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第三章【天才、無双する】
第三五話【挑発】
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「おい。無視か? それとも魔法の使い方だけじゃなく言葉の発し方すら知らないか?」
男はさらに言葉を続ける。
それには侮蔑と嘲りの感情が隠すどころか、俺に見せつけるかのように乗せられていた。
「俺はお前のことを知らない。忘れてしまったんだ。残念ながらな」
身体の震えはもうない。
どうやら身体に染みついた記憶も、俺の意思を支配するほどではなかったようだ。
血のように赤い髪をした男の深紅の瞳をまっすぐに見据えて言葉を返す。
その様子に男は怪訝そうな表情を一瞬見せてから、呆れたような仕草をわざとらしくした。
「冗談だろ? 忘れた? この俺を? はっ! 面白れぇこというじゃねぇか。まさか、そんなクソみたいな方法でやり過ごそうって魂胆か? それともいくら何でも俺がそんなことしないとでも踏んだか? 残念だったな。約束は守らねぇとな。合宿が終わったらお前の家は……」
そう言いながら、男は軽く開き上を向けた手のひらの中で、小規模の爆発魔法を発生させた。
俺の家を、と言ってたがどういう意味だろうか。
「まぁ、優しい俺様は、せっかくだから猶予をやろう。せっかく合宿にいるんだ。その間に約束通り、てめぇが死ねば、お前の家は許してやろう」
「お前が誰だか分からないが、はっきりと言っておこう。俺はお前との約束など覚えていないし、死ぬこともない。もちろん俺の家や家族に危害を加えることすら許さない。お前が何をしようともな」
はっきりと相手の目を見て言い放った俺の言葉に、男は片手で顔を覆いながら、仰け反るように笑い始めた。
「は、はははははぁっ‼ おいおい。まじかよ……本当に忘れちまったのか? このブルーノ、ブルーノ・フレイムを。あっはっはっはぁ! こいつはいい! ……ふざけてるんじゃねぇぞ?」
ブルーノは自らの顔を覆ってた手をゆっくりと退けると、座った目付きで俺を睨む。
おそらく元のフィリオがこんな目ですごまれてしまったなら、縮こまってしまったに違いない。
それほどまでにブルーノの持つ魔力量は甚大だった。
怒りと共に無意識に身体の周囲から湯気のように魔障が発生し揺らめいている。
自分で制御しているというよりも、感情と連動して魔力を魔法へと変換しようと勝手に反応しているようだ。
理論など知らなくても感覚で魔法を使う者がいるとは聞いたことがあるが、ブルーノほどの魔力量で実際目の前でやられると、実に興味深い。
「あーダメだ。適当に死ぬなんて面白くないな。そんなんじゃあ、もう面白くねぇ。どういう理由でここにいるのか知らねぇが、てめぇも最終日の実習に参加しろ。間違っても逃げようなどと思うなよ? そこで俺と対戦だ。俺が嬲り殺してやる。実習中の事故だ。仕方ないだろう?」
「対戦すると言っても、俺と当たるかどうかなんて分からないだろう?」
「ああん? そんなんどうでもできるんだよ! 一回戦だ。どうせてめぇが勝ち進めるとは思えねぇ。わざと負けることも考えられる。だから一回戦でてめぇを公開処刑だ。分かったな?」
「もし、結果が逆だったら?」
俺の返答が癪に障るのか、ブルーノは端正な顔の額に青筋を浮かべる。
「てめぇ自分で何言ってんのか分かってるのか?」
「答えてくれ。もし最終日の一回戦で俺がお前に勝ったらどうするんだ? その約束とやらを破棄してくれるのか?」
「んなわけねぇだろうが‼ もしてめぇが俺に勝ったら⁉ そんな可能性はゼロだがな! もし俺がそんな無様な思いさせられたら、許せねぇ。許されるはずがねぇ。てめぇやてめぇの家族だけじゃねぇ。てめぇに関わった人間全員地獄を見せてやるよ!」
てっきりそんなことありえないからと約束の破棄へ同意してくれると思ったが、そこまで甘くはなかったみたいだ。
それにしてもこのブルーノという男。
おそらく相当な権威のある爵位の子息なのだろう。
それに自分自身の魔法についてもかなり自信があるようだ。
性格は……見ての通り最悪のようだが。
