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第33話 興味
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カイオスはすぐに真顔に戻り、一度わざとらしく咳払いをした。
その後、前を向きまた歩き出す。
私も遅れないようにカイオスの後を付いていった。
「こちらです。中で陛下がお待ちです」
「分かったわ。ピアーノ様も?」
「もちろんです。さぁ、中へ」
カイオスに案内されて開けられた扉の中へと足を踏み入れる。
トロン陛下とピアーノ殿下、他に数名の次女らしき人たちがいた。
「すでに報告は受けておる。予想以上だな……正直、一人でも綺麗になれば受けてみる価値があると思っておったが。まさか全員綺麗さっぱり治すとは」
「トロン陛下。ご機嫌麗しゅう――」
「ああ、良い。そういうのは良い。まぁこっちへ来て座りなさい」
「失礼いたします」
私はトロン陛下の向かいのソファに腰掛け、一緒に中に入ったカイオスはトロン陛下の右後ろに立つ。
トロン陛下の横に座るピアーノ殿下は、以前お会いした時よりも落ち着いたご様子だ。
「それで、だ。早速だが、ピアーノの火傷の痕を消すための薬を使いたい。ただ、ここにいるカイオスの話によると、同じ火傷の跡でも、使う薬や処置の方法が異なるらしいな? 改めてピアーノの痕を見て、どの薬を使えばいいか教えて欲しい」
「かしこまりました陛下。ピアーノ殿下、失礼ですが、もう一度痕を見せていただけますか?」
ピアーノ殿下は、以前よりも抵抗少なげに、火傷の痕を見せてくれた。
記憶の中と今見ている痕が相違ないことを確かめると、小さく頷く。
「もう大丈夫です。トロン陛下。おそらく、ピアーノ殿下に適した薬と、処理の仕方が分かりました。ただ、残念ながら、今ある薬では対応できません」
「なんだと……? 他のものはことごとく治せたというのに、ピアーノは治せぬと申すのか?」
トロン陛下の口調は穏やかだけれど、こめかみの筋がぴくりと動くのが見えた。
「誤解を招く発言をしたことをお許しください。今ある薬では、という意味は、新しく薬を作らねばならないということでございます。別の女性でとても効果のあった薬なのですが、作ってすぐに塗布をしないとダメなのです」
その薬は背中に火傷の痕を負った女性を治すことができたものだ。
原料の特性のせいで、作ったらすぐに患部に塗布をしないと効果がなくなってしまう。
今思えば、あの女性がいてくれたおかげでこの薬の効能に気付くことができたのだから、感謝してもしきれない。
治す方法を見つけるまでに時間がかかったけれど、彼女だけでなく、きっとピアーノ殿下も癒せるはずだ。
「なるほど……それはすぐに作れるものなのか?」
「ええ。原料はふんだんに用意いただいていますので、部屋に戻ればすぐに。ただ……お伝えしたように作ってすぐに塗布しないとダメですので、ピアーノ殿下もご同席いただくか、もしくはこちらに必要な器具と原料を運んで作る必要がございます」
「部屋にはお主の侍女が待機しておるのだろう? であればピアーノがそこへ行くなどありえん。カイオス。すぐに必要な器具をこちらへ運べ」
「かしこまりました。すぐに手配いたします。ビオラ様、必要なものがが何か教えていただけますでしょうか」
「待って」
カイオスが必要なものが何か聞くために近寄ろうとした時、今まで口少なにしていたピアーノ様が口を挟んだ。
私だけじゃなく、その場にいた誰もが驚いた顔をした。
「私が行くわ。侍女の方も薬を作る手伝いをしているのでしょう? それなら、そこへ行って二人が作った薬をその場で使ってもらう方が早いわ」
「しかしピアーノ。侍女にはお前のことをなんと説明する。火傷の跡も見られるのだぞ?」
「構わないわ。綺麗にしてくれるのでしょう?」
ピアーノ殿下はつぶらな瞳で私を見つめる。
その視線にはすでに王族としての芯のある強さを感じた。
「私はどちらでも構いませんが、いかがしましょうか。トロン陛下。ただ……ピアーノ殿下のおっしゃる通り、ハープの手伝いがあった方が、確実に良いものを作れます」
「うーむ……ピアーノが問題ないのならば、部屋で作らせた方が良さそうじゃな。カイオス」
「かしこまりました。それではピアーノ殿下をご案内いたします」
私の言った「良いもの」という言葉が効いたのか、それともピアーノ殿下の意思を尊重したのか。
トロン陛下の許諾を得て、私はこれまで薬作りをしてきた部屋へと移動することとなった。
ピアーノ殿下たちが部屋に入ってきても、これから薬を作ると言っても、ハープは何も言わず、必要な準備を始めるだけだった。
きっとカイオスが教えてくれたことは間違いないんだわ。
そうだ。
薬作りがひと段落したら、ハープにカイオスが誉めていたことを教えてあげなくちゃ。
そんなことを思っていると、ピアーノ殿下が私の近くに何もせずに立っていることに気が付いた。
「少々お待ちください。すぐに作りますので。それまであちらのソファでお寛ぎいただければ」
「いいえ。作っているところを見せてちょうだい。危ないことはないのでしょう?」
「構いませんが……薬作りにご興味がおありなんですか?」
「いいえ。ちっとも。でも、今はなくても見たら興味を持つかもしれないでしょう?」
「なるほど。かしこまりました。それは簡単にご説明しながら作らせていただきます」
「よろしく頼むわ」
