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第4章
第57話
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それは元々、大きな群れを作らない魔物だった。
しかし、現状は違った。
群れの中心には、周りのオスに比べ、一回り小さいメスが一匹。
それを囲むように、多くのオスが頭を垂れ、中央にいるメスに向かって忠誠を誓う仕草をしている。
この魔物の名はグリフォン。
鷲の頭と翼、獅子の胴体を持つ、ドラゴンと並ぶ、強力な魔物だ。
その強力な魔物が群れを成して、跪く対象。
それは、グリフォンのメスであった。
グリフォンはその性別がほとんどオスである。
元々個体数が少ないが、その中でもメスは100頭に付き、1頭いるかいないかであった。
グリフォンは胎生であるが、その性別の比が異常なため、しばしば別の動物を対象とすることが知られている。
その中でも多いのが馬であり、グリフォンと牝馬の間に産まれた魔物は、ピッポグリフと呼ばれ、恐れられている。
さて、この群れの中心にいるメスの話に戻ろう。
このメスは間違いなくグリフォンである。
グリフォンのメスは、その時代に存在する他のメス達と、競い合い、グリフォンクイーンに選ばれることを何よりの目的としていた。
グリフォンクイーンに選ばれる基準は、自身の強さもそうだが、最終的には、そのメスを慕うオスの格と数だ。
今この場にいるオスのグリフォン達は、数だけでいえば、この地域に生息するほとんどのグリフォンがいると言っても過言ではないだろう。
加えて、格についても、群れの中心に近いオスは、体格も他のグリフォンをはるかに凌ぐ個体が数頭。
その一頭ですら、従えられれば、クイーンの座が近いのではないかというほどの、強力な個体が、今一頭のメスに尽くかしずいている。
それは異常な状況に見えた。
過去、どの時代に遡ってもこれだけのオスに従われたメスは存在しなかっただろう。
しかし、それは起こってしまった。人の性と業によって。
個体数が非常に少ないとは言っても、いつの時代にもグリフォンのメスは数頭は居た。
そうでなければ、いくら多胎であるとはいえ、現在までグリフォンという種族が存在することは難しかっただろう。
しかし、今、グリフォン達はその種族の存亡の危機に陥っていた。
複数居たメスのグリフォンが人間達の手によって討たれたのだ。
グリフォン達が知る由もないが、原因はひとつの噂だった。
エリクサーと呼ばれる万能薬、それにほぼ似た効能を持つ秘薬の素材として、グリフォンクイーンの頭部が必要なのだという。
欲に目が眩んだ人間達は、こぞってメスのグリフォンを見つけ出しては、その頭部を手にする為、討伐した。
結果、この地域には、メスのグリフォンは一頭のみとなってしまった。
その一頭がこの群れの中心である。
他のメスに従えていたオス達も、最後の一頭を失う訳にはいかないと、本来なら、一度忠誠を誓った相手を変えないという、種族の習性をも覆し、ここにいる一頭に忠誠を誓い直したのだ。
「やーん。フー、こんなにいい男に囲まれたら困っちゃうー」
グリフォンの言語で、そう言い放ったのは、件のメスのグリフォン、名前をフーと言った。
フーとはグリフォンの言葉で竜巻を意味する。
グリフォンはその強力な四肢の他に、人外の威力を持つ風魔法を得意とする。
その中でもフーが得意とするのは、自身を中心として、風の刃の渦を作り、敵を自分の方向に引きずり込みながら、切り刻むという、凶悪な魔法だった。
フーはここより更に南の島から、先日この山を見つけ、移り住むことを決めた。
山に着いた途端襲いかかってきた、マウンテンワームもギガンテスも、フーの作り出した風魔法によって為す術もなく倒された。
その魔法の威力は凄まじく、彼らの巨体を持ってしても身動き取れずに、徐々に中心へと引きずられ、無数の風の刃にその身を切り刻まれた。
多くのグリフォンの風魔法は直線上に放つものが多い。
中でも、風の刃を用いたものでは、複数の刃を円のように回転させながら、前方に高速で飛ばす魔法が多く使われた。
その中で、フーの放つ風魔法は、真似するもののいない、唯一の魔法と言えた。
つまりこの地域の他のメスを失ったオスのグリフォン達にとって、フーは、唯一のメスである上に、その強さも申し分のない、従属するのに何ら抵抗のない相手だと言えた。
唯一、その態度を除いては。
「うーん。イケメンばっかりで、フー困っちゃう。でもね。やっぱりまだ早すぎると思うの。だって、フー達、会ったばかりでしょう? それなのにもう子作りだなんて」
オスのグリフォンがフーに従う一番の理由は、種族を未来に残すためである。
そのためには子を成さねばならない。
しかし、この若いグリフォンは状況を、差し迫っている事の重大さを、理解していないのか、先程からこの調子だ。
オスのグリフォン達は苛立ちを隠しながら、フーをどうにかその気にさせようと、これから繰り出されるわがままを、全て叶えて行った。
◇
カイン達はドワーフの国にしばらく滞在していた。
目的のミスリルは目と鼻の先である。
しかし、長が言うように、山々には多くの魔物がひしめいていた。
いくら3人でも、この魔物を相手にしながら、慣れない採掘をするのには無理があった。
それならばと、サラは、魔物を3人で引き受けている間に、本職のドワーフ達に採掘をお願いできないか提案した。
しかし、恩人を危険な目に合わせて、のうのうと採掘などできるか! と一蹴に伏せられてしまった。
なかなかいい案が見つからないまま、3人はドワーフ国を、観光でもするかのようにうろうろとしていた。
◇◇◇◇◇◇
