辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第1章

第12話

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諸事情によりヒロイン名をサラとソフィに変更しました。初めて読む方にはお目汚しすいません。途中まで読んでいる方は混乱させてすいません。

◇◇◇◇◇◇


「所で、すっかり忘れていたのですが、この手紙とこの箱をセレンディアのギルドについででいいので送り届けて頂けないでしょうか。サラ宛てとして渡して頂けたら助かります」
「もちろんいいですよ! もし本人を見かけたら直接渡しますね。こちらから話しかけるいい話題になりますし」

「それは助かります。ありがとうございます。それでお礼なのですがそんなに多くは用意できませんが、いくらほどお渡ししたらいいでしょうか?」
「そんな! お礼だなんてとんでもない! どうせ私達もセレンディアに戻るついでですし。それに私も里に顔を出してから帰るつもりだから、最短で届ける訳でもないですし。それでお世話になったサラさんのお父さんにお金なんかもらったらバチが当たっちゃいますよ」

 そう言ってソニアは手紙配達の謝礼を固辞した。
 それならばせめてここの食事代だけでもと言ったのだが、グリズリーを倒せたことに高揚しさんざん飲み食いしたマークとアレックスからそれではあまりに高額すぎると拒否されてしまった。
 辺境の村暮らしのカインの懐具合を考え遠慮したのだろう。

 しかし冒険者に簡単な用事とはいえ依頼をして無料でとはいかないとカインは思った。
 サラに恩があるからと言ってはいるが、それはあくまで娘の成果であり、父親であるカインがその恩恵を受け取るのは違うと思った。
 何かいいものは無いかとポケットを探ると今日行商人から話のお礼にと買った物が手に触れた。
 いい考えかもしれないと思い、カインは3人に気づかれないよう呪文を唱え、手に握ったそれを3人の目の前に差し出した。

「それならば気持ちばかりにこのメダルをもらってください。なに、大した物じゃないんですが、お守りみたいなものでして。これを持っていると魔物に襲われないって言われているんですよ」
「へー。聞いたこと無かったですね。有名な話なんですか? そんな高価そうなものでも無いですし、それじゃあ、ありがたく頂いておきます」
「本当に効くといいな。ここに来るまでも何度か魔物に襲われたもんな。大した相手じゃないがやっぱりその分移動も遅くなるし、休んでる夜に来られたりしたら面倒なことこの上ない」
「まさか。田舎の迷信でしょ。でも気は持ちようだもん。縁起担ぎくらいにはなるわ」

 受け取った3人も本当にこのメダルにそんな効果があるなど思ってもいなかったし、カインが言ったことも口から出任せだった。
 しかし、このメダルに魔物避けの効果があるのは確かだった。カインがそう付与したのだから。
 さすがにこの場で魔力枯渇状態になる訳には行かなかったが、それなりの魔物にも効果があるようにとかなりの魔力量を込めておいた。
 これならば余程里帰りに時間をかけなければ、セレンディアに戻るまでとはいかずともそれなりの旅程の間、魔物を近づけないようにしてくれるだろう。

 カインと3人は互いに握手を交わしそれぞれの宿に戻って行った。
 カインが宿の部屋に入ると既にロロはいびきをかきながら気持ちよさそうに眠っていた。
 音を立ててロロを起こすことのないように気をつけながら、カインも寝支度をして寝床に入ると、無事に手紙と贈り物を届けてくれる人を見つけることのできた達成感と、自分の知らない娘の姿を知る相手から娘の近況を聞けた喜びを感じながら気持ちの良い眠りへと落ちていった。

 所で、3人は驚くことに道中一度も魔物に出会うことなく旅を終えた。
 メダルのご利益があったのかもね。などと笑い話にしていたが、不思議なことにその後もメダルを持っていると魔物に襲われることがなかった。
 気づくと討伐クエストや魔物の素材を集めるなど積極的に魔物に遭遇したい時以外は常に携帯するようになっていた。
 いつしかそのメダルは「幸運のメダル」と呼ばれ、末永くパーティに魔物避けの幸運をもたらしたのは余談である。



