魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する

黄舞

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第二章【天才、魔法の杖を作る】

第二十六話【有言実行】

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 「おかしいな……」

 俺は思わず呟いていた。
 何があったにしてもなかったにしても、未だに連絡の合図はない。
 ユニコーンはそれなりに強いモンスターだが、アムレットはともかくサーミリアが何の抵抗も見せずにやられるとは思えない。
 しかし、万が一のことが……

「なぁなぁ。お兄ちゃんさ。あんたもユニコーンの角を狙って来たクチか?」

 先ほどユニコーンから成り行きで助けてやった猫の獣人、シャーレオが暇を持て余したのか話しかけてきた。
 俺の返事を待たずにシャーレオは勝手に話を続ける。

「やっぱり本物の女じゃなきゃダメかぁ……」

 シャーレオが俺たち同様にユニコーンの角を狙っていたのはこの奇妙な恰好から想像できたが、どうやらユニコーンの生態について、きちんとした知識は持っていなかったようだ。

「なぁ、兄ちゃんさ。俺を追ってたユニコーンは二体いたろ? どうか一本でいいから、俺に譲ってくれないか? 金はないが、それ以外のことなら何でもするからさ」
「なんでそんなにユニコーンの角が欲しいんだ? お前の身体能力なら、もっといい稼ぎ口がありそうだけどな」

 少なくともシャーレオはかなりの距離をユニコーンに追われながらも追い付かれずに走っている。
 ユニコーンの健脚は有名で、少なくとも人間ならば、単純に走って逃げきれる者は皆無だろう。
 いくら獣人は人間よりも身体能力が高い種族が多いとはいえ、それにしても規格外すぎる。

「金が欲しいわけじゃないんだ。いや、欲しいかどうかって聞かれりゃそりゃ欲しいけどさ。それじゃ間に合わないんだよ。お願いだ! この通り!」
「ちょっと話が見えないな……見たところ、魔法をつかえるわけでもないんだろ? そんなお前がユニコーンの角なんかなんに使うんだ? まさか、誰か毒にでも侵されているのか?」

 ユニコーンの角は補助・回復魔法の媒体として優秀なだけでなく、削ったものをきちんと処理を施せば効果の高い解毒剤になる。
 そのため、ユニコーンの角自体がかなりの高額で取引されるわけだが、金が目的じゃないとなると、残る可能性はそれしか考えられない。
 しかも随分と急を要しているようだ。
 答えを聞かなくても、今のシャーレオの表情が俺の考えが正しかったことを物語っている。
 シャーレオが言葉を発しようとした瞬間、アムレットから合図が上がった。

「おっと。話の続きは後だ。どうやら上手くいったらしい。どうしてこんなに時間がかかったのか分からないが……ひとまず二人の元へと戻るぞ」
「あ、ああ……って、わぁぁぁ⁉ 落ちるー‼」

 俺が今までかけていた浮遊の魔法を解いたため、シャーレットの言葉通り俺たちは垂直に落下を始めた。
 魔力の温存と、できるだけ速く地上に戻ることを両立させるのに最も適した選択だ。
 みるみるうちに加速していく俺たちは、あっという間に地上へとたどり着いた。

「はぁ……はぁ! し、死ぬかと思った……」
「そんなわけないだろう。どこの世界に自分の浮遊魔法のせいで死ぬ馬鹿がいるんだ」

 きちんと地面にぶつかる直前に再び一瞬だけ浮遊魔法を唱えたおかげで、俺たち一切の傷もない。
 むしろ魂だけの時に比べて、風を肉体で感じることができる分、一種の気持ちよさまであるというのに、シャーレットは叫びすぎて息を切らし、恨めしそうな顔で俺を虚ろに見つめていた。

「フィリオ君! おかえり‼」
「随分と合図まで時間がかかったじゃないか。サーミリア先生もうっかり置き去りにしてしまったし、心配してたんだ。そういえばサーミリア先生の姿が見えないな? 先生は先生でユニコーンの感知領域から自力で離れてくれたのか?」
「え⁉ フィリオ君が私の心配を⁉ 嬉しいなぁ!」

 俺の質問に答えず、アムレットは何故か心底嬉しそうな顔を見せた。
 両手を口元に持ってきてにやけているが、その右手にはしっかりとユニコーンの角が握られていた。
 シャーレオがアムレットの持つユニコーンの角に剣呑な視線を向けたのに気付き、先に釘を刺しておく。

「馬鹿な考えはよせよ? 少なくとも俺はお前の命の恩人だ。その恩を仇で返すつもりなら、助けなかった未来と同じ結果を迎えることになるぞ」
「も、もちろんさ……それで。この女の子は角を一本しか持ってないみたいだけど、もう一体はどうしたんだ? さっきいた綺麗なお姉さんが持っているのか?」

 シャーレオの言う綺麗なお姉さんというのは、サーミリアのことだろうか。
 ここにいないということは、つまりサーミリアはそういうことだったのだろう。
 ユニコーンの角は一人一本しか取れない。
 もう一体の方はアムレットの争奪戦に敗れおそらく逃げたに違いない。

「いや、たぶんそれは――」
「あらー? 綺麗なお姉さんだなんて、そんな化け物みたいな化粧しかできないのに、ちゃんと美醜は分かるのねぇ」

 突然聞こえてきたサーミリアの声に、俺は反射的にその方向へと視線を向ける。
 そして、思わず目を見開いてしまった。
 こちらに近付いてい来るサーミリアの手にも、アムレットとは違った形のユニコーンの角がしっかりと握られていたからだ。

「サーミリア先生。無事だったのか」
「あら。なんで私が無事じゃないと思ったのかしら? それに、を見て随分と驚いてたみたいだし。ほんと、ペイル君って素敵なのに、女性に失礼よねぇ」

 そう言いながらサーミリアは手に持った角を振る。
 どうやら、俺の考えたことはまるわかりだったようだ。

「いや……その、なんだ。普段の様子から考えたら意外というかなんというか……」

 俺は思わずしどろもどろになってしまった。
 やはりこういうことに関しては前世の記憶も何の役にも立たない。
 そんな俺を見て、サーミリアは蠱惑的な笑みを顔に浮かべ、一言いい放つ。

「言ったでしょ? 安い女じゃないのって」
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