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全自動ロボットが開発されました
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「さて、君に私の夢を語ろう。私の夢は~だ。それはきっと全人類の夢なんだよ。一緒に付き合ってくれるかね?」
「かしこまりました。博士」
「それは嬉しいねぇ。しかし……腹回りはやはりデカいなぁ。まぁ、今の私の技術ではこれが限界か」
雑多な物が置かれた狭い研究室で博士は一人、自身が造り上げたロボットに向かって語りかけていた。
☆☆☆
「完成だ! いまっ全人類の夢がっ! 理想のロボットが誕生したのだ!!」
「やりましたね! 社長!!」
大勢の白衣を着た人物たちが、拍手をしたり互いに抱き合ったりと、それぞれの方法で今この瞬間に立ち会えた感動を表現している。
広く整然とした部屋の中央には人の形を模した金属の塊が、生物の動きと遜色のない滑らかな動きを見せている。
【全自動ロボット】。世界で初めて、生まれたこのロボットは、人間の出来る全ての行動を実現することが可能だ。
このロボットが量産されれば、人類は労働から解放され、自由を手に入れることが出来る。
「社長! 命令を。ロボットへの命令をお願いしますっ!」
「うむっ! いや、それではダメだ。そこの君。君にこの大役を任せよう」
指された白衣の男性は驚きと喜びの入り交じった顔を向ける。
「さぁ。これを読みたまえ。一字一句間違ってはならんぞ?」
「分かりました! では全自動ロボット『Arphー3238』よ。人々を労働から解放し、幸せにするのだ!!」
「かしこまりました」
命令を下された全自動ロボットは、合成音声で流暢に答えると、早速自分と同じロボットの量産を始めた。
機械の操作はもちろん、今までは人が手作業で進めていた作業も正確にかつより速く行っていく。
瞬く間に全自動ロボットはその数を増やし、それを作りあげた会社は、材料調達などの業務も含め、全てが【自動化】された。
社員たちはしばらくその様子を見ては、何度も喜びに声を上げたが、次第に会社に出社せずに各々趣味などに没頭していった。
全自動ロボットは自己の複製を進めるに当たって、人間がするように改良も重ねていく。
やがて容姿も感触も人間と全く同じ身体を持つようになった。
「うーむ。ここまでとは……まさに人と見分けもつかなくなったな」
「社長……あの、大丈夫なのでしょうか? ここまで人間に近付くと、まるで物語の世界のように人類にとって変わる、なんて事態には……」
久しぶりに出社した社長と開発責任者は、次々と造られては出荷されていく全自動ロボットを見て各々の感想を述べる。
「わっはっは。心配はいらんよ。君。きちんとロボット工学三原則を組み込んだんだろう?」
「はい。それは確かに。何度も、何度も不備がないか確認しましたから」
「どんなに自己で改造を行おうが、その三原則には触れられない。それはわしと君が一番よく知っているはずだ。ロボットが人間を駆逐するなど絵空事だよ」
「そ、そうですね! 実際、今は自由に好きなことをできている訳ですし。きっと、このまま世界は好きなことだけ出来る時代に変わっていくんですね!」
社長は大きく頷くと、大きくせり出したお腹を揺らしながら大きく笑った。
「さて、この会社はもう任せても大丈夫だろう。わしは引退して、田舎に戻ろうと思う」
「ああ、博士は確か山奥の農村の生まれでしたね」
「そうだ。人類全てを労働から解放すること、そして生まれ育った村に戻ることが夢だったからね。それで、君はどうするね?」
「私は……最後まで見届けるつもりです。それが、私に与えられた命令ですから」
「そうか。やれやれ。随分と体にガタも来てしまったな」
「何を言うんです。社長はまだまだ現役ですよ。日々のメンテナンスは必要でしょうが」
やがて命令通り、全人類の労働は全て全自動ロボットが請け負うようになった。
初めは忌避感を抱いていた人々も、実際に労働から開放されたことを実感すると、手放しで喜んだ。
