辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第5章

第102話

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「それで、これからどうするのじゃ?」

 昨日は夜までかけてエルフ達の呪いを解いていたため、ソフィはコハンの家に世話になった。
 コハンが切り出したのはその翌朝、朝食を食べ始めた頃だった。

 目の前に並ぶ木の実や果物を選り好みしながら食べるソフィは少し思案した顔を見せた後、コハンに今後を伝えた。

「昨日、首長って言うの? ひとまず伐採の件については以前のように元通りでいいって言ってもらったから。私の用事は終わりね。ひとまず帰って、結果を伝えるつもりよ」
「ふむ。まぁ、そうじゃろうな。ところでなのじゃが、わしも同行してもよいかのう?」

 コハンの申し出の意図が分からず、ソフィは首を傾げた。

「良いも悪いも特にないけど、私と一緒に街に行ってどうするの?」
「うむ。ここ最近忙しいのかなんなのか、姉様からの頼りが途絶えていてな。お主のお陰で無事だと分かったのは僥倖じゃ。前は欠かさず定期的に返事をくれていたのじゃが。知り合いだというお主や仲間から近況を聞きたいと言うのが主な理由じゃ」

「主な、って言うことは他にもあるの?」
「昔、姉様が冒険者を始めた頃の話なんじゃが、気になる人がいると書かれていてな。名前も素性も書かれていなかったが……」

 その言葉にソフィは驚いた。まさかララが恋愛感情を持つ対象がいたとは。
 ソフィは知り合ってからのララの言動を思い出す。

「うーん。ララさんの普段の行動を見てるとそんな雰囲気ちっとも感じられないけどなぁ。昔は昔で、今はいないのかな?」
「いや! その想い人はまだ居るはずじゃ。わしには分かる。姉様はその想い人が居るせいで冒険者を続け、わしの元へ帰ってこないのじゃ!」

 コハンは手に果物を持っていることを忘れ、握りこぶしを作る。
 滑らかな肌に覆われた長い指に甘く芳香する汁が滴った。

「それで? ララさんの想い人がいるって言うのと、私と一緒に街に来るってのはどう繋がるの?」
「カイン殿といったか? 姉様の古くからの仲間らしいな? 姉様は最初に組んだ仲間と変わらず共にしているらしいからの。そのカイン殿なら何か知ってるかと思っての」

 ソフィはララが恋愛沙汰などとは無縁だと思っていたが、俄然興味がわきコハンと共に街へ戻ることを決めた。
 道中、互いに知るララの話題に花を咲かせた。



「くしゅん!」

 ユートピアの一室、訓練場と呼ばれる場所で普段は見かけることのあまりないララが、戦いの感覚を忘れぬよう訓練をしていた。
 今の音はそのララがくしゃみをした音だ。

「あらやだ。ララ、鼻から変なもの出てるわよ」
「ちょっとミューぴょん! そういうのはもうちょっとやんわりとした言葉で指摘するものよ!」

 そう言いながら、フリルの付いたリボンドレスのポケットからハンカチーフを取り出し、鼻を拭った。
 ふと物思いに耽る。

「どうしたのララ? なんか柄にも無く難しい顔しちゃって」
「もう、ミューぴょんは一言余計なんだから。大丈夫かなぁって思って」

「ああ。はいはい。ご馳走様。ララは昔からお熱だからね。大丈夫でしょ。すぐに平気な顔して戻ってくるわよ。この前だってそうだったでしょ?」
「うん……って! なんでミューぴょん私が好きな人のこと知ってるの!?」

 ララは手に持った杖を振り上げ、ミューに迫る。
 しかし二人の身長差のため大男に子供が駄々をこねているようにしか傍からは見えない。

「なんでって。そりゃあ、こんだけ長く付き合ってたら気付くわよ。でも安心しなさいね。あっちは気付いてないわよ。きっと」
「それって逆に悲しいんじゃ?」

「はいはい。この話はこれでお終い。訓練しに来たんでしょ? ララの攻撃なんて私くらいしか受けられないんだから、さっさと続きをやりましょう」
「うーん。そうね。じゃあ、ミューぴょん! 覚悟しなさい!」

 そう言うとララは広範囲魔法の詠唱を遠慮なく始めた。
 周囲で共に訓練していたクランのメンバー達は、そのことに気付くと慌てた様子で訓練場を後にした。



「さて、これからどうしようか?」

 アオイはカインにそう聞いた。
 カインはベヒーモスとの戦いで疲れ切った身体がようやく動くようになり、立ち上がるとアオイに顔を向けた。

「元々ここに来た理由はリヴァイアサンを誘き寄せる方法を知りに来たのですが、今となってはそれも難しそうです。それと本来の目的のこの辺りの木々の状態の確認は問題ありませんし。私は元の街へ戻りますかね」
「ちょっと待ってくれ。今ベヒーモスを退けたばかりだと言うのに、次はリヴァイアサンだと? どういうことだ?」

 カインはアオイにどこまで説明するか迷った。
 結局重要な話は上手く伏せ、リヴァイアサンとの戦闘に関しては出来るだけ詳しく話した。

「なるほど。災厄の魔女が作った海峡にリヴァイアサンがねぇ。確かに海中で戦うのは死にに行くのと同義だ。海上までおびき寄せられればもしくは……」
「そうなんです。しかし、その方法が思いつきません。海上で戦うための船は今知り合うことが出来た船大工にお願いしているのですが」

 アオイは右手を顎に当てしばらく考える素振りを見せる。
 そして先ほど二人で切り落としたベヒーモスの一対の角へ近付き、そこへ右手を乗せた。

「カインさんは神を信じるかね? これが偶然だとしても必然だとしても、神の思し召しってやつに俺は思うね。ベヒーモスの角。これがあればリヴァイアサンを海上までおびき寄せられる」

 カインはその言葉に驚き、アオイの次の言葉を待った。
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