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第6話【街に到着】

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「あの……ユーヤさん。本当に大丈夫ですか? さっきから一人でぶつぶつ呟いていますけど」
「ん? あ、ああ。ごめんごめん。ちょっと考え事をね」

 ついつい自分の思考にふけるのは、俺の昔からの悪い癖だ。
 不思議そうな顔をしているメイアに、目線を向ける。

「さぁ、街へ向かおうか。ただ、馬車で半日と言ったら歩きではとてもじゃないけど日が暮れてもつかないな。あ、そうだ!」

 俺は思いついた方法をメイアに伝える。
 するとメイアは首と手を大きく横に振った。

「ええ!? そんなの悪いですよ!! それに、タイラントベアを運ぶんですよね?」
「ああ。でも、きっとそれが一番速いし安全だ。それ以外に今日中に街につく方法なんて思いつかない。それとも、メイアは他にいい案が思いつくの?」

「え……ないですけど……本当に大丈夫ですか?」
「ああ。俺を信じて」

 そう言うと俺はメイアに手を差し出す。
 恐る恐るその手を握り返すメイアを引き寄せ、俺はメイアを乗せる。

「じゃあ、行くよー。街の方角は?」
「多分この道を向こう側へ……って。きゃああああぁぁぁぁぁ!!」

 俺はメイアを背中に背負ったまま、【筋力増強(大)】の効果を乗せた脚で走ってみた。
 タイラントペアはさすがに担ぐわけにはいかないので、後ろ手で引きずる形だ。

 まだ全速力ではないけれど、景色がどんどん流れていく。
 叫び疲れたのか、それとも気を失ってしまったのか、後ろからはメイアの声はすでに聞こえない。

 なんとなくで【忍び足】と【隠密行動】も発動させながら、俺はあぜ道をひた走る。
 聞こえてくるのは、タイラントベアが引きずられる音だけだった。



「ここがメイアの言ってた街か」

 俺は暢気な声でそう言う。
 目の前には、転生前の俺の感覚では決して大きいとは言えない街並が広がっていた。

 建物はどれもレンガや土壁で作られていて、どれも似たような形や色をしている。
 道は途中から石畳に舗装されていて、その時からメイアを降ろし、タイラントベアを担いで歩いている。

 ちなみにメイアはあまりの速さに振り落とされないよう必死だったらしく、降ろした瞬間安どのため息をついていた。
 すこし瞳孔が開いていたような気もするけど、きっと大丈夫だろう。

「ええ。私は街には入ってないので、中の様子がどのようかは知りませんが。このくらいの規模の街なら、きっと狩人ハンターギルドもあるはずです」
「それなら良かった。このタイラントベアを買い取ってくれるのもその狩人ギルドだって言ってたね。さっさとそこへ行ってこれを買い取ってもらおう」

 そんなことを言いながら、俺とメイアは街へと入っていく。
 特に門番が居るわけでもなく、どうやら出入りは自由らしい。

 ひとまず大きな通りを歩き、街の中心へ向かってみた。
 道行く人がじろじろとこちらを遠巻きに見つめてくるが、メイアが言ってた通り、エルフがそんなに珍しいのだろうか。

「なぁ、メイア。じろじろと人がメイアのこと見てるけど、その……なんだ。エルフってだけでそんな目で見られるもんなのか?」
「え!? 何言ってるんですか! 私じゃなくて、皆ユーヤさんのこと見てるんですよ! タイラントベアの死骸を軽々と持ち運んでるなんて、それだけでも珍しいのに、ユーヤさん、見た目凄く若いですし」

 ああ、なるほど。
 てっきり狩人ギルドがあるというから、モンスターの死骸なんて珍しい物じゃないと勝手に思い込んでいたけど、そういえばタイラントベアってのはそれなりの強さだってメイアが言ってたな。

 正直、この世界の常識が全然分からないから、早めに常識ってものを身に着けないと、要らない面倒に遭いそうだ。
 それはメイア教えてもらうとしよう。

「ちょっと、ごめん。狩人ギルドってのを探してるんだけど、どこにあるのかな?」
「うお!? な、なんだあんた。そんなでっかいモンスター倒せるような狩人なのに、狩人ギルドが何処にあるかも知らないのかい?」

「ああ。この街は初めてでね。よかったら、教えてくれないか?」
「むむむ……よく見たら、それはタイラントベアだね? まさかあんたがそれを?」

 メイアも狩人ギルドの場所が分からないので、適当に見かけた人に声をかけた。
 清潔感のある白いローブを来た、恰幅のいいおじさんだ。

 他の街の人の格好と比べると、着ている物が上品に感じる。
 それなりの地位か、資産を持っている人だったのだろうか。

「倒したのは俺だけど、本当に運が良かっただけだ。それでも、こいつを売ると良い金になるって聞いてね。狩人ギルドで売るつもりなんだ」
「なるほどねぇ。いやぁ、見たところ随分若そうに見えるが……ああ! なるほど! そちらの子はエルフだね。エルフは凄まじい魔法の使い手がいると聞く。ああ、狩人ギルドだったね。それだったら、この道をまっすぐ進んであの赤い屋根の角を右に進んだところにあるよ。竜の紋章が描かれた看板が目印だ」
「分かった。ありがとう」

 俺はおじさんにお礼を言うと、案内された道を進む。
 ふと隣を見ると、何故かメイアは不満そうな顔をして頬を膨らましている。

「どうした?」
「だって、タイラントベアを倒したのはユーヤさんなのに。さっきの人、私の手柄みたいに言っていたから」
「あははは。なんだ、そんなことか。まぁ、どっちでもいいじゃないか。そんなことより、着いたみたいだよ」

 俺が指さした先には、まさにゲームなどで見た竜、ドラゴンが描かれた看板を軒先につるした、ひと際大きな建物があった。
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