「そもそも、なんで俺が死ななくちゃいけないんだ? 俺がお前に何かしたのか?」
「あん? てめぇが俺に何かしたかだと? そんなもんねぇよ。そもそもてめぇなんかが俺様に何かできるわけねぇだろ。ただ目障りだった。それだけだ。能力もないゴミ。ゴミは焼却だろうが。頭が少しでも使えるんなら、自分で燃えろよ。それだけだ」
「なるほど。良く分かった。実習中の不慮の事故による死はしかたない、だったな?」
「おい! そこ! 何をしている! さっさと並ばんか!」
教師の声に俺は周囲を見る。
どうやらいつの間にか時刻が来てしまっていたようだ。
すぐに動かなかったためか、教師が短気なのか、すぐに次の言葉が飛んできた。
「そこの三人! お前らだ! ……⁉ これは………フレイム赤爵。貴方とは知らずに、失礼しました」
「ちっ! まぁいい。覚えていろよ? 最終日だ。そこでお前の人生は終わりだ。せいぜい残りの短い時間を楽しむんだな。はっはぁ!」
そう言うとブルーノはゆっくりと俺から離れていった。
終始無言だったアムレットは困惑した顔を見せる。
「大丈夫だ。ひとまず、俺らも並ぼう」
アムレットは小さくうなずくと、俺の服の裾を握りしめたまま一緒に並ぶべき列へと移動した。
「え―それでは、栄えある我らがマグナレア学園の強化合宿を今から始めます。そもそも強化合宿というのは――」
生徒の列に向かい合うように、段に載った教師が話を始める。
教師の言葉など全く頭に入らず、俺は先ほどのブルーノについて思考を巡らせていた。
俺が調べた限り、ブルーノの魔力量はティターニアに匹敵する。
一度見せた小爆発の魔法もなかなかのものだ。
おそらく炎属性の魔法を得意とするのだろうが、ただの炎と爆発とでは、原理が大きく異なる。
爆発は少なくとも炎に比べて三つの追加の要素をバランス良く制御しなければいけない。
ブルーノはそれをこともなげにやってみせた。
しかもとても滑らかに。
そんなことを考えていた時、ふと先ほどの教師の発言を引っ掛かりを思い出す。
「なぁ、アムレット。フレイム家って知っているか? 教師が生徒に敬語ってどういうことだろうな? どの爵位の子息子女でも、ここでは生徒はみな平等なはずだよな?」
「え? そんなの私が分かるわけないじゃん。平民だよ? 自分のところの領主様のことならまだしも。貴族のフィリオ君が知らないことを、私が知っているわけないじゃない。あ! ルーナさんに聞いてみたら?」
合宿初日は集合し全員で挨拶と注意事項などを聞いた後、各学年ごとに分かれ、それぞれで授業が開始された。
といっても、今年の参加が初となる俺たち一年目は、初日はほぼ説明で終わってしまった。
その際に最終日の全学年合同の模擬戦闘実習の話も合った。
どうやら本当に今年から、全学年入り混じって、勝ち残り形式の魔力による模擬戦闘を実習の締めとして行うらしい。
もちろん、怪我などには十分に注意し、万が一にも重傷を受けたり、致死などが起きないように注意をするとのことだ。
しかし、本来立場が上であるはずの教師が敬語を使うような存在であるブルーノのことが、妙に気になる。
初日が終わり、部屋へ戻ると、アムレットに言われた通り、開口一番にルーナにブルーノのことを聞いてみた。
ブルーノの名前を聞いた時、ルーナは少し驚いた顔をしたが、どういう人物か教えてくれた。
「ブルーノ・フレイム様ですか? ある意味有名な方ですね。坊ちゃまと同じくマグナレア学園に通う赤爵様です」
「それは知っている。赤爵家の子息なんだろう? しかし、妙に偉そうな態度だったり、そこが気になってね」
俺の言葉にルーナは首を横に振る。
「いいえ。赤爵家の子息ではありませんよ。フレイム赤爵家の当主様がブルーノ様本人ですから。偉そうではなく、偉いのです。マグナレア学園に通うのはあくまで各貴族の子息子女ですが、ブルーノ様は例外。すでに貴族なのです。しかも赤爵家ですから、それより下の爵位であれば教師であろうと誰であろうと、それ相応の態度を示さねばなりません」
「なんだって⁉」
思わぬルーナの説明に、俺は思わず叫んでいた。
男はさらに言葉を続ける。
それには侮蔑と嘲りの感情が隠すどころか、俺に見せつけるかのように乗せられていた。
