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第2話
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私は荒野を当てもなく歩いた。
その場で立ちすくして目を覚ますのを待つには、夢の中が鮮明すぎたためだ。
「あら、あれは何かしら」
少し進むと、金色に輝く毛玉のようなものが落ちているのを見つけた。
私は興味が湧いて、毛玉の元へと近付き、その場にしゃがみこむと毛玉を手で触れようとする。
「きゃあ!?」
私が手を伸ばした瞬間、毛玉は私から遠ざかるように独りでに動いた。
よく見ると、それは小さな愛らしい姿をした獣だった。
どうやら足を怪我しているようだ。
見た目からはすばしっこそうだけれど、足を庇うようにしていて、その動きはどこかぎこちない。
「大丈夫だよ。おいで」
私は安心させようと声をかけながら、着ていた服の裾を細く切り裂いた。
害がないの分かったのか、獣は私の方にゆっくりと寄ってきた。
手が届くところまで来ると、私は優しく抱きかかえ、怪我をしている足に先ほど作った簡易の細布を巻きつける。
動きやすくなったのか、痛みが引いたのか、獣は目を細め、私の頬を小さな舌で舐めた。
日差しが強い荒野の下、私は暑さを感じていたけれど、獣の舌がひんやりと冷たく、私も心地よさに目を細めた。
「あなた、どこから来たの? 見たところ、まだ子供のようだけれど」
「キューイ?」
言葉が伝わるわけもなく、私のかけた言葉に、獣は鳴き声で答えるだけだった。
そこで私は目が覚める。
夢の中だけでも出会えた生き物に、私は嬉しくなってしまって、また会いたいと思っていた。
その日も変わらぬ祈りを一日中捧げた後、私は眠りについた。
すると、また同じような夢を見た。
だけど、前と違うところは、私が居る場所が見覚えのない場所だということだった。
「キュイ!!」
「あら? あなた……あなたよね? ずいぶん大きくなったんじゃない?」
私の横で声がして、声の方へ振り向くと、そこには昨日夢の中で助けた獣が居た。
だけど昨日見た時よりも成長していた。
昨日の夢では子犬くらいだったのが、今では成犬ほどの大きさになっていた。
それなのに私はこの目の前に居る獣が、昨日助けた獣だと何故だか確信を持っていた。
気付けば、私が着ている服も今着ているものよりも上等なものに変わっている。
心なしか、髪も少し伸びているような気もする。
「うふふ。不思議な夢ね。それでも悪い気分じゃないわ。こうして話し相手が出来たのですから」
「キューイ!」
「そうね。せっかくだから名前をつけましょうか。メア。古い言葉で神の使いという意味よ。あなたが神様が送ってくれた使いだったら素敵なのだけれど」
「キュイ!!」
どうやら私が付けた名前を気に入ってくれたようだ。
メアは私を何度も舐める。
お返しに私はメアの額の辺りを優しく撫でてあげた。
するとメアは気持ちよさそうに目を細めた。
その後も私は何度もメアの夢を見た。
メアは私が夢を見るたびに成長しているように見えた。
今では私を背に乗せて驚く速さで走れるほどにまで大きくなっていた。
そうして私を数々の冒険へと誘ってくれるのだ。
火吹き山にだけ咲くという薬草を取りに行ったり、永久凍土に埋まっているというどんなことをしても溶けることのない氷の塊を探しに行ったり。
物語で聞いたどんな冒険よりも幻想的でどきどきが止まらないようなそんな冒険ばかりだった。
私はいつからか夢を見るのが楽しみになっていた。
その場で立ちすくして目を覚ますのを待つには、夢の中が鮮明すぎたためだ。
「あら、あれは何かしら」
少し進むと、金色に輝く毛玉のようなものが落ちているのを見つけた。
私は興味が湧いて、毛玉の元へと近付き、その場にしゃがみこむと毛玉を手で触れようとする。
「きゃあ!?」
私が手を伸ばした瞬間、毛玉は私から遠ざかるように独りでに動いた。
よく見ると、それは小さな愛らしい姿をした獣だった。
どうやら足を怪我しているようだ。
見た目からはすばしっこそうだけれど、足を庇うようにしていて、その動きはどこかぎこちない。
「大丈夫だよ。おいで」
私は安心させようと声をかけながら、着ていた服の裾を細く切り裂いた。
害がないの分かったのか、獣は私の方にゆっくりと寄ってきた。
手が届くところまで来ると、私は優しく抱きかかえ、怪我をしている足に先ほど作った簡易の細布を巻きつける。
動きやすくなったのか、痛みが引いたのか、獣は目を細め、私の頬を小さな舌で舐めた。
日差しが強い荒野の下、私は暑さを感じていたけれど、獣の舌がひんやりと冷たく、私も心地よさに目を細めた。
「あなた、どこから来たの? 見たところ、まだ子供のようだけれど」
「キューイ?」
言葉が伝わるわけもなく、私のかけた言葉に、獣は鳴き声で答えるだけだった。
そこで私は目が覚める。
夢の中だけでも出会えた生き物に、私は嬉しくなってしまって、また会いたいと思っていた。
その日も変わらぬ祈りを一日中捧げた後、私は眠りについた。
すると、また同じような夢を見た。
だけど、前と違うところは、私が居る場所が見覚えのない場所だということだった。
「キュイ!!」
「あら? あなた……あなたよね? ずいぶん大きくなったんじゃない?」
私の横で声がして、声の方へ振り向くと、そこには昨日夢の中で助けた獣が居た。
だけど昨日見た時よりも成長していた。
昨日の夢では子犬くらいだったのが、今では成犬ほどの大きさになっていた。
それなのに私はこの目の前に居る獣が、昨日助けた獣だと何故だか確信を持っていた。
気付けば、私が着ている服も今着ているものよりも上等なものに変わっている。
心なしか、髪も少し伸びているような気もする。
「うふふ。不思議な夢ね。それでも悪い気分じゃないわ。こうして話し相手が出来たのですから」
「キューイ!」
「そうね。せっかくだから名前をつけましょうか。メア。古い言葉で神の使いという意味よ。あなたが神様が送ってくれた使いだったら素敵なのだけれど」
「キュイ!!」
どうやら私が付けた名前を気に入ってくれたようだ。
メアは私を何度も舐める。
お返しに私はメアの額の辺りを優しく撫でてあげた。
するとメアは気持ちよさそうに目を細めた。
その後も私は何度もメアの夢を見た。
メアは私が夢を見るたびに成長しているように見えた。
今では私を背に乗せて驚く速さで走れるほどにまで大きくなっていた。
そうして私を数々の冒険へと誘ってくれるのだ。
火吹き山にだけ咲くという薬草を取りに行ったり、永久凍土に埋まっているというどんなことをしても溶けることのない氷の塊を探しに行ったり。
物語で聞いたどんな冒険よりも幻想的でどきどきが止まらないようなそんな冒険ばかりだった。
私はいつからか夢を見るのが楽しみになっていた。
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