いつも読んでいただきありがとうございます。
なんとか、今日中に更新することが出来ました。
お騒がせしてすいません。
しかし、現状は違った。
群れの中心には、周りのオスに比べ、一回り小さいメスが一匹。
それを囲むように、多くのオスが頭を垂れ、中央にいるメスに向かって忠誠を誓う仕草をしている。
この魔物の名はグリフォン。
鷲の頭と翼、獅子の胴体を持つ、ドラゴンと並ぶ、強力な魔物だ。
その強力な魔物が群れを成して、跪く対象。
それは、グリフォンのメスであった。
グリフォンはその性別がほとんどオスである。
元々個体数が少ないが、その中でもメスは100頭に付き、1頭いるかいないかであった。
グリフォンは胎生であるが、その性別の比が異常なため、しばしば別の動物を対象とすることが知られている。
その中でも多いのが馬であり、グリフォンと牝馬の間に産まれた魔物は、ピッポグリフと呼ばれ、恐れられている。
さて、この群れの中心にいるメスの話に戻ろう。
このメスは間違いなくグリフォンである。
グリフォンのメスは、その時代に存在する他のメス達と、競い合い、グリフォンクイーンに選ばれることを何よりの目的としていた。
グリフォンクイーンに選ばれる基準は、自身の強さもそうだが、最終的には、そのメスを慕うオスの格と数だ。
今この場にいるオスのグリフォン達は、数だけでいえば、この地域に生息するほとんどのグリフォンがいると言っても過言ではないだろう。
加えて、格についても、群れの中心に近いオスは、体格も他のグリフォンをはるかに凌ぐ個体が数頭。
その一頭ですら、従えられれば、クイーンの座が近いのではないかというほどの、強力な個体が、今一頭のメスに尽くかしずいている。
それは異常な状況に見えた。
過去、どの時代に遡ってもこれだけのオスに従われたメスは存在しなかっただろう。
しかし、それは起こってしまった。人の性と業によって。
個体数が非常に少ないとは言っても、いつの時代にもグリフォンのメスは数頭は居た。
そうでなければ、いくら多胎であるとはいえ、現在までグリフォンという種族が存在することは難しかっただろう。
しかし、今、グリフォン達はその種族の存亡の危機に陥っていた。
複数居たメスのグリフォンが人間達の手によって討たれたのだ。
グリフォン達が知る由もないが、原因はひとつの噂だった。
エリクサーと呼ばれる万能薬、それにほぼ似た効能を持つ秘薬の素材として、グリフォンクイーンの頭部が必要なのだという。
欲に目が眩んだ人間達は、こぞってメスのグリフォンを見つけ出しては、その頭部を手にする為、討伐した。
結果、この地域には、メスのグリフォンは一頭のみとなってしまった。
その一頭がこの群れの中心である。
他のメスに従えていたオス達も、最後の一頭を失う訳にはいかないと、本来なら、一度忠誠を誓った相手を変えないという、種族の習性をも覆し、ここにいる一頭に忠誠を誓い直したのだ。
「やーん。フー、こんなにいい男に囲まれたら困っちゃうー」
グリフォンの言語で、そう言い放ったのは、件のメスのグリフォン、名前をフーと言った。
フーとはグリフォンの言葉で竜巻を意味する。
グリフォンはその強力な四肢の他に、人外の威力を持つ風魔法を得意とする。
その中でもフーが得意とするのは、自身を中心として、風の刃の渦を作り、敵を自分の方向に引きずり込みながら、切り刻むという、凶悪な魔法だった。
フーはここより更に南の島から、先日この山を見つけ、移り住むことを決めた。
山に着いた途端襲いかかってきた、マウンテンワームもギガンテスも、フーの作り出した風魔法によって為す術もなく倒された。
その魔法の威力は凄まじく、彼らの巨体を持ってしても身動き取れずに、徐々に中心へと引きずられ、無数の風の刃にその身を切り刻まれた。
多くのグリフォンの風魔法は直線上に放つものが多い。
中でも、風の刃を用いたものでは、複数の刃を円のように回転させながら、前方に高速で飛ばす魔法が多く使われた。
その中で、フーの放つ風魔法は、真似するもののいない、唯一の魔法と言えた。
つまりこの地域の他のメスを失ったオスのグリフォン達にとって、フーは、唯一のメスである上に、その強さも申し分のない、従属するのに何ら抵抗のない相手だと言えた。
唯一、その態度を除いては。
「うーん。イケメンばっかりで、フー困っちゃう。でもね。やっぱりまだ早すぎると思うの。だって、フー達、会ったばかりでしょう? それなのにもう子作りだなんて」
オスのグリフォンがフーに従う一番の理由は、種族を未来に残すためである。
そのためには子を成さねばならない。
しかし、この若いグリフォンは状況を、差し迫っている事の重大さを、理解していないのか、先程からこの調子だ。
オスのグリフォン達は苛立ちを隠しながら、フーをどうにかその気にさせようと、これから繰り出されるわがままを、全て叶えて行った。
◇
カイン達はドワーフの国にしばらく滞在していた。
目的のミスリルは目と鼻の先である。
しかし、長が言うように、山々には多くの魔物がひしめいていた。
いくら3人でも、この魔物を相手にしながら、慣れない採掘をするのには無理があった。
それならばと、サラは、魔物を3人で引き受けている間に、本職のドワーフ達に採掘をお願いできないか提案した。
しかし、恩人を危険な目に合わせて、のうのうと採掘などできるか! と一蹴に伏せられてしまった。
なかなかいい案が見つからないまま、3人はドワーフ国を、観光でもするかのようにうろうろとしていた。
◇◇◇◇◇◇
いつも読んでいただきありがとうございます。
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