「俺はお前のことを知らない。忘れてしまったんだ。残念ながらな」
身体の震えはもうない。
どうやら身体に染みついた記憶も、俺の意思を支配するほどではなかったようだ。
血のように赤い髪をした男の深紅の瞳をまっすぐに見据えて言葉を返す。
その様子に男は怪訝そうな表情を一瞬見せてから、呆れたような仕草をわざとらしくした。
「冗談だろ? 忘れた? この俺を? はっ! 面白れぇこというじゃねぇか。まさか、そんなクソみたいな方法でやり過ごそうって魂胆か? それともいくら何でも俺がそんなことしないとでも踏んだか? 残念だったな。約束は守らねぇとな。合宿が終わったらお前の家は……」
そう言いながら、男は軽く開き上を向けた手のひらの中で、小規模の爆発魔法を発生させた。
俺の家を、と言ってたがどういう意味だろうか。
「まぁ、優しい俺様は、せっかくだから猶予をやろう。せっかく合宿にいるんだ。その間に約束通り、てめぇが死ねば、お前の家は許してやろう」
「お前が誰だか分からないが、はっきりと言っておこう。俺はお前との約束など覚えていないし、死ぬこともない。もちろん俺の家や家族に危害を加えることすら許さない。お前が何をしようともな」
はっきりと相手の目を見て言い放った俺の言葉に、男は片手で顔を覆いながら、仰け反るように笑い始めた。
「は、はははははぁっ‼ おいおい。まじかよ……本当に忘れちまったのか? このブルーノ、ブルーノ・フレイムを。あっはっはっはぁ! こいつはいい! ……ふざけてるんじゃねぇぞ?」
ブルーノは自らの顔を覆ってた手をゆっくりと退けると、座った目付きで俺を睨む。
おそらく元のフィリオがこんな目ですごまれてしまったなら、縮こまってしまったに違いない。
それほどまでにブルーノの持つ魔力量は甚大だった。
怒りと共に無意識に身体の周囲から湯気のように魔障が発生し揺らめいている。
自分で制御しているというよりも、感情と連動して魔力を魔法へと変換しようと勝手に反応しているようだ。
理論など知らなくても感覚で魔法を使う者がいるとは聞いたことがあるが、ブルーノほどの魔力量で実際目の前でやられると、実に興味深い。
「あーダメだ。適当に死ぬなんて面白くないな。そんなんじゃあ、もう面白くねぇ。どういう理由でここにいるのか知らねぇが、てめぇも最終日の実習に参加しろ。間違っても逃げようなどと思うなよ? そこで俺と対戦だ。俺が嬲り殺してやる。実習中の事故だ。仕方ないだろう?」
「対戦すると言っても、俺と当たるかどうかなんて分からないだろう?」
「ああん? そんなんどうでもできるんだよ! 一回戦だ。どうせてめぇが勝ち進めるとは思えねぇ。わざと負けることも考えられる。だから一回戦でてめぇを公開処刑だ。分かったな?」
「もし、結果が逆だったら?」
俺の返答が癪に障るのか、ブルーノは端正な顔の額に青筋を浮かべる。
「てめぇ自分で何言ってんのか分かってるのか?」
「答えてくれ。もし最終日の一回戦で俺がお前に勝ったらどうするんだ? その約束とやらを破棄してくれるのか?」
「んなわけねぇだろうが‼ もしてめぇが俺に勝ったら⁉ そんな可能性はゼロだがな! もし俺がそんな無様な思いさせられたら、許せねぇ。許されるはずがねぇ。てめぇやてめぇの家族だけじゃねぇ。てめぇに関わった人間全員地獄を見せてやるよ!」
てっきりそんなことありえないからと約束の破棄へ同意してくれると思ったが、そこまで甘くはなかったみたいだ。
それにしてもこのブルーノという男。
おそらく相当な権威のある爵位の子息なのだろう。
それに自分自身の魔法についてもかなり自信があるようだ。
性格は……見ての通り最悪のようだが。
「そもそも、なんで俺が死ななくちゃいけないんだ? 俺がお前に何かしたのか?」
「あん? てめぇが俺に何かしたかだと? そんなもんねぇよ。そもそもてめぇなんかが俺様に何かできるわけねぇだろ。ただ目障りだった。それだけだ。能力もないゴミ。ゴミは焼却だろうが。頭が少しでも使えるんなら、自分で燃えろよ。それだけだ」
「なるほど。良く分かった。実習中の不慮の事故による死はしかたない、だったな?」
「おい! そこ! 何をしている! さっさと並ばんか!」
