのことを信じてるから、よろしく頼んだぞ」
ソフィアは深く頷き、そんなことを言う。
全く分からないのなら、最初のなるほどは何だったのか。
「もう、ソフィアはダンジョン内だとすごく頼りになるのに、こういう所は全然だめだね」
「まぁまぁ、オティスさん。人には何事も向き不向きがありますから」
どうやらオティスとアイリーンはきちんと理解してくれたらしい。
ちなみにカーラはすでに飽きたのか、酒を飲み始めている。
「とにかく、モンスター除けを使ってモンスターを入り口までおびき寄せることは出来ると思うから。坑道の中を満たすにはそれなりの量が必要だろうから、今から念のため作っておくよ」
「ああ。頼むハンス。モンスターを上手くおびき出してさえくれれば、あとは私が何とかするから安心しろ」
ソフィアは嬉しそうに笑顔を作る。
きっと街の男が見れば、十人のうち十人が見惚れるようなそんな笑顔だ。
「ん? どうしたハンス? 私の顔をじっと見つめて。なんか付いているか?」
「あ、いや。ソフィアは笑ってたら可愛いのに、と思って」
つい出てしまった言葉に、ソフィアは頬を膨らませて不満の意思を表現する。
「なんだと? 笑ってない私は可愛くないって言いたいのか?」
「あ、いや。あははは。ソフィアはいつも可愛いよ。うん」
我ながら下手な誤魔化しだったが、何故かソフィアはそれに怒るでもなく、再び笑顔になる。
よく分からないが、さっきの失言は許してくれたということだろう。
「それじゃ、俺はこれから錬成を始めるから、また明日」
「分かった。と言っても、今日からしばらくは皆ここに住むんだろう?」
「ああ、そうだったね」
ソフィアの指摘通り、今日引っ越してきたばかりの俺たちは、ギルドの一室をそれぞれ自分の自室として使うことにした。
もちろん、各自で自由に住む場所を決めていいと言ったのだが、皆ここでいいと言いだしたので、結局全員が無期限で住むことになっている。
一応間違いがないように、男の俺とオティスの部屋と、ソフィアとカーラそしてアイリーンの部屋の区画は分けてある。
新しいギルド舎は、古かったが十分過ぎるほどの広さがあるので、しばらくは新しく入ったメンバーも、住みたいと言えば住まわせてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は錬成工房に向かい、モンスター除けの錬成を始めた。
ソフィアの言葉に俺は質問を投げかける。
出入口が一つなのはそうだろうが、それが今回の討伐と何が関係するのだろうか。
それに俺の薬を使うというのも気になるところだ。
良く分かっていない俺に、ソフィアは満面の笑みを浮かべて答えを言う。
「だから。モンスター除けを使うんだよ。坑道の中にモンスター除けを撒けば、嫌になって外に出てくるだろう? それを片っ端から倒していけばいいんだ」
「でもそれって、結局一回は中に入るってことだよね? 結局坑道の中をくまなく歩きまわらないといけないんじゃないの?」
自慢気に言うソフィアに、オティスがすぐさまその考えの欠点を指摘する。
その指摘にソフィアはぐっと声を詰まらせる。
そんなやり取りを見て俺たちは笑う。
しかし、俺は事前に聞いていた坑道の形を思い出し、ソフィアの考えは割と理に適っているようにも思った。
「あはは。いい考えだと思うよ、ソフィア。それに、中に入らなくても大丈夫だと思うよ」
「本当か!? ハンス、どうやるんだ?」
「どうやるも何も、入り口でモンスター除けを焚くんだ」
「は? 何を言っているんだ? それじゃあモンスターは外じゃなく坑道の中に潜ってしまって逆効果だろう?」
ソフィアは顔をしかめて反論する。
確かに、何も知らなければその考えをするのも分からないでもない。
しかし、前世の記憶によれば、重さなどないと思える気体にも、重い軽いがあるらしい。
俺たちが普段生活している空間にある空気よりも、モンスター除けの成分の気体はずっと重い。
つまり、モンスター除けの成分は、放っておけば、下へ下へと下がるということになる。
そして幸いなことに、鉱山は入り口から斜面を降りるように掘り進められているらしい。
ある程度下がったところでは同じ高さになっているだろうが、とにかく入り口が一番高いところにあるというのが重要だ。
そこで焚いたモンスター除けの成分は、自然と坑道の中へと沈んでいく。
最終的には奥に行くほど濃度が濃くなるはずだから、ソフィアの期待通り、モンスターは入り口に殺到するだろう。
どのくらいのモンスターが潜んでいるか分からないが、いくら一般人では手が出せないと言っても、ソフィアやオティスにかかれば物の数ではないので安心していい。
「というわけで、モンスター除けの成分は、勝手に坑道の奥深くまで広がってくれるんだ。だから、中に入らなくてもいいんだよ」
「なるほどなぁ。全く分からなかったが、とにかくハンスのことを信じてるから、よろしく頼んだぞ」
ソフィアは深く頷き、そんなことを言う。
全く分からないのなら、最初のなるほどは何だったのか。
「もう、ソフィアはダンジョン内だとすごく頼りになるのに、こういう所は全然だめだね」
「まぁまぁ、オティスさん。人には何事も向き不向きがありますから」
どうやらオティスとアイリーンはきちんと理解してくれたらしい。
ちなみにカーラはすでに飽きたのか、酒を飲み始めている。
「とにかく、モンスター除けを使ってモンスターを入り口までおびき寄せることは出来ると思うから。坑道の中を満たすにはそれなりの量が必要だろうから、今から念のため作っておくよ」
「ああ。頼むハンス。モンスターを上手くおびき出してさえくれれば、あとは私が何とかするから安心しろ」
ソフィアは嬉しそうに笑顔を作る。
きっと街の男が見れば、十人のうち十人が見惚れるようなそんな笑顔だ。
「ん? どうしたハンス? 私の顔をじっと見つめて。なんか付いているか?」
「あ、いや。ソフィアは笑ってたら可愛いのに、と思って」
つい出てしまった言葉に、ソフィアは頬を膨らませて不満の意思を表現する。
「なんだと? 笑ってない私は可愛くないって言いたいのか?」
「あ、いや。あははは。ソフィアはいつも可愛いよ。うん」
我ながら下手な誤魔化しだったが、何故かソフィアはそれに怒るでもなく、再び笑顔になる。
よく分からないが、さっきの失言は許してくれたということだろう。
「それじゃ、俺はこれから錬成を始めるから、また明日」
「分かった。と言っても、今日からしばらくは皆ここに住むんだろう?」
「ああ、そうだったね」
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