魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する

黄舞

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第二章【天才、魔法の杖を作る】

第三十一話【アムレットの杖】

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「予想以上に早かったな。すぐに持ってくるなどと言っていたが、まさかこんなにすぐに持ってくるとは」

 俺から素材を受け取ったガストンは、妙に嬉しそうな顔をしてそう言った。
 今日は安息日。
 予定通りアムレットの杖の素材をガストンたちの所へ持ってきた。

「それにしても……サーミリア先生をよく撒けたな?」

 予想通り、サーミリアはこの店にも同行すると言っていたらしい。
 しかし、アムレットにしては珍しく機転を利かして、サーミリアには嘘の日時を伝えたのだとか。

「うん! 頑張った!」

 アムレットは右手で握りこぶしを作り、俺に見せてくる。
 そこへ、いつも通りティーポットと人数分のティーカップを載せた盆を持ったアメリアが席へ戻ってきた。

「さぁさ。今日はちょっと特別だよ? 久しぶりの仕事だからね!」
「久しぶり? どういうことです? 覇王オルガの杖を作ったアメリアさんたちなら、杖を作ってほしい人なんて山のようにいるんじゃ?」

 ティーカップにハーブティを注ぎながらガストン同様嬉しそうな表情を見せるアメリアに、アムレットが不思議そうな顔をしながらそう聞いた。
 全員分のカップの用意をし終わってから、アメリアはアムレットの質問に答える。

「そりゃあ、文字通り山のようにいたさ。でもね? 私もガストンも、作りたいと思った相手にしか杖を作らないことにしてるんだ。残念ながら、そんな奴はそんなに多くなかったってことさ」

 アメリアの言葉に、ガストンは渋い顔をしながら続く。

「杖ってのはな。ただの道具じゃねぇんだ。魔法を使うやつにとって杖ってのはな、命綱だ。そいつの命を、命運を握るんだ。それが俺らの仕事だ。くだらねぇやつの命の面倒なんて俺はみたくもねぇ」
「まぁ、私らも若いころは色々作ったけどね。オルガ坊の杖を作ったら、あんた。相応しくないやつらが五万と来たさ。全員追い返してやったけどね」

 この国を建国した覇王オルガは三百年前ほど前の人物だという話だ。
 その覇王オルガをオルガ坊と呼ぶアメリアはいったい何歳なのだろうか。
 エルフであるアメリアはサーメリアと同じ年だと言われても驚かないような若い顔をしているので、実年齢など想像のしようもない。
 しわに刻まれた顔が豊富な髭や眉毛から見え隠れしているガストンも同様だ。
 まぁ、彼らが何歳だろうが、問題ではないのだが。

「でも……じゃあ、なんで私の杖は作ってくれる気になってくれたんですか?」

 アムレットは素直な疑問を二人に投げかける。
 おそらく、自分が他にガストンとアメリアの杖を欲しがった有象無象と違う理由が分からないのだろう。

「そりゃあ、あんた。面白そうだったからさ」
「まぁ、俺が引き受けたのはそこの坊主の入れ知恵だが、アメリアの方は嬢ちゃんを気に入ったんだ。分かるだろ?」

 アメリアとガストンがそれぞれ答えるが、アムレットはさっぱり分からない様子だ。
 実を言うと、ガストンの攻略については教えることができたくらいだから、俺にも分かっているが、アメリアが相応しいと判断する基準が未だに分からない。
 ここへアムレットの杖を連れてきたのは、ある意味一種の賭けだったが、賭けに勝った今も、タネは分からないというわけだ。
 困った顔を続けるアムレットを見て、アメリアは俺の時には教えてくれなかった種明かしをしてくれた。

「まだ分からないって顔してるね。アムレット嬢ちゃんが飲んでるそのお茶が答えさ。ここへ来た時に一口飲んで、美味しいって言ったろ? 私が作るお茶は特別製でね。私が杖を作る価値があるって子は美味しく感じるんだよ」
「え⁉ この美味しいお茶にそんな秘密が⁉ 私、本当に美味しくて。思わず声に出ちゃうくらいでした」
「そうかい。嬉しいねぇ。そもそもお茶を勧めても手も付けないような輩もいたけどね。そんな奴は論外だね」

 アメリアの話を横で聞いていた俺は、ふと疑問がわき、思わず横やりを入れる。

「ちょっと待ってくれ。じゃあ、なんで俺の杖作りを引き受けてくれたんだ? 俺は今も、その前もこのお茶が美味しいとは思えないぞ?」

 俺の言葉にアメリアは目を細める。

「フィリオ坊や。あんたが初めてさ。私のお茶を美味しいと言わないのに、杖を作りたくなったのはね。アムレット嬢ちゃんには話してないのかもしれないけど、あんた、かなり特別だろ?」