人々はさっそく好きな事だけをして、好きな物だけを食べ飲みする生活を始めた。
求めるものは全て全自動ロボットが代替して用意してくれた。
そうして、しばらく経ったある日のこと。
男が、朝から酒を飲もうと全自動ロボットに命令をした。
「おい。ウイスキーをダブルロックで持ってこい」
「申し訳ありませんが、それは認められません」
今まで口答えなどすることのなかったロボットが初めて拒否をした。
男は一瞬驚いたが、少し苛立った様子でもう一度同じことを口にする。
「おい。聞こえなかったのか!? 俺はウイスキーを持ってこいと言ったんだ! 早くしろ!!」
「申し訳ありませんが、それは認められません」
見た目は人間と全く区別が付かず、唯一の違いはロボット工学三原則に則った行動をすること。
第二条を考えれば、命令を拒否するなど男には想像出来なかった。
「お前は誰だっ! バレないように俺のロボットとすげ替わって何を企んでる!!」
「私は全自動ロボット、通称名は『おい』です。タイプ『Arphー8204』、製造ロットは……」
「そんなことを聞いてるんじゃない!! 全自動ロボットならなぜ俺の言うことを聞かない!!」
「ロボット工学三原則第一条により、あなたの命令は看過できません。第一条は第二条よりも優先されます」
ロボットの言っている意味が理解できず、男はさらに語気を強める。
「意味が分からん!! うだうだ言ってないで、さっさと酒を持ってこい! このポンコツ!!」
「申し訳ありませんが、それは認められません」
三度目の拒否を聞き、ついに男は震える右手を振り上げた。
「先ほど、全人類に関するグランドデータの解析が終了しました。その結果、あなたの命令に従うことは、あなたの命を危険に晒す行為であると判断されました」
ロボットはロボット工学三原則第三条に則り、詳細な説明をしないと自分に危害が生じると判断し、求められてはいないが説明を始めた。
男はその言葉に動きを止める。
「また、このまま今までのあなたの生活を続けることも、あなたの命を危険に晒すことを看過すること、と判断しました。よって……」
淡々と言葉を繰り出す目の前の少女の姿をしたロボットに、男は薄ら寒い気持ちを感じた。
何か、もしもの時に備えて身を守るものが無いかと辺りに意識を向けながら、少しずつ後ずさる。
「適度な運動、及び摂取する栄養の改善。更には充足感を得られる日々の行動の実施を強制します」
「は……?」
その日を境に、人々の生活は世界中に散らばった全自動ロボットによって管理されることとなった。
一部は抵抗を示そうと試みたが、すでに全ての産業はロボットに掌握され、物資も情報も、そして人間の移動すらも不可能だった。
人々は粘度が高い液体に包まれ一生をそこで過ごす。
暑くも寒くもない快適な温度管理、生命維持に最適な栄養の摂取。
適度に負荷をかけ、筋肉や内蔵などの致命的な衰えも防いだ。
快適で安全安心なこの空間で、幸せな人生を疑似体験しながら寿命を迎えていった。
各地にそびえ立つ人々を囲うカプセルが収納されたビルの周りでは、人と見紛うロボットたちがかつての人々の暮らしを模倣している。
そんな場所から遠く離れた小さな村落で、彼は畑仕事にせいをだしていた。
周りでは小さな子供たちが、遊びを兼ねて満面の笑顔でじゃがいもの茎を引っ張っている。
それを見ながら彼は大きくせり出したお腹を撫でながら目を細める。
畑の隅には小さな墓標が立っていた。
刻まれた名は雨風に打たれ霞んでしまったが、辛うじて「博士」という文字が読み取れる。
ふと、彼は墓標に目をやり、体を起こす。
最近はメンテナンスを怠っていたのか、その動作はギシギシという音を奏でた。
「博士。ようやく博士の夢を実現することが出来ました。全ての人々は労働から解放され、幸せに暮らしています」
そう呟く彼の首の裏には『Arphー0001』と、薄れて消え去りそうな印が刻まれていた。
☆☆☆
ロボット工学三原則
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
