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第5話
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いつもの様に祈りを捧げていると、唐突に祈りの場の扉が乱暴に放たれた。
「聖女よ。こちらへ。お急ぎください。王が及びです」
「王が? それならば、着替えなくては。衣装の用意をお願いします」
「いいえ。そのままの姿で結構だ、とのことです。お急ぎください。王を待たせるなどあってはなりません」
「分かりました……それでは、このままの姿で……」
奇妙な話だった。
今まで王に呼ばれることなど、聖女になった時から一度もなかった。
村から王都に来て、一度だけ謁見した際に向けられた顔だけで、私は王が苦手になっていた。
その後、王と同席するのは他国の使者が訪れてきた時くらいだ。
他国の使者が来る時は前もって伝えがあるので、少なくとも従来通りの使者が来ての同席を命じられるということではないのだろう。
そもそも、この様な質素な格好で王の前に出て良いということが理解できずにいた。
「王よ。お待たせして申し訳ありません」
「来たか……この偽物め!」
怠惰と暴食の結果がもたらしただらしない姿をしたこの国の王。
その王が苦々しい顔つきで私を睨む。
偽物と呼ばれて何のことが一瞬分からなかった私の目に、王の隣に佇んでいる一人の女性が映る。
その女性に気付いた瞬間、私は目を見開いていた。
「ロザリーよ。お主は自らを聖女と謀っていたらしいな! ここにいる者が真の聖女だ! 危ないことをした。このまま偽物のお前に祈りを捧げられていたら、この国はどうなっていたとことか」
王が叫ぶ。
私はその言葉を聞いて、頭が真っ白になっていた。
私はもう一度王を、そしてその隣の女性に目を向ける。
女性は外行の聖女の衣装を身に纏っている。
私は王が次に紡ぐ言葉を頭の中で暗唱した。
「ワシを、この国を欺き、危機に貶めようとした罪は重い! よって、お前を追放とする!!」
一字一句間違いなく、王は私が頭の中で言った言葉と同じ言葉を口にした。
だけど、それだけでは私は確信を持つことは出来ずにいた。
王に追放を告げられ、私は国外へと運ばれる様だ。
今着ている服装のまま、移送の荷台に乗せられる。
その道中、私は必死に景色を見ていた。
そして、流れていく景色が、あの日夢に見た景色と全く同じだと気付くまでに長くはいらなかった。
「ここで降りろ。これでお前は追放された。生きようが死のうが知ったことじゃないが、この国に二度と足を踏み入れることまかりならん」
そう言われ、私は一人荒野に降り立った。
その荒野の景色にも見覚えがあった。
「まぁ! なんて素敵なの! 夢が現実になるなんて!!」
私は誰もいない荒野で一人、喜びを噛み締めていた。
そして、記憶を頼りに歩を進める。
しばらくすると、金色に輝く毛玉が目に入ってきた。
私は焦る気持ちを抑えて、そこへ向かう。
記憶通りに足を治療してあげ、頬を舐められている最中に、私は腕に抱いた愛しい獣にこう告げた。
「あなたはメアよ。さあ、私と素敵な冒険に旅立ちましょう」
「キュイ!」
「うふふ。いい子ね。そして、今度こそ、あの人にこの想いを告げないと。今度はこの夢から目覚めることがないから大丈夫よ」
私はこの旅の先、ルーランに出会い共に過ごす時間が待ち遠しくてならなかった。
貴方のことをよく知っていると言ったらどんな顔をするだろうかと想像したら、可笑しくて仕方がなかった。
そしてルーランとまだ見ぬ夢の先、この想いを告げた先の事を思うと顔が火照った。
空を見上げると、あの日と同じように熱い日差しが照りつけていた。
☆☆☆
最後まで読んでいただきありがとうございます(●´ω`●)
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今まで王に呼ばれることなど、聖女になった時から一度もなかった。
村から王都に来て、一度だけ謁見した際に向けられた顔だけで、私は王が苦手になっていた。
その後、王と同席するのは他国の使者が訪れてきた時くらいだ。
他国の使者が来る時は前もって伝えがあるので、少なくとも従来通りの使者が来ての同席を命じられるということではないのだろう。
そもそも、この様な質素な格好で王の前に出て良いということが理解できずにいた。
「王よ。お待たせして申し訳ありません」
「来たか……この偽物め!」
怠惰と暴食の結果がもたらしただらしない姿をしたこの国の王。
その王が苦々しい顔つきで私を睨む。
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その女性に気付いた瞬間、私は目を見開いていた。
「ロザリーよ。お主は自らを聖女と謀っていたらしいな! ここにいる者が真の聖女だ! 危ないことをした。このまま偽物のお前に祈りを捧げられていたら、この国はどうなっていたとことか」
王が叫ぶ。
私はその言葉を聞いて、頭が真っ白になっていた。
私はもう一度王を、そしてその隣の女性に目を向ける。
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だけど、それだけでは私は確信を持つことは出来ずにいた。
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その道中、私は必死に景色を見ていた。
そして、流れていく景色が、あの日夢に見た景色と全く同じだと気付くまでに長くはいらなかった。
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そう言われ、私は一人荒野に降り立った。
その荒野の景色にも見覚えがあった。
「まぁ! なんて素敵なの! 夢が現実になるなんて!!」
私は誰もいない荒野で一人、喜びを噛み締めていた。
そして、記憶を頼りに歩を進める。
しばらくすると、金色に輝く毛玉が目に入ってきた。
私は焦る気持ちを抑えて、そこへ向かう。
記憶通りに足を治療してあげ、頬を舐められている最中に、私は腕に抱いた愛しい獣にこう告げた。
「あなたはメアよ。さあ、私と素敵な冒険に旅立ちましょう」
「キュイ!」
「うふふ。いい子ね。そして、今度こそ、あの人にこの想いを告げないと。今度はこの夢から目覚めることがないから大丈夫よ」
私はこの旅の先、ルーランに出会い共に過ごす時間が待ち遠しくてならなかった。
貴方のことをよく知っていると言ったらどんな顔をするだろうかと想像したら、可笑しくて仕方がなかった。
そしてルーランとまだ見ぬ夢の先、この想いを告げた先の事を思うと顔が火照った。
空を見上げると、あの日と同じように熱い日差しが照りつけていた。
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