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第1話
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いつもの通り私は祈っていた。
国の繁栄を、人々の安寧を。
一日中続ける神への祈り。
そのおかげかどうかは知らないけれど、確かにこの国は栄え、人々は安息の日々を謳歌していると聞いている。
今日も深夜までのお勤めを終えると自室へ戻り、部屋に用意されている食事を口に運ぶ。
起きた直後と寝る直前にだけ口にすることの許される食事は、ひどく質素で味気ないものだった。
一度だけ王と食事をした時、そして他の国の使者と食事をする時だけは、豪華な食事が用意される。
だけど部屋に用意されているものはとてもではないけれど、美味しいとは言えないものばかりだ。
初めて食べた時は量が少ないにも関わらず、残してしまった。
すると次の日から食事の量はさらに減らされていた。
それから私は残すことないようにどんな食事が出ても、この残さず食べるようにした。
これ以上量が減らされないように。
食事が終わると私は床に入る。
そして明日も日が昇ると同時に祈りを再開するのだ。
聖女だと言われ、寂れた村から王都に来た時の私は希望と期待とやる気に満ちていた。
どんな素敵な日々が訪れるのかと、そして人々の役に立つことに喜びを感じていた。
だけど今はそんな気持ちはとうに薄れてしまった。
誰と会うこともなく、日々一人で祈るだけの毎日。
確かに人々は幸せなのだろう。
何百年も前から聖女が毎日祈りを捧げるおかげで、この国は災害にも魔獣たちの脅威にもさらされることはなかった。
そんなある日、私は祈りの終わり間際、ついに自分の幸せを祈ってしまった。
毎日繰り返される祈りの日々から逃れたいと願ってしまったのだ。
その日の夜、私は夢を見た。
とてもはっきりした夢だった。
珍しく王に呼び出された私は突然こんなことを言われたのだ。
ちなみに、私は初めて会った時から、醜くだらしない身体をした王がどうしても好きになれない。
『ロザリーよ。お主は自らを聖女と謀っていたらしいな! ここにいる者が真の聖女だ! 危ないことをした。このまま偽物のお前に祈りを捧げられていたら、この国はどうなっていたとことか』
何のことか分からない私に王は話を続けた。
王の隣では見たこともない妖艶な女性が怪しく笑っている。
私は王の前に出るというのに、普段着ている質素な服に身を包んでいることを不思議に思っていたのだ。
だけど、王の隣にいる女性の姿を見て、その理由を理解した。
真の聖女と王に言われた女性は煌びやかな服を身に纏っている。
これは私が人の前に出る時にだけ着る衣装だった。
『ワシを、この国を欺き、危機に貶めようとした罪は重い! よって、お前を追放とする!!』
そして私は、普段身に着けている衣類のみで、国外の荒野に一人置きざりにされてしまう。
そこで私は目を覚ました。
どこまでも現実の体感を伴った夢だった。
荒野に置き去りにされるまでの道中すら鮮明に覚えていた。
私は一度身震いをした。
あれは確かに夢だったけれど、神への祈りを止めることを祈った罰だとでもいうのだろうか。
そう思いながら私は、いつにも増して必死に神へ祈りを捧げた。
しかし祈りを捧げる最中にふと夢の続きを想像してしまった。
この国の外には恐ろしい魔獣がたくさん生息しているという。
だけど中には人に益をもたらす魔獣というのもいるのだと、幼いころに聞いたことがある。
それを思い出すと、物語で聞いた冒険譚を思い出した。
一人の少女が美しい魔獣と心を通わせて、様々な冒険をする話だった。
つい、昨日に引き続き、私は祈りの最後に私のために祈ってしまった。
今度は思い出した冒険譚のような、素敵な冒険の日々を過ごしてみたいと。
祈りの時間を終え、私は自室に戻る。
わずかな明かりを消すと、眠りに落ちていった。
その日も私は夢を見た。
昨日と同じ、まるでその場に本当に居るようなはっきりしとした夢。