 サラは緊張していた。
 目の前には見たことの無いほど一点の曇りもない真っ白な、つば広の帽子を逆さにしたような奇妙な形をした皿に、少量だけ入れられたスープと、何故こんなに必要なのか分からないほど多くの、こちらも一点の曇無く文字通り顔が映るほど磨かれた、ナイフやフォークやスプーンが並べられている。
 隣に目をやると、サラと同じかそれ以上に緊張した面持ちのソフィが見える。
 なんのためにこんなにあるのか分からないほどの幅を持つテーブルの向こう側に目をやると、見るからに高級そうで、しかし嫌味を感じさせない上品さを醸し出す服装を普段着のように自然に着こなした、初老の男性が座っている。
 2人は今、コリカ公国の主、大公と3人きりで食事をしているのだった。

 話は今日の朝に溯る。
 昨日の晩餐会の後、それぞれの冒険者は城内にある客室をあてがわれ、そこで一晩を過ごした。
 2人も一悶着あったものの、無事に仲直りを果たし、豪勢な朝食を頂いてから、他の冒険者と同じように帰り支度をしていた時の事。

 身の回りの世話をしてくれていたメイドとは異なる、明らかに他のメイドよりも格上と分かる年上の女性が部屋を訪ねてきた。彼女はこの城のメイド長だと名乗った。
 話によると出立を少し遅らせて欲しいとの事だった。なんでも、何処からか、タイラントドラゴンが黒く変異した後の出来事を聞いたらしく、討伐の立役者であるサラと是非個人的に話がしたいので昼食を一緒にと大公が言い出したのだと言う。
 本心では遠慮願いたかったが、まさか公国の主直々の招待を一般市民であるサラが断れる訳もなく、しかし、2人きりはせめて避けたいと、同じパーティであるソフィを同席させて欲しい旨を伝え、同席を了承され、今に至るのだ。

「さぁさぁ。遠慮はいらない。食べてくれ。作法なども気にしなくてよい。食事というのは食べたい様に食べる。これが一番美味しいのだから」

 大公に足され、サラは目の前のスープスプーンを手に取るとスープを出来るだけ音を立てないようにゆっくりと飲み始めた。
 ソフィもサラの仕草を見様見真似でスープを飲み始める。
 サラ達が手を付けたのを確認し、満足そうに見ると大公も食事を始めた。
 いくら作法など気にしなくてもいいと言われてもまさか普段食べているような仕草で食べるわけにもいかないだろう。
 最低限のマナーを教えてくれていた父に普段よりも多分に感謝の念を感じたサラだった。

「それで...早速だがあのドラゴンを葬ったというサラ殿の話を是非とも直接聞きたくてね。ああ、緊張はしないでくれたまえ。緊張で話が弾まないのは私の本意ではないのだから」
「どのようなことがお聞きになりたいのでしょうか。大公閣下」

 サラは不敬がないようにと言葉を頭の中で反芻しながらゆっくりと言った。

「うむ。討伐したというドラゴンの遺骸は私も見せてもらった。私は魔物に対してそんなに豊富な知識を持っているわけではないが、あのドラゴンからは例え遺骸であっても恐ろしさを感じたよ。素材を専門に扱う者の話によるとどうやらあの黒く変異したとかいうドラゴンは並みのタイラントドラゴンとは比べ物にならないらしい。牙、爪、鱗などどれをとっても通常の道具では傷一つ付けられないそうで、解体するのに難儀しているそうだ。ところが、サラ殿はあのドラゴンをなんと一撃の内に葬ったらしいじゃないか。しかし、失礼なようだが、サラ殿は女性でしかも若い。どのような魔法を使ったのか知りたくてね」

 思わず見たものを魅了させるような笑みをこちらに向けながら、大公は言う。どうやらサラの持つ武器に興味があるらしい。

「魔法など上等なものではありませんが、幸いにも優れた武器を手にしていたためです」
「ほう。優れた武器とは。よほどの業物なのだろう。それで、サラ殿はどのようにしてその武器を手に入れたのかな?」

 サラは一瞬なんと答えようか迷った。武器が父からの贈り物だとは親しい仲には気兼ねなく言っていたから、その場に居合わせただけの誰か知らない者も耳に入れているかもしれない。
 変に隠して嘘だとばれるのは得策ではないと思った。しかし、武器の性能が父の得意の魔法によるものだというのは故郷の村の人を除けばソフィにすら伝えてない秘密だった。
 そこは伏せてもまず疑われることはないだろう。問題はどうやって父がこの武器を手に入れたのかということだった。
 結局サラは嘘はつかないがどのようにも取れる言い方を選んだ。

「その武器は父からの贈り物なのです。父は昔冒険者をしていて、優れた力を持っていたので」


◇◇◇◇◇◇
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