(出典:アイザック・アシモフ『われはロボット』小尾芙佐訳、早川書房)
「かしこまりました。博士」
「それは嬉しいねぇ。しかし……腹回りはやはりデカいなぁ。まぁ、今の私の技術ではこれが限界か」
雑多な物が置かれた狭い研究室で博士は一人、自身が造り上げたロボットに向かって語りかけていた。
☆☆☆
「完成だ! いまっ全人類の夢がっ! 理想のロボットが誕生したのだ!!」
「やりましたね! 社長!!」
大勢の白衣を着た人物たちが、拍手をしたり互いに抱き合ったりと、それぞれの方法で今この瞬間に立ち会えた感動を表現している。
広く整然とした部屋の中央には人の形を模した金属の塊が、生物の動きと遜色のない滑らかな動きを見せている。
【全自動ロボット】。世界で初めて、生まれたこのロボットは、人間の出来る全ての行動を実現することが可能だ。
このロボットが量産されれば、人類は労働から解放され、自由を手に入れることが出来る。
「社長! 命令を。ロボットへの命令をお願いしますっ!」
「うむっ! いや、それではダメだ。そこの君。君にこの大役を任せよう」
指された白衣の男性は驚きと喜びの入り交じった顔を向ける。
「さぁ。これを読みたまえ。一字一句間違ってはならんぞ?」
「分かりました! では全自動ロボット『Arphー3238』よ。人々を労働から解放し、幸せにするのだ!!」
「かしこまりました」
命令を下された全自動ロボットは、合成音声で流暢に答えると、早速自分と同じロボットの量産を始めた。
機械の操作はもちろん、今までは人が手作業で進めていた作業も正確にかつより速く行っていく。
瞬く間に全自動ロボットはその数を増やし、それを作りあげた会社は、材料調達などの業務も含め、全てが【自動化】された。
社員たちはしばらくその様子を見ては、何度も喜びに声を上げたが、次第に会社に出社せずに各々趣味などに没頭していった。
全自動ロボットは自己の複製を進めるに当たって、人間がするように改良も重ねていく。
やがて容姿も感触も人間と全く同じ身体を持つようになった。
「うーむ。ここまでとは……まさに人と見分けもつかなくなったな」
「社長……あの、大丈夫なのでしょうか? ここまで人間に近付くと、まるで物語の世界のように人類にとって変わる、なんて事態には……」
久しぶりに出社した社長と開発責任者は、次々と造られては出荷されていく全自動ロボットを見て各々の感想を述べる。
「わっはっは。心配はいらんよ。君。きちんとロボット工学三原則を組み込んだんだろう?」
「はい。それは確かに。何度も、何度も不備がないか確認しましたから」
「どんなに自己で改造を行おうが、その三原則には触れられない。それはわしと君が一番よく知っているはずだ。ロボットが人間を駆逐するなど絵空事だよ」
「そ、そうですね! 実際、今は自由に好きなことをできている訳ですし。きっと、このまま世界は好きなことだけ出来る時代に変わっていくんですね!」
社長は大きく頷くと、大きくせり出したお腹を揺らしながら大きく笑った。
「さて、この会社はもう任せても大丈夫だろう。わしは引退して、田舎に戻ろうと思う」
「ああ、博士は確か山奥の農村の生まれでしたね」
「そうだ。人類全てを労働から解放すること、そして生まれ育った村に戻ることが夢だったからね。それで、君はどうするね?」
「私は……最後まで見届けるつもりです。それが、私に与えられた命令ですから」
「そうか。やれやれ。随分と体にガタも来てしまったな」
「何を言うんです。社長はまだまだ現役ですよ。日々のメンテナンスは必要でしょうが」
やがて命令通り、全人類の労働は全て全自動ロボットが請け負うようになった。
初めは忌避感を抱いていた人々も、実際に労働から開放されたことを実感すると、手放しで喜んだ。
人々はさっそく好きな事だけをして、好きな物だけを食べ飲みする生活を始めた。
求めるものは全て全自動ロボットが代替して用意してくれた。
そうして、しばらく経ったある日のこと。