夢の始まりは、昨日見た夢の終わった場所からだった。
国の繁栄を、人々の安寧を。
一日中続ける神への祈り。
そのおかげかどうかは知らないけれど、確かにこの国は栄え、人々は安息の日々を謳歌していると聞いている。
今日も深夜までのお勤めを終えると自室へ戻り、部屋に用意されている食事を口に運ぶ。
起きた直後と寝る直前にだけ口にすることの許される食事は、ひどく質素で味気ないものだった。
一度だけ王と食事をした時、そして他の国の使者と食事をする時だけは、豪華な食事が用意される。
だけど部屋に用意されているものはとてもではないけれど、美味しいとは言えないものばかりだ。
初めて食べた時は量が少ないにも関わらず、残してしまった。
すると次の日から食事の量はさらに減らされていた。
それから私は残すことないようにどんな食事が出ても、この残さず食べるようにした。
これ以上量が減らされないように。
食事が終わると私は床に入る。
そして明日も日が昇ると同時に祈りを再開するのだ。
聖女だと言われ、寂れた村から王都に来た時の私は希望と期待とやる気に満ちていた。
どんな素敵な日々が訪れるのかと、そして人々の役に立つことに喜びを感じていた。
だけど今はそんな気持ちはとうに薄れてしまった。
誰と会うこともなく、日々一人で祈るだけの毎日。
確かに人々は幸せなのだろう。
何百年も前から聖女が毎日祈りを捧げるおかげで、この国は災害にも魔獣たちの脅威にもさらされることはなかった。
そんなある日、私は祈りの終わり間際、ついに自分の幸せを祈ってしまった。
毎日繰り返される祈りの日々から逃れたいと願ってしまったのだ。
その日の夜、私は夢を見た。
とてもはっきりした夢だった。
珍しく王に呼び出された私は突然こんなことを言われたのだ。
ちなみに、私は初めて会った時から、醜くだらしない身体をした王がどうしても好きになれない。
『ロザリーよ。お主は自らを聖女と謀っていたらしいな! ここにいる者が真の聖女だ! 危ないことをした。このまま偽物のお前に祈りを捧げられていたら、この国はどうなっていたとことか』
何のことか分からない私に王は話を続けた。
王の隣では見たこともない妖艶な女性が怪しく笑っている。
私は王の前に出るというのに、普段着ている質素な服に身を包んでいることを不思議に思っていたのだ。
だけど、王の隣にいる女性の姿を見て、その理由を理解した。
真の聖女と王に言われた女性は煌びやかな服を身に纏っている。
これは私が人の前に出る時にだけ着る衣装だった。
『ワシを、この国を欺き、危機に貶めようとした罪は重い! よって、お前を追放とする!!』
そして私は、普段身に着けている衣類のみで、国外の荒野に一人置きざりにされてしまう。
そこで私は目を覚ました。
どこまでも現実の体感を伴った夢だった。
荒野に置き去りにされるまでの道中すら鮮明に覚えていた。
私は一度身震いをした。
あれは確かに夢だったけれど、神への祈りを止めることを祈った罰だとでもいうのだろうか。
そう思いながら私は、いつにも増して必死に神へ祈りを捧げた。
しかし祈りを捧げる最中にふと夢の続きを想像してしまった。
この国の外には恐ろしい魔獣がたくさん生息しているという。
だけど中には人に益をもたらす魔獣というのもいるのだと、幼いころに聞いたことがある。
それを思い出すと、物語で聞いた冒険譚を思い出した。
一人の少女が美しい魔獣と心を通わせて、様々な冒険をする話だった。
つい、昨日に引き続き、私は祈りの最後に私のために祈ってしまった。
今度は思い出した冒険譚のような、素敵な冒険の日々を過ごしてみたいと。
祈りの時間を終え、私は自室に戻る。
わずかな明かりを消すと、眠りに落ちていった。
その日も私は夢を見た。
昨日と同じ、まるでその場に本当に居るようなはっきりしとした夢。
夢の始まりは、昨日見た夢の終わった場所からだった。
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