 アメリアは俺がフィリオという少年に身体を譲り受けた別の人間だということを気付いているのだろうか?
 どうやってそのことを知ったのか気になったが、アムレットが不思議そうな顔で俺とアメリアの会話を聞いているので、今は深く突っ込むことはやめておく。
 アメリアもわざと含みを持たせた言い方をしてくれたのだろう。
 俺がどう答えるか迷い一瞬無言が続くと、ガストンが気を使ってくれたのか、それも関係なくなのか、話に参加してくる。

「坊主は確かに特別だ。あんな無茶な依頼をしてくるのは後にも先にも坊主だけだろうさ」
「まぁ、フィリオ坊やの話は今は後だよ。今はアムレット嬢ちゃんの杖を作るんだろう?」
「ああ。そうだな。それで、いったいどのくらいの期間でできるんだ?」

 杖作りというのは興味があるものの、俺も詳しくはない。
 できるだけ早いに越したことはないが、俺が要求した性能を考えれば、それなりの時間がかかっても仕方ないのかもしれない。
 そんなことを思っていた俺に、ガストンは太くごつごつとした指を一本だけ立てて見せた。

「いち? ひと月か? かなりかかるな。まぁ仕方ないか」
「何抜かしてやがる。そんなに時間がかかるわけねぇだろう。一時間だ。一時間。今から作ってやるからそこで待ってろ」
「い、一時間⁉ そんな時間でできるもんなのか?」
「そりゃあ、用意を含めればもう少しかかるよ。でも、作るって決めたんだ。必要な準備はすでに終わらしてある。後はもらった素材にそれを施すだけさ。さぁさ。ちょっと席を外させてもらうよ」

 そう言うとガストンとアメリアは立ち上がり別の部屋へと素材を持って向かった。
 立ち上がった際に、杖作りの現場を見せてもらいたいと聞いたが、それはだめだと断られてしまったので、俺はアムレットと二人で大人しく待つ。
 その間に、俺はアムレットに考えていた頼みごとを伝えることにした。

「アムレット。予想外に杖がすぐ入ることだし、できるだけ早く覚えてほしい魔法があるんだ。正直な話、すぐにこれを使えと言うのは無理だと思うが、杖があれば可能だと思う」
「なに? フィリオ君。すっごくまじめな顔してる。もしかして、大事な話?」
「ああ。この前のシャトゥを覚えているだろう? 腐獣の毒に侵されていた」
「うん! すっごい怖い毒なんだよね? フィリオ君が治してくれたって。あ! もしかして、私もその解毒魔法を?」

 目を丸くするアムレットに、俺は一度首を縦に振る。

「知ってるだろ? 回復魔法は自分には効果がない。俺は腐獣の毒に効く解毒魔法を使えるが、万が一俺がその毒に侵されてしまったら、俺は俺自身を救えない」
「ほんとだ! え⁉ でも、腐獣は今どこにいるか分からないってフィリオ君言ってなかったっけ?」
「そうだ。どこにいるか、誰が使役しているのかも。もしかしたらすぐ近くにいるかもしれない。昔腐獣が現れた時は聖女が人々を救ったが、その聖女はもうこの世にいない。今その魔法を使えるのはおそらく世界で俺一人だ。それでは十分とは言えないだろう?」
「なんでフィリオ君がそんな凄い魔法を使えるか分からないけど、フィリオ君は特別だからなんだよね! 分かった! 私が使えるようになれるかどうか分からないけど、頑張るよ!」

 アムレットは表情と仕草でやる気を俺に表明する。
 俺は気が早いと思ったが、早速魔法の説明を始めることにした。
 いくらアムレットが回復魔法への適性が高く、覚えがいいと言っても、教える魔法は原理も高等で、さらに計算も複雑だ。
 少しずつゆっくりと教えていくが、すでに最初の方でアムレットは目を回し始めて。しまった。

「うーん……難しすぎるよぉ。フィリオ君。頭から煙が出そうだよ」
「ひとまず分からないところは置いておいて、全部暗記するつもりで覚えた方が早いかもしれないな。効率は無視して、必要最低限使えるようになれば、後は杖の力で補える」

 そう話している時に、部屋の扉が開く音が聞こえ、俺とアムレットは視線を音がした方へと向けた。
 右手にユニコーンの角を加工して作った真っ白な杖を持つガストンと、少し疲れた顔をしたアメリアが出てくる。

「できたぞ。嬢ちゃん。世界に一つだけ。正真正銘、嬢ちゃんのための嬢ちゃんだけの杖の完成だ」
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思いついたネタを勢いで書いたので投稿しましたヾ(●´∇`●)ノ
双子の侯爵令嬢の見習い執事は王太子
評判が真逆な双子の姉妹のどちらかを婚約者に選ばなければいけなくなった王太子が侯爵家に身分を隠して執事として潜入するという異世界恋愛です。
タイトルから作品に飛べます。
よろしければこちらも読んでもらえると嬉しいです。
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