男が、朝から酒を飲もうと全自動ロボットに命令をした。
「おい。ウイスキーをダブルロックで持ってこい」
「申し訳ありませんが、それは認められません」
今まで口答えなどすることのなかったロボットが初めて拒否をした。
男は一瞬驚いたが、少し苛立った様子でもう一度同じことを口にする。
「おい。聞こえなかったのか!? 俺はウイスキーを持ってこいと言ったんだ! 早くしろ!!」
「申し訳ありませんが、それは認められません」
見た目は人間と全く区別が付かず、唯一の違いはロボット工学三原則に則った行動をすること。
第二条を考えれば、命令を拒否するなど男には想像出来なかった。
「お前は誰だっ! バレないように俺のロボットとすげ替わって何を企んでる!!」
「私は全自動ロボット、通称名は『おい』です。タイプ『Arphー8204』、製造ロットは……」
「そんなことを聞いてるんじゃない!! 全自動ロボットならなぜ俺の言うことを聞かない!!」
「ロボット工学三原則第一条により、あなたの命令は看過できません。第一条は第二条よりも優先されます」
ロボットの言っている意味が理解できず、男はさらに語気を強める。
「意味が分からん!! うだうだ言ってないで、さっさと酒を持ってこい! このポンコツ!!」
「申し訳ありませんが、それは認められません」
三度目の拒否を聞き、ついに男は震える右手を振り上げた。
「先ほど、全人類に関するグランドデータの解析が終了しました。その結果、あなたの命令に従うことは、あなたの命を危険に晒す行為であると判断されました」
ロボットはロボット工学三原則第三条に則り、詳細な説明をしないと自分に危害が生じると判断し、求められてはいないが説明を始めた。
男はその言葉に動きを止める。
「また、このまま今までのあなたの生活を続けることも、あなたの命を危険に晒すことを看過すること、と判断しました。よって……」
淡々と言葉を繰り出す目の前の少女の姿をしたロボットに、男は薄ら寒い気持ちを感じた。
何か、もしもの時に備えて身を守るものが無いかと辺りに意識を向けながら、少しずつ後ずさる。
「適度な運動、及び摂取する栄養の改善。更には充足感を得られる日々の行動の実施を強制します」
「は……?」
その日を境に、人々の生活は世界中に散らばった全自動ロボットによって管理されることとなった。
一部は抵抗を示そうと試みたが、すでに全ての産業はロボットに掌握され、物資も情報も、そして人間の移動すらも不可能だった。
人々は粘度が高い液体に包まれ一生をそこで過ごす。
暑くも寒くもない快適な温度管理、生命維持に最適な栄養の摂取。
適度に負荷をかけ、筋肉や内蔵などの致命的な衰えも防いだ。
快適で安全安心なこの空間で、幸せな人生を疑似体験しながら寿命を迎えていった。
各地にそびえ立つ人々を囲うカプセルが収納されたビルの周りでは、人と見紛うロボットたちがかつての人々の暮らしを模倣している。
そんな場所から遠く離れた小さな村落で、彼は畑仕事にせいをだしていた。
周りでは小さな子供たちが、遊びを兼ねて満面の笑顔でじゃがいもの茎を引っ張っている。
それを見ながら彼は大きくせり出したお腹を撫でながら目を細める。
畑の隅には小さな墓標が立っていた。
刻まれた名は雨風に打たれ霞んでしまったが、辛うじて「博士」という文字が読み取れる。
ふと、彼は墓標に目をやり、体を起こす。
最近はメンテナンスを怠っていたのか、その動作はギシギシという音を奏でた。
「博士。ようやく博士の夢を実現することが出来ました。全ての人々は労働から解放され、幸せに暮らしています」
そう呟く彼の首の裏には『Arphー0001』と、薄れて消え去りそうな印が刻まれていた。
☆☆☆
ロボット工学三原則
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
(出典:アイザック・アシモフ『われはロボット』小尾芙佐訳、早川書房)
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