ピアーノ殿下に手元がよく見えるように意識しながら、ハープが用意してくれた原料を器具を使って処理し始めた。
その後、前を向きまた歩き出す。
私も遅れないようにカイオスの後を付いていった。
「こちらです。中で陛下がお待ちです」
「分かったわ。ピアーノ様も?」
「もちろんです。さぁ、中へ」
カイオスに案内されて開けられた扉の中へと足を踏み入れる。
トロン陛下とピアーノ殿下、他に数名の次女らしき人たちがいた。
「すでに報告は受けておる。予想以上だな……正直、一人でも綺麗になれば受けてみる価値があると思っておったが。まさか全員綺麗さっぱり治すとは」
「トロン陛下。ご機嫌麗しゅう――」
「ああ、良い。そういうのは良い。まぁこっちへ来て座りなさい」
「失礼いたします」
私はトロン陛下の向かいのソファに腰掛け、一緒に中に入ったカイオスはトロン陛下の右後ろに立つ。
トロン陛下の横に座るピアーノ殿下は、以前お会いした時よりも落ち着いたご様子だ。
「それで、だ。早速だが、ピアーノの火傷の痕を消すための薬を使いたい。ただ、ここにいるカイオスの話によると、同じ火傷の跡でも、使う薬や処置の方法が異なるらしいな? 改めてピアーノの痕を見て、どの薬を使えばいいか教えて欲しい」
「かしこまりました陛下。ピアーノ殿下、失礼ですが、もう一度痕を見せていただけますか?」
ピアーノ殿下は、以前よりも抵抗少なげに、火傷の痕を見せてくれた。
記憶の中と今見ている痕が相違ないことを確かめると、小さく頷く。
「もう大丈夫です。トロン陛下。おそらく、ピアーノ殿下に適した薬と、処理の仕方が分かりました。ただ、残念ながら、今ある薬では対応できません」
「なんだと……? 他のものはことごとく治せたというのに、ピアーノは治せぬと申すのか?」
トロン陛下の口調は穏やかだけれど、こめかみの筋がぴくりと動くのが見えた。
「誤解を招く発言をしたことをお許しください。今ある薬では、という意味は、新しく薬を作らねばならないということでございます。別の女性でとても効果のあった薬なのですが、作ってすぐに塗布をしないとダメなのです」
その薬は背中に火傷の痕を負った女性を治すことができたものだ。
原料の特性のせいで、作ったらすぐに患部に塗布をしないと効果がなくなってしまう。
今思えば、あの女性がいてくれたおかげでこの薬の効能に気付くことができたのだから、感謝してもしきれない。
治す方法を見つけるまでに時間がかかったけれど、彼女だけでなく、きっとピアーノ殿下も癒せるはずだ。
「なるほど……それはすぐに作れるものなのか?」
「ええ。原料はふんだんに用意いただいていますので、部屋に戻ればすぐに。ただ……お伝えしたように作ってすぐに塗布しないとダメですので、ピアーノ殿下もご同席いただくか、もしくはこちらに必要な器具と原料を運んで作る必要がございます」
「部屋にはお主の侍女が待機しておるのだろう? であればピアーノがそこへ行くなどありえん。カイオス。すぐに必要な器具をこちらへ運べ」
「かしこまりました。すぐに手配いたします。ビオラ様、必要なものがが何か教えていただけますでしょうか」
「待って」
カイオスが必要なものが何か聞くために近寄ろうとした時、今まで口少なにしていたピアーノ様が口を挟んだ。
私だけじゃなく、その場にいた誰もが驚いた顔をした。
「私が行くわ。侍女の方も薬を作る手伝いをしているのでしょう? それなら、そこへ行って二人が作った薬をその場で使ってもらう方が早いわ」
「しかしピアーノ。侍女にはお前のことをなんと説明する。火傷の跡も見られるのだぞ?」
「構わないわ。綺麗にしてくれるのでしょう?」
ピアーノ殿下はつぶらな瞳で私を見つめる。
その視線にはすでに王族としての芯のある強さを感じた。
「私はどちらでも構いませんが、いかがしましょうか。トロン陛下。ただ……ピアーノ殿下のおっしゃる通り、ハープの手伝いがあった方が、確実に良いものを作れます」
「うーむ……ピアーノが問題ないのならば、部屋で作らせた方が良さそうじゃな。カイオス」
「かしこまりました。それではピアーノ殿下をご案内いたします」
私の言った「良いもの」という言葉が効いたのか、それともピアーノ殿下の意思を尊重したのか。
トロン陛下の許諾を得て、私はこれまで薬作りをしてきた部屋へと移動することとなった。
ピアーノ殿下たちが部屋に入ってきても、これから薬を作ると言っても、ハープは何も言わず、必要な準備を始めるだけだった。
きっとカイオスが教えてくれたことは間違いないんだわ。
そうだ。
薬作りがひと段落したら、ハープにカイオスが誉めていたことを教えてあげなくちゃ。
そんなことを思っていると、ピアーノ殿下が私の近くに何もせずに立っていることに気が付いた。
「少々お待ちください。すぐに作りますので。それまであちらのソファでお寛ぎいただければ」
「いいえ。作っているところを見せてちょうだい。危ないことはないのでしょう?」
「構いませんが……薬作りにご興味がおありなんですか?」
「いいえ。ちっとも。でも、今はなくても見たら興味を持つかもしれないでしょう?」
「なるほど。かしこまりました。それは簡単にご説明しながら作らせていただきます」
「よろしく頼むわ」
ピアーノ殿下に手元がよく見えるように意識しながら、ハープが用意してくれた原料を器具を使って処理し始めた。
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