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第6章
第121話
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北の大地にも雪解けが訪れ、春の息吹がそこかしこで見られていた。
この時期オティスでは村人総出で羊毛の毛刈りが行われる。
元々は村の誰かが言い出した「俺が一番毛刈りが上手い」という言葉に触発され始まった毛刈り祭り。
今では村の外からも見学に訪れる者が出るほどであったが、今年は様相が少し違った。
一番の要因は領主代行が行ってくれた街道の整備だ。
辺境にあるオティスは祭り以外に外から人が来るのは時おり訪れる行商人だけだったが、交通の便が劇的に改善されたことから、普段でも隣町からも人が来るようになった。
祭りに関してだけ言えば、もっと大きな要因があった。
シャルルが立ち上げた貴族御用達のブランド、ド・ゴールに使われる羊毛が全てこの村のものであり、祭りのイベント参加者に抽選でその羊毛で編まれた服を数着プレゼントすると宣伝したのだ。
一般の市民では敷居が高く手が届くことの無い服が手に入るとあって、近隣から多くの人が村に訪れた。
そこではシャルルの父が経営する商会、アントール商会が用意した様々な各地の食事や特産品が売られ、来た人々の財布の紐を緩めた。
「それにしても随分なことを考えたものね。シャルル。こんな辺鄙な村でこんなに盛大な祭りをやって儲かるの?」
「あら、サラ。これは無駄をなくすためにとても有効な手段よ。この祭りで刈り取られた羊毛はアントール商会が運ぶでしょう? 空で来て持って帰ってもいいけど、それより商品を運んで商売し、空いた所に羊毛を詰んだ方がずっと儲かるわ」
「はぁ。シャルルはやっぱり商人の娘なのねー。私じゃあそんなこと思いつかないもの」
「こんなの慣れよ。ソフィ。あなたならその気になればきっといい商人になれるわ」
今年から祭りのイベントの主催者として参加するアントール商会の代表として村に訪れていたシャルルは、思わぬ友人が村に帰省していることが分かり喜んだ。
一晩中お互いにどんなことがあったか話し込んだ三人は、祭りを一緒に回っていた。
「あ! そろそろこの祭りのメインイベント、羊毛刈りが始まるみたいよ!」
「私も久しぶりに観るから楽しみだなぁ。と言っても毎年優勝者は決まっていたけどね」
「それってもしかして?」
三人が着く頃には、村の広場に大勢の人が集まり大声で叫んだり笑い声を上げたりと盛り上がっていた。
サラに気付いた村人が、気を利かせて場所を譲ってくれた。
お礼を言って広場の中央を見ると、今まさに羊毛刈りが行われていた。
最初の挑戦者はロロのようだ。
「ロロー頑張れー!!」
サラが応援の声を上げると、ロロは驚きの表情で声のした方に顔を向け、満面の笑顔で毛刈りバサミを持った右手を大きく上で振った。
レフリーの合図と共に刈りを始めるが、相手も生き物なのでその場でじっとしていてくれる訳では無い。
動かないように脚で押さえ付けながらハサミを動かすものの、羊は居心地が悪そうに身体を小刻みに震わせた。
「あ!」とロロが声を漏らす。どうやら刃で羊の皮膚を傷付けてしまったようだ。
途端に羊が痛みで激しく暴れ、その勢いに負けロロは後ろ向きに転がり、羊はその場から立ち上がり、刈り取られている最中の自分の毛を引きづりながら走り出してしまった。
それを見て観客達からは笑いと、ヤジが飛んでくる。
中には心底残念そうな声を上げている者もいた。
おそらく優勝者の予想に若いロロを選んだ者だろう。
刈り取る素早さとキレイに刈り取る両方の評価が高いものを優勝者とする優勝者当て。
祭りの最中に最も重かった羊毛の重さを当てる重量当て。
毎年恒例でこの二つに観客達は参加できるのだが、今年の商品がド・ゴールの服だと言うから観客達の鼻息は荒い。
そんな中、様々な人が挑戦し場を盛り上げていた。
「まったく。他の奴らはだらしねぇなぁ。羊ごとき。俺様にかかればいちころよ」
「マスター頑張ってー」
「ルークちゃん。羊まで斬ったらダメなんだからね? ちゃんと分かっているわよね?」
基本は村人以外の人間に参加させることは羊達を守るために行わない。
しかし本人たっての希望と、前年度優勝者がいいと言ったため特別に参加したルークの番となった。
「ルークさん、きちんと刃を寝かせないと皮膚まで切っちゃいますからねー」
「うるせー。俺はこんなハサミなんてちゃちなもんは使わねぇんだよ。見てろ。これが剣技ってやつだ」
そう言うとルークは愛用の双剣を持って構えた。
この村の外からの挑戦者がS級冒険者と喧伝したため、なにか凄いものが観れるのではないかと観客達も固唾を飲んだ。
レフリーの合図と同時にルークは羊に向かって疾走する。
広場に立たされた羊はまるで自分がこれから生贄にでもされるかのように震え、一歩も身動きが取れずに佇んでいた。
剣閃が数度放たれた。静けさの中ルークが双剣を鞘にしまう音だけが響いた。
その音を合図に羊の羊毛は霧散し、毛皮をキレイに剥ぎ取られた羊が怯えた表情で立っていた。
沸き上がる歓声とヤジ。どうやら歓声はS級らしい凄まじい剣技に対するものだが、ヤジは毛刈りの出来栄えに対してのようだ。
「なんだ!? てめぇら。素早くキレイに刈り取っただろうが! なんか文句あんのか!?」
「おいおい。ルーク。羊毛刈りは、羊をキレイにすることじゃなくて、キレイな羊毛を刈り取ることに意味があるんだから。毛を霧散させちゃあダメだろう」
そこに現れたのはこの祭りが始まってからの唯一の優勝者、笑顔で羊毛刈りバサミを持つカインだった。
この時期オティスでは村人総出で羊毛の毛刈りが行われる。
元々は村の誰かが言い出した「俺が一番毛刈りが上手い」という言葉に触発され始まった毛刈り祭り。
今では村の外からも見学に訪れる者が出るほどであったが、今年は様相が少し違った。
一番の要因は領主代行が行ってくれた街道の整備だ。
辺境にあるオティスは祭り以外に外から人が来るのは時おり訪れる行商人だけだったが、交通の便が劇的に改善されたことから、普段でも隣町からも人が来るようになった。
祭りに関してだけ言えば、もっと大きな要因があった。
シャルルが立ち上げた貴族御用達のブランド、ド・ゴールに使われる羊毛が全てこの村のものであり、祭りのイベント参加者に抽選でその羊毛で編まれた服を数着プレゼントすると宣伝したのだ。
一般の市民では敷居が高く手が届くことの無い服が手に入るとあって、近隣から多くの人が村に訪れた。
そこではシャルルの父が経営する商会、アントール商会が用意した様々な各地の食事や特産品が売られ、来た人々の財布の紐を緩めた。
「それにしても随分なことを考えたものね。シャルル。こんな辺鄙な村でこんなに盛大な祭りをやって儲かるの?」
「あら、サラ。これは無駄をなくすためにとても有効な手段よ。この祭りで刈り取られた羊毛はアントール商会が運ぶでしょう? 空で来て持って帰ってもいいけど、それより商品を運んで商売し、空いた所に羊毛を詰んだ方がずっと儲かるわ」
「はぁ。シャルルはやっぱり商人の娘なのねー。私じゃあそんなこと思いつかないもの」
「こんなの慣れよ。ソフィ。あなたならその気になればきっといい商人になれるわ」
今年から祭りのイベントの主催者として参加するアントール商会の代表として村に訪れていたシャルルは、思わぬ友人が村に帰省していることが分かり喜んだ。
