辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
上 下
123 / 133
第5章

第120話

しおりを挟む
「おかえりなさい!!」

 アイリがカイン達に気付き近寄ってきた。
 顔には披露が見える。おそらく心配しすぎて気疲れしたのだろう。

「ただいま! なんとかなったわ。色々あったけど目的も無事達成できたの!」
「本当ですか? 良かったぁ。あ、あっちに温かいもの用意していますから、ぜひ召し上がってください!」

「お? 気が利くねぇ。あいたたた。ちきしょう、やっぱり折れてるなこりゃ」

 アオイが脇腹を抑える。どうやらジェスターに吹き飛ばされた時に損傷したらしい。
 防具もカインの付与魔法で強化していたが、それでも無傷とはいかなかったようだ。

 しかしその状態で今まで動き回ったアオイの精神力は並大抵のものでは無いと言える。
 移動したあと、みながアイリの用意したスープを食べていると、シバが口を開いた。

「今回はみんな無事に帰れて何よりだ」
「おいおい。俺のアバラは無事じゃないぞ」

「それでもだ。正直リヴァイアサンを倒して誰も死なないというのは奇跡とも言える。だいたいアオイさんが怪我したのだって、その後のジェスターとか言うやつのせいだろうが」
「まぁな」

「残念ながら船は大破してしまったが、さっきも言ったがそんなもんはまた作ればいい。ところで、俺には夢がある。新大陸に行くことだ」
「その魔道核の凄さを見たら、俺も行きたくなっちゃうけどな。新大陸に」

 シバはここで一呼吸おき、頭を深々と下げてからこう言った。

「そこでここに居る二人に頼みがある。カインさん、コハンさん」

 名前の呼ばれた二人はシバの言いたいことに察しがついているようだ。

「カインさん。どうか新しく作った船にまた付与魔法をかけてもらえないだろうか?」
「ええ。構いませんよ。こちらも無理言いましたし。それくらいむしろさせてください」

 ありがとう。と再びシバは頭を下げる。
 そしてコハンの両手を握り目をしっかりと見つめた。

「コハンさん。無理を承知で頼む! 俺と一緒に新大陸探しを手伝ってくれないか? 見つけさえすれば、必ずこの大陸に戻すと約束する! 魔道核を使えば希望があるんだ!」
「ダメじゃ」

 コハンは首を横に振る。
 その様子を見たシバは項垂れてしまった。

「わしが姉様を置いて新大陸になぞいけるわけがないじゃろ。と言いたいところじゃが……わしは姉様を諦める!」

 言っている意味がよく分からず再び顔を上げたシバに顔には困惑の表情が浮かんでいる。

「カイン殿を知って、姉様が好きな人が居ることに踏ん切りがついたのじゃ。しかし、未練が無いわけじゃない。じゃから、わしは新大陸を見つけてそこに暮らすつもりじゃ。新しいいい人を新大陸で探すのじゃ」
「ということは……」

「じゃから、手伝いじゃなく、わし自身の目的として参加させてくれなのじゃ」
「本当か!? ありがとう!!」

 シバは握ったままだったコハンの手をぶんぶんと上下に振って喜ぶ。
 それを見て笑うアオイを見てサラが聞いた。

「アオイさんはどうするんです?」
「うーん。このザマだからな。ひとまずはしばらく療養が必要そうだ。カインさん達の話の続きも気になるが、俺もまだやらなきゃいけない事があるからな。身体は大事にしないと」

「すいません。アオイさん。私が動ければこんなことには……」
「カインさんのせいじゃない。シバさんも言ったが、みんな生きて帰れたんだ。それが何よりだ」

「私もそろそろ集落へ帰らないと。両親が心配ですから。サラさん達と別れるのは辛いですが、皆さんもっと広い世界に生きているんですもんね」
「アイリさんもありがとう! すごく楽しかったよ!」

 アオイが思い出したようにカインに向かって聞いた。

「そういえば、リヴァイアサンの背びれはどうするんだ?」
「ああ。ゼロに頼んで私達が所属しているクランに運んでもらいました。あそこには信頼出来る仲間が居ますから」

 その言葉を聞いてコハンが反応する。

「クランじゃと!? つまり姉様がいる場所じゃな? くそ。しまったのじゃ。それを知っていれば、わしもそっちに向かったのに!」
「コハンさん。師匠への未練が駄々残りですよ……」

 ソフィの指摘にその場の全員が笑った。
 一通り笑いが納まったあと、誰からともなく、みんな各々が固い握手を交わした。

 思い思いにそれぞれの気持ちを込めて交わされた握手は、その場にいる者達にとってかけがえのないものだろう。
 その後再び談笑が始まり、船の製造に携わった者達も交えて酒盛りが始まった。

 カインとシバとアオイは酒を楽しみ、サラとソフィとアイリはジュースを片手に絶え間ない話で盛り上がった。



「おう。戻ったぞ」

 ユートピアの拠点の扉が開き男が一人入ってくる。このクランのマスター、ルークだ。
 ルークが入ってくるのを見ると入口近くにいたクランのメンバー達はいっせいに挨拶をする。

「おかえりなさい! マスター!!」

 そのルークの帰りを心待ちにしていた少女が一人。
 見た目が少女なだけで実年齢はルークよりも上なのだが、ルークを見る目はまさに少女のように輝いていた。

◇◇◇

色々更新遅くなったりもしましたが、ようやく第5章も終わりです!!

ここまで付き合ってくださって本当にありがとうございます。

予定ではあと2章分で終わるつもりです。
あともう少しだけお付き合い下さい!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...