教師の声に俺は周囲を見る。
どうやらいつの間にか時刻が来てしまっていたようだ。
すぐに動かなかったためか、教師が短気なのか、すぐに次の言葉が飛んできた。
「そこの三人! お前らだ! ……⁉ これは………フレイム赤爵。貴方とは知らずに、失礼しました」
「ちっ! まぁいい。覚えていろよ? 最終日だ。そこでお前の人生は終わりだ。せいぜい残りの短い時間を楽しむんだな。はっはぁ!」
そう言うとブルーノはゆっくりと俺から離れていった。
終始無言だったアムレットは困惑した顔を見せる。
「大丈夫だ。ひとまず、俺らも並ぼう」
アムレットは小さくうなずくと、俺の服の裾を握りしめたまま一緒に並ぶべき列へと移動した。
「え―それでは、栄えある我らがマグナレア学園の強化合宿を今から始めます。そもそも強化合宿というのは――」
生徒の列に向かい合うように、段に載った教師が話を始める。
教師の言葉など全く頭に入らず、俺は先ほどのブルーノについて思考を巡らせていた。
俺が調べた限り、ブルーノの魔力量はティターニアに匹敵する。
一度見せた小爆発の魔法もなかなかのものだ。
おそらく炎属性の魔法を得意とするのだろうが、ただの炎と爆発とでは、原理が大きく異なる。
爆発は少なくとも炎に比べて三つの追加の要素をバランス良く制御しなければいけない。
ブルーノはそれをこともなげにやってみせた。
しかもとても滑らかに。
そんなことを考えていた時、ふと先ほどの教師の発言を引っ掛かりを思い出す。
「なぁ、アムレット。フレイム家って知っているか? 教師が生徒に敬語ってどういうことだろうな? どの爵位の子息子女でも、ここでは生徒はみな平等なはずだよな?」
「え? そんなの私が分かるわけないじゃん。平民だよ? 自分のところの領主様のことならまだしも。貴族のフィリオ君が知らないことを、私が知っているわけないじゃない。あ! ルーナさんに聞いてみたら?」
合宿初日は集合し全員で挨拶と注意事項などを聞いた後、各学年ごとに分かれ、それぞれで授業が開始された。
といっても、今年の参加が初となる俺たち一年目は、初日はほぼ説明で終わってしまった。
その際に最終日の全学年合同の模擬戦闘実習の話も合った。
どうやら本当に今年から、全学年入り混じって、勝ち残り形式の魔力による模擬戦闘を実習の締めとして行うらしい。
もちろん、怪我などには十分に注意し、万が一にも重傷を受けたり、致死などが起きないように注意をするとのことだ。
しかし、本来立場が上であるはずの教師が敬語を使うような存在であるブルーノのことが、妙に気になる。
初日が終わり、部屋へ戻ると、アムレットに言われた通り、開口一番にルーナにブルーノのことを聞いてみた。
ブルーノの名前を聞いた時、ルーナは少し驚いた顔をしたが、どういう人物か教えてくれた。
「ブルーノ・フレイム様ですか? ある意味有名な方ですね。坊ちゃまと同じくマグナレア学園に通う赤爵様です」
「それは知っている。赤爵家の子息なんだろう? しかし、妙に偉そうな態度だったり、そこが気になってね」
俺の言葉にルーナは首を横に振る。
「いいえ。赤爵家の子息ではありませんよ。フレイム赤爵家の当主様がブルーノ様本人ですから。偉そうではなく、偉いのです。マグナレア学園に通うのはあくまで各貴族の子息子女ですが、ブルーノ様は例外。すでに貴族なのです。しかも赤爵家ですから、それより下の爵位であれば教師であろうと誰であろうと、それ相応の態度を示さねばなりません」
「なんだって⁉」
思わぬルーナの説明に、俺は思わず叫んでいた。
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思いついたネタを勢いで書いたので投稿しましたヾ(●´∇`●)ノ
『双子の侯爵令嬢の見習い執事は王太子』
評判が真逆な双子の姉妹のどちらかを婚約者に選ばなければいけなくなった王太子が侯爵家に身分を隠して執事として潜入するという異世界恋愛です。
タイトルから作品に飛べます。
よろしければこちらも読んでもらえると嬉しいです。
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