一晩中お互いにどんなことがあったか話し込んだ三人は、祭りを一緒に回っていた。
「あ! そろそろこの祭りのメインイベント、羊毛刈りが始まるみたいよ!」
「私も久しぶりに観るから楽しみだなぁ。と言っても毎年優勝者は決まっていたけどね」
「それってもしかして?」
三人が着く頃には、村の広場に大勢の人が集まり大声で叫んだり笑い声を上げたりと盛り上がっていた。
サラに気付いた村人が、気を利かせて場所を譲ってくれた。
お礼を言って広場の中央を見ると、今まさに羊毛刈りが行われていた。
最初の挑戦者はロロのようだ。
「ロロー頑張れー!!」
サラが応援の声を上げると、ロロは驚きの表情で声のした方に顔を向け、満面の笑顔で毛刈りバサミを持った右手を大きく上で振った。
レフリーの合図と共に刈りを始めるが、相手も生き物なのでその場でじっとしていてくれる訳では無い。
動かないように脚で押さえ付けながらハサミを動かすものの、羊は居心地が悪そうに身体を小刻みに震わせた。
「あ!」とロロが声を漏らす。どうやら刃で羊の皮膚を傷付けてしまったようだ。
途端に羊が痛みで激しく暴れ、その勢いに負けロロは後ろ向きに転がり、羊はその場から立ち上がり、刈り取られている最中の自分の毛を引きづりながら走り出してしまった。
それを見て観客達からは笑いと、ヤジが飛んでくる。
中には心底残念そうな声を上げている者もいた。
おそらく優勝者の予想に若いロロを選んだ者だろう。
刈り取る素早さとキレイに刈り取る両方の評価が高いものを優勝者とする優勝者当て。
祭りの最中に最も重かった羊毛の重さを当てる重量当て。
毎年恒例でこの二つに観客達は参加できるのだが、今年の商品がド・ゴールの服だと言うから観客達の鼻息は荒い。
そんな中、様々な人が挑戦し場を盛り上げていた。
「まったく。他の奴らはだらしねぇなぁ。羊ごとき。俺様にかかればいちころよ」
「マスター頑張ってー」
「ルークちゃん。羊まで斬ったらダメなんだからね? ちゃんと分かっているわよね?」
基本は村人以外の人間に参加させることは羊達を守るために行わない。
しかし本人たっての希望と、前年度優勝者がいいと言ったため特別に参加したルークの番となった。
「ルークさん、きちんと刃を寝かせないと皮膚まで切っちゃいますからねー」
「うるせー。俺はこんなハサミなんてちゃちなもんは使わねぇんだよ。見てろ。これが剣技ってやつだ」
そう言うとルークは愛用の双剣を持って構えた。
この村の外からの挑戦者がS級冒険者と喧伝したため、なにか凄いものが観れるのではないかと観客達も固唾を飲んだ。
レフリーの合図と同時にルークは羊に向かって疾走する。
広場に立たされた羊はまるで自分がこれから生贄にでもされるかのように震え、一歩も身動きが取れずに佇んでいた。
剣閃が数度放たれた。静けさの中ルークが双剣を鞘にしまう音だけが響いた。
その音を合図に羊の羊毛は霧散し、毛皮をキレイに剥ぎ取られた羊が怯えた表情で立っていた。
沸き上がる歓声とヤジ。どうやら歓声はS級らしい凄まじい剣技に対するものだが、ヤジは毛刈りの出来栄えに対してのようだ。
「なんだ!? てめぇら。素早くキレイに刈り取っただろうが! なんか文句あんのか!?」
「おいおい。ルーク。羊毛刈りは、羊をキレイにすることじゃなくて、キレイな羊毛を刈り取ることに意味があるんだから。毛を霧散させちゃあダメだろう」
そこに現れたのはこの祭りが始まってからの唯一の優勝者、笑顔で羊毛刈りバサミを